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71 騎士と恋人達との亀裂… その1


 ~ハロルド視点~


 勇者が来てから1ヶ月くらいが経った。勇者はあれからこの小さな国で滞在している。度々、魔族の人間が連れられてくる。連れてこられた魔族はその後、姿を見せる事なく消えているらしい。

中には無抵抗の魔族もいる。


 (また、魔族狩か…)


 そんな時、はじめて勇者…。ルイスがオレに話しかけてきた…。


 「騎士さん?あんた、ハロルドって名前の人でしょ?次の攻略はあんた達の部隊って聞いたからさ。まぁ、宜しくな~」


 「ああ!こちらも宜しく!」


 彼は握手をしようと左手を差し出してくる。オレも左手を出してしまい、慌てて右手を出し握手をする。


 「そういえば、あんたはホレー通りに住んでるのか?」


 「ん?なぜ知ってる?」


 ルイスは不気味な笑みを浮かべる。


 「特に深い意味はないさ。この間、歩いていたらたまたまアンタの姿を見たからさ?一緒に居たのはあんたの恋人?」


 「そうだけど…?」


 「可愛い恋人だね~。守ってあげないと!」


 「ああ!!だな!」


 そういえば、勇者ってかなりの女ったらしだったよな…。俺は幼馴染み達の顔を思い浮かべる…。


 「じゃあ、次の攻略の時にまたな~」


 そういうとルイスはオレの肩に手をポンッと載せ、オレの顔を近づけて耳元で


 「せいぜい、俺の足だけは引っ張るなよ…」


 …ッツ!? 何言ってるんだこいつは!!


 「当たり前だっ!」


 「フッ…」


 鼻で彼は笑う。バカにしているのか?本当にいちいち堪に触る人だ…。そういうと、こちらを振り向きもせず出ていく勇者様。イライラしてくる。




………。

……。

…。




 それからも、彼女達と幸せな日々を何日か送って…。更に数週間が経った。俺達は王様の命の元、魔族が逃げたとされる洞窟へと来ている。オレとルイス。黒魔道士の幼馴染みと、格闘家の幼馴染みの妹、プリーストのハイエルフの少女と共に向かう。


 「ルイス様?今日は聖剣は持ってないんですかね?」


 「あぁ。聖剣は本当の巨大な敵を倒す時しか使わないから普段は持ち歩かないんだ。」


 幼馴染みの妹に聞かれて、そう答えるルイス。


 「婚約者がたくさん居ると聞きましたが、本当なのですか?」


 「うん。君とハロルドみたいに小さい頃から一緒に居た幼馴染みや旅の途中で出会った大聖女とも恋人同士だ」


 「幼馴染みと結ばれるのは、やっぱりいいですわね~」


 そういえば、勇者は大聖女とも偶然であって一緒に戦ってきたって言ってたよな…。でもこんなやつのどこがいいのか…。性格がやばいだろ?


 「エルフの国の王女様とは、どうやって知り合ったんスか?」


 「んっ? あぁ~…えっと……。困っていたみたいだったから助けたんだ。それも偶然だな」


 「勇者様はなんか縁がありすぎでスゴいっスね…!」


 「ははは!だろ?」


 そう言うと、ルイスはエルフと幼馴染みの妹の二人の肩くみをする。


 「お、おい!」


 オレは咄嗟に声が出てしまう。


 「なんだ?なんかあったか?」


 エルフも幼馴染みの妹もきょとーんとしたかおでこっちを見る。


 「あれ?ハロルド~もしかして妬いているのかね~?」


 「勇者様に肩組みされちゃったっス!これは自慢になるっス!!」


 オレは無言で前を進み始めた…。ルイスに彼女達を合わせたくなかった…。こうなるのはなんとなく予想していたからだ…。いや王様の命令だから仕方ないんだけどさ…。


 そして、奥へと進むと、暗がりの中、エルフのライトボールの明かりの中進んでいくと…、ぼんやりとした人影が見えた。


 「ほう…み~つけた…」


 ルイスがボソッと独り言のように言葉を発すると、奥の方には一人の角が生えた少女がオレ達の姿を見て怯え震えているている。


 (あぁ…魔族の子か…、でもなんでここに!?)


 幼馴染みが近付こうとすると…。


 「君。行くのはよせ…」


 「えっ!?ですが…」


 ルイスは幼馴染みが泣いている少女に近付こうとすると静止させる。


 「魔族はああやって、人間を誑かし、同情させようとして信じこませてから襲ってくる厄介なモンスターなんだ」


 「そ、そうなんですか!?あ、危なかったでした…」


 「だから…。こうしてね!っと!」


 ルイスは腰にぶら下げている剣を抜き…。


 「お、おい!やめ…!!」


 バシュッ!! 


 オレが言葉を発する前に、ルイスは少女を斬ってしまう…。


 泣いている少女の体が真っ二つに割れる…。


 「襲ってくる前に倒しておかねばな…」


 「あ、あれは本当に魔族なんスか?!」


 エルフは驚き目をクリクリさせている。


 「ああ!ミミックって聞いた事があるだろ?」


 「はい。おとぎ話とかによく出てくるあれね?!」

  

 いや、魔族でそんなの聞いた事がない!何言ってるんだ?!こいつ!


 「ああ。それと一緒と思ってくれた方がいい」


 ルイスは何事もなかったように剣を鞘に戻す。一瞬だったが、その剣が青く光ったように見えた…。


 そしてすぐに…。


 「め、メリッサ!?メリッサ!!!おい!!!メリッサあああああああ!!」


 「い、いやあああああああっ!貴方達っ!!なんて事を!?ばけもの~~っ!!私の娘を返せっ!!」


 その奥から現れるのは、その少女の両親であろうか…。


 姿が変わっていく…。一人は巨大な角の生えた悪魔に見える男。 もう一人は背中から羽根が生えたサキュバスだった…。


 「ふん。正体を表したか…。魔物め!」


 二人の魔族はルイスに突撃しようと向かってくる。


 「こっちに向かってきます!!」


 幼馴染みはスパークの魔法を詠唱し、瞬時に放つ。


 「よくも娘をっ!!」


 父親が幼馴染みに向かって突撃してくる。オレは無意識のうちに幼馴染みの前にでるが…。


 「邪魔するなぁっ!!」


 ルイスの叫びと共に顔面に強い衝撃を受ける。


 「ぐはっ!!」


 オレは顔面に強打を受け吹き飛ばされてしまう…。


 ルイスはそれから何事も無かったかのようにその父親を殴り付ける。父親はそのまま転がり、壁に激突する…。


 「あ、アナタ!! 許せないよ!あんた達!!」

 

 サキュバスは詠唱を唱え始めるが…、幼馴染み妹の蹴りをモロにくらう。その隙にプリーストがルイスに強化魔法のバフを付与…。

 そのままルイスはサキュバスに突っ込み…。その腰にぶら下げている剣を抜き、サキュバスの胴体を目掛けて大きくスイングする…。


 サキュバスはそのまま真っ二つに胴体が分かれて息を引き取った…。

 そのままルイスは、まだ息をしている少女の父親の元へと向かう。まだ彼はかろうじて生きているみたいだ…。


 「お、お前達…。なんで、なんで静かに暮らしていただけなのに… なぜなんだ!何故俺達がこんな仕打ちを受けなければならない!!」


 「黙れ。俺の剣の餌となれっ!」


 「や、やめろっ!!既に彼は無抵抗だ!!もう十分だろ!?」

 

 「だから、うるさいっつーの…」


 ドガッ!!


 「ちょっとハロルド!勇者様の邪魔はだめですわ!!」


 「今のはないッスよ!?勇者様に謝った方が…」


 「勇者様…。かっこいいね…」


 オレはまたルイスの拳を顔面にモロくらい強打する…。鼻を押さえると…生暖かいものが鼻から垂れている…。よく見れば血…。


 そしてルイスはまた、何事もなかったように…少女の父親の頭に剣を突き刺した…。


 勇者ルイスと俺の彼女は任務が無事達成できたからか嬉しそうにダンジョンの入り口へと向かう。オレはただ一人、そいつらの後ろをトボトボと付いていった…。


 

 

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