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56 噴水という壁から幼馴染みの声


 御膳試合が終わり、ホテルへと戻った俺達はさっそくホテルロビーにあるとある物に目をつく。ロビーのフロントにはいつも美味しそうなスイーツがたくさん並んでいるのだが…。マカロン、ドーナツ、ケーキ… 何故かどれも ルイスマカロンやらルイスドーナツ、ルイスチョコケーキ等、俺の名前がついている。


 恥ずかしい…。やめてくれ~!


 うん。率直にいえばかなり恥ずかしいんだ。本当の名前がレイジだからレイジに改名したいと思ったが、すぐにレイジマカロンとかに名前を変えられてしまいそうだから考えるのを辞めておいた。


 それを見ていたスルトが…。


「食べたいのじゃ~!美味しそうなのじゃー!」


 と俺の事を横目でニヤニヤとにやけながら見てくる。ヒナルもお兄ちゃん~と…。


 更にはミランダも…


 「ここのスイーツは美味しいよ!特にマカロンと紅茶がオススメ!」


 と勧めてくる。たまには振る舞ってもいいかな?と思い。彼女達に感謝の意味を込めて、スイーツパーティーを開く事となった。俺の部屋に全員が集まる…。


 「本当にこのマカロン美味しい!お兄ちゃんもあ~ん!」


 既に俺達が恋仲である事を伝えた。ヒナルは血の繋がった実の兄妹で恋愛したら変な目で見られたらどうしよう…と不安がっていたが、そんなのはこの世界では無意味。むしろ…。


 「兄妹だからってずるいのじゃ!!我もイチャイチャしたいのじゃ!」


 「そ、それはそうと~、何でウチの方が先に出会ったのにミランダなの~?!」


 「あれ?言ってなかったっけ?多分、私がこの中では一番先に会ってるんだよ?」


 ミランダはニコニコして笑う。コタースはそれを見て涙目になっている。


 「ちょっとアンタ!」


 とツンツンしている金髪ロリのケアルが俺の事を呼ぶ。


 「アンタね~ぇ!私に色々いたずらしようとしたロリコンで変態のくせに、私という人がいながらなんで私を選ばないのよ!アンタなんか嫌いなんだから!」


 と何故か矛盾した発言をしてツンデレオーラをかましてくる。


 「姉さん…、私の方がルイス兄さんを好きになったのは先…です。だから姉さんは後…です」


 と…。フレア?俺に好意があったのか?


 「うん!こうなったら女子会開かなきゃだね~!美味しいスイーツもあるし!」


 ミランダは何かを提案する。  


 「俺もいていいのかな?」


 俺の顔をみてフレアは目付きを鋭くさせて…。


 「アンタはダメに決まってるじゃん!鼻の下伸ばして気持ち悪いてゆーの!」


 あれ?俺まだ紅茶残ってるんですけど?


 「お兄ちゃん?悪いけどこれは男子禁制…。お兄ちゃんはどこかで待っててね?」


 「へっ?!」


 何故か俺は部屋から追い出されるしまつ…。


 「はいはい~、ルイスは出ていってね~!これは女子の大事な戦いなんだから~」


 ちょっと!!俺がお金だしたのに?!追い出されるの!?俺ってなにもの!?俺って君たちの何?!


 そしてすぐにフレアとケアルと「重たい!はやく歩け~!(歩く…です!)」言われながら背中を押されながらも俺の部屋から追い出された…。


 それ俺の部屋で横になって休みたいんですけど…。女の戦いは怖いらしい…。


 仕方ないから、俺は外に出る。辺りはゆっくりと太陽が沈みかけている。


 一人、円形の形をした噴水へと足を運ぶ。ベランダに大の字で座り、空を見上げれば夕暮れ時のオレンジ色の空…。なんとなく切なく感じるだろうが今は何故かそれがとても心地良い…。


 (あいつら~…、何の女子会を開いているかわからないけど…。まさか追い出しをくらうとは…。 それにしても恋人が寝取られあの絶望していた今居る自分が嘘のようだよなぁ~…)


 暫く、ボーッとして何十分くらい俺は居るの…、辺りはさっきよりも太陽は沈んでいてオレンジ色の夕陽から赤紫色のコバルトブルーの綺麗な空になっている。


 すると俺の後ろに、3人の女の人の声が聞こえてくる。生憎、噴水の水しぶきのせいで誰かは分からないし、別に顔を見たところで何を思うことはないだろう…


 でもいつ来ていたのかも全く分からなかった。


 (それだけ今は幸せに浸っている証拠かな…)


 水しぶきの音や、周りの生活音、どこかの酔っぱらいが呑気に鼻歌を歌う…。そして周りから漂う個々の晩御飯の匂い…。


 それを楽しんでいると後ろからはっきりと声が聞こえる…。何故意識したかと言えば、そこに俺の名前があったからだ…。国中で今や俺の事を殆どの人が知っているから、自然とどんな噂話をしているか気になってしまう。


 「えぇ…。彼はとても元気でしたわね…」


 「ああ!やっぱ兄貴は兄貴だよ!昔からそうだった…」


 「一番苦しかった時に…私達は…、神様も皮肉です…」


 あれ…、この声は…


 「ルイスの幸せそうな顔を最後にみれて良かった…。」


 「うん!!ボクも兄貴の顔をみれて良かった。これで思い残す事はないぜ!!」


 「はい…。いよいよ明後日…ですね…」


 「あのクズのアレックスを刺し違えてでもきっちり復讐したいですわ…。それで私はもうこの世に未練はありません…。ルイスが幸せになれたのだから…」


 「後はヒナルさん次第ですね!」


 …えっ…?さっき刺し違えてでも?最後?復讐…。それとヒナル!?なんでヒナルの名前が?


 (あとあいつら、アレックスを殺すつもりだ…)


 余程の覚悟があるのだろう…。話の内容から察するにあまり穏やかではない…。でもこれもアレックスには同情する気も起きない…。かといって俺は止めようという気も微塵にもない…。


 「うん…ヒナル次第ね… あの子、しっかりルイスに気持ち伝えれたみたいだから良かった…」


 「ああ!あの昔の事伝えれて良かったよ!!ボクの提案したおかげ?」


 「はい!お兄様もヒナルちゃんも二人とも幸せになれるといいですね…。それが分かれば私も未練はありません…」


 えっ…?!


 「でも一番ヒナルちゃんの力になれたのってクリステルさんですよ!?」


 「そうかしら…?まだまだ償いきれてませんが…ね?」


 こいつら…、俺が憎んでるこいつらがヒナルの不安を取り除き…背中を優しく押してあげていたって事か…。今、ヒナルと幸せに暮らしているのもこいつらが?!

 ヒナルが、俺の幼稚園という元いた世界の制服を知っていたのもアイツらがヒナルに教えたんだ…。

 色々な感情が合わさり吐き気がしてきた…。アイツらが憎い。ヒナルと俺を繋げてくれたアイツら、アレックスに弄ばれ汚く汚れてしまっているアイツら、自分の事のように今の俺を見て幸せそうで良かったと嬉しがるアイツら…、アレックスを刺し違える覚悟でこの世をさろうと考えるアイツ、様々な気持ちが嗚咽となり溢れてきそうだった。

 アイツらは汚い…気持ち悪い… でも…。アイツらがいたから今の俺はあるのか…。


 俺は音を立てずにゆっくりと立ち上がり…ホテルへと戻る…。あの3人は真っ暗になってもその場を動こうとする気配はなかった…。


………。

……。

…。



 



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