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95 魔王ハロルド誕生


 ~偽ルイス視点~


 何者かが奴隷を連れ出した。おまけに今日の当番だった看守3人も一緒にいない。どういう事だ?誰かが連れ去ったか?でも暫く経っても一向に看守どもは帰ってこない…。それに、監獄も荒らされた気配もない。


 「まさか…なぁ…」


 ハロルドを見失ってから、暫く月日が経った。あの魔族の少女と共に消えてしまっている。セトリア王にも頼み捜索願をだしているも未だに行方知れず…。


 「ル、ルイス様っ!!」


 「ご苦労。これは一対なんなんだ?」


 「はて?」


 俺の言葉に、交代時間になって現れた看守は何かを疑うように周りを見渡す。見渡し終えるとやがて、表情が真っ青になったかのように顔がひきつりだす。


 「ど、奴隷がいない?!あと、看守はどうしたんですか!?」


 「お前も何も知らないのか…」


 「は、はい!!私は今来た所なので、何も…」


 ふむ…。何も知らないとなると…。やはり看守どもが姉妹をまわす為に連れていったのか…?俺の楽しみを邪魔するなら死罪も免れないと分かっている筈だと思っていたが…。


 「裏口から出入りした痕跡はありますでしょうか?」


 「あぁ…、そういえば裏口を見ていないな…」


 俺は、看守に言われて、この監獄には裏道があったのを思い出した。


 「でも、わざわざ看守が裏口から出入りすると思うか?あそこはたしか…、牢屋で亡くなった人間をあそこに放置して、そこから遺体を出していた経路だぞ?おまけに裏口から鍵をかけているから、わざわざ裏口の鍵を開けてまでやるかな?」


 俺はそう思いながらも、裏通路へと足を運ぶ。しかし…、俺の予想は裏切られていた。俺の手に持つランタンの明かりに照らされて通路の外へと繋がる浦口の扉の下に綺麗なアクセサリーが落ちているのを発見した。


 「これは?」


 俺はそのアクセサリーを手に取り、まじまじと見つめる。そのアクセサリーは…。


 「ほ~…。アスガルド王家の紋章か…。これは王族しか持てないタリスマンじゃないか…」


 手にしたのは、王家が持つアスガルドの紋章だ。王家の人間しか身に付けていないタリスマンだからこそ、それが誰のかが直ぐに分かった…。


 「やってくれたな…。ハロルドめ…。俺がここに居る事を知っていやがるなて」


 俺はハロルドの事をよく知っていた。だからわざとヤツに近づきヤツを叩きのめそうと思った。俺は勇者なのだから…。この世から魔王を消さなくてはいけない。今はもういない魔王に変わり新たなる魔王が復活するのも時間の問題だ。そう…、ハロルドこそが魔王の弟の息子だからだ。


 「勇者の脅威は全て消し去ってやらんとな…」


 俺の口元がニヤリと微笑む。ヤツを徹底的に潰し世界を魔王の手から取り戻す為だ。勇者の存在こそが絶対なんだから。俺は女神に支える勇者なんだから…。


 「まぁ、いいさ…。ヤツの情報が分かるまで俺は好き勝手やらせてもらう…」   




………。

……。

…。





~ハロルド視点~



 「久々だな…。アスガルド城…」


 オレとティーンはアスガルドまでやって来た。当時見た綺麗な美しい街並みとは一変して、もはや廃墟と化してしまった城。オレの親父は伯父貴ととても仲が良く、王位争いを避けるため自らこの城を出た。それからも何回か、まだ幼かったオレもこの城に遊びに来た時もあった。


 「ここがアスガルド…?」


 ティーンの表情が少し寂しそうにも見える。


 「あぁ。女神崇拝教が攻めてくるまでは、とても綺麗で美しい場所だった。あの向こうには、ち売店が建ち並んでいて、色々な人種も大勢居て賑やかだったんだ」


 「それが…、こんな廃墟に…、ですか…」


 「全ては、女神崇拝教のせいさ…」


 オレはティーンの手を取り、奥へ奥へと足を進める。城の門だった場所も既に立派な城門はなく、ぽっかりと穴を開いていて、見ているだけで心苦しくなる…。幸いにも城の奥へと足を運ぶ事ができた。


 「やっぱり誰もいないか…」


 「あの…、ここにはハロルドさんのお父さんの秘密があるって前に言ってましたが…」


 「あぁ…、もうすぐだ…」


 城内の奥にある狭い通路へと入ると、地下に降りる階段がある…。階段をティーンと一緒にゆっくりと降りていく…。


 「これは…。こんなものが地下に…?!」


 「何か怖いです…」


 奥へと進むと、突き当たりになる。片手に持っていたランタンを近づけ、壁を良く照らしてみれば、神話に出てきそうな魔神の顔を司ったよう扉だった。


 「ぐっ…。やっぱ開かないか…」


 オレは扉を両手で力強く押そうとするが一向にも開く気配もなくびくともしない。その時、オレが背負っていた黒の聖剣にずしりとした重みを感じた。


 「ハロルドさん!ハロルドさんっ!聖剣が黒いオーラを放っています!!」


 オレはティーンの言葉を聞いて、背中に背負っている聖剣を鞘から取り出し、剣を見つめる。確かに剣は黒いオーラを放つ。開かない扉を良く見れば扉も黒く不気味なオーラを放っている。


 「まさか…」


 ゆっくりと聖剣を扉に近付けた瞬間、物凄い地響きとともに扉が静かに後方へと動き扉が開きだす。


 「こんな事が…」


 「お、奥に入れそうですよ!!」


 オレは再びティーンの手を繋ぎ、その開いた扉の奥の部屋へとゆっくり足を運ばせていく…。30歩ほど歩いた所で部屋の壁に掛けてあるランタンのようなものが静かにゆっくりと青く光輝きはじめる。


 「これは…」


 青い光が辺りを照らす。目の前には大きな祭壇があり、その祭壇の中心には青い色の水晶が置いてあった…。無意識の内に、まるで吸い込まれるかのようにオレは青い水晶を手に取る…。


 「この水晶は…」


 「何か…、とても綺麗ですね…」


 水晶を手に取ると、水晶から大量の青い光が吹き出てきてオレを包み込む…。


 「ぐっ!!な、なんだこれ…!!体が…!!」


 「は、ハロルドさんっ!!」


 それは、一瞬だった。一瞬の内に青い光がオレの体を蝕む。すべての光がオレの体内へと入り込んでくる…。


 「っつ…!!」


 やがて、オレの頭の中に優しい女性の声が聞こえてくる…。


 『魔王ハロルドよ。聞こえますか…?貴方の封印されていたスキルを解放できそうです。故に、貴方はこれからとある大きな存在…。勇者ルイスと共に、この世界を守るのです…。どうか私を信じて…』


 その言葉を聞くなりオレは…。


 「誰だお前はっ!勇者ルイスと共にだと!?ふざけるなーっ!!一体、お前は何者だっ!?勇者ルイスが何故に関係ある!あいつはオレから全てを奪いさった敵だっ!」


 しかし、先ほどの言葉以降、その優しい女性の声はしなくなってしまった…。


 「ハロルドさんっ!?だ、大丈夫ですか!?」


 ティーンはオレを心配するかのように腕を掴んできた…。


 「あぁ…。とりあえず…は…」


 オレは先ほど聞こえた声の事をティーンに話をする…。ティーンにはその声は聞こえなかったみたいだったが、オレの言った事を信じてくれていた…。そして…。不思議と漲る力にオレは自分自身の力に驚愕する。試しに、目の前の水晶が置いてあった台座を一度、聖剣を大きく振り落とす。流石に頑丈なせいかびくともしない。今度は頭の中で、とある魔法をイメージして台座に向かい片手を向ける…。


 「ディストーション…」


 水晶が置いてあった台座周囲の空間が歪みだし、台座がいびつな形をしていく…。今まで何も力がないオレだったが…。これなら…。


 その様子を見ていたティーンは暫く放心状態で立ったままの姿勢だった。やがて…。


 「勇者ルイス…。私もあいつは許せません…。魔王ハロルド様…。どうか私の敵を…」


 「ああ…。これからはオレ…。いいや、この私が新たなる魔王となろう。そして魔族を追放し殺害する人間や勇者ルイスを討とうじゃないか…」


 オレ…、私は魔族救済の為に人間に手を掛けなくてはならない事に、今は何も感じないでいた…。

 

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