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54 勇者と素の王様?!

 厳重な警備を抜け、俺はミランダに案内されて荘厳な『王の間』へと足を踏み入れた。 天井まで届くステンドグラスから光が差し込む広間の奥。一段高くなった豪奢な玉座には、白髪の初老の国王陛下が威厳を持って座り、そのすぐ近くには、先ほどのミランダの父さん……カノープス隊長が、彫像のように直立不動で控えていた。  張り詰めた空気に、自然と背筋が伸びる。


「……勇者ルイスよ。そなたから、国の存亡に関わる重大な話があると聞いた。……よく来てくれた。面を上げい」


 低く、底に響くような王様の声。


「はっ! 本日はお忙しい中、お時間をいただき光栄の極みに……」


「……あー、待て待て。ルイスよ。そうガチガチに緊張せんでいい。普通に話しても良いぞ。ワシも、その……畏まったのは疲れるからのう……」


「い、いえ! そうはいきません! 相手は一国の王様ですし、俺はただの平民ですから! 礼儀を尽くすのが当然で……!」


「……ほう? これは、絶対の『王命』だと言ったとしてもか?」


 ギロリ。  王様の鋭い、鷹のような眼光が俺を射抜く。あまりの覇気に、冷や汗がだらだらと頬を伝って溢れそうになる……。


「わ、わかりました! 普通に話します!」


「……馬鹿者! まだ語尾に敬語がついておるわ! 敬語なぞいらぬ!! タメ口で話せと言えば言いか!?」


 王様の目付きが、更に怖く吊り上がる。  な、なんなのこの王様!? 勇者に無礼な態度を取られるの、そんなに好きなの? ドMなの!?


「わ、わかった!! これでいいか、王様!」


「……ふぅ~。……あぁ、それでいい。それでな」


 すると、王様はいきなり玉座の上でだらしなく足を組み、肘掛けに腕を置いて頬杖をついた。さっきまでの威厳はどこへやら。


「は、はいー?!」


 た、態度やばいって! どっかの海賊か、盗賊のボスだよこれ! 不敬罪で首が飛ぶ……いや、玉取られるって! 俺の、たま~!!


「……おいおい、ビビんなよ。ワリーな、ルイス。これが俺の『素』なんだよ」


「……めっっちゃ、威圧感ある! 裏社会のドンみたいだ!」


「がははははっ!! 裏社会のドン! 最高の褒め言葉だ! ……それでいいんだって。俺たち、命懸けて世界を救おうって仲間だろ? フレンドリーでよろしく頼むわ!」


 王様は、腹を抱えて凄い高笑いをする。フランクで豪快すぎる。


「……でよ? どうした? そんな青い顔して、何かヤベェ事でもあったんか?」


「ぶ、無礼を承知で報告するぜ……」


「あ~、だから、そんなかたっくるしい枕詞はいらねぇ~。無礼も承知もくそくらえだ。フレンドリーっつったろ?」


 王様はガハガハ!と笑う。本当になんなの!? マフィアのボスだよ! ん? マフィアってなに? ……あ、日本のヤクザのことか。ヤクザってなに??


「……ああ。じゃあ、これまでの経緯と、これから起きる最悪の事態を話す。このエルドアス王国にとっても、いや、世界にとっても重要な事だから……」


 俺は息を吸い込み、王様とカノープス隊長に向けて、先ほど仲間たちに話した真実を全て打ち明けた。


 狂気の女神崇拝教の幹部『ホーエン』という男の怨念の魂が、自分の育ての母親(ユミルの肉体に憑依してしまった事。その身体を使って、忍者の里もエルフの国も滅ぼした事。  母さんは俺の勇者の力を悪用されないように、禁忌のスキルを使ってアレックスに力を移したが、そのアレックス自身がクズで、ホーエンの言いなりになり王国を売ろうとしている事。  そして現在、ヤツらは地下牢のアレックスと接触し、数名の抜忍と共に魔物を大量に作成して……今夜にでも王国を内側から崩壊させる機会を伺っている事。


「……そんで、ヤツにどう対処していくって事だな?」


 カノープス隊長が、眉間に深い皺を寄せて唸った。


「物理的な魔物や忍者なら、騎士団でどうにでもなる。……ただ、厄介なのは、ホーエンが『霊体』だということだ。母親の肉体を殺せば、他の兵士や国民に憑依する危険性もある」    王様は玉座から降り、大の字に足を伸ばして俺の前に立った。


「あー、それなら、神聖な光の魔力を持つ『聖女』を使って、除霊エクソシストしちまえばいいだろうなぁ~」


「その辺は、俺の大事な仲間……妹のヒナルがいるから、なんとかなりそうだ」


 俺が自信を持ってそう言うと、王様は難しそうな顔で、首をゆっくり左右に振った。


「……んにゃー、そりゃあ悪いが、無理だろうな」


「え? あいつは神託を受けた『大聖女』だぞ!?」


「あのヒナルの情報は、神殿の適性検査で詳しく見させてもらってるんだがなぁ~。……あの子は魔力量こそ規格外だが、スキルに『エクソシスト(完全浄化・除霊)』の能力がない」


 王様の言葉に、俺は絶句した。  怨念の幽体を完全に天に還し、浄化するには、特殊な『エクソシスト』の能力がいるらしく。聖女という類いでも、全員が同じスキル構成ではないようだ……。  ヒナルはどちらかと言えば、回復スキル、攻撃スキル、デバフの解除スキルに特化しているが、霊体を滅ぼす『浄化魔法』の適性はないみたいだ……。


「……あの子の力じゃ、ホーエンの魂を追い出すどころか、返り討ちに遭うかもな~? ……だが、一つだけ方法はあるぞ?」 


「それは!?」


「……ルイスが乗り気になるか、俺にはわかんねぇけど……今、国内でそれ(除霊)ができる奴は、一人しかいねぇんだよな……」


 王様は上を向き、豪華な天井のシャンデリアを見上げる。


「あぁ、ルイスが、どうしても『いい』って言うのならだけどよ?」


 それからしばらくして、王様は真剣な眼差しで俺を見た。


「……地下牢にいる元・聖女、クリステルなら……彼女の持つ固有スキルなら、なんとかなるかもしれねぇ……」


「……はっ?!」


 俺は顔を歪めた。  今更、あいつの話なんて聞きたくない。


「……俺だって、男としてイヤだぜ? 他の男に寝取られて、身体の隅々まで汚されちまった元カノの女と一緒に、また肩を並べて戦わなきゃいけねぇって……。そんな地獄、俺でも舌噛んで死にたくなるぞ?」


 ハッキリしてる王様だ! 俺の地雷を的確に言語化してくれた。


「でも、これは国の存亡……何千、何万という国民の命に関わる問題だ。悠長な男のプライドを語ってる場合じゃねぇ……。 そこでどうか、ルイス……。もし王国にやつらが攻めてきたら……我慢して、あいつと共闘して、人肌脱いでくれねぇか?」


「……」


「イヤなもんは痛いほど分かる。ただ、一生一緒にずっといろというわけじゃねぇ……。この戦いだけだ」


「……」


「……そのな? ルイス……、お前が今一番大事な、好きなやつを守るために……ここは一つ、王の俺に免じて、我慢してくれ?」


 王様が、深く頭を下げた。カノープス隊長も、無言で頭を下げている。


 ……そうだった。  俺は、過去に囚われている場合じゃない。  今は、守るべきヒナルがいる。コタースもスルトも……ミランダも……。それからフレアやケアル……。年上だけど友人になってくれた仁さんも……。  俺は、彼らの生きるこの世界を……助けたい。彼らの笑顔を、守りたい。なら……。


「……わかった。俺が守りたい人達の為だ。……その共闘、引き受けます」


「……そうか! 助かるな……。本当に、ありがとう、真の勇者よ……」


 王様はそう言うと、立ち上がり、姿勢を正して威厳のある『仕事モードの国王』の顔に戻った。


「今日は色々、すまなかったな。……防衛の準備は、全軍を挙げて急がせる。では、また何かあれば伝えてほしい!」


「わかりました!」


 王様の、完璧すぎるオンとオフの切り替えの凄さに驚きつつも、俺は深く一礼して城を出るのだった。



………。

……。

…。



 王の間を出て暫く回廊を歩いていると、後ろからパタパタと足音がして、ミランダが追いついてきた。


「ふふっ、王様にはびっくりしたっしょ?!」


「ああ! まったくだ! 心臓に悪いよ!」


 ミランダは両手を後ろに持っていき、ニコニコと俺の隣を歩きながら言った。


「あれはね? 王様が心から信頼している、家族や知り合い、友人にしか絶対に見せない『秘密の素顔』なんだよ?」


「そうなんだ? じゃあ、俺は信頼されたってことか」


「うん! ……王様ね、昔はどこかの国の凄腕の冒険者だったらしくてね。その頃のパーティーの仲間……、ううん……一番愛していた『恋人』が、魔族の女性だったらしいの。でも、彼女は女神崇拝教の連中に、魔族だからって理由で酷い目に遭わされて……殺されちゃったの」


「……!」


 あの陽気な王様にも、そんな血の滲むような、悲しい過去が……。


「だから、王様は血の滲むような努力をして、この国の王様まで上り詰めた……。『魔族協定』を作って、種族差別をなくすためにね。……私も、今日初めてスルトちゃんを見て、良く分かったよ。魔族……、ソロモン族の皆は、私たちと同じ、血の通った普通の女の子なんだ……ってね」


 じゃあ、王様も魔族と共生の道を本気で考えていたんだ。  それに対して、魔族の命を実験動物のように弄ぶ、女神崇拝教のホーエンを……王様が許すはずがない……。逆もしかりか……。


「……ルイス君?」


「ん?」


 王城の門を出る前。  ミランダは少し立ち止まり、もじもじと指を絡めながら話しかけてくる。  照れ臭そうに目線をそらして……夕陽に照らされた、右目にあるセクシーな泣きほくろが、凄く魅力的に見える……。


「……今日はありがとう! ……明日の、お父様との御前試合! お父様は国一番の剣士だから凄く強いけど……ルイス君なら絶対に勝てる! ……私のために、必ず勝ってね!」


「ああ! 勿論だ! 約束するよ! ……後、今日は色々案内してくれて、ありがとう!」


 そう言って俺が笑うと、ミランダは顔を赤くして、にこにこしながら小さく手を振る。  俺も手を振り返し、エルフの美女に見送られながら……夕闇が迫るホテルへと、決意を新たに歩き出したのだった……。


………。

……。

…。 

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― 新着の感想 ―
ふと王様の雰囲気からCV:小山力也に脳内変換して会話を読むと凄くシックリきたwww
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