夜の酒場
酒場のステージの上で、軽快な音楽に乗ってエリスさんとリーナさんが踊っている。
細い布が外れそうになるほど大きな胸を上下に弾ませ、股の前後だけを隠した布がめくれそうになるほど腰と足を動かし、汗ばんだ全身を光らせながら妖艶なダンスで客たちを魅了している。
「はぁっ……はぁっ……んっ」
「ふぅっ……ふぅっ……はふぅ……」
エリスさんとリーナさんの色っぽい息遣いが時折微かに聞こえる。
隅っこの席から二人の姿を眺めながら、僕は卓上の水をゴクリと飲んだ。
そうでもしないと目が溶けそうだった。
エリスさんとリーナさんの踊りだが――めちゃくちゃ絡み合いながら踊っているのだ。
お互いに腰を抱き寄せたり、素足を絡ませたり、鼻先が触れてしまいそうなほど顔を近づけたり……。
そのたびに二人の胸が密着し、柔らかく形を変える。
(すごいものを見てしまっている気がする……しかもタダで……!)
一人でも十分刺激的なのに、それが二人も密接し合いながら踊る姿は、それはもう甘美で甘美で、僕の胸は激しく脈打ちっぱなしだった。
お互いの汗が混じり合い、頬を赤らめながら見つめ合うエリスさんとリーナさん。
リーナさんは優美に微笑んでおり、エリスさんはというと――
「リーナちゃん……エリス……もうガマンできないっ……」みたいな悩ましげな表情をしている。……いや、完全に僕の妄想だが。
(演技だ演技……! ビジネスダンスだ……!)
邪な想像を振り払い、僕は卓上のパンを無理矢理頬張りながら周囲に目線を逃がした。
夜――。
酒場ディラメルが開店し、店内はほぼ満席に近かった。
また、あちこちに従業員の姿も見受けられる。
バーテンダーや、食事を運ぶ給仕、そして楽器を奏でている音楽隊など、昼間は見なかったスタッフたちが開店に合わせて一同に介している。
どうやら、この屋敷に住み込んでいるのはエリスさんたち踊り子とムバータ一味(?)のみで、酒場の従業員たちは外部の人間のようだ。
ありがたいことに、僕はエリスさんに誘われて、こうして夜の酒場の一角で夕食を頂きながら踊りを見物させてもらっている。このあとはもう寝るだけだが、その部屋もエリスさんのを貸してもらうという、至れり尽くせり状態。本当にエリスさんには感謝しかない。
ステージ上の二人の踊り子の躍動する体を眺めながら、僕は今日のことを振り返ることにした。
ムバータの部屋から出たあと、僕はエリスさんとリーナさんに連れられて軽く屋敷の中を案内された。一階は酒場やギルド関係の部屋、二階はエリスさんら踊り子たちの居住スペース、そして三階がムバータ一味のフロア。
酒場ディラメルの入口は大通りに面しているが、建物の裏側にはもう一つ別の、本来の屋敷としての玄関があった。加えて広々とした庭もあり、全体的にかなり大きな敷地であることが分かった。ムバータは相当な大富豪のようだ。
その後エリスさんはリーナさんの部屋に入っていき、僕はその隣の、空いたエリスさんの部屋に滞在することになった。ベッドと、ソファーと、窓と、机と、椅子と……内装から家具まで割と簡素で、特に目を引くようなものはなかった。だからこそエリスさんは前準備もなしに僕を部屋に通してくれたのかもしれない。クローゼットとかタンスもあったが、当然それらは開けなかった。
風呂とトイレも部屋にあり、この部屋だけで一日が完結できるようになっている。ベッドに横たわるのはさすがに申し訳なかったので、僕は残りの時間をソファーに寝転びながら過ごした。死ぬほど暇だったが、エリスさんたちがいる隣の部屋に遊びに行く勇気もないし、下手に屋敷内をうろついてムバータ一味に出くわしたら気まずいので、部屋にこもってひたすら夜になるのを待った。
いや、本当は隣の部屋でエリスさんとリーナさんが何をしているのかを悶々と想像していたわけだが……。
そして暗くなってからエリスさんが部屋に来て、酒場に誘われ、今に至る。
汗を飛び散らせながら踊るエリスさんとリーナさんに客たちは釘付けになっている。今にもこぼれそうな胸を見ているのか、めくれ上がりそうな腰布を見ているのか、汗ばむ脇や生足を見ているのか、あるいはその全てか。
魅力的過ぎる舞台を僕も食い入るように見つめながら、ふと疑問が浮かんだ。
(……そういえば、他に踊り子さんはいないのかな?)
エリスさんたちに屋敷を案内してもらってる際に、特に他の人間には出くわさなかった。広々とした屋敷の割に住人はとても少ない気がした。
踊り子ギルドの活動もしつつ、夜は本来の踊り子としてステージに立つとなると、さすがに二人じゃ回らない気がする。二人一緒に踊るのはいつものことではないとリーナさんがさっき言っていたが、だとしても毎日交代でステージに立つのも大変だろう。
うーむ、と唸りながら僕が水を一口含むと、後ろから誰かがやってきた。
「――あなたが、エリスお姉様の言っていた『お兄様』ですね?」
可愛らしい声に振り向くと、そこにはエリスさんたちと同じ踊り子の衣装を身にまとった少女がいた。
僕は目を丸くし、驚きのあまりむせる。
(かっ……褐色の踊り子きたーーーー!?)




