地下への入口
その後――倉庫内を再度調べてみたが、隠し扉や床下収納のようなものは見つからなかった。倉庫の壁を叩いても、響く音はなかった。
それは倉庫周辺の廊下や部屋、そして酒場のエリアに至るまで同様であり、結局のところ秘密の入口みたいなものは見つからなかった。
「ぜんっぜん見つからないね……」
僕はうなだれるように壁に寄りかかった。
「ユノンちゃんの方もこの感じだと見つからないかもね……倉庫の近くですら見つからないんだもん」
エリスさんもため息を吐いた。
「本当に地下室なのかな。実は二階から伝わってきた会話なのかも。エリスたちの勘違い?」
「うーん……そうなるとより捜索範囲は広くなるね……。そもそも屋敷の中の部屋なのかなぁ」
――今自分で言った言葉を、少し遅れて脳内で反復させる。
「……そうだよ。もしかしたら屋敷の外に入口があるんじゃないかな?建物の外から直接地下室に入る構造なのかも知れない」
「確かにそうかも。お兄さん冴えてる」
「よし、ちょっと倉庫の外側付近を見に行ってみようか」
「うん、行こう」
そして僕たち二人は酒場側の入口とは反対側の、屋敷の裏側にある玄関からこっそり庭園に出た。今日も月明かりがやたら明るく、外灯の光がなくとも視界は満足に利いた。
向かう先は倉庫付近の外壁。気配を殺して芝生の上を進む。今夜も蒸し暑く、ねっとりとした夜風が横切るとエリスさんの短いツインテールと腰布がふわりとなびいた。裸足のエリスさんの足音は皆無で、僕も極力足音を抑えるよう努めた。
「この辺だよね、たぶん」
エリスさんが足を止めた場所は、確かに内側に倉庫があると思しき地点だ。外壁には特に異変はなく――しかし外壁の周りは不自然に植え込みで囲まれていた。
不審に思った僕は植え込みをかき分けて囲みの中に踏み入ってみる。
――なんとそこには、地面の上に設けられた両開きの木製の扉があった。
「……これ……!」
金属製の取っ手がついており、手で引くタイプの簡素な造り。表面には苔や土がうっすらとこびりついており、植え込みの外から見たら目立たないようになっている。
「嘘……こんなところに扉があったなんて……!」
僕の横に立ち、エリスさんも目を丸くする。それから僕の前に移動し、身をかがめて扉の取手に手をかけた。
「鍵は……かかってないね。開けるから、お兄さんはエリスの後ろに」
「わ、分かった」
警戒心を携えたエリスさんの背中に僕はピッタリとくっついた。夜の蒸し暑さと、若干の緊張感により、エリスさんの背筋には一筋の汗が滴っている。
エリスさんが静かに取っ手を引くと――軋む音と共に木の扉が開いた。その下には地下へと続く石段が、闇の中に吸い込まれるように続いている。
「お兄さん、降りるよ。離れずに付いてきてね」
「う、うん……!」
エリスさんが先頭に立って階段を下り始めた。ひたひたと鳴る裸足の足取りは慎重でありながらも、どこか勇敢さすら感じられた。
僕も後に続く。暗い階段を一歩一歩、音を立てぬように降りていく。ランタンの火がゆらゆらと揺れ、二人の影を石の壁に落とした。
すぐに扉が現れた。位置的に、この先が十中八九例の地下室だ。
なぜ隠されていたのか。ムバータたちは何をしていたのか。
僕は胸に渦巻く不安を懸命に押し込めていたが、エリスさんのむき出しの白い背中からも緊張は伝わってきた。
「中には誰もいないみたい。……じゃあ開けるよ、お兄さん」
「いいよ……!」
僕はエリスさんの背中の影に隠れる。そして扉がゆっくりと開かれた。




