87 とある少女の悲鳴?
仕事が多忙のため、更新遅れました。もしかしたらまた少し更新が遅れるかもしれません…。がんばります!
賑やかな夜のエストリアから一転、俺達が借りた宿屋の一室は、重苦しい空気に包まれていた。 女性メンバーたちが集まり、先ほど遭遇した「偽物のルイス」と、その取り巻きたちについて激論を交わしていたのだ。
「なんだあいつ! 兄貴と瓜二つの割には、目が濁ってるし、話し方もキザだし……生理的に気持ち悪いやつだったな!」
シューが枕を投げつけながら怒りを露わにする。
「はいっ! あんなのが勇者を名乗るなんて許せませんっ!! あのクズ勇者アレックスを思い出して、虫酸が走りましたぁ!」
エアロも珍しく語気を荒げる。
「お兄ちゃんとそっくりな顔であんなこと言うなんて……不快……。名誉毀損で訴えたいよ」
ヒナルも眉をひそめる。 皆がボロクソに言うが……全くその通りだ。自分と瓜二つの人物が目の前に居て、しかも悪事を働いている。自分の顔なんて毎日嫌と言うほど鏡で見ているからこそ、その微細な表情の違いや悪意が手に取るように分かってしまい、余計に腹立たしい。
俺はため息をつき、ベッドの端に座り込んでいたクローディアに視線を向けた。
「クローディア? 大丈夫かい? 顔色が悪いよ」
「うん……。でも、一つ分かった事があったから……。兄ちゃんは生きている……。アイツに殺されてなかったんだ……」
彼女は自分の手を握りしめ、震える声で呟いた。 偽物は「黒い剣を持つ魔族の男を探している」と言っていた。つまり、ハロルドはまだ捕まっておらず、逃げ延びているということだ。
「ハロルドさんを探しているって、あいつ自ら言ってたもんな……」
どこかで野垂れ死んでいない限り、クローディアの兄さんは生きている。その事実が分かっただけでも、彼女にとっては救いだったのだろう。クローディアは少し落ち込んだ表情をしているが、その瞳には微かな希望の光が宿っていた。
「……それで、あの3人の女性が、ハロルドさんの元恋人だった人達?」
ミランダが静かに尋ねる。
「うん。あんなにベタベタして……気持ち悪かった……。あんな人たちじゃなかったのに……。もしかして、やっぱり操られているのかな……?」
クローディアが縋るような目で俺たちを見る。 その時、ヒナルが椅子から立ち上がり、クローディアの前にしゃがみ込んで目線を合わせた。
「クローディアちゃん? 一つ、残酷なことを言うかもしれないけど、いいかな?」
「えっ……?」
「実はあの時ね? こっそり『鑑定スキル』を使って彼女たちの状態を見たんだけど……。彼女達は、『状態異常:なし』だったの。つまり、操られてもいないし、魅了もかけられてなかった……」
「つまり……あの3人は自分の意思で、兄ちゃんを捨てて偽物に近づいたの?」
「……残念だけど、そうみたい……」
「そっか……」
その決定的な事実に、クローディアは力なく天井を見上げた。 瞳から涙がこぼれ落ちる。
「なんで……。あんなやつが……。兄ちゃん、あんなに尽くしてたのに……」
絶望するクローディアに、今度はクリステルが近づき、その肩を優しく抱いた。
「クローディアさん……。人の心は移ろいやすいものです。特に、権力や名声に弱い者は……。でも、安心してください。あの人達にはいずれ、必ず天罰が下されます」
クリステルの声には、聖女としての厳しさと、経験者としての重みがあった。
「大丈夫。私達を信じてください。ルイスの偽物なんて私達が許しませんし、あの女の子達も、真実を知った上でそれを選択したのなら……同罪です。私達が、分からせてあげますわ」
「クリステルさん……。うん。いつか兄ちゃんを裏切った事の天罰が下るって、信じています!」
「だなっ! あの3人にもガツンと言ってやらないとな!! それにあんなやつは許せねーよ! おまけに兄貴そっくりに化けやがって! 肖像権の侵害だぜ!」
「はいっ! 絶対に許せませんっ!! いつか後悔して、血の涙を流すといいですね……」
クリステル達もかつては魅了され、洗脳によって俺から引き離されてしまった過去がある。だからこそ、自分の意志で愛を裏切った彼女たちの罪の重さが誰よりも分かるのだろう。彼女たちの怒りは、かつての自分たちへの戒めと、純粋な正義感から来るものだ。
「それにしても、アイツらはここに来てまで魔族を捕まえに来ているのか? ショーだなんて言ってたが……」
俺が腕組みをして考え込む。
「そうかもしれません……。兄ちゃんと一緒に居た時も、そうやって捕まえた魔族を人々の前で『公開処刑ショー』なんか開いて、見せしめにして殺していましたから……」
「ひどいね~。それ許せないよ~っ! 命をなんだと思ってるの~っ!」
コタースが長い耳を伏せて怒る。
「ホント酷い!! ルイスなんかより酷すぎる! ……あ、いや、コイツはエロいしデリカシーないけど、困っている人を助けるのがコイツの唯一の良いところなんだから!」
ケアルが俺を指差して言う。褒めてるのか貶してるのかどっちだ。
「たしかに……です。お風呂とか平気で覗かれるし、セクハラまがいの事もされる……です。でも、困っている人に手を差し伸べるのがルイス兄さんの、一番格好いい所……です」
フレアも真顔で援護射撃(?)をしてくれる。 ……覗いたのは事故だし、セクハラは誤解だが、信頼されているのは嬉しい。
それからも暫く、今後の対策について話し合っていた。 そこへ、情報収集に出ていた仁さんが窓から音もなく戻ってきた。
「ルイスどの。お待たせしたでござる。やはり、偽者がこちらに来ていたようでござるな」
仁さんが真剣な顔で報告を始める。
「この街の裏情報では、近々闘技場で大規模な『魔族狩りショー』を開くみたいでござる。中には魔族を匿っていた人間も捕まり、見せしめにされるらしいという胸糞悪い話を聞いたでござる……」
「酷すぎるよ……。そういえば、お兄ちゃん? あの偽者と話した時に、『ケット・シー姉妹』にとある事をするって……」
ヒナルが不安そうに言う。
「うん。そう言ってたよな……。関係ない種族まで巻き込んで……。ましてや俺の姿と名前でそんな残虐な事をしているんだから、怒りでどうにかなりそうだ」
ああ。ひでぇよ。今すぐにでも殴り込みに行きたいが、場所も相手の戦力もまだ不明だ。 俺たちが部屋で悲観的な空気に包まれていた、その時だった。
『た、助けてください!! 誰か……助けて~!!!』
すっかり暗くなった窓の外から、悲痛な少女の叫び声が風に乗って聞こえてきた。
「ッ!! ルイス~っ! 今の聞こえた~!?」
コタースの耳がピーンと立つ。
「拙者も聞こえたでござるよ! 近くでござる!」
仁さんが窓の外を睨む。
「ああっ! コタース! クリステル! 仁さん! 一緒に来てくれないか!? 放っておけない!」
「良いですわよ! ルイスの役にたてるなら……!」
俺が即断すると、3人は気持ち良く引き受けてくれ、瞬時に外に出る準備を整えた。 聴覚に優れたコタースが場所を特定し、隠密行動のプロである仁さんが気配を消して先行する。そして万が一怪我人がいた場合に備えて、回復のエキスパートであるクリステルが同行する。完璧な布陣だ。
………。
……。
…。
宿を飛び出し、夜の街へと出る。 メインストリートから一本外れた裏路地は暗く、建物のあちらこちらに飾ってあるランタンの頼りない火だけが、ぼんやりと石畳を照らしている。
「レイジ~っ! こっち~っ! まだ聞こえてくるよ~っ! こっちこっち~っ!」
コタースは長いウサギ耳をピョコピョコとレーダーのように動かしながら、小声で俺達を誘導する。
「仁さんは上空から監視と牽制をお願いします……。クリステルは、怪しまれないように、ただの恋人みたいに俺の隣にぴったり寄り添っていてくれ……。コタースは引き続き先頭を頼む!」
「承知したでござる! では、屋根の上を行くでござるよ」
仁さんは音もなく壁を駆け上がり、闇に溶け込んだ。
「レイジ? 『一応』とか『ただの』恋人ではないんですか? もう、本番なのに照れ屋さんですね……。妬けちゃいますよ?」
クリステルが俺の腕にギュッと抱きつき、豊満な胸を押し付けてくる。 演技なのか本気なのか分からないが、心強いのは確かだ。
「ご、ごめんごめんっ! 頼りにしてるよ!」
「むぅ~っ、クリステル~っ、役得で羨ましい~! 帰ったらウチも一杯甘えさせてもらうからね~っ! ニンジンの倍の量で!」
「コタース! お前も緊張感持て! でも分かったよ!」
そんな小声の会話をしながら、コタースの案内で迷路のような裏小路を進んでいく。 次第に、少女の怯えた声と、男たちの下卑た笑い声が鮮明に聞こえてきた。 この辺りは人通りもなく、古い倉庫が立ち並ぶ寂れた区画だ。
「レイジ~っ! こっち~っ!! ……ここでストップ~!」
角を曲がろうとした瞬間、コタースが手を挙げて制止した。 彼女はしゃがみ込み、建物の物陰に隠れながら、仁さんから貰った合図用の『発光石』を手に持ち、空中に向かって微かに点滅させた。 上を見ると、屋根の上に黒い影――仁さんが伏せているのが、月明かりで一瞬だけ見えた。
俺とクリステルは気配を殺し、ゆっくりとコタースの隣へ滑り込む。
「レイジ~っ。あれ見て~。やっぱり女の子が、男みたいな人たちに追われてたみたい~……」
コタースが指差した先。 袋小路になった広場で、ボロボロの服を着た少女が一人、壁際に追い詰められていた。 彼女を囲んでいるのは、武装した数人の男たち。その鎧には、見覚えのある紋章――女神崇拝教の印が刻まれていた。
俺達は息を潜め、男たちの会話に耳を傾ける。
「へっへっへ……。もう終わりだ! 観念して早くこっちに戻ってこい! お前達、汚らわしい魔族は『勇者ルイス様』の奴隷なんだよ!! 逃げたらどうなるか分かってるんだろうな!?」
先頭に立つ男が、また俺の偽者の名前を使って恫喝している。
(奴隷だって!? ふざけろよ!! 俺の名前で、少女を奴隷扱いだと!?)
体中の血が沸騰するような怒りに、俺は思わず立ち上がろうとしてしまった。 しかし、その瞬間、クリステルが強く、しかし優しく俺の手を握りしめた。
「ッ……!?」
クリステルは静かに首を横に振り、俺の目を見つめて囁いた。
「レイジ……。焦らないで……? まずは状況を見極めましょう。……何かあれば、私もいますわ。貴方の背中は、私が守ります」
その冷静な瞳と温もりに、俺の怒りは冷徹な殺意へと変わっていった。
「……ありがとう、クリステル。助かった」
俺は深く息を吸い、剣の柄に手をかけた。 さあ、正義の執行の時間だ。
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