85 騎士ハロルドの考え…
~フィリシア視点~
-ミュラント砂漠の手前、ミュラント荒野で少女を保護し少女の話を聞いた時の時間に遡る。-
「では、私が王国に向かおう。これはエルフ国の問題にもなりそうだからな」
異空間ストレージ内で私はルイスと話をした。少女の証言から、偽物の勇者がアスガルド近郊やセトリア王国を誑かし魔族を殺し回っている事。そしてそこにはエルフも関わっている事。
「それじゃあ、フィリシアには悪いけど…。王様に報告を頼むよ…。後、これを…」
ルイスは私に共鳴石を差し出してくる。これがあれば離れていても意思を飛ばし合う事ができ
るため、情報交換もしやすい。
「ああ!!ルイスも気を付けろよ。くれぐれも無理だけはするな」
「ああ!」
ルイスはにこりと明るく見送ってくれた。それにしても偽物のルイスが魔族を…か。あの女神崇拝教が絡んでると私は見ている。
私はルイスから貰った転移のスクロールを使い王国へと向かった。
………。
……。
…。
「そうか…。ルイスの偽物が…か。そいつが騙しセトリア王国やアスガルド近郊の人らに嘘を吹き込んでると…。」
「まだ、その少女の証言が本当かどうかは分かりませんがね…。」
王様に聞いた事全てを伝える。勇者ルイスの偽物がセトリア王を騙して魔族や魔族を庇護している人間を殺し回っているという話だ。これは少女もその場面を目撃した証言で実際見た場面ではないため信憑性には欠けてしまうが…。
「なので、ルイスからの返答次第で我がエルフ国からも兵士を出したいのと、エルドアス王にも力を貸して頂きたいのですが…。」
「良いであろう。しかし…、戦の女神に似た者の話と女神崇拝教の動き、勇者ルイスの偽物…。どれもこれも関係がないとは言いきれなんなぁ…。ルイスから報告が来次第また教えてくれ…」
「分かりました!」
次に行く場所は私のお父様。あのラグナログを討ち滅ぼした勇者ルイスをかなり尊敬して高く買ってくれている。だから直ぐに返事を出してくれた。結果はエルドアス王同様に何か返答あれば直ぐに対応してほしいとの事だった。
「何事もなければいいのですがね…」
………。
……。
…。
~ハロルド視点~
「ハロルドさん?起きてください!」
「んっ…ああ…」
オレはどうやら寝てた見たいだ…。最近、あまり寝てなかったからな…。まだ外は薄暗い。まだ日が登る前の時間だろうか?
「これ私が作りました…。お口に合えばいいですが…」
「ありがとう…。ティーン…」
数ヶ月前に助けた少女…、ティーンと一緒に隠れながら森の中で生活している。前までここ一帯はよくセトリアの兵士がよく偵察に来ていたが、なんとか落ち着いてくれている。
「もうあれから数ヶ月か…」
「どれくらい経ったか分かりませんが…」
「あの勇者はまだ居るのかな?」
勇者ルイス…。あいつがオレの幸せを全て奪っていった…。全てはあいつが現況だ。
「えぇ…。なんでも次から次へと魔族を捕まえ殺し回っているそうです…」
「そうか…」
オレは立ち上がり、隣に置いてあった黒の聖剣を背中に背負う。ここに居ても時間が勿体無い…。だから…。
「俺は魔王様が居たと言われるアスガルドへと向かう。ティーンもついて来るか?」
「はい!ハロルドさんが行くなら私もお供致します!」
「ほら。足元悪いから俺の手を取って?」
オレはティーンの手を取り、ゆっくりと彼女を引き寄せる。
「あ、ありがとうございます…」
視界がまだ明るくないため、周りの状況が掴みづらい…。
「は、ハロルドさん!気をつけてください…。何か居ます…」
オレは小声で話すティーンの言葉に耳を向けて周りの様子を伺いながら集中する。
「多分レッドウルフが数匹いるな…。ティーン、離れるなよ?」
「はい!!」
オレは背中に背負っている黒の聖剣を抜く…。剣を抜く。オレからジリジリと溢れ出る殺気を感じたのかレッドウルフが一斉に飛びかかってくる。
「グァルルルルッッ!!」
オレは剣を構える。一匹のオオカミが飛び上がりオレの腕を噛んでこよう襲ってくるが…。それを交わしレッドウルフが地面に着地する瞬間に一直線に縦へと剣を振り落とし首を切断する。
「ヴォウッッッ!!」
「ガルゥッグァル!!」
更に続けて2匹のレッドウルフがオレを目掛けて勢いよく突進してくる。ウルフが10cmくらいの目の前まで来た瞬間、オレは剣でウルフを一匹なぎ払う。もう一匹のウルフがオレの腕に噛みつく…が鉄製のグローブを身に付けているため噛みついても傷一つ負わずに済んでいる。噛みついているウルフをそのまま腕を地面に振り落とすと供に地面に叩きつける。
「ギャワンッッ!!」
地面に叩きつけられたウルフを、もう一匹のウルフの所に向かって蹴り飛ばす…。二匹がぶつかり合った所、オレはそのウルフに近づいて二匹まとめて剣を振り落とし首を切断する。
「後、もう二匹か! はぁああああああっ!」
オレは残りのウルフに走り出すと二匹は後ろに向かい逃げ出す。手に持つ黒い剣をウルフに向かって投げつけると剣は回転しながら宙を舞って、手前に居たウルフ一匹を切り裂き、さらに奥にいる最後の一匹にも当たる。
「ふぅ…。これで全部だな…。」
オレは物陰に隠れていたティーンの側に向かう。暗闇の中、草っぱらの中、月光のお陰で頭だけひょっこりと露にしている彼女を発見する。
「ティーン?大丈夫か?」
「は、はい!!」
「良かった…。もう片付いたから出てきても問題ないぞ」
草っぱらの中から彼女が立ち上がり姿を見せる。
「またまた…ありがとうございます…」
「いいよ。気にしなくて…。でもやっぱりスキルが使えれば苦労しないのになぁ…。やっぱりあそこに行ってみるしかないか…」
オレのスキル…。それすらも分からない。そしてこの黒い聖剣…。これはオレの父親から貰った剣。そして父親は今はもういないアスガルド王の弟…。つまり、オレも王家の人間だった。父親と人間の母親が恋に落ち…、産まれたのがオレとクローディアだった。
だからアスガルドにまた戻り。オレの親父と伯父貴しか知らない秘密があそこの城にある…。
「あそこに?ハロルドさん?次はどちらに?」
「あぁ…。俺の伯父貴がいたアスガルド城だ…」
「あ、アスガルド城!?あの滅ぼされた城!?」
「あぁ…」
そういえば、伯父貴の娘さん…。俺の従姉妹のスルトはどこ行ったんだろうな…。やっぱりスルトも人間に…。
「つくづくクズが多いな…。ならオレが全員始末しなきゃいけないのかな?」
「は、ハロルドさん…?」
「新しくアスガルドの王様になってもいいのかもね…。魔王にさ?」
「えっ…?」
オレはちょっとずつ、その考えが固まってきている。まずは力を手に入れて仲間を探さなければ…。
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