73 騎士と恋人達との亀裂… その3
~ハロルド視点~
オレは少女の小さな手を強く引き、狂乱の渦と化したテントの暗闇を潜り抜けた。 背後からは、まだ観衆の歓声と、断末魔の悲鳴が混ざり合って聞こえてくる。吐き気がするほどの腐った熱気。 そこから逃れるように、オレたちは夜の帳が下りた屋外へと飛び出した。
冷たい夜風が、火照った頬を撫でる。 外に出ると、ちょうどオレを探していたのであろう、幼馴染みたちが待ち構えていた。 オレは荒い息を整え、少女の手を握り直して彼女たちに歩み寄る。
大丈夫だ。彼女たちなら、きっと分かってくれる。 昔から優しくて、道端で弱っている動物がいれば真っ先に助けるような子たちだったんだ。 魔族だって、角や耳を隠せば普通の人間と変わらない。話せば、きっと理解してくれるはずだ。
そう信じて、オレは口を開こうとした。 だが。
「は、ハロルド!? その子は!? ……何を考えてるのですか!? 貴方は!!」
幼馴染みの婚約者が、信じられないものを見るような目で叫んだ。その瞳には、かつての慈愛はなく、あるのは明確な「拒絶」だった。
「さっきあそこに居た魔族だね!! でもどうして!? その子、魔族だよね?! 汚らわしい敵だよね?!殺してしまえばよかったのに…」
その妹が、汚物を見るように少女を指差す。
「ハロルド! 勇者様の邪魔をしちゃったんスか!? それ、マジでやばくないっスか!? 私たちの立場も考えて欲しいっス!」
赤髪の姉妹の少女が、呆れたようにため息をつく。
3人はオレを囲み、否定的な言葉を投げつける。 どうしてだ?! 何故……? 目の前で震えているのは、ただの子供だぞ?
オレの隣で、魔族の少女がビクリと体を強張らせる。 黄色の髪が夜風に揺れ、透き通るような白い肌は、恐怖による冷や汗でびっしょりと濡れていた。 彼女はオレの手にしがみつき、ガタガタと震えている。殺される寸前だったのだ、怖くないはずがない。
オレは必死に言葉を紡ぐ。
「頼む、聞いてくれ! この子は何もしていない! ただの見世物として殺されそうになっていたんだ! 見捨てられるわけがないだろ!?」
しかし、幼馴染みは冷ややかな瞳でオレを一瞥しただけだった。
「……それよりも、その子をどうにかして頂けませんか? そんな魔族と一緒にいるところを目に映ると、私達まで『魔族の味方』だと批判されてしまいますわ」
「そうだね。勇者様の敵だもんね。ハロルド、頭冷やしなよ……怖いよ…ハロルド…」
「その方がいいッスよ!! 勇者様に逆らうなんて、バカを見るだけッス」
言葉が出なかった。 どうして分かってくれないんだろうか……。 勇者ルイスが現れてから、彼女たちの倫理観は根底から歪められてしまったようだ。 「魔族は悪」。その刷り込みが、彼女たちの優しさを塗りつぶしている。
絶望的な孤独感に押しつぶされそうになった時、誰かがそっと、オレの空いている方の手を握った。 実の妹だった。
「兄ちゃん……」
彼女だけは、悲痛な瞳でオレを見ていた。そして、握り返す手に力を込める。 そう……。オレ達兄妹は、魔族だからだ。 人間として生きるために正体を隠しているが、その血には抗えない。 (何故だ……。何故、こんなにも魔族……いや、ソロモン族は軽視され、排除されなければいけないんだ……)
悔しさと悲しみで、視界が滲む。 その時、沈黙を破ったのは、助け出した少女だった。
「あ、あの……」
少女が消え入りそうな声で口を開く。
「……私を、ここに置いていってくれませんでしょうか?」
「なっ……!?」
少女は、オレと恋人たちの間に流れる険悪な空気を感じ取ったのだろう。 涙を溜めた瞳で、オレを見上げた。
「私のせいで、貴方様が困るのは……申し訳ないです。助けていただいただけで、十分ですから……」
その健気な言葉が、オレの胸を締め付けた。 ここで見捨てれば、オレは「こちら側」に戻れるかもしれない。 だが、それはオレの魂を殺すことと同じだ。
「何を言う! また勇者に見つかったら……今度は間違いなく、君が殺されるんだぞ! そんなこと、できるわけがない!」
オレが強く叫ぶと、幼馴染みたちは興味を失ったように肩を竦めた。
「はぁ……。そうですか」
「まぁ、貴方の好きにしたら……。私達は知りませんからね」
「あとで勇者様に怒られても、庇わないッスからね」
投げやりの言葉が返ってきた。 それは、「別れ」の言葉よりも冷たく、オレたちの心の断絶を決定づける響きだった。
彼女たちはオレに背を向け、サーカス小屋の方へと歩き出した。 オレは、取り残された闇の中で、少女の震える手を痛いほど強く握りしめた。
………。
……。
…。
少女をどうにかするため、オレや妹の事を良く知る魔族に対して偏見がない信頼できる知り合いがいるから、その人に預ける。
少女の母親が目の前で殺されたせいか彼女はガタガタとずっと震えている…。生憎、妹と年が近そうだったから、今晩は妹を付き添わせる事にした…。
辺りはすっかりと暗く、オレは急ぎ足で自分の家へと戻る…。ただ何か嫌な予感を感じさせながら…。
自宅へつくと、いつもはリビングの灯りがついているはずの時間だが…。リビングの灯りがついていない…。部屋に入ると誰も居ない。あれから帰ってきている気配がしない。
(まだ帰ってきてないのかな…?もしかするとエルフの家にいるのかな?)
オレはそう思い、エルフの自宅へと足を運ぶ…。
エルフの自宅の側まで行くと皆の声がした。エルフの自宅の周りは他に家が無く人気も少ないため、虫の音や、カエルがゲコゲコ鳴く音がよく聞こえるため、普通の会話でも外にもれるくらい響く。オレはエルフの自宅のドアノブに手を触れ…。
「ただい…」
ただいま。と言いかけた時、とある男の声がエルフの自宅の中から聞こえた…。
(ルイスだ!何故ここに!?)
オレは入るのを躊躇い、ドアノブに手をかけたまま。しかし、この時、すぐに入るべきだった…。何故そう思ったのかというと…。
「まだハロルドとはヤってないのか?恋人同士なのに?」
(やってない?何をだ!?)
「えぇ…。あの方は奥手ですからね…」
「一回でもいいからやってみたいね!」
「勇者様は毎日色んな人とヤっているんスよね!?」
(何の会話をしている?)
オレはドアノブを掴む手が徐々に汗ばんできて、動悸が激しくなりだす…。
「なら、俺が君達の初めてをもらっちゃおうかな?」
「えぇ~?!ですが、私にはハロルドがいますよ?」
「実はな?俺には看破のスキルもあるんだ。残念だけど、君達の大好きな彼とその妹の正体は魔族だ…」
(あいつ!?俺が魔族だと知っていやがったのか!?)
「じ、冗談ッスよね!?ハロルドには角もないし耳だって普通のヒューマン族と変わらないじゃないッスか!?」
「あれは偽装の魔法で誤魔化してるだけだよ」
「そ、そんな!?私達はハロルドに騙されていたわけですか!?」
「そーゆこと!なんなら今度ハロルドが来たら偽装解除の魔法使って元の姿にもどしてみようか?」
あいつらはオレという一人の人間じゃなく一人のヒューマンとして見ていたのか…。オレは絶望した。ずっと信じていた彼女達だった。いつか魔族だと告げた時、彼女達に理解してもらえると思っていただけに尚更…。
「だから、あんなヤツ忘れなよ?俺が愛してあげるよ?君たちの初が勇者だって自慢もできるよ?」
(あ、あいつ!!俺の恋人達に!!)
彼女達がすんなりと断ってくれる。そう信じていたのだが…。現実はこうだ…。
「私達みたいな者が勇者様と!?貴方の妻の一人となれるなら……。その権力を一緒につかえるなら…」
「うん…ずっと守って貰えるなら……!!英雄にエッチな事教えてもらいたい!」
「私もいいんッスか!?エルフの王女様とももうやったんスよね?そんな私が!?勇者様の正義を私にも見せてほしいッス!!」
そう…。これが現実だ…。でもまだ信じているオレがここにいた…。でももう手遅れだった…。
「んっ…!あぁ…。気持ちいい…」
「な、なんなのこれ!一人でするよりいいね…」
「耳かじったらヤバいっす!!きちゃうッス!!」
一瞬だった…。俺は身動きができず硬直してしまっている…。更に数分が過ぎ…。
「ほら、もっと開いて…」
「い、痛いですわ…。優しく…優しく…」
更に時間が過ぎ…。
「お姉ちゃんばかりじゃなくそろそろ私も…ねっ?」
「焦るなよ… ほら…」
「ああああっ… んぁっ!怖い……、い、痛いけど…」
「き、気持ちいいッスよ~!」
3人が代わる代わるヤツに犯される…。俺は微動だできなかったが、急に何かが弾けとんだ。勇者?なんだそれ。ちやほやされて、魔族だからというだけのために罪もない人を殺す。挙げ句の果てに人の恋人達すらも寝取る最低なクズじゃないか!!
(勇者ルイスっっっっ!許さない!!!)
バンッ!
俺は苛立ちが頂点に達して、エルフの家のドアノブに手を取り、勢いよくドアを開ける。中に入ると、リビングで行為に及んでいる4人の姿があり、全員がびっくりした表情でこちらを見ていた。見れば勇者がエルフに覆いかぶさり行為に及んでいる最中だった。
「は、ハロルド!!何故今になってくるのですか!?」
「ち、違うんよ。これはね?」
「んぁ… 気持ちいいッスよ…。でもやばいッス
…勇者様…は、はやく。不味いッス…。んぁっ!あっ!」
それでもルイスは行為をやめない…。まるでオレが来たのを無視するかのように腰を降り続けて、赤髪の少女の喘ぎ声がこだまする…




