69 未来へ進め! ~第 1 章 完~
空を覆っていた分厚い暗雲が散り、東の地平線から黄金色の朝日が差し込み始めた。 元凶たるホーエンとラグナロクが消滅したことで、残されたモンスターの群れは完全に統率を失っていた。 かつては殺意の塊だったそれらは、今やただ怯え、立ち尽くすだけの烏合の衆と化している。
「……終わりだ。これで、全てが終わる」
こちら側の勝利は、誰の目にも明らかだった。 俺は聖剣を振るう。だが、そこには以前のような焦りも、憎しみも混じっていない。 なぜなら、背中を預けられる「彼女たち」が、本当の意味で帰ってきたからだ。
「ルイス! 右は私が!」 「兄貴の背中は、ボクが守るぜ!」 「お兄様……。援護します……!」
クリステル、シュー、エアロ。 一度は命を落としたが、奇跡の秘術『血の複製』により、身も心も一年前のあの日に還った三人が、俺の周囲を舞う。 その動きに、澱みは一切ない。 アレックスに汚される前。俺たちが互いを一番に信頼し合い、サプライズパーティーで笑い合った、あの輝かしい日々の関係性が、戦場という極限状態で完全に再現されていた。 交わす視線だけで意図が伝わる。呼吸が合う。 かつて俺の心を蝕んでいた疑心暗鬼の霧は晴れ、今はただ、純粋な信頼の絆だけが剣に力を与えていた。
そして、頼もしいのは彼女たちだけではない。
「ふん、雑魚が群れたところで、竜の息吹の前には塵に等しいわ!」
戦場を銀色の閃光が駆ける。 俺を育ててくれた父、魔王アスガルドの親友の娘――竜神バハムートだ。 その幼い容姿からは想像もつかないほどの圧倒的な魔力。彼女が小さく指を振るうだけで、空間が歪み、モンスターたちが弾け飛ぶ。まさに神の如き力。
「母上から託されたこの力……。正しきことに使うのじゃああああ!!」
スルトもまた、戦場を翔けていた。 実の母ユミルから正式に継承した『黒の王権』。 かつては暴走を恐れていたその漆黒のオーラを、今の彼女は完全に制御し、仲間を守る盾とし、敵を砕く矛として使いこなしている。その姿は、幼き魔王としての風格さえ漂わせていた。
さらに、視線の先では幼き双子も奮闘している。
「いくよ、ケアル!」
「うん、フレアお姉ちゃん!」
フレアとケアルが手を取り合い、魔力を共鳴させる。 二人の周囲に、赤と緑の光の螺旋が生まれた。
「「合成魔法【ふたりがけ・ツイン・フラワー】!!」」
放たれたのは、炎と癒やしの光が織りなす、巨大な花のような魔法。 その光景は、戦場には似つかわしくないほど可愛らしく、そして息を呑むほどに美しかった。 だが威力は絶大だ。花びらが舞うたびに敵が浄化され、吹き飛んでいく。
残党狩りは、掃討戦というよりも、もはや俺たちの新たな門出を祝う舞踏会のようだった。
やがて、最後のモンスターが倒れ、静寂が訪れる。 勝ったのだ。
「あ、兄貴~っ!!」
剣を納めた俺の腕に、温かい感触が飛び込んできた。 シューだ。彼女は俺の腕をギュッと掴み、頬を擦り寄せてくる。その体温が、彼女が生きている何よりの証。
「へへっ……。なんかさ、まだボク、夢見てるみたいだぜ! 目が覚めたら、またあの地獄に戻ってるんじゃないかって……少しだけ怖いんだ」
シューが震える声で呟く。俺は彼女の頭に手を置き、優しく撫でた。
「夢じゃないよ。これは現実だ。奇跡ってのは……すげぇな」
「うん……うんっ! 兄貴の手、あったかいや……」
シューが涙ぐみながら、満面の笑みを浮かべる。
「皆さん……本当に、良かった……」
その様子を見ていたヒナルが、安堵のため息と共に目を潤ませていた。 今回の奇跡の立役者。俺の最愛の妹。
「ヒナル様のお陰でもありますわ……。貴女がいなければ、私達は……。本当に、ありがとうございました!」
クリステルが歩み寄り、ヒナルの手を取って深々と頭を下げる。 聖女としての威厳を持ちながらも、その声は感謝に震えていた。
「ふふふ……本当ですわ……。お兄ちゃんを信じてくれて、ありがとうございます……」
「ヒナル様……!」
「でも、本当に良かったです! おかえりなさい、クリステルさん!」
ヒナルは感極まって、クリステルに抱きついた。 聖女と大聖女。光に愛された二人の少女が抱き合う姿は、まるで一枚の宗教画のように神秘的で、周囲の空気を浄化していくようだ。
ヒナルは、クリステルの耳元で、いたずらっぽく、でも真剣な声で囁いた。
「それに……クリステルさんの『お兄ちゃんを大好き』な恋心も、お兄ちゃんに伝わって本当に良かったですけど……」
「えっ……///」
クリステルが頬を染める。
「次はクリステルさんの番だね! あの一年分の空白、埋めなきゃですよ?」
ヒナルがウインクをする。 クリステルは、真っ赤になった顔で、チラリとこちらを見た。その瞳には、一年前と変わらない、いや、それ以上に熱っぽい色が宿っている。
「……ルイスが……許してくれるなら……。私、もう二度と遠慮なんてしませんわ。これからの人生全てを掛けて……彼に愛を注ぎますもの……」
「ふふっ、強敵ですね! でも、負けませんよ?」
二人の少女は顔を見合わせ、花が咲くように美しく微笑み合った。 平和な風が、俺たちの間を吹き抜けていった。
………。
……。
…。
「うっし! こっちは綺麗サッパリ片付いたぞぉぉぉッ!」
「こっちもだ! 一匹残らず駆逐完了だぜ!」
「こちらも完了です。弓部隊!!安全確保を~~~~っ!!」
瓦礫の山となった戦場に、底抜けに明るく、頼もしい声が響き渡った。 血と汗にまみれながらも、清々しい笑顔で親指を立てるのは、メルドアの街が誇るギルドマスター・アドバンさんと、凄腕冒険者のガッシュさん、弓使いのティムだ。 あれから、俺達は残存していたモンスターの群れを掃討し、王都を覆っていた脅威を完全に排除することに成功したのだ。
戦いの終わりを告げる風が吹き抜け、朝陽が俺たちの勝利を祝福するように降り注ぐ。
「さすがは勇者様だぜ! お前、本当にすげぇ男になったなぁ!」
「おいおい! 最後のあのスキル、マジでやばくねぇか!? 空が割れたぞ、空が! はははっ!」
「これは歴史に残る瞬間ですね……」
アドバンさんが、丸太のような太い腕で俺の首をヘッドロック気味に抱え込むと、そのままゴリゴリと力強く頭を撫で回してきた。 痛い。正直、かなり痛い。でも、その痛みの中に込められた、父親のような、兄のような、無骨な愛情と誇らしさが伝わってきて、胸が熱くなる。
「いてて……! ちょ、アドバンさん! 首が折れますって! ……ははは……。なんもだよ! みんなのおかげさ!」
俺が照れくさそうに笑い返すと、周囲から柔らかな笑い声がさざ波のように広がった。
その光景を見て、ヒナルが、コタースが、スルトが。 王都防衛を指揮していたミランダとフィリシアが。 そして……奇跡の帰還を果たしたクリステル、シュー、エアロが、涙を拭って心からの笑顔を向けてくれている。 さらに、その後ろでは、俺を育ててくれた母さん――ユミルが、愛しい我が子を見守る聖母のような優しい眼差しで微笑んでくれていた。
(ああ……。守れたんだ。この笑顔を、この日常を……)
こみ上げる安堵感に浸っていると、俺の頭を離したアドバンさんが、ふと足元に視線を落とした。 そこには、黒髪の幼女――バハムートが、腕組みをして堂々と立っていた。
「ん? なんだぁ? 見ねぇ顔だな。……なんか、とんでもなく強そうな魔法を使ってた新しいチビッ子もすげぇなぁ!?」
アドバンさんは、屈み込んでバハムートの顔を覗き込み、ニカっと笑った。
「その年で戦場に出るとは、大した度胸だ! お前、将来有望な冒険者になれるんじゃねぇか?! どうだ、俺のギルドに入らねぇか?」
天下のギルドマスターからのスカウト。普通の子供なら大喜びする場面だ。 だが、相手が悪かった。 バハムートは、不機嫌そうに眉をひそめると、その透き通るような銀色の瞳でアドバンさんを見上げ、フンと鼻を鳴らした。
「……たわけが。誰が『チビッ子』じゃ。口を慎め、人の子よ」
「あぁん?」
「世は『竜神』なるぞ。姿こそ仮初めの幼子なれど、生きた年月で言えば、お主達の曾祖父の曾祖父よりも、さらに遥か上だぞ? 年季が違うわ」
「へっ……!?」
アドバンさんとガッシュさんが、ポカンと口を開けて固まる。 バハムートは、その小さな胸をえっへんと張り、銀髪をファサッと手で払いながら宣言した。
「うむ。世こそは、アスガルド王の盟友にして、天空を統べる『竜神バハムート』である。世をなめるでないぞ? この筋肉ダルマめ」
「バ、バハムートぉぉぉッ!!? あ、あの伝説の!?」
アドバンさんの目が飛び出さんばかりに見開かれる。 無理もない。神話に出てくるような存在が、こんな愛らしい幼女の姿で、しかも上から目線で説教をしてくるのだから。
その反応にご満悦なのか、バハムートは何故かニヤリと口角を上げている。 能面のように整った美少女の顔立ちで、表情こそ分かりづらいが……。 その瞳の奥は、「ふふん、どうじゃ。恐れ入ったか」と言わんばかりの、完璧な『ドヤ顔』で輝いていた。
そのあまりのギャップに、俺たちは顔を見合わせ、たまらず吹き出した。 戦いの傷跡が残る王都に、勝利の凱歌よりも高らかな、みんなの明るい笑い声がいつまでも響き渡った。
………。
……。
…。
ご提示いただいた、破天荒な王様との謁見シーンと、仲間たちからの祝福。 この場面を、王様の豪快なキャラクターとルイスの困惑、そして仲間たちの温かさを、ユーモアと感動を交えて大ボリュームで書き直しました。
第九十九章:王の間で暴かれる素顔、栄誉騎士の称号と影の絆
~ルイス(レイジ)視点~
あの激闘から数日。 王都の復興作業や怪我人の治療、事後処理などで、俺達は目の回るような忙しさに追われていた。 そんな中、王城から緊急の招集がかかった。 「勇者ルイスとその一行は、速やかに謁見の間へ参内せよ」との通達だ。
俺達は正装に着替え、緊張した面持ちで王城の長い廊下を歩き、巨大な扉の前に立った。 重厚な扉がゆっくりと開き、煌びやかなシャンデリアと赤い絨毯が敷かれた謁見の間が現れる。 玉座には、威厳に満ちた表情で鎮座する国王陛下。 周囲には近衛騎士や大臣たちがズラリと並び、張り詰めた空気が支配している。
「……勇者ルイス、並びにその仲間たちよ。面を上げよ」
重々しい声が響く。 俺達が跪き、顔を上げようとしたその時だった。 王様が、周囲の家臣たちに手を振って合図を送った。
「お前ら、下がっていいぞ。人払いだ」
家臣たちが一礼して退室し、重い扉が閉まる音と共に、部屋には俺達と王様だけが残された。 すると、王様は玉座の上で大きく背伸びをし、王冠を雑に横の台へ置いた。
「あー、もうめんどくせぇ! 肩が凝ってしょうがねぇな! ……おいルイス! ここからは『素』でいいよな?!」
王様は足を組み替え、頬杖をついてニカっと笑った。 その豹変ぶりに、俺は目を白黒させる。
「あ、はい……。構いませんが……」
「いやいや、だから敬語はいらねぇよ! 堅苦しいのはナシだ! はははっ!」
「あ、ああ! 分かったよ!」
相変わらず、公務モード(仕事)とプライベート(素)のギャップが凄まじい王様だ……。 だが、そんな飾らない王様だからこそ、俺は好感が持てる。 この国が統治する街や村に、魔族への差別意識がほとんどなく、誰もが平等に暮らせているのは、間違いなくこの柔軟な思考を持つ王様が仕切っていたからだろう。
「んでな? 今日呼んだのは他でもねぇ。ルイス、お前への褒美の話だ」
王様は身を乗り出し、真剣な眼差しで俺を見た。
「今回の王都防衛戦、そして魔神討伐……。お前の働きは、まさに伝説級だ。そこでだ。ルイス、お前には『勇者』の称号だけでなく、我が国最高の栄誉である『栄誉騎士』としての称号も与えたいんだがな? 受け取ってくれねぇか?」
「え、えええっ!? え、栄誉騎士だって!?」
俺は驚愕で声を裏返した。 この国の『栄誉騎士』とは、単なる名誉職ではない。実質的に『辺境伯』クラスの地位と権力を持ち、広大な領地と私兵を持つことすら許される、貴族の中でも最上位に近い特権階級だ。
俺が絶句していると、横にいたコタースがぴょんっと飛び跳ねた。
「うわ~っ! ルイス~っ! すごいすごい~っ! 大出世だね~っ! これでウチも、貴族のお嫁さんだ~っ! 玉の輿~っ!」
コタースが俺の腕に抱きつき、はしゃぎ回る。 俺は心の中で即座にツッコミを入れた。 (いや、コタース……。あんたは一国の『お姫様』だろ! すでに貴族以上の身分じゃないか!)
俺が戸惑っていると、王様が玉座から立ち上がり、ドスドスと階段を降りて俺の目の前に仁王立ちした。 その顔には、悪戯っ子のような、それでいて決して拒否権を与えないような、凄みのある笑みが浮かんでいる。
「まさか~、受け取るのはイヤだって言わんだろーな? あぁっ!?」
王様が顔を近づけ、ギロリと睨みを利かせる。 その威圧感は、一国の主というよりは……。 (やっぱこの王様……どう見ても『山賊の親分』か『盗賊のボス』だろ!?)
俺は苦笑いしながら、その厚意を受け取ることにした。
「……分かったよ。そこまで言われたら断れないな。ありがたく、受け取らせてもらうよ」
「ガハハハハ! そう来なくっちゃな! いい返事だ!」
王様は俺の背中をバシバシと叩き、豪快に笑った。 そして、ふと表情を和らげ、俺の肩に手を置いた。
「何せルイスは、この国を救った本物の英雄だ……。だがな、勘違いするなよ? 俺がお前にこの地位を与えるのは、単にお前が勇者で、強いからってだけじゃない」
王様の瞳から、ふざけた色が消え、真摯な光が宿る。
「お前と話していると、身分の差とか、国のしがらみとか……そういうちっぽけな事を忘れられるくらいに、お前が『いい友人』だからだ! 俺は、お前という人間そのものを買ってるんだよ」
その言葉は、どんな勲章よりも俺の胸に響いた。 王様としてではなく、一人の男として、俺を認めてくれている。
「……ありがとう。俺も、あんたの友人になれて光栄だよ」
俺たちが男同士の握手を交わしていると、後ろで控えていた神牙流の面々が、嬉しそうに声を上げてくれた。
「さすがはルイス殿でござるな! 拙者も鼻が高いでござるよ!」
仁さんが、腕組みをして深く頷く。
「全くだ! 俺も一仲間として嬉しいぞ! ルイスなら、きっといい領主になれるぜ!」
ルシルさんが、自分のことのように喜んでくれる。
「んっまっ!! おめでとうルイスちゃん! お屋敷が貰えたら、今度アタシが腕によりをかけて、精のつく美味しいご飯を作りいくわぁ~! 夜のお世話も任せていいのよんっ?」
ファデューさんが、扇子で口元を隠しながら、妖艶なウインクを飛ばしてくる。
仁さんも、ルシルさんも、ファデューさんも……。 あの激戦を生き延び、こうして俺の成功を心から祝ってくれている。 俺は改めて、周囲を見渡した。 王様、コタース、神牙流のみんな、そしてヒナルやクリステルたち。 (本当に……俺はいい仲間に巡り合えたな……)
栄誉騎士という称号の重みよりも、この仲間たちとの絆の重みの方が、俺にとっては遥かに価値のある宝物のように感じられた。 謁見の間は、堅苦しい儀式の場から、温かい祝福と笑い声に包まれた空間へと変わっていた。
………。
……。
…。
ご提示いただいたエピローグのあらすじを基に、物語の締めくくりにふさわしい、温かく、そして未来への希望に満ちた感動的な大団円として、文字数制限ぎりぎりの大ボリュームで書き直しました。
最終話:英雄たちの帰還、愛しき喧騒と始まりの地へ
~ルイス(レイジ)視点~
季節は巡る。 世界を絶望の淵に陥れた魔神ホーエンの襲来から、早四ヶ月。 戦火の傷跡が残る王都にも、穏やかな復興の槌音が響き、人々は笑顔を取り戻しつつあった。
そして今日、俺たちは新たな一歩を踏み出す。 俺の勇者としての功績、そして栄誉騎士としての地位に対し、王様から領地として「とある小さな村」を賜ったのだ。 王都からはさほど離れていない、豊かな森と清流に囲まれた美しい場所。 そこが、俺たちの新しい「家」になる。
もちろん、行くのは俺ひとりではない。 荷馬車の車輪が軋む音と共に、愛すべき仲間たちの賑やかな声が、青空に吸い込まれていく。
「えへへ、お兄ちゃん~! 行くよ~!! 私を置いていかないでね? なんたって『正妻』は、この私なんだからね!」
春の日差しを浴びて銀髪を輝かせ、先頭を駆けてくるのはヒナル。 俺の最愛の妹であり、運命の少女。 あの日、偶然出会った彼女の笑顔がなければ、俺は過去に囚われたまま腐っていたかもしれない。俺が俺でいられるのは、この愛するヒナルが居てくれたからだ。
「もぉ~っ! ルイス~っ!! はやく~っ! ウチ~っ、待ちくたびれちゃうよ~っ……!」
荷馬車の上で長い耳を揺らしているのは、コタース。 おっとりとした口調とは裏腹に、戦いでは誰よりも機転を利かせてくれた頼れる相棒。 まさか、ラビット族の『お姫様』だったとは……。この奔放な姫君が村に来てくれるなんて、ラビット族の国も安泰なのか心配になるが、彼女がいるだけで周囲が明るくなる。
「あ! 待つのじゃ! 我の荷物、まだこれだけじゃ足りないのじゃ! ルイス! いや、愛する『義理の弟』よ! 少し待つのじゃ!」
自分の背丈よりも巨大な風呂敷包みを背負ってよろめいているのは、スルト。 伝説の魔王であり、俺の育ての親の娘。つまり戸籍上は義理の姉さんになるわけだが……。 (……姉さんに見えるのは中身だけにしておこう……。だって見るからに、可愛すぎる『のじゃロリ』なんだもん……)
「ふふ、ルイス君? そんなに荷物を持って大丈夫? これ、私が持つよ? はい!」
重い荷物を軽々と受け取って微笑むのは、ミランダ。 彼女が14歳の頃、初めてできた女友達であり、大切な婚約者の一人。 俺が勇者の力を失っても、約束を信じてずっと待っていてくれた健気な人。 これからは、俺が彼女を支え、幸せにする番だ。
「る、ルイス! 待ってくれ! 後から私も必ず行く!! エルフ国の再建がもうすぐ一段落するから……先に行って待っててくれ!」
遠くから手を振るのは、フィリシア。エルフ国のお姫様。 王国の再建で多忙を極めていたが、ここ最近は無理を作ってでも俺に会いに来てくれるようになった。 一緒に城下町で食べ歩きデートをした時の、彼女の幸せそうな顔が忘れられない。待ってるよ、フィリシア。
「……勘違いしないでよね! アンタと一緒に行くのは、クロがいるから! いい!? 子猫のクロが懐いてるから仕方なくついて行くだけで、アンタと一緒がいい! ……なんて、思ってないんだからね!」
「にゃーん!」
顔を真っ赤にして早口でまくし立てるのは、ケアル。 腕に抱かれた黒猫のクロが、同意するように鳴く。 ツンツンしているかと思えば、最近は急にデレて甘えてくることもあり、そのギャップに心臓が持たない。 この間なんて、俺が入浴中にわざとらしく裸で乱入してきたし……本当に油断ならない子だ。
「……姉さん。顔が赤いです。嘘ばかり……です。でも、ルイス兄さんと私の方が……相性はいいはずです」
ボソリと呟くのは、双子の姉のフレア。 無表情だが、その瞳は雄弁に愛を語っている。姉妹での静かなる恋のバトルは、どうやら村についても続きそうだ。
「まぁまぁ、皆さん……。そんなに取り合っては、ルイスが困ってしまいますわ! はい! 喧嘩しないように一列に並んでくださいね?」
パンパンと手を叩いて場を仕切るのは、クリステル。 色々あったけれど、俺の初恋の人であり、今は頼れる聖女様。 最近、何故かヒナルが俺とクリステルをくっつけようと画策しているのだが……クリステルも満更でもない顔をするから、俺はどう反応していいか分からない。でも、その笑顔が見られるだけで幸せだ。
「兄貴~! 今日から村の家で一緒に寝よーぜ!! へ、変な事なんて考えてねーよ!! ボ、ボクの初めてをあげたいなんて……おっ、おもってねーし! ただの添い寝だし!」
真っ赤になって叫んでいるのは、シュー。 あの日から少し距離を置いていたが、最近は堰を切ったように甘えてくるようになった。 一昨日、俺のベッドの下に隠してあった『大人の本』を見つけられ、顔を真っ赤にして大騒ぎしたばかりだ。中身は乙女なんだよな、あいつ。
「……お姉様。お兄様とは昨日、お風呂に入ったじゃありませんか! 今日は私の番ですからね!」
シューを牽制するのは、双子の妹のエアロ。 あんな悲劇があったのが嘘みたいに、元気で、そして少しだけ独占欲が強くなった。 『ルイス兄様に初を捧げるのはシューじゃなく私からです!』と、夜な夜なシューに宣戦布告しているらしい。……全部筒抜けだぞ、エアロ。
前から見れば、随分と大所帯で、かなり賑やかになった。 耳が痛くなるほどの喧騒。 けれど、この騒がしさこそが、俺が守りたかった「平和」の音色だ。 誰一人欠けることなく、皆で笑い合える。これ以上の幸せがどこにあるだろうか。 皆の事が大事だし、これからも俺の命を懸けて守っていきたい……最高の仲間たちだ!
そして――。
「ルイス殿! 拙者も途中まで荷物を運ぶ手伝いをするでござる! 決して……娘同然のケアルやフレア達が嫁に行くのが不安でついて行くわけではないでござるからな!! 勘違いするなよ!」
大量の荷物を背負った仁さんが、顔を背けながらついてくる。不器用な優しさに、俺は苦笑した。
「みんな……行こう! 俺たちの新しい家に!」
「「「おーっ!!」」」
重なる声が、風に乗って遠くまで響く。 過去の痛みも、涙も、全てを糧にして。 俺達は、輝く未来が待つ自分たちの村へと、力強く歩き進むのだった……。
――英雄たちの物語は、ここで一旦の幕を閉じる。だが、彼らの幸せな日常は、これからもずっと続いていくのだ。
~~~~~~ 第1章 終幕 ~~~~~~
ここまで読んで頂きありがとうこざいます。ここで1章は終わりですが、第2章から、とある青年とルイス(の偽物)が絡んでくる話になります。新しいヒロインも増えていきます。見所は、青年の恋人達がルイス(の偽物)に寝取られてしまいます…。更には周りからも迫害されていった青年はルイスが全てを奪ったと勘違いしてい敵対していくような話になっていきます。
他の見所はアレックスに初を奪われる前の姿になって戻ってきたクリステル達の幼馴染み3人がこれでもかというくらい、ルイスにベタベタしてきます…。勿論、1章のヒロイン達も更にルイスと親密な関係になっていきます。
まだまだお話は続きますので、どうかゆっくりお付き合いください。




