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48 ヒナルとクリステル…


 ~ヒナル視点~


 辺りは一面黄金色…。王国街の至るところで街灯がつく。私の居た世界にもあったけど、電気がないのに灯りがついているから不思議だ…。


 ホテルからそんなに離れていない場所にある噴水の所で暫く休んでいると。


 「ちょっとすいません…」


 と…、一人の女性が話かけてきた…。その人は私よりもお姉さんみたいに見える…。さっき見た人だ…。そして、近くで見て思い出した…。この人…。


 「ごめんなさい…。私は最近ここによく来るもので…。辛い事忘れられる気がして…。昼間、貴方とルイスが仲良くしているのを見ましたわ…。」


 そう…、レイジお兄ちゃん…の元彼女さん…。


 「貴女の事は意識の中で朧気に覚えていますわ…。貴女、一番最初にあった時、ルイスの事を庇ってくれた方ですね?」


 「はい…」


 「私はクリステルです…」


 「私はヒナルって言います。あなたの事はお兄さんから全部聞いてます…」


 彼女はにっこりと微笑むが、どこか寂しそう…。


 「ルイスの顔…、あの時、遠くからでしたが見ましたが… とても幸せそうな顔をしていました…」


 「ルイス兄さんは今、とても幸せだと思いますよ?友人もできて、信頼できる仲間もたくさん増えました。」


 私達は噴水のベンチで二人横に並びながら会話をしている。お互い顔を見る事がない。いくら魅了されていたとしても、お兄ちゃんを傷つけたのだから…。妹として…、私の大好きな男性として彼女を許す事は難しい…。

 それでも、この人は苦しいのを我慢しながらニコニコとしている…。そういう風に見える…。


 「ルイスが幸せなのは…、多分貴女がいるからでないでしょうか…」


 「…」


 少し沈黙が続く…。


 「私はもう隣に立つ事すら許されなくなってしまいました…。それでもいつかルイスさんに謝りたい… それだけが今の私の気持ちになります」


 この人の気持ちも分かるけど、全てを失ったお兄ちゃん…。今さら謝られても迷惑だろうと思う…。


 「他の二人…シューとエアロという子達ですが…二人とも私と同じ気持ちで一杯になっています…。」


 「じゃあ、何故あなた達はすぐに兄さんの所に今すぐにでも行かなかったんですか!?兄さんが王国に来たの知っていますなよね?!あれだけ噂なっているのに!」


 「…」


 クリステルさんは黙る…。クリステルさんも辛いのは分かるよ?でもそうじゃない…。


 「魅了されていたとはいえ、お兄さんに嫌われようが謝罪しに行かないのは怖いからなんですか?!」


 クリステルさんから笑顔が消える…。悲しみに満ちた表情になる…。


 「…」


 「結局、自分が可愛くて逃げているだけなのでは?」


 「…そうかもしれませんね…。ただ昔みたいにまた笑ってくれるルイスを待っている自分もいたのかもしれません…」


 「そんなの勝手すぎますよ!?」


 勝手すぎるよ…。


 「そうですね…。私は…。でも貴女みたいにルイスが思ってくれている貴女がいて安心もしました…。」


 「…」


 でも卑怯なのは私もだ…。お兄ちゃんが好きなのにお兄ちゃんの気持ちも理解せずにただ一人、逃げようとしている自分がいるのも事実。だから卑怯なんだ。


 「クリステルさん?」


 「はい…」


 「お兄さんって優しかったですか?どんな事も受け止めてくれた方でしたか?」


 クリステルさんは私の方を向いた視線を感じた。私もクリステルさんの方を向く…。


 「えぇ…。小さい頃から私達3人をどんな事があっても優しくて…いつも笑っていて…守ってくれてた方でした…」


 「そうですか…」


 「貴女もルイスの事が…好きなんですね…」


 「えっ?貴女もって… クリステルさんもお兄さんの事は今も好きなんですか?」


 クリステルさんはまた正面を向き。地面のブロックを眺める…。少し無言になり、噴水の涌き出る音がザーと耳に響く…。暫く沈黙が続き…。


 「えぇ…。操られて意識はあってもずっと変わらず好きです。いえ、むしろもっと好きになっていました…。当たり前だった事が当たり前でなくなってしまい…。でも私はもう近寄れる立場ではない…。あの人を逆に傷つけてしまうから…。あの優しい彼には貴女がいる…。今は彼が幸せに見えたから…」


 「…」


 今度は私が無言になる。それから…


 「うん…、私はお兄さんと出会ってまだ数週間くらいしかたっていませんが… 大好きになりました…。」


 私は顔を上げて黄金色の空を見る。


 「私は近寄りたくても近寄れない…。だから近寄れるのに近寄らない貴女達を見て嫉妬しました。」


 「…」


 クリステルさんは黙って聞いてくれている。


 「なんで言わないんだろ?近寄らないのに近付けるのに…」


 「…」


 「私は近付きたくても近寄れないのに…って…」


 クリステルさんはまた私を見てにっこりと優しく微笑んでくれる…。


 「貴女…迷人ですね?」


 「分かりますか?」


 「この世界の人には黒髪で茶色い目のした人は存在しないですから…。それにルイスもそう…」


 「えっ?」


 「昔、ルイスのお母さんと会った時に言ってくれました…。あの子は森で迷子になっていた…と…」


 「やっぱりそうなんですね…」


 クリステルさんは小さく何度も頷く…。


 「ルイスのお母さんはどこかの国から逃げてきた最中に娘さんとはぐれてしまったらしく…、森を何度も何度も探し回って結局見つからなかったらしく…。その時にルイス君と出会ったそうです…」


 「やっぱりお兄さんは迷人…」


 「それと貴女の事ですが…、好きなのに近付けない理由…。それは貴女はルイスと同じ世界からやってきた…。ルイスと何か繋がりがある方なのでは?」


 「…分かりますか?」


 「えぇ…。私はルイスのどんな時の表情も見てきました…。笑ってる時も、怒った時も、不安な時、泣いている時…。小さい頃から彼を見てきました…。まぁ…私が面倒を見ていた時期もありましたし…。よく私が怒ってましたから!」


 「へへっ!お兄さんが小さい頃、怒られていたって何か想像できませんね!」


 クリステルが思い出すかのように優しく笑う。私もそれにつれられて笑ってしまう。


 「貴女の顔を見ると、ルイスの小さい頃にそっくりなんですもの…。だからたまたま好きになった人が実は実の親族に当たる方だったと…思いました…」


 「…」


 やっぱり、お兄ちゃんも迷い人…。前にお兄ちゃんから聞いた…。迷い人のスキルやジョブはこの世界の人達よりも凄い能力を得られると…。だからお兄ちゃんは…。お兄ちゃんはやっぱり日本から来た私のお兄ちゃんなんだ…。


 「はい。まだ確証はないんですが…。ルイスお兄さんは、私が産まれてまもない頃にこっちの世界に来た私の実のお兄ちゃん… レイジお兄ちゃんの可能性が高いんです…」

 

 クリステルは何かを思い出したかのように笑い出す。


 「ふふふふ!!思い出しましたわ…!だからですか!」


 「えっ?」


 「ふふふふっ…! いえ、ごめんなさい…。ルイスったら小さい時に、私がルイスと名前を呼んだら怒っていたのです」


 「なんでですか?」


 クリステルは空を眺めながら…


 「あの人、あの時は自分の名前をルイスって認めてなかったの…。ルイスのお母さんが名前を聞いた時に発音が悪く何言ってるか分からなくて ルイスって名前になったのですよ。」


 「へぇ~…」


 「ルイスじゃない!俺はルゥイズィだ!って…」


 「なんですかそれ!!あはははは!」


 私達は二人笑いあう…。


 「だからルイス… なんですね…」


 「そう…。私もなんで彼が怒っていたか、今分かりましたわ…」


 クリステルの目を見ると笑いすぎたのか涙が滲んで見える…。そして私に言う…。


 「それで、貴女は好きになった人が実のお兄さんだから悩んでいたのですよね?」


 「…そうです…。私の居た世界では… それは良くない事…。変な目で見られるからです…」


 「でも貴女は今、この世界にいる…。この世界では血の繋がったもの同士が結婚して子供を産む… よくある話ですよ…」


 「えっ?」


 「ルイスももうこちらの世界の人間…。一般的なよくある話なんて今更ですよ?」


 クリステルさんは大きく息を吸う…。涙がじわりじわりと零れる…。


 「貴女の不安はこの世界では意味がありません…。彼を…」


 そしてすすり泣きながら…。


 「彼をしっかり… 受け止めて… あげてください…。後は貴女の… 気持ち次第… ですよ…」


 私もぽろぽろと涙が溢れだし止まらない…。


 「はい… 分かりました…。気持ちをしっかり整理してから彼に想いを伝えます…」


 「さて、そろそろ戻らないと…。今日はありがとう…。少しでも貴女…、ヒナルちゃんの力になれたなら… 私は嬉しいです…。彼の幸せを願っています…。宜しくしてあげてくださいね?」


 「はい!」


 凄く気持ちがスッキリした感じがした…。ただ、自分にはまだ時間が必要…。今日、お兄ちゃんが答えをくれるが…、私はまだ準備が必要…。もう少し待っていてね?お兄ちゃん…




 

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