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踊り子ユノン

 豊満な胸の膨らみに細い布を巻き、腰の低い位置に回したチェーンから股の前後に短い布をぶら下げただけの衣装。もちろん靴は履いておらず、裸足だ。

 この子の布の色は薄い紫で、すっきりとしたショートカットの髪の色は緑。

 そして――肌の色が茶褐色というのが一番の特徴だろう。


「え、えっと……!」


 戸惑う僕の目の前で、その子はさっと膝をついてしゃがみ込んだ。

 むちっと膨らんだ太ももと、上から見下ろす胸の谷間に僕は更に困惑したが、その子は上目遣いで僕を見ながら冷静な口調で言った。


「私はユノンといいます。エリスお姉様が慕っている人ということで、一言挨拶しに来ました。お兄様のことはだいたい聞いています。よろしくお願いします」


 硬すぎない、程よい感じの敬語。


「あ、いえそんなこちらこそ……。僕はヒロクです。よ、よろしく。えっと、ユノン……ちゃん?」


 エリス()()()と呼ぶだけあって、彼女たちより一つくらい年下なのかもしれない。それでも体つきは十分にセクシーで、汗ばんだ褐色の肌がてらてら光ってより魅惑的に見える。


 突然現れた、第三の踊り子。

 エリスさんやリーナさんとはまた違う個性を持った女の子だ。


「エリスさんとは、姉妹?」


「いいえ。年上の踊り子たちに対してはそう呼ぶようになっています」


 でしょうね。なんかそんな感じがしていましたよ。なんというか、この世界観に合うというか。

 ()()()()()、ということはディラメル館のルールみたいなものか。


「あ、どうぞ座って」


 いつまでも足元でしゃがみ込んでいるユノンちゃんに僕は慌てて着席を促した。裸同然の少女を服従させているようですごくいたたまれない。


 ユノンちゃんは腰布をふわっと浮かせて素直に立ち上がり、対面の椅子を少し横にずらして座った。面と向かう形ではなく、僕と一緒にステージが見えるような位置取りだ。


「エリスさんとリーナさんだけかと思ったよ、この屋敷にいる踊り子は。日中他の誰とも会わなかったからさ」


「皆さんクエストで不在の時が多いので。私も夕方に帰ってきたところです。逆に言うと、エリスお姉様がオーガの討伐に向かっているときには、他の踊り子たちが屋敷にいましたよ」


「なるほど、入れ違いが多いってことか。あ、じゃあその……やっぱりユノンちゃんもモンスターと戦う踊り子なんだね」


 「はい、そうです」と答えるユノンちゃんの褐色の横顔が、ランタンの灯りに照らされて艶めく。光沢のある胸もより膨らみが強調され、僕の意識を引き付けてやまない。


(この子も……こんなあられもない姿で化け物と戦うのか……)


 テーブルの下にあるユノンちゃんの太ももの付け根がちらりと見える。その先、むき出しの綺麗な素足も。

 茶褐色の肌の踊り子少女に見惚れながら、僕は続けて聞いた。


「ち、ちなみにさ……ユノンちゃんはどんなモンスターと戦ってきたの?」


 ユノンちゃんはエリスさんたちが踊っているステージを眺めながら平然と答える。


「ローパーです」


「ローパー?」


「はい、たくさんの触手を体から生やした、スライム状のモンスターです。ヌルヌルした触手が体に絡みついてきて大変でした。特に――」


「なるほど! わかったありがとう!」


 だめだだめだ! それ以上聞いたら妄想で頭()()()爆発しかねない。ここから先は同人作家様たちにお任せしよう。


「あ……っ」


 ふと、ユノンちゃんが気の抜けた声を漏らした。その瞳はステージ上を見つめており――エリスさんが踊りながらこちらに手を振っているところだった。


 僕もときめきながら手を振り返す。

 まるでアイドルと密かに目があったような喜びだ。


「エリスさんたちの踊り、素晴らしいね、ユノンちゃ――」


 斜め横のユノンちゃんに話しかけると、


「エリスお姉様……可愛いぃ……」


 これまでと打って変わり、頬を赤らめて恍惚とした表情を浮かべていた。


(この子も……!?)


 なんかもうそれぞれどこまでガチなのか分からなくなってきた。ええっと、ユノンちゃんもエリスさんのことをすごく慕っている()()ってことでいいんだよね?


 そうこうしているうちにエリスさんとリーナさんの踊りが終わった。二人は客席に向かって一礼し、拍手に包まれながら仲良く手を繋いでステージ脇へ姿を消していった。

 店内に流れる音楽が落ち着いたものへ変わった辺りで、ユノンちゃんが席を立った。


「……では失礼します、お兄様。明日はリーナお姉様とエリスお姉様の三人でオークの巣窟に行くんですよね? お気をつけて」


「あ、うん、ありがとう」


「それから――エリスお姉様にヘンなことをしたら許しませんから」


 ユノンちゃんは最後に冷ややかな眼差しで牽制すると、颯爽と去っていった。

 てらてらと光る褐色の背中を見送りながら僕は思う。


 ディラメル館……なんと蠱惑的な場所なのだろうか。妖しくて危険な蜜のような香りがそこかしこに満ちているような気がした。

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