79 逃げてきた魔族
俺達は異空間ストレージから出ると遠くの方で男性と女性が黒い大きな何かに襲われている場面に遭遇する。
「ルイス君！！あ、あれ！！ビッグベアじゃない！？」
ミランダの声を聞き、ミランダが指を指す方角を見ると、男性と女性の二人がビッグベアに襲われて入る所だった。男性は腕に爪痕のような大きな傷を負っている。大きな巨体のため、あれだけの傷ですんだのが男性の運が良かったからだ。
「俺がまず足止めするから、ケアルはあの男性の回復を！！」
「うん！わかったよ！」
俺達の殺気を感じたからかビッグベアは、男女を襲うのを止めて、こちらに走って向かってくる。巨大な体で猛スピードで突進してくるため、まるで小さい地震でも起きてるかのように地面が揺れる。
俺は、突進してくるビッグベアに即座にアースバインドのスキルを頭の中で思い浮かべてイメージする。片手をビッグベアの方に向ける。すると、突進してくるビッグベアの足元から土の固い塊がまるで草の蔓のように伸びてビッグベアの前足と後ろ足を縛り付ける。
「グォォオオオオ！！！」
鋭い雄叫びと共にビッグベアは暴れようとするが、アースバインドの拘束の方が力強く、ほどけないでいる。その隙を見て、ケアルは男性の腕を治癒魔法で傷を癒す。ヒナルから見れば回復速度は遅いかもしれないが、回復術士としては申し分ないほどだ。
「世の出番だな…」
バハムートは幼女体型でビッグベアに突っ込んでいく。ビッグベアに近づいたと思ったら、その幼い体でビッグベアの腹に拳で何度も叩きつける。ビッグベアがよろめいた瞬間を見計らい…。
「フレア！重力魔法を頼む！」
「分かった…です…。」
フレアは目を閉じ、杖を両手で持ち、ビッグベアの方に向けて詠唱を唱え始める。ビッグベアの周りの空間がぐにゃりと歪んでモヤモヤとした空間へと変わる。その瞬間…。
「グォォオオオオオ！！ガッガッ…！！クォーン！！！」
ビッグベアの叫び声と共に段々とその重力に耐えきれず、押し潰されたようにべたんとひれ伏したような状態へとなる…。
「ミランダ！一緒にトドメを！」
「分かったよ！ルイス君！！」
ミランダが先ず、ビッグベアの元へと高速で移動する。近くまでやってくると腰に添えてあったレイピアを手に取る。
「はぁ～～っ！！」
ビッグベアの頭にレイピアを高速で突き刺す…。俺のオートバフのお陰か貫通性が高く頭を拘束で突き刺していく。流石は騎士団であり、あのカノープス団長の娘だと実感する。
「凄いな！ミランダ！！」
「ルイス君には負けるよ！？」
ミランダは俺に向けて最高の笑みを浮かべる。俺はそれから、背中に背負っている聖剣のグリップ部分に手をやり鞘から引き抜く。
「これで終わりにしよう！はぁああああっ！！」
ズドンという音とともにビッグベアの体を一刀両断する。辺りは地吹雪が巻き起こり、一瞬、視界が見えなくなる。
ビッグベアを仕留め、丁度、雪煙が収まる頃にはとケアルは男性の治療を終えた所だった。
「ルイス君。お疲れ様～っ！」
「ああ！」
「あっ、それより！！ケアルちゃんのとこに行こう！」
俺達はケアルの元へとやってくる。既に治療を終えた男女が「ありがとう！ありがとう！」と頭を下げている。
「無事みたいで良かった！」
「感謝します！ですが…早く離れた方がいいです…。」
最初は何を言っているのか理解できなかったが、この男女をよく見ると…、頭に小さな角がある…。つまり、二人は魔族だった。
「貴方達は魔族だったんですね…」
「ええ…そうですが…。君達は、私達…魔族を恐れないのですか！？」
二人は怯えながらも聞いてくる。何かあったのだろうか？
「はい。大丈夫ですよ。俺の大切な仲間の内の一人が魔族の少女なんだ。それにここら辺一帯を納めるエルドアス国王は魔族との共生の道を選んでいる。だから安心してくれ！」
そう言うと、女性の一人が今まで貯めていた物を吐くように堰を切って涙が漏れ出す…。
「わ、私達…。アスガルド近郊に住んでいた魔族です…。最近…、女神崇拝教により数多くの人間が魔族のありもしない噂を流して…」
女性は涙で目が腫れているのが分かる…。
それにしてもアスガルド…。スルトや俺の母さんの故郷！？それにまた女神崇拝教か…。どれだけ人に迷惑を…。
「それで、人間の目を盗みながら…ここまで何ヶ月も歩いてなんとか逃げ出してこれたんだ…。」
男性は悔しがっているのか、拳に力をいれながら俯いたまま…。女神崇拝教に嘘を吹き込まれた人間に追害され相当悔しかったのだろうか…。怒りをビリビリと感じるほどだ。
「なら…」
女神崇拝教には本当に迷惑する、だから…。少しでも被害を受けて悲しむ人を無くすために…。
「俺の村に来ないか？ 俺はそこの村で一応村長をしているルイス・ガーランドというんだ」
「あっ！それ言い考えだね！アンタにしてはいい案だよ！」
「うん…。ルイス兄さんにしてはバッチグー…です。」
ケアルとフレアの二人はまるで以心伝心しているかのように二人して同じ仕草で親指を立ててグーサインをする。おまけに表情まで一緒だ
「え、えっと！本当に！？」
「後。ルイス…。まさかとはおもいますが…」
二人は一気に顔色の表情が変わる…。そのまま俺の所の近くまで来て、俺の顔をまじまじと見る。
「まさか…、あの勇者様…！？あのエルドアス王国を救った勇者様ですか！？」
「私達の村でもお話を聞いてますよ！そんな方と出会えるなんて…」
2人はまるで、化物を見たかの表情で俺を見る…。
「あはは…。本当は目立ちたくないんですがね…。」
俺がそう言うと、ミランダはニコニコしながらこっちを見てくる…。
「そうそう！ルイス君は恥ずかしがりやさんだけど、正義のヒーローなんだから！」
「ちょ、ちょっと！」
まさかそんな遠くにまで俺達の名前が知れ渡っていたとは…。意外にもびっくりした。
「もし来るのなら、そのまま来ていただければ…。普通に色々な種族と暮らす村で魔族の皆さんも普通に生活してますし…」
「あ、ありがとうございます！！」
「貴方は本当に勇気のあるお方です…。このご恩は絶対忘れませんっ！！」
「い、いやいや…、ただ人として当たり前の事ですよ！」
「ふふふっ…。この竜神バハムートすらも見込んだ男だからのう…」
「えっ…！？りゅ、竜神バハムート！？な、何を～言ってるんだ？お嬢ちゃん…」
「むむ。本当だぞ！世は竜神バハムート…」
バハムートは頬をぷく～と膨らませて可愛い。
「この子の言っている事は本当よ！私も初めて見た時はビックリしたんだから！」
ミランダは、バハムートの両肩に両手を置き、軽く肩をポンポンと叩く。
「ひぇぇえええ！まさか勇者様と竜神バハムート様が！？」
「ふふふ！世は魔神族で知らぬものはおらぬからな！」
え、そうなの！？初めて知ったんだけど！
とりあえず二人には異空間ストレージに入ってもらい、一旦、ビッグベア討伐の報告に向かうのだった…。その際、アスガルドから流れ着いた魔族を俺の街で暮らさせるという話を王様に通しておく…。後日、この件について、話があるとの事だった…。
