86 貿易都市エストリアと偽物ルイス
~ルイス視点~
「すっげぇ~なぁ!!ヒナル、スルト!!あれ見てみなよ!」
無意識のうちにそんな言葉が出た。ここは貿易都市エストリア…。サンドワームと初めて戦ってから4日間歩いてようやく辿り着いた。この街には、様々な人種が行き来し、あらゆる世界の流通場にもなっているこの大きな都市らしい。
俺達はここに入るなり、街の入り口に立っている門番に通行書の提示をお願いされる。
「エルドアス王国…。王家直属騎士団のレイジとミランダ…その御一考か…。よし通っていいぞ」
勇者だとバレると何かしらまずいから、ここでもこちらの世界の名前でなく本名を使う…。更に用心に越した事がない為、俺は頭に大きなターバンを被っている。更には念をいれて、髪を金髪にする。
「お兄ちゃんのそのターバン姿…。格好いいね。」
「兄貴の金髪もかっけぇなあ!!大好き!!」
シューに抱きつかれながら、門をくぐれば街並も王国ととって変わらないくらいの大きな街が目の前に広がった。その中には普通に魔族も居たりもする。そして目の前には小さなテントが張られている店がずらりと横一列に並んでいるのが確認できた。
「私が居た世界のお祭りの屋台みたい!!お兄ちゃん!お兄ちゃん!!なにか買ってくれるよね!?」
ヒナルはそう言うと俺の手をぎゅっと繋いでくる。
「わぁ~っ!いい匂い~っ!ニンジンの料理あるかな~っ!?」
「お~~!あれなんなのじゃ!!お主あれ見るのじゃ!」
「あ、アンタ!!アンタが前に居てもみえないっつーの!」
「姉さん…レイジ兄さんに肩車してもらったら…。いや…だめです。私がしてもらう…です」
ヒナルはどうやらこのような場所に馴染みがあるみたいだがスルトやケアルやフレアは目を輝かせながら首をまるで小鳥のようにあっちこっちと振り向け見ている。
「レイジ?あちらの何かしら?亀?ふふふ。レイジの精力剤を作るのにピッタリかしら?」
「クリステル…それだけはやめろ…亀はペットだぞ!亀が泣くぞ!」
クリステルは何故かニヤニヤしながらぶつぶつ独り言を言っている…。いや怖いぞ!聖女様の見た目でその顔は…。
「兄貴!兄貴!あれ見てくれ!射的だってよ!ボク、あれやりたいなー!僕のスキルなら全部倒せる自信あるぜ!」
「お兄様?私はお兄様とあれやってみたいです…ホラー屋敷って面白そうじゃないですか?大丈夫です。オバケが出たら私が火の魔法で…」
「お、お前らもやめろ…。すぐ追い出されるぞ!」
ふとミランダとバハムートの方に目を向けると…。
「ほうほう…。これが世界の人間が集まる場所か…。凄いのう…」
「本当よね~。あっ、レイジ?私…、手を繋ぎたいなぁ…」
ミランダは、そう言うと俺の手を繋いでくる。
「実は私、こうしてレイジとこういう場所で歩くのが夢だったんだ~」
顔を見ると頬を赤らめている…。こんなので良かったらいつでもしてあげるのになぁ~。
「レイジどの?拙者はあそこの宿の手配をしてくるでござる。娘達を頼むでござる」
「いや、俺が行きますよ?」
「レイジどの?拙者の事は大丈夫でござる。レイジどのは彼女達と、こういう時間にこそ一緒に居てあげるべきだと思うでござるよ?拙者の事は気にせずに彼女らと一緒に居てあげるでござる!」
そういうと仁さんは、俺の肩に両手を置く。
「じゃあ…宜しくお願いします!」
「受付終わったら拙者は荷物を運んで、偽勇者の情報収集でもするでござるよ!気にせずに楽しむといいでござる!ついでにケアルとフレアを女にしてあげてもらっていいでござるか?!」
「ち、ちょっと!仁さん!実の親が何を言っているんですか?!それに彼女達だって選ぶ権利が…」
「ははは!」
仁さんには本当に頭が上がらない…。つくづくそう思う…。色んな時も助けてくれた大事な仲間でもあり年の離れた兄みたいな友人でもある。そんな仁さんは笑いながら荷物をストレージから取り出し宿へと運んでいく。
「お兄ちゃん?ちょっとだけ皆でブラブラしてこよ?」
「いいね~っ!ルイス~っ!皆でデートだぁ!」
「良かったね!クロ。アンタの食べたいものあるかもよ!」
ケアルは黒猫のクロの顎の下をゆっくり撫でる。あれからクロも随分と皆になれた。初めて出会った時から見れば一回りくらい大きくなっている気がする。クロはエアロともとても仲がいいみたいだ。
「にゃんにゃーん!可愛いですねー!」
「でしょー!?良かったね~クロ!にゃ~ん!」
クロはケアルの頬を頭でコツンとぶつけて頬をすり寄せる。エアロも頭を撫でると「にゃあ~ん」と鳴く。
「お兄様!!見てください!ペロペロしてくれてますぅ!!」
クロはエアロの顔を小さい可愛らしい舌を使いペロペロと舐めている。
「本当、可愛いやつだなぁ!」
俺はそっとクロを撫でようとすると…
「ふしゃーっ!」
「いぃいいいい!?なんで!?かじられるとこだったよ!!なんで!?がぶりって指なくなるとこだったよ!!」
何故かクロに怒られる…。
「レイジ~っ?クロに何かしたの~っ?」
コタースは俺の表情を見てケラケラと笑いだす。
「レイジ?まさか、貴方…子猫ちゃんに何かしようとしたのかしら?」
「や、やるわけないだろ!!」
「へへっ、レイジ君なら分からないなぁ~」
皆がふざけて色々と言ってくる…。でもどうして怒ってきたのだろうか?よく分からなかった。
………。
……。
…。
それから俺達は色々な出店へと回ってみた。さっきから見るとまたたくさんの人が行き来し合う。街並を色々な色の光で照らされていて、とてもカラフルな感じだ。街の人達も酔って陽気にフラフラと踊っている人、あらゆる種族の男性が集まり、何かイラストのついた絵本を見ながらにやにやしていたり、小さな子供がいる家族が歩いていたりと賑やかでとても楽しい雰囲気な感じま。いい匂いも漂ってきて、そろそろお腹が空いてきた。ヒナルとコタース、スルトとフレアとケアル、そしてクローディアの5人は右側の売店に向かい美味しそうな物を買ってくるとの事で、俺達はここら辺を見る事にした。
「兄貴~!はい!あ~んして!!」
シューは熱々のふにゃふにゃしたソーセージを俺の口の中に無理やり突っ込んでくる。美味しそうな肉棒だ。でも熱いし油でベトベトする…。
「ゲホッ!ゲホゲホッ!」
「あっ!わりぃ!!僕の上げたソーセージそんなに熱かった?!なんか熱い汁まで出てるし!大丈夫!?兄貴!?」
「ゲホッ! …んっ…。ごめんごめん!せっかく食べさせて貰ったのに、すまん…」
「ありがとう…。ごめんな?また次、兄貴の口にいっぱい入れてやるからさ!!そのかわりー次は兄貴のフランクフルトちょーだい!」
そう言うと売店の方に手を向けて指をさす。そこには確かにこう書いてあった…
「ふっ、フランクフルト?」
確かに大きい肉の塊の棒だ。シューの口にこれを入れるのか??いやいやいやいや!何を考えてるんだ俺は!!
「お兄様?シューだけじゃなく私もいれて欲しいですぅ…!シューばっかりずるいですぅ!!はやくいれて欲しいですっ…」
「ルイス?私も食べてみたいですわ?その大きな肉の棒を…。レイジが食べさせてくれますか?私のも差し上げますので…。いっぱい食べさせてくださいますか?」
クリステルやエアロまで参戦してきてるし!ってちょっと待てよ?!
「ねぇねぇ…レイジ君?私にはいつになったらレイジ君の大きなフランクフルト食べさせてくれるのかしら?私…我慢でなくなって…。皆ばかりずるいから今日は私が相手するよ?」
横から更にミランダがやって来る…。相手をするって、勘違いしてるのかな?食べ物の話をしているだけなんだが…。しかも、なんかさっきから周りの人達がやけに俺達の事を見てくるぞ!?は、はずい!!
「ミランダさん…、ミランダさん?あれですよ…あれ…。私達はあれをレイジの手で食べさせて欲しくてですね…」
「んっ!?ななななな!!! なんですってぇっ!?!?あ、アレの話じゃないの!」
「ふむ。世も理解しておったぞ!」
ミランダは顔を真っ赤にしながら恥ずかしがっている…。そうこうしているとヒナル達も戻ってきた。
「ただいま~!いっぱい買ってきたよ!!あれ?お兄ちゃん?何の話していたの?」
「ん~っ?!なんか~っ、ミランダから~雌の香りがする~!どうしたの~っ?!」
「ど、どうもしないよ!なんだろうね!?はは…、ははははは…」
「アンタ…。まさかミランダさんに何かしたんじゃないでしょうね!?」
ケアルは俺の事を鋭い目で睨み付けてくる…が口元はニコニコしていた。
「それより…これ…、いっぱい買ってきた…です…」
「ルイスさん?私も…食べていいの?!」
「ああ!クローディアも腹一杯食べてくれ!」
手渡された袋の中を見ると、おでんという食べ物やショートケーキにフライドポテト…。イカの丸焼きやタコの唐揚げ、焼きとうもろこし等様々だ。この食べ物のほとんどが異世界…、つまり俺が来た世界からの食べ物らしい。どれもこれもいい匂いだ。食欲をそそられる。
………。
……。
…。
ちょうど売店から離れた場所に休憩場があったからそこで俺達は買ってきてくれた食べ物を食べている。皆で食べるとやっぱり美味しいなぁ…
「このイカ焼きって食べ物!めっちゃ美味しい!」
「お祭り思い出すなぁ~…。味も似てるし!」
「ヒナル?やっぱり、この食べ物って俺が来た世界の料理と同じなの?」
「うん。味つけも似てるし!」
「ふふふ、今度私も作ってみようかしら…。そしてルイスに食べて貰いたいですわ!」
うっ…!ありがたいけど…。クリステルさん…?ありがたいけど… ねっ?!
「ヒナル!?この黄色の食べ物?とうきびって言うの?すごい美味しい!」
ケアルはとうきびが気に入ったみたいだ。側にいるクロも食べたそうにしていて、ケアルはそれに気付いたのか、とうきびを一つあげようとするが…
「猫にはとうきびは毒らしいからダメだよ~」
「えっ!?そうなの!?」
ケアルもクロもシュンとなる。
「このニンジンケーキ~っ!美味しい~っ!!甘くて~ふかふかしてる~っ!後味もニンジンの甘味があっていいね~っ!」
「コタースさん、ニンジン好きですね!私はこのチョコケーキが好きですぅ!!」
「兄貴!この黒い飲み物飲んでみろよ!甘くて口の中がシュワシュワして美味しいぜ!!これなんて言うの!?」
「それね。私の世界にもあったコーラって飲み物に似てる!」
「うむ。世も飲んでみたが、微妙であったぞ」
「むむむー!シュワシュワして変なのじゃあ!」
俺は、皆の様子を見ながら大きなフランクフルトを口に入れる。さっきは熱かったけど、ちょうどいい温度になっていて食べれる。その姿をじっとミランダとクローディアが眺めている。
「レイジ君がエロくみえるのは私だけ?」
「み、ミランダさんもそう思いますか!?って、私は何を考えてるんだー!」
「ほうかしたか?ふたひとも?」
「な、なんでもないよ!レイジ君!」
「気にしない~気にしない~!」
なんか、二人とも顔を赤くして照れてるし。よく分からん。
皆でそんな感じでわいわいと食べている時だった。売店の置くの方からそれなりに身なりが良い3人の少女と一緒に黒い鎧を来て白い綺麗な剣を腰にぶら下げた男がやって来る。
「なんなのじゃ? あれ…って…なのじゃあああああ!」
「う、嘘!あっちにもお兄様が!?」
「あら?本当ですわ…。まさかあれが!?」
「あ…、あいつが例の… 偽物みたいです…。それに兄さんの恋人達も… 何でこんな所にまで来ているの…」
「あいつがか…。本当に俺と瓜二つに見えるけど…。どういう事だ…?とりあえず、スルトとクローディアはターバンをつけて?」
「わかったのじゃ!」
「うん…。わかったよ…」
その男はまさしく俺と瓜二つだ。表情は冷徹な顔をしているが…。店を周りながら徐々にこちらに近づいてくる…。やがて俺達のメンバーが気になったのか…こちらに向かってきた…。
「初めまして。俺は勇者ルイスだ!さっきたまたま見かけて君達がそれなりに強そうに見えたからつい…。特に君?名前は?」
「俺ですか?俺はただの冒険者のレイジだ」
「レイジか!君もたくさんの女の子連れて楽しくやってそうだね。もしも魔族を見かけたらセトリア王国に直ぐ伝えて欲しい。特に黒い剣を持つ魔族の男だ。彼は魔族でありながら人間に紛れて悪さをしているからね」
「分かったよ」
偽物の俺がニコニコしながらこちらを見ているのがかなり不快に感じる。隣にいる少女達も偽物のルイスに腕を組んだりとベタベタして見せつけてくる?
「レイジさんって言うんでしたか?貴方達、凄いですね。皆レイジさんの恋人かなにか?」
「そうですよ。ここにいる皆がレイジと一緒になる事を望んでいるのです…」
「勇者様の隣にいる君達もそんな関係?ならすげぇなあ!幼馴染みだったり?!」
クリステルとシューは上手く話をして些細な情報を聞き出そうとする。偽物の隣にいる少女の中で一番年上に見える子が偽物に腕組をする。
「いや、俺達は数ヶ月前に知り合ったんだ。魔族から彼女達を助けてね」
「ええ!勇者様は私を助けてくれたのですわ!」
「勇者様はかっこいいんだよ!ね!お姉ちゃん!」
「勇者様にかかれば魔族なんてイチコロっス!」
姉と妹、エルフは偽物にベタベタしている。ほんと、俺と瓜二つのやつが目の前でベタベタしているのを見ると、凄く嫌なんだが…。
「私は聖女のテルクと申します…。貴方達はこれからどちらへ向かうのでしょうか?」
クリステルは咄嗟に思い付いたであろう偽名を使い、偽物の同行を探る。
「俺達は、捕まえた魔族を使い、ここでショーを開くのさ。後、魔族に加担していたケットシー姉妹も見つけたから見せしめにとある事をするつもりさ!良かったら見にこないか?」
「ああ!ありがとう。今日、ここについたばかりで、もし疲れてなかったら行かせて貰うよ。勇者様に会えた事は光栄に思う」
「絶対に来た方がいいっスよ!勇者様の技が見られるんすから!!」
そう話をしているとヒナルが俺の方を見てくる。
「レイジ?そろそろ宿の準備終わったんじゃないかな?」
「もうそんな時間か?!では勇者様。また会える時を楽しみにしています」
「ああ!何かあったら頼ってくれ!」
「じゃあ皆?宿にいこうか?」
「うむ!」
「アンタが言うならいいわ。」
「姉さん…。アンタ呼ばわりするとレイジさん困る…です。」
俺達は偽物にお辞儀をすると皆で宿へと向かう。偽物の勇者様はその後も色々な人に声をかけ歩いて回っていた。とりあえず、何事もなくて良かった…。
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