72 騎士と恋人達との亀裂… その2
~ハロルド視点~
勇者ルイスと共に初めて一緒にダンジョンに入ってまた2週間が経った…。もう2月に入り、だんだんと暖かい季節となっていく…。
俺は、今日は久しぶりの休みだ。
「ハロルド~。おはようございます」
「おはようだね~。ハロルド~」
「ああ、おはよ!」
皆が声をかけてくれる。オレは幸せを噛み締めている…。大好きな女の子3人と、ただ一人の妹と…。
「ハロルド?今日は休み?なら皆でどこか行く?!」
「ああ!」
「はーい!」
「それじゃあ皆、準備できましたら出ましょう~」
今日、オレは久しぶりの休みだ。前の休みから何日も経つのかな…?久々の休みとなると気分的にも落ち着けるし自分をリラックスできるのには丁度良い…。
今日は、オレと妹、幼馴染み、幼馴染みの妹、エルフの俺達5人で出かける。
皆でぶらぶらとこの小さな国の街を歩いていると、つい最近できた建物が目が入った。
「見せ物小屋…?」
「異国の地でも有名な何かのマジックショーをする場所らしですわ。ナイフ投げだったり、綱渡りだったり…。」
「へぇ~!」
「ハロルド?見てみよ~、ねっ!?」
幼馴染みの妹は行きたくてうずうずしている様子が感じ取れる。
「兄ちゃん?私も行きたいなぁ…」
「じゃあ行くか~!」
つ
「ほんと、妹ちゃんには優しいですわね~。ふふふ」
幼馴染みはニコニコとしている。こうやって幸せな日々が続いたらいいなと凄く思った。
中に入れば大勢の人が観客席に座っている…。見せ物はどれも素晴らしく、ナイフ投げ、綱渡り等、瞬きすらするのも忘れるくらい凄い演技を芸者が披露していく。
中でも凄いのが水の魔法を使ったトリックだ。中心にひとつのガラスで囲まれた箱の中に人が入ると、徐々に水がその箱の容器に勢いよく投入される。
水が徐々に入ると芸者は慌ててそこからでようとするが、出られずに踠く…。全てが満杯になった時に水中にいる芸者がふっと消える…。すると、観客席においてあった箱の中からふっと、先ほど溺れかけていた芸者がびしょ濡れになりながら姿を現す。それを見たら観客席にいる人達から大絶賛の声が上がる…。
「凄いね~っ!!人が消えたと思ったら一瞬だったね!!」
幼馴染み妹がはしゃぐ。
「兄ちゃん!もしかしたらあの箱の下に隠し通路があったりして?!」
「ははは、まさか!」
次の芸がはじまる…。そこに一人の男の姿が舞台上に現れる。
その男は…。
「ルイス様だ~!?」
勇者ルイスだった。ルイスは観客の前でニコッとすると。
「皆さ~ん!お集まり頂き光栄です。今日は俺も参加させて頂くことになりました。勇者のスキルを皆さんに披露したいと思います!」
勇者は腰にぶら下げている光輝く剣を鞘から取り出し。天高く上へと突き上げ観客に見せる。
「これこそが、エルドアス王国を救った聖剣!」
場内は「おーっ!」と観客達の声で響き渡る。
「これから、捕まえた人間に害をなす魔族達を一振で消して見せましょう!」
(は?!この場で?!
何を考えてるんだ?!勇者は…)
「すごいですわねー!勇者様のスキルを間近で見られるなんて!」
「うんうん!楽しみだね!」
「どんな技か見物っス!!」
幼馴染み達も、魔族が殺されるというのに何を言っているんだ?!
場内はより一層、声援で沸き上がる。
しばらくすると兵士達に連れてこられた魔族数名が手を縛られやってくる。
観客席の中には「早くやっちまえー!」等、魔族に対して罵声も聞こえる。
一人の魔族の男がルイスの前にやってくる。
「ふざけるな!!俺達は何もやっていないだろ?!何故、殺されなければいけない!」
「やめて!!何でもしますから!!」
と命乞いをする魔族もいる。
見ていられなくなった俺は幼馴染み達に…
「な、なぁ…。ここをでよう?」
「何言っているんですか?これから楽しいんじゃありませんか?」
「そうだねっ!勇者様のスキルが見られるんだからねっ!」
「ハロルドは気にならないっスか?!」
は?人が死ぬ事に何も思わないの?!
勇者ルイスの前に魔族が集まる…。中にはまだ10代くらいの女の子もいる…。
「それでは、皆様に俺のスキルを御披露目してあげましょう!!」
魔族達は一斉に命乞いをしたりする。
「や、やめろ!許してくれ!!」
「せ、せめて、この子だけでも!!」
母親らしき人が少女を庇うように言う。
「汚いんだよ。そういうのはいいから…」
ルイスは投げ捨てるような言葉を口にすると聖剣が光輝き一筋のオーラを放つ。魔族の母親は跡形もなく消滅する。
「いやぁ~~~!」
一人の魔族が女性の悲鳴とともに、巨大なオオカミの姿をした人狼へと変化して、ルイスに襲いかかる。人狼は風魔法を使い、辺りを強風の嵐を呼び出す。吹き飛ばされる観客もいたりもする。
その拍子に場内を照らしていたランタンの灯りが全て消える。幸い、オレは暗闇でも周りが見える体質だからどうと言うことはない…。
そしてオレは…
(助け出すならいましかない!!)
オレは暗がりの中を前へ前へと進む。
暗がりの中、魔族の悲鳴も聞こえたり、観客達も声援のコールが続く…。
ステージに来ると丁度、少女の姿があり、手を取り走ろうとするが、少女は震えていた…。
「大丈夫!俺が守るから!!」
俺は彼女と一緒に走り出そうとするが。前にルイスがいた。
「ハロルド?!どういうつもりだ?」
「せめて、この子だけでも助けてあげてくれないか?」
「ふんっ、好きにしろ。魔族には魔族がお似合いだからな」
「えっ!?」
こいつは、俺の正体に気付いている?
そう、俺は魔族だ。人間として暮らすために耳や角を隠して生活している…。
「ただ、助ければお前は今後、後悔する事になるぞ?」
「それでもいいさ…」
オレはそういうと、彼女の手を取りその場を走り去る……。




