83 打ち解け始める少女
~ルイス視点~
異空間ストレージ内から外に出ればかんかんとした太陽の日差しが容赦なく襲ってくる。
「今日も暑いのじゃあ…」
スルトは暑さで手を下に下げてまるでゾンビのような仕草で歩く。
「確かに! 確かに…あちぃ…」
今日は俺と仁さん、エアロとシュー、スルトの5人で出歩く。地図を辿ってみれば今日中に砂漠地帯に出る。バハムートに乗せて貰うのも手だが、この暑さのためバハムートにも無理はさせられない。バハムートは「大丈夫だ」と言うけど、ここまで辿り着いた時は少しふらふらしていたからだ。
この辺り一帯が乾燥した大地になっていて、通る人も希にしか遭遇しない程だ。水や食料等は異空間ストレージに大量に入っているから…、まぁ…まだマシなんだけどて。それにしても…。
「お兄様?あつくありませんか?」
暑いのを頑張りながら辛い表情を見せるまいと満面の笑顔でエアロが話しかけてくる。
「うん。大丈夫だけど、エアロも無理すんなよ?」
俺は、エアロの頭を手の平で軽くポンポンと触る。
「お兄様がいるから大丈夫です!」
「兄貴~。あち~ね~… 僕にもポンポンしてー?ねっ?!」
いきなり暑いならか猫背になったシューがひょこっと俺の前に出てくる。
「こんなんで良かったらいいよ?」
シューにもエアロと同じく頭を軽く手の平でポンポンとする。
「うはぁ~っ!兄貴のポンポンでやる気でたぜ!!うん!また頑張れるよ!!」
横にいたスルトが頬を膨らませながら何故か怒る…。
「むーっ!」
「どうした?スルト?」
「むーっ!むーっ!なのじゃあ!」
どうしてか、むーむー言って頬を膨らませている。
「ルイスどの…、これはあれでござる!」
「えっ?なんなんですか?仁さん?」
仁さんはスルトを横目で見ると、自分の頭を指を差し、撫でる仕草をする。
「えっ?」
「ルイスどのは少し鈍感でござるなぁ…!スルトどのにも…」
「だって、兄貴だもん!」
何故かシューは俺の事をジト目で見る。
「あっ!そっか!」
仁さんの言葉にすぐ気が付いた。俺は女心をまったく理解していないみたいだ…。仁さんの話を聞き、すぐにスルトにも頭を優しくポンポンする。
「むふ!むふふふふふ~なのじゃあ!」
俺の義理の姉さんはでれっとしたような表情で嬉しそうにしている。
「ところで、ルイスどの?そのままアスガルドに直行で向かうのでござるか?」
「いや、真っ直ぐ行けば何かと問題なりそうですからね…。偽物の噂も気になりますし…」
俺の偽物がいるから…。慎重に行動したいところだ。既に俺の偽物がいる以上、俺がそこに行けば色々と問題になりそうだからな…。
「そうだよなー。兄貴の偽物がいるなら本物の兄貴が出て来たら逆に怪しまれるもんな!」
「うん…だから…。次の目的地は…」
俺は王様から貰った地図を広げる。俺達はエルドアス王国の場所からゆっくりと南西に進んでいる。砂漠地帯から東に進めばアスガルド近郊に出る。砂漠地帯を真っ直ぐ進みたいが…。
「ルイスどの…」
仁さんは、地図を見て砂漠の少し北側に位置にあり海に近いとある名前が書かれている所に指を指す…。
「エストリア…?」
仁さんは何か思い出したかのように表示をハッとさせた。
「たしか、ここは…、貿易都市だったでござる…。ポータの仕事仲間から聞いたでござるが、色々な種族もいて、魔族も普通にいる都市だと聞いたでござる」
魔族も普通に出入り出来るなら安全か…。
「じゃあ、まず此処に向かって情報収集かな?」
「うむ!此処なら我も一度だけ行った事あるのじゃ!船がたくさんあって凄かったのじゃ!!20年くらい前の話じゃが…、魔族がいても目立たないと思うのじゃ!」
「お兄様?ここに行ってみる価値はありそうですね。情報収集も出来そうですし…」
「兄貴が行くなら何処へでも行くぜ!もう離れないって決めてるし、ボクが兄貴を守るから!」
スルトとエアロもシューも俺の提案に賛成してくれている。俺は異空間ストレージに入って、皆に次の目的地について話をする事にする。ちょっと遠回りになるけど、情報収集も兼ねて、今後の出向き方を整理するのにも丁度いい場所だ。
「まぁ、お兄ちゃんが決めたなら私は反対しないよ?」
「うん~っ!ルイスが決めたならウチも大丈夫!」
皆も賛成してくれた。ちなみに此処からだと、軽く1週間くらいはかかるか…。
バハムートにお願いしたい所だけど、砂漠地帯に入って万が一倒れられても嫌だからなぁ…。
「すまんのぅ…。力になってやりたいのだが…暑いのだけは世に耐性がないなら無理だからな…」
「気にするなよ?無理はさせないからさ?」
気を使ってくれるバハムートの頭を優しくナデナデする…。バハムートは最初は落ち込んでいる表情を見せていたけど、段々とその表情は賑やかになってくるのが伝わった。
「ルイス君も辛くなったら言ってよね?」
「ふん。アンタが倒れたら私が添い寝くらいしてあげるんだから!早く倒れなさいよ?」
「姉さん…。それ一番危ない…です。でもルイス兄さんも、無理だけはしちゃダメ…です」
ミランダもケアルもフレアも俺の事を気遣ってくれている…。最高のパートナー達だ。
「…ルイスさんって、凄く慕われているんですね…」
クローディアが俺達のやり取りに表情を緩めて笑顔でそう言ってくる。
「クローディア?特にクローディアが一番無理したらダメだぞ?色々あったんだからさ?何かあれば絶対に俺達が守るからさ?約束するよ?」
そう俺が言うと、クローディアの目尻からじわじわと暖かい涙の水滴がぽろり、また一滴ぽろりと溢れ出す…。
「は…はい…。ありがとうございます…って…ごめんなさい…涙が…」
「大丈夫。今のうちに一杯泣いときな?お兄さんに会ったら笑顔で会ってあげよう?」
「はい!!」
こう言うとクローディアは最高の笑顔をこちらに向けた。
「また、アンタはそーやって女の子を手篭めにしていくんだ?アンタはね~!そういう優しさが一番凶器なんだって自覚しなさいよね!」
「そう…です…。その優しさはズルい…です…」
ケアルとフレアが何故か突っかかってくる…。その横で仁さんが何故か半分睨みながら…。
「ルイスどの…、いつになったら拙者の娘達を貰ってくれるでござるか?!拙者の娘達は可愛くないのでござるか!?」
「い、いやいや!!可愛いですけど!!でもね??まだケアルもまだ年的に…じゃないですか!?」
「はぁー!?アンタねぇ!!」
「若さなんて関係ない…です…」
俺は3人に何故か攻められる…。
「そうでござるぞ!!年なんて関係ないでござる!!」
「ちょ!まてーい!親の仁さんがそれで良いのか!?ねぇ!?娘を売る父親なんですか!?」
「そうでもしないとルイスどのは貰ってくれぬだろ!ははは!」
仁さんは仁王立ちのような姿をして高笑いをし始める。
「あーコイツなら…だね…」
「うん。そう…です…」
ケアルとフレアがそう言うと何故か二人とも俺に抱きついてくるし…。
「お前らもかー!?ねぇ!?そこには俺の気持ちは入ってないのか!?無視なのか~!?あらたなるハニートラップなのかぁ~!?」
「「「だね!」」」
「へへへへっ!ルイス面白い!」
クローディアの方を向くとクスクスと何故か俺は笑われている。先程のそのつぶらな瞳から流れていた暖かい物は消えたようにも見えた。
次の目的地は貿易都市エストリアへと決まった。




