番外編 〜ある隊の会話〜
「はよ〜ございま〜す」
「・・・アニさん、制服はちゃんと着ましょう」
「ちゃんと着ると熱いじゃんこれ、あれ?ボスは?」
上着を着崩して、肩を露出させた鋭い印象を与える、そう、まるで狼の様な女魔法使い。
アニ・ラプラス。
それとは正反対で、アニの服装に指摘をするいかにも真面目な女魔法使い。
クオーラ・リシュー。
「はぁぁぁぁぁぁぁ・・・」
「りょ〜かい、もういいや。んじゃ、あたしもそういう事で」
「待ちなさい」
「やぁだぁ〜、ボスいないなら今日の仕事の進行出来ないじゃんー」
逃げれないと察して、アニはソファに腰をかける・・・、に、留まらずに柔らかさを堪能するかのように寝転がってしまった。
「そうですが、書類の確認は出来ます。貴女の分もありますよ」
「いいや」
「いいやじゃありません。ほら、目を通してください」
「はぁ〜い・・・。ん?」
渡された紙に目を通せば、そこにはアニの機嫌を曲げる言葉が書かれていた。
「待って待って!!これ・・・本当?冗談だよね」
「エルセルク王の性格を考慮すれば、今回の派遣は納得だと思いますけど」
「え゙え゙ぇ」
汚い声を発しながら、紙を引き裂こうとするも、硬すぎて、まるで破ける気配が無かった。
「何でフロエシア!?くっそ寒いじゃん!!」
「もうそろそろ春に入るらしいですよ」
「数ヶ月後じゃぁぁん・・・」
凍土の国、フロエシア。
止むことのない吹雪が特徴的な北方国、長い時期銀世界を拝む事が出来るといえば聞こえはいい、その銀が凍てついて無ければもっと良い。
「しかもボスと・・・?正気?クオーラさんは?」
「他の隊の応援です」
「どこ?」
「バンカーアルフ」
「ず〜る〜いー!!!」
ジタバタとソファで暴れる、今年で24歳の女魔法使い。
淑女なんてクソ喰らえと言わんばかりである。
「なんでよ!あたしが行きたい!」
「要請なので、というよりボスと貴女の日頃を見れば、どの国も嫌でしょう」
「人を暴馬みたいに」
「そう言ってるんですよ」
バンカーアルフは八大国のうち、最も進んだ先進国。
技術の叡智によって、止まることない前進を続ける国・・・。
はっきり言って、八大国の中で1番、観光される国である。
「おかしくない?あたしとボスが派遣されるって、それどんだけ危機的状況なのさ」
「近年の魔物の事を考えれば、当然かと」
「・・・なんだっけ」
とぼけた発言をするアニの一言に、ペンを動かしていたクオーラの指に力が込められる。
「アニさん?1番隊の報告書は読みましたか?騎兵隊は必読ですが?」
「捨てたわ」
「・・・はぁ、いまだに貴女が魔法協会に在籍してたなんて信じられません」
「その話持ってこないでよぉ、1年も居れずに追い出されたんだからさ」
「在籍していた事実が信じられないと言っているんです」
狭き門として有名な魔法協会、魔力の法典を管理している組織として、知性、品行、執念が求められる。
今ソファで寝転がっている女からは感じられない要素だ。
「クオーラさん、飲み行こうよー」
「見えませんか?仕事中です」
「ボスだって飲み行ってんでしょ」
「だから私達が仕事してるんです」
「達ってやめてよ」
一切ソファから動かずに、アニは書類を見続ける。
これに穴でも開けれれば、今回の契約は無かった事になるのではないか?
「ボスは知ってんの?」
「いいえ」
「帰ったぞ!!俺の部下達よ!!」
バァンと勢いよく開かれた扉から出てきたのは、屈強な大男、アニよろしく、制服なんて着ていなかった。
「ガイア隊長!!制服は!?」
「ん?あぁ!!忘れた!!」
「もぉぉぉぉぉぉ!!!」
とうとうクオーラのキャパが超えたのか、持っていたペンをへし折ってしまった。
「ボス〜、これー」
「ん?ああ、なんだもう仕事か?昨日は単眼巨人を狩りに行ってたんだぜ、俺は〜・・・」
「2番隊に面白半分で付いていっただけでしょう」
アニから渡された契約書をザッと見続ける、隊長。
ガイア・エバーテイル。
目線が下に行く度に、顔が青ざめていく。
「えぇぇぇ!?フロエシアかよぉ!?」
机にバァンと大きな音が響いた。
「エルセルクのお人好し馬鹿は俺に死ねって言ってんのか」
「不敬にも程があります!?」
「フロエシアの楽しみって酒だけだよね」
「ああ・・・。あそこの葡萄酒はうめぇけどよぉ!!」
もはや涙すら見せている。
50代の大男が本気で泣いているのは、だいぶキツイものを感じていた。
「どうして俺もなんだ、アニだけで足りるだろ!」
「近年の魔物の事を考えれば、当然かと」
「はぁ!?なんだよ、魔物様はそんな偉いのか?ええ!?」
「ガイア隊長、1番隊の書類はお読みに?」
「読んでねぇよ」
「死んでください」
はぁ、とため息を吐いて思い出したかのように、クオーラはもう一枚の書類をアニに渡した。
「ん、なにこれ?」
「レヴァーティア近辺の森が魔力汚染した事は知っていますか?」
「ああ、それは知ってるよ。竜が死んだんでしょ?」
起き上がって、次のもう一枚に目を通す。
「詳しく言うと、死んだのは若い黒竜。発見者曰く、骨しか残って無かったらしいですよ」
「珍しいな。黒竜なんてここらじゃ見ねぇのにな」
「・・・」
ペラ、ペラ。とゆっくりページを巡っていくアニ。
その眼差しは真剣そのもので、鋭い視線が更に鋭利なものになる。
「爪が抜かれてる?」
「あぁ、らしいですよ」
「爪、ねぇ〜」
「黒竜の爪はそれなりに高ぇからな。にしたって、一本だけ持ってくなんて変なやつだな」
ガイアも同じ様に、クオーラから資料を貰って自分の見解を述べた後、彼もまた疑問を見つけた。
「骨に損傷は無い?」
「はい、どこも状態は良かったらしいです。アニさんが言った、抜かれた爪以外」
「すげぇ器用な奴だな」
パサ、と紙が落ちる音がした。
その音が発されたのはアニの手元、どうやら机に書類を置いただけらしい。
「魔法で死んだんだろうね。予想でしかないけど、多分黒竜を仕留めたのは1人の人間じゃないかな」
「大勢で殺ったんなら、こんな状態良く残んねぇよな?」
「うん、綺麗に魔法で仕留められたんだろうね」
「竜の魔法耐性を貫通する程の魔法使いですか?それこそ、指で数えれる程しかいませんよね」
例えば、かの魔法使いの長であるホワイトデイ。
そして、目の前でソファにどかっと座っている不良女魔法使い。
「魔法使いひとりで仕留めるには無理がある。ホワイトデイさんが動くなら、国が動くだろうし」
「しかも、その日はエルセルクにいたぞ。俺、下町で見たしな」
「そういえば・・・」
クオーラは新しいペンを持って、積まれた書類にサインをしている、マルチタスクなんて彼女にとってはなんのそのだった。
「その日は、流星群が起きたらしいです」
「・・・へぇ〜。どう思う?ボス」
「魔法か。法典には載ってねぇよな、流星の魔法なんて」
「私が知る限りでは、ひとつも」
3人の中で、答えが近づきつつある。
「悪魔の仕業か?これ」
「その規模の魔法使えんのは、悪魔かな〜」
「では、その様に報告しましょう」
サラサラとペンが走る、どうやらこちらの見解を纏めているらしい。
「ん?なぁ、おい。これは?」
「んー?どこ?」
「2枚目の6項目」
再び書類に目を通すアニ、少し驚いたのか黒色の瞳が見開かれた。
「・・・商人との爪の取引記録あり」
「おいおい、答え出てんじゃねぇか」
「次を見てください」
「あ?」
商人曰く、爪を持ってきたのは灰色の髪、金色の瞳。
正しい物価の価値を知らない奴隷の少女──。
「・・・また分かんなくなったな」
「子供、灰色の髪・・・ってことは、レヴァーティア人の女の子って事じゃん?」
「どう思いますか?私もこの資料に目を通した時に、おかしい点だらけで疑問に思ったのですが、魔法協会に在籍していたアニさんの話を、と思いまして」
「だから、1年も居なかったから・・・。まぁ、ありえないと思うけど、ひとつの意見はあるよ」
「なんだ?」
「この子、心蝕されてるんじゃない?」
「聞きましょう」
「まず、レヴァーティア人は魔法を扱わない。いや、厳密にいえば禁止されてる、バレたら即刻処刑らしいし」
特に、灰色髪は純粋なレヴァーティアの血統であり、上位貴族として扱われている。
その言葉にガイアは頷く。
「まぁ、そうだな・・・」
「そして次、若い竜の特性」
老個体の竜とは違い、若い個体の竜は魔力を求める傾向にある。
「魔力を補給しないと飛ぶ事すら出来ないらしいからね。共食いしてでも魔力を欲しがるらしいよ」
「それがなんだよ?」
「わかんない?黒竜は渓谷を棲家にしてんだよ?レヴァーティアの周りには渓谷は存在しない」
遠い地域からわざわざ、レヴァーティアの森へと訪れた、渓谷に住む同族よりも強力な魔力を持つ何かを、この若き竜は感じ取ったのだ。
「悪魔が殺したのを、このガキが剥ぎ取ったって可能性は?」
「竜の魔力に釣られて、他の魔物が寄ってくるよ。竜と同じで、魔力欲しさに」
「わざわざそんな危険地帯には行かねぇか」
「なるほど。本筋は通ってますね」
サラサラと、紙にインクがひかれていく。
「では、1番隊にはそう報告しておきましょう。そして」
クオーラは書類を纏めながら立ち上がる、今の記録と方のついた報告書を持って、光線でも出る様な勢いで、2人を指差す。
「フロエシアへの派遣、お忘れなきように」
「・・・でもさ」
「お忘れなきように」
「待てよ、大体俺らで行っても」
「お忘れ──、なきように?」
「「・・・はい」」




