魔力の森にて 二
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マジで感謝。
火の爆ける音は、安寧と不安を孕んだ綺麗な音だと思った。
熱さへの恐怖は、ぬくもりへの感謝に変わって。
暖まる身体は、再起する冷却を思い出させる。
「セナ、どうしたの?」
「え?あ、イザベル」
燃え上がる焚き火を見つめていたら、イザベルの甲高くも優しさに包まれた声が聞こえた。
「焚き火消えそうだった?」
「ううん、全然」
「良かった〜、やっぱり魔法は凄いわね!火起こし要らずなんだもの」
せめて、何かの役に立ちたくてセナは火をつける役割を買ってでた。
何ヶ月も研究に研究を重ねたセナの小さな火は、誰かの役に立てた様だった。
「便利よね〜、私も魔法を扱えたらな〜」
「イザベルが魔法科に来たら、凄い魔法使いになると思うよ」
「んも〜!セナったら、褒めても何も出ないよ!」
嬉しそうに頬を染めながら、セナの灰髪を撫でるイザベル。
手つきは優しくて、丁寧で、もし自分に姉がいたらこんな風に撫でてほし──。
貴女を育てるんじゃなかったよ。
「──ナ。・・・セ〜ナ〜?」
「えっ」
身体を揺さぶられて、離しかけていた意識が戻ってくる。
ぼーっしているセナを見つめるイザベルの視線は、心配そうに揺らいでいた。
「具合悪い?少し長く歩いたから、疲れちゃったよね」
「・・・そう、かもね」
鞘に納められたナイフは、腰にあるはずなのに。
どうしてか、自分の心臓がそこにあるかのように激しく脈打っていた。
「ん・・・、ミラ?」
「なんだ」
ミラの呼びかけに答えたのは、いつもみたいに偉そうな声。
けれど、セナを安心させるのはいつだってこの声だった。
「・・・ううん、起きてるかなって」
「当然だろう。夜こそが我の時間だからな」
「なにそれ」
竜車の中ではなく、折角ならと野営様のテントを借りてセナ達はその中で眠っていた。
魔力汚染された場所からは少し遠いこの場所で夜を明かそうとしているのだ。
「夜の暗さは良いものだ。静かで良い」
「私はあんまりかな、夜の中だとミラが見えづらいし」
「・・・イザベル・ステインとアルマデルが起きてしまうぞ。念話で答えろ」
ミラがそう言うのと同時に、イザベルが唸った。
ゴソゴソとしながら、言葉をつぶやく。
「うー、寒い・・・」
薄い素材のブランケットでは足りないのか、寒さに震えている、身を縮めて頭まで隠れてしまった。
「・・・よいしょ」
セナは身を起こして、自分の分をイザベルの上にかける。
二重に守られたイザベルの震えは、少しだけ収まって、また綺麗な寝息を立て始めた。
「冷えるぞ」
「いいの」
「・・・眠れないのか?」
「うん」
変わらず念話で答えないセナに対して、何か言おうと思ったが、すぐにそれを取りやめる。
「どうした、いつものお前ならこの時間には寝ていた筈だ」
「・・・なんでだろうね。私にも、ちょっとわかんないや」
少しだけ広いテントの中は、イザベルとアルマデルの寝息しか聞こえない。
どうしてなのか、妙に落ち着かない。
「・・・セナよ」
「ん?」
「今日は雲の無い空だったな」
「そうだね」
今の空は、真っ黒な闇でしか無いけれど──。
「ならば、折角だ。流星でも見に行かないか」
だからこそ、輝く光が寄り添うのだろう。
「なんかこうして歩いてると、初めてミラと会った日のこと思い出すね」
「そうだな」
野営地をこっそりと抜け出して、セナとミラは森の中を歩いていた。
時々、枝を掻き分けて、茂みになっている赤繭を食べて。
「もう、春が終わるんだね。だから・・・3ヶ月前ぐらい?」
「さぁな、月日を数えるのはやめている」
「そっか」
夢中で歩いていると、空気感が変わった。
まるで、シャボン玉の中に入ったみたいに。
「魔力の森に入るぞ」
「うん」
「・・・魔物が出るからと、止められると思ったが」
先導する黒色の魂が止まって、試すかの様に語りかける。
けれど、少女は臆することなくこう答えた。
「ミラがいるからね」
「──そうか」
「それに、私だって戦えるもん」
「では、我は手を出さないでおこう」
問題無いのなら、このまま進む、誰が止めるでもなくて、流星を見るならこの場所で、2人の願いが結ばれた場所へ。
「竜が来たら、流石に・・・勝てない」
「我がいる」
記憶で出来た合言葉、小さな灰と完全黒の魂。
口に出さずとも、両者は行方を知っている。
「ここだな」
「あっちに洞穴があったの覚えてる?」
「ああ。あそこで夜を明かしたな」
「・・・また、ここに来るなんてね」
感情にふけて夜空を見上げれば、キラキラと輝いている、黒の中に住んでいる光達は、一生懸命に輝く。
「ふむ、ここに死体があった筈だが・・・。流石に片されているか」
「あんな大きいの、持って帰ったんだ」
「あれでも若い個体だ、成体にでもなったらあの比ではない」
下手すれば、城のような大きさになると付け足せばセナの表情が強張る。
「けれど、竜というのは若い時期程気性が荒くなる。歳を取れば棲家で眠り続けるのだ」
「そうなの?」
「幼体の時は、魔力の抑え方がわからないからな。成体になれば、そのすべを学ぶ」
「そうなんだ。竜も、勉強するんだね」
その場に座って、星々を眺める。
「ミラは・・・何でも知ってるよね」
「ああ」
セナはナイフに触れた、この存在を与えられた時から何度、これに触れているのだろうか?
「──じゃあさ、光が何色か知ってる?」
「どうした急に」
突然の問いに、流石の魔王様も困ってしまった。
その訳を聞いてみれば、星を見ることをやめて、セナは懐かしむ様に言葉を吐き出した。
「昔、同じ事を聞かれたの」
「ああ」
「その時の私は、何も知らなくて・・・。私なりに色々と考えて、答えたんだけど」
その時を思い出し、寂しさが生まれてしまう。
「結局、その答えが正解なのか・・・教えてくれなくて」
「何故そいつは、お前に光の色を聞いたんだ?」
「えと、その人は絵を描くのが好きでね。よく風景画を描いてたんだ」
セナの表情が喜びに変わる、寂しさは消えていて、その思い出が大切なのか、楽しそうにミラに教えた。
「でも、いつも夜空には何も無くて。どうしてですか?って聞いたら、光の色がわからないって」
「そうか、お前はなんと答えたんだ?」
「──えっと、笑わない?」
「確約はしない」
そう言うミラはどこか半笑いだった、絶対に爆笑するんだろうなって思いながらも、セナは恥ずかしそうにしながら、その時の答えを再現する。
「自分の好きな色で、描けばいい・・・って」
なんと子供の様な答えだろうか、幼稚で本質からズレているとしか言えない答えだ。
本人が恥ずかしがるのも無理はない、今こそ思い返して、自分の答えがその人にとってズレたものであると理解したのだろう。
けれど、可笑しいものだと思う。
「良い答えではないか。どこを笑えばいいんだ」
「え?」
「つまらん、お前のことだ。トンチンカンな事を言うと期待したのにな」
「・・・変だって、思わない?」
夜の冷たさに当てられてか、セナの頬に宿っていた赤色は消えていた。
「思わん、我もそう言うだろうな」
「どうして?」
「光というのは何にも染まれるものだ。赤でも、青でも、それこそ黒にだって住める」
ミラはいつもみたいに、セナの頭の上に乗っかって休憩する。
「つまらんだろう。定義してしまえば、それまでだ」
この黒の中に住む星々は、何色になりたかったのだろうか?
セナへ問いかけた灰色と赤い瞳を持つ女性は、絵を描く時だけは、いつも楽しそうで。
でも、たまに、どこかつまんなそうに、元々生気の感じない瞳が、より一層曇るのは、夜空を描く時だった。
「世界がそう彩ったにすぎない。ならば、我らにもその権利はあるだろう」
私は、シャル様の好きな色で描けばいいと思います。
・・。変な子だね。
あの人は、その答えを聞いて、どんな顔をしていたんだっけ。
「私は・・・正解を言えたのかな」
「正解ではなく、問いを与えたのだろう」
「私のせいで、困らせちゃったかな」
「正解は終わりであり、問いは道だ。悩めるというのは苦難であり、救いでもある」
ふと、空を見上げる。
頭に乗っていたミラは退いていて、セナの近くを漂っている。
「──あ」
「おぉ、見たか?」
1本の線が、かけていった。
あの時の様に、沢山ではなく、たったの1本。
作り出されたものではなくて、自然の中で生まれた現象、世界が見せた気まぐれ。
「何を願う?」
「・・・ううん、願わない」
「そうか?」
「これ以上願ったら、きっと流星も困っちゃうから」
この一瞬は、自分だけのものではない。
他の人もきっと、空を見上げて何かを願う筈だから、少しでも、ほんの少しでも願い叶わぬ誰かへと、届いてほしい。
「シャル様は、答えを見つけられたかな・・・」
「シャルというのか、その絵師は」
「あ、うん・・・。シャル・ツアンサって言って、私の事を買った人で──」
「セナ・イディアル。ここで何をしてる」
「え?」
「ルリ・トリスタ・・・?」
夜風よりも冷たくて、芯があって、身が凍ってしまう程に、冷めた一言。
「ルリさん・・・!あ、あの、えっと私は──」
「やはり、君だったか」
「え?」
ルリの疑念が確信へと変わった言葉だった。
一瞬だけ、憐れみの瞳を向けた後、それは剣の様に向けられた。
「ここは竜の死骸跡。何をしていた」
「こ、これは、えっと」
「教えてほしい。この書類に書かれた事は、嘘だと証明してくれ」
「え?」
ひとつの本を投げ渡される。
セナの元へと届いたそれを、落とさない様にキャッチして、パラパラとめくる。
黒竜を仕留めたのは、商人と取引をした灰色髪と金色の瞳を持つ少女。
「灰色髪、金色の瞳。君の特徴と当てはまる」
「・・・っ」
「教えてほしい。君は、何者だ」
悪魔によって、心蝕されてる可能性あり。
Q.セナの好きな色は?
A.赤色




