49 ルイスの告白とその裏では…
~ヒナル視点~
シャンデリアの眩い光が降り注ぐ、王都の貴族街にある超一流ホテルのメインダイニング。 テーブルの上には、宮廷料理人が腕を振るった色とりどりの豪華な料理が並び、グラスの擦れる音と、スルトやコタース達の楽しそうな笑い声が響いている。 華やかな宴の最中だったが……私の心は、全くここにあらずだった。
少し前の時間。黄昏の噴水広場での、クリステルさんとの会話を反芻していた。
『この世界では、血の繋がった兄妹同士が結婚して子供を産む……それは、珍しくもない、よくある話ですよ。一般的な話なんて、今更ですよ?』
彼女のあの言葉が、私の心に深く突き刺さり、重い鎖を解いてくれた。 この異世界では、実の兄妹同士が恋愛しても、誰も変に思わない。法律でも、宗教でも、認められている。 クリステルさんの優しさに、私は確かに背中を押された。
……でも。本当に、大丈夫なのかな? 彼女の言葉を疑うわけじゃない。頭では理解している。 だけど、私の魂の奥底には、日本という世界で十七年間培ってきた倫理観が、拭い去れない『背徳感』と『罪悪感』として、ドロドロと渦巻いている。
(……もし、許されるなら。ルイスお兄さんがレイジお兄ちゃんでも、関係ないなら……。今すぐにでも、あの大きくて温かい腕に抱きしめてもらいたい。すべてを委ねて、一つになりたい……)
お肉をフォークで突きながら、無意識にルイスお兄ちゃんの横顔を見つめてしまう。 勇者の称号を得て、どこか憑き物が落ちたような、清々しい笑顔。そのたくましい喉仏、通った鼻筋、優しく微笑む唇……。その全てが、どうしようもなく愛おしい。 でも、だからこそ怖いのだ。 ――私が『本当の血の繋がった妹』だって分かったら、お兄ちゃんは、私をどう思うだろうか。 元の世界の記憶を持つお兄ちゃんは、私に幻滅して、拒絶するんじゃないか。気持ち悪いと、突き放されるのではないか。 ……その恐怖が、私の喉を締め付ける。もう少し、もう少しだけ、自分の頭と心を整理する時間が欲しい……。
「……ヒナル? ちょっと、いいかな?」
不意に、隣の席から優しい声が降ってきた。 ハッとして顔を上げると、お兄ちゃんが、周囲に悟られないようにそっと私に耳打ちしていた。その黒い瞳は、決意に満ちた真剣な光を宿している。 心臓が、ドクン、と大きく跳ねた。
「……うん!」
私はフォークを置き、震える手でナプキンを畳む。
「ちょっと、夜風に当たろう。……ベランダに行こうか?」
「……はい」
私は、皆の目を盗んで席を立つお兄ちゃんの、広い背中の後をついていく。 その背中を見つめながら、私は日本での記憶を思い出していた。 仏壇に飾られていた、赤ちゃんの頃の写真しか見たことのない、死んだはずの「レイジお兄ちゃん」の顔……。赤ちゃんの頃の私と、双子のように本当にそっくりだった。 それが、今、私の前を歩いているお兄ちゃんの肩を見ると……。大きくて、頼りがいがあって、たくましくて……。赤ちゃんの写真の頃の「兄」のイメージとは、完全にかけ離れた、一人の立派な『大人の男性』だった。
命日には、必ず仏壇に手を合わせていた。 『お兄ちゃんがもし生きていたら?』 『私と一緒に、くだらないことでケンカもしたりしたのかな?』 『学校の勉強、教えてもらったりしたのかな?』 ……そんな、叶わぬ想いに浸る日は、よくあった。
でも、まさかこんな異世界で。 死んだと思っていた兄が生きていて、あまつさえ、私がその兄に、狂おしいほどの『恋』をしてしまうなんて。神様の悪戯にしては、あまりに残酷で、ロマンチックすぎるよ。
二階のバルコニーのガラス扉を開け、ベランダに出る。 冷たい冬の夜風が、私の火照った頬を心地よく撫でた。 辺りはもう真っ暗で、雲一つない空には、零れ落ちそうなほどの満点の星屑と、手を伸ばせば届きそうなほど大きな満月が浮かんでいる。月明かりが、王都の石造りの街並みを、銀色に美しく照らし出していた。 ベランダの手すりには、ホテルの粋な計らいなのか、魔導具である綺麗な緑色の蝋燭が何本か灯り、私とお兄ちゃんの影を幻想的に揺らしている。
まるで、世界のどこにも二人しかいないような、完璧な夜だった。
お兄ちゃんは手すりに寄りかかり、夜空を見上げてから……ゆっくりと、私の方へ向き直った。その眼差しは、月明かりよりも優しく、甘かった。
「……ヒナル。今日は、色々なことがあって疲れただろうに、呼び出してごめんな」
「ううん、大丈夫だよ。夜風が気持ちいいね……」
「……あのさ。俺の……あの時の告白への『返事』、聞いてくれるかな?」
お兄ちゃんの声が、少し震えている。緊張しているのが分かった。
「……うん!」
私は、お兄ちゃんの目を真っ直ぐに見つめた。鼓動が早すぎて、胸が張り裂けそうだ。お兄ちゃん……。私が、あなたの妹でごめんね。
「……あの雨の日の夜、テントで言った事。あれは勢いとか、魔物に襲われた極限状態の錯覚なんかじゃない。……ヒナル、俺はお前と一緒にいたい。お前の、その強くて優しい心が大好きなんだ。……五年間、俺はずっと独りぼっちの暗闇の中にいた。でも、お前が……ヒナルという光が、俺の凍った心を溶かして、救い出してくれたんだ」
お兄ちゃんは、一歩私に近づき、私の両手を、その大きな手でそっと包み込んだ。 温かい。
「ヒナル……。俺と、真剣に付き合ってくれませんか。これからの過酷な未来、俺の隣で、ずっと笑っていてほしい。……お前を、俺の命に代えても幸せにするから」
「……っ!」
ドクン、ドクン、ドクン。 熱い涙が、私の目から溢れ出そうになる。 嬉しかった。世界中の誰の言葉よりも、愛するお兄ちゃんのその言葉が、私の魂を震わせた。 ……だからこそ。
「……ルイス、お兄さん……」
私は、お兄ちゃんの言葉の続きを遮るように……。 無言のまま、背伸びをして、お兄ちゃんの首に両腕を回し……その薄い唇に、自分の唇を重ねた。
「……えっ? んっ……ヒナ、ル……?」
お兄ちゃんの驚きの声ごと、私は唇で塞いだ。 何度も、何度も、角度を変えて深く口づける。 言葉にできない私のありったけの『大好き』という情熱と、『秘密を抱えるごめんなさい』という謝罪を込めて。 お兄ちゃんの唇は、少し荒れていて、熱かった。私は少し口を開き、躊躇いながらも、お兄ちゃんの熱い吐息の中に、自分の舌を滑り込ませた。 甘い痺れが、私の脳髄を溶かしていく。お兄ちゃんの男らしい匂いに包まれ、世界がぐらぐらと回る。
チュッ……、ん、ちゅっ……。 長い、長い口づけの後。 私は、荒い息を吐きながら、お兄ちゃんの胸に額を押し当てた。
「……お兄さん。ごめんなさい……はしたなくて。……でも、私の気持ちは、今のが全てです。……私も、お兄さんが大好き……。愛しています」
「ヒナル……。じゃあ……!」
「……でも。ごめんなさい。今は……まだ、付き合えません」
「えっ……?」
お兄ちゃんは、一瞬何が起きたか分からないというように、目を丸くして困惑した。無理もない。あんなに情熱的なキスをしておいて、振るような言葉を言ったのだから。
「私、お兄さんの事が本当に大好きだし……少し前、あの森の中なら、即答で付き合うのをOKしてた……。でも……。あれから、私たちにとって、とてつもなく大きな『問題事』が分かっちゃったの……。今日の、適性検査で……」
「検査で……? 俺とヒナルのジョブの事か?」
「ジョブじゃないの。……これは、私だけでなく、お兄さんの出生や、過去にも深く関係してくる、凄く重たい真実なの……」
「俺の……問題にも?」
「うん……!」
私は、潤んだ瞳でお兄ちゃんを見上げた。
「だから……、少しだけ、時間が欲しいの。その問題がちゃんと解決して、私の中で整理がついて……お兄さんに全てを打ち明けられる時が来たら……。その真実を知っても……それでも、私のことを好きだと言ってくれるなら。その時は、私を全部、受け止めてほしい……」
身勝手な女だと思われるかもしれない。でも、今はこれしか言えなかった。
「……だから、今はごめんなさい。……でも、不安にはならないで? 他の誰かを好きになるとか、そういうのじゃないから。私の心は、全部お兄さんのものだから……。ただ、少しだけ待っていてほしいの」
「……そっか……」
お兄ちゃんは、少し寂しそうに目を閉じた。 でも、すぐに私の頭を優しく撫でて、安心させるような包容力のある笑顔で微笑んでくれた。
「……分かった。ヒナルにも、色々と言えない事情があるんだな。検査で何かあったのか……。ごめん、急かしすぎた。……俺は、五年でも十年でも待つよ。ヒナルの気持ちの整理がつくまで、いつまでも待ってる」
「……お兄ちゃん……っ!」
その底抜けの優しさに、私は耐えきれず、お兄ちゃんの胸に飛び込んだ。 お兄ちゃんも、私の細い身体を、折れそうなほど強く、優しく抱きしめ返してくれる。
「……ルイスお兄さんの事は、凄く、凄く好きなのは本当だから……。信じて」
「うん……。伝わってるよ。俺も、愛してる」
私達は、もう一度、引き寄せられるように唇を重ねた。 さっきよりも深く、優しく、互いの体温を分け合うように。 月明かりのベランダで、王都の夜風に吹かれながら……。 罪悪感と、狂おしいほどの愛しさが入り混じった、甘くて切ない幸せな時間が、いつまでも続いていた。
………。
……。
…。
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~???視点~
石壁に染み付いた血とカビの臭い。日の光など何十年も届いていないであろう王都の地下深く、迷宮のような下水道のさらに奥にある隠し部屋で、数本の蝋燭の炎が不気味に揺らめいていた。
「……どうなっている。計算が合わん。一体、何が起きているというのだ……!」
薄暗い部屋の中心で、苛立ちを隠せない声が響いた。 声の主は、艷やかで長い『赤髪』を持つ、息を呑むほどの絶世の美女。だが、その口から発せられる一人称と口調は、年老いた男のそれだった。
「……五年前、アレックスという底の浅い男が勇者の力を解放してこちらの計画の糧となるはずなのだが……。あいつの黄金のオーラが、完全に消滅しただと?」
美女の皮を被った怪人は、苛立たしげに長い爪を噛んだ。
「それもそうだが……! おい、アンタ! 俺に寄越した、あの『ルシル』と『ファデュー』の洗脳が完全に解放されたそうだぞ! どういう事だ!? 話が違うじゃねぇか!」
闇の中から現れたのは、全身に無数の傷跡を残す、筋骨隆々の忍びの大男だった。彼は腰の太刀に手をかけ、殺気を放ちながらワシにずかずかと迫り寄ってくる。
「……俺は、俺が目をつけていた女を奪い、里の『棟梁』の座をかすめ取った、あの忌々しい『仁』から全てを奪い、復讐するためにアンタに協力して力を貸したんだぞ? 仁の仲間だった二人を洗脳し、俺の言いなりにさせるはずが……! ふざけるな!」
「落ち着け、粗暴な男よ。喚いたところで現実は変わらん。……しかし、奇妙だな。ワシの施した精神支配の術式は完璧だったはず。……神話の『真の勇者』と、規格外の『大聖女』でも同時に現れないかぎり、あの洗脳は絶対に解けないはずなんだがな……。ルシルたちの件といい、クリステルたちの件といい……チッ、面白くない」
ふむ……。王都の表舞台で、一体何が起こっている……? 巷の噂では、ワシが祭り上げた『勇者アレックス』の力が一夜にして消え去り、国を騙した大罪人として何故か『誘惑士』というジョブになり、地下牢に投獄されたという。 ワシの計画では、聖女クリステルもアレックスに洗脳させ、王国の戦力を骨抜きにした後、内側から王国を攻め落とす算段だったんだがな……。あの忌まわしき現国王の首を刎ね、屈辱の復讐を果たす千載一遇のチャンスだったんじゃがなぁ……。
ワシは、今、自らが宿っているこの身体の手のひらを見つめ、舌打ちした。
「……この『魔族の女』の最高位の魔力を持ってしても、事態の収拾は不可能か? ……いや、もしくは、すでに実験で使い潰した、この女の夫であった『アレ』の方が、まだ洗脳の器として優秀だったか……?」
ワシが嘲笑うように呟くと、大男が眉をひそめた。 ワシは、この女の夫であった男――かつて『魔王』と呼ばれ、ソロモン族(魔族)を束ねていた王を、生きたまま解剖し、自我を破壊し、醜悪な『巨大モンスター(ホムンクルス)』へと作り変えた。そして、理性を失ったソレをエルフの国(クレンセントの森)へと解き放ち、見事に森を焼き払い、一つの国を滅ぼしてくれた。 この功績は、ワシの実験の成果として実に素晴らしいものだった。
「……過去の実験の自慢話はどうでもいい。して、アンタ……これからどうするつもりだ?」
大男は、壁に背を預け、腕を組みながら冷ややかな声で答を求めた。
「こっちは、闇ギルドと野盗をかき集めて、王都を内側から攻める準備はいつでもできてる。いや、やるなら早くした方がいいだろう。何せ、洗脳が解けたルシルもファデューも、仁と合流して俺の居場所を血眼になって探し回っている。……動くなら、今夜だ」
「ふぉふぉふぉ……。焦るな、小童。今のままでは、まだ王国の近衛騎士団を相手にするには、決定的な『戦力(駒)』が少し足りない。……いや、待てよ……。そうだ、いい『ゴミ』が余っておったわ。この薬を使えば……」
「……あ? 誰か、強烈な手駒の当てはあるのか?」
「ふぉふぉふぉ……。おるじゃろう? 誰からも見捨てられ、地下牢で泣いている、惨めな元・勇者様……『アレックス』だよ。アイツは今、自分を裏切った国と、真の勇者とやらに対して……底なしの憎悪と、かなりの深い憎しみを持っておるはずじゃ……」
ワシは、懐の隠しポケットから、どろりとした液体の入った小瓶を一つ取り出し、蝋燭の光に翳して眺めた。 ドクン、ドクンと、まるで生き物のように脈動する、紫色の毒々しい劇薬だ。
「……それは?」
「これは、ワシの最高傑作の一つじゃ。服用者の『憎しみ』や『絶望』の感情が強ければ強いだけ、その魂と引き換えに、肉体を爆発的に魔物化させ、強大な力を授けるドーピング薬……。今のヤツなら、王都の半分を吹き飛ばすほどの『強欲の魔物』に変異するじゃろうな」
「……へぇ、悪趣味な薬だ。……んで? 誰がその怪しい薬を、警備の厳重な地下牢まで渡しに行くんだ? 衛兵に捕まるだけだぞ」
「ふぉふぉふぉ! 決まっておるじゃろ? 『ワシ』が自ら行く」
「は? アンタが? ……はははは!! なるほど! 確かに、今のアンタの姿だと、誰もあの狂気の科学者だとはわかるはずがない! 周りの兵士たちは、ただの『悲劇の美しい美女』が来たとしか考えられねぇからな!」
大男が、下品な笑い声を上げる。 ワシは、借り物の若い女の身体を使い、両手でドレスのスカートの両端をたくしあげて、小首を斜めに傾げながら、淑女のように優雅なお辞儀をしてみせた。
「……アレックスという男の甘言に騙され、弄ばれ、純潔を奪われた可哀想な町娘……。『最後の別れと、文句を言いに来た』と衛兵に伝え、涙を流せば、簡単に扉を開けるまでよ……。そして、格子の隙間からこの薬を渡し、『これを飲めば、復讐の力が手に入る』と囁けば……あのバカは、確実に食いつく」
「はははは! アイツは、最後にはこんな所まで俺たちの役にたってくれるとは、とんだマヌケな道化だぜ!」
「全くだ。アイツは昔から、人一倍、金と女への執着と性欲だけは強かったからのう……。最後はあそこまでアホだったとは、ワシにも分からなかったがなぁ~……! ふぉふぉふぉふぉ!」
笑いが止まらない。 ワシは、この国が憎い。 かつて宮廷の研究者だったワシから全てを奪った、このエルドアス王国が憎い。 魔族は人間と共存すべきだなどという、虫酸が走る『魔族協定(ソロモン協定)』というバカげた法律を作ろうとし、ワシの「魔族を使った人体強化研究」を蔑ろにし、あまつさえ「非人道的だ」と馬鹿にしおった。しまいには何故、ワシが指名手配され、国を追われ、捕まらなければならぬ? 魔族(ソロモン族)など、ただ魔力が高いだけの家畜。連中を実験代わりに使って、人類の進化に貢献させて、何が悪いというのだ!?
「……見ておれよ。こうして、素晴らしい『実験結果』ができておるではないか?!」
ワシは、自分の若く美しい肢体を見せつけるように腕を広げた。 エルフ国を襲わした、あの強大なモンスターも元は魔族の男で……一国の王だったやつだ……。なんでも『魔王』といわれていたとか。そんな王でさえ、ワシの改造術の前では、ただの従順な破壊兵器に成り下がった。
そして、ワシの今、器(身体)に使っているのは……その魔王の妃。 本来なら魂の定着など不可能だが、この女は極めて高い魔力と生命力を備えているからこそ、ワシの老いた魂も拒絶反応を起こさず、こうして分離せずにおる……。最高のボディだ。
……それにしても。 こやつらの子供……『王女の娘』は、どこにいったのか……。 捕縛した際、面倒だったから、妃の前で娘の記憶を消し、本来の力も魔具で封じて、適当な辺境の森に放り捨てたが……。まぁ、無能となったガキが一匹、今さらどう足掻こうが、生きていようが死んでいようが、ワシの知った事ではないがな……。
ワシは、壁に立てかけられた割れた鏡を見ながら、この鬱陶しい長い赤色の髪を、指で梳いて整える。 ふと、鏡に映る『この身体の本来の持ち主』の顔を見た。 そのエメラルドグリーンの瞳は、内側から溢れ出るような深い絶望と、夫と娘を奪われた底なしの悲しみに満ちていた。ワシがいくら口角を上げても、その瞳だけは、血の涙を流しているかのように悲痛に歪んでいる。 精神の奥底に閉じ込めた彼女の魂が、必死にワシに抗おうとしているのが分かる。
「……ふぉふぉふぉ、無駄な抵抗だ。泣いているのかい? 愛しい夫は化け物になり、娘は行方知れず。……悲しいのう、辛いのう?」
ワシは、泣き叫ぶ妃の精神を嘲笑い、鏡の中の自分に向かって、口元を限界まで歪めて笑いかけた。笑いを堪えるのに、やっとだった。
「思い知れ。魔族は、ただの人間のための『実験材料』にしかすぎん……。それを世界に証明させるため……、今夜、全てをぶっ壊して、このエルドアス王国を地図から消し去り、滅ぼす……。アレックスという起爆剤を使ってな」
ワシの狂気の哄笑が、地下室に響き渡る。 破滅の足音は、勇者たちのすぐ背後まで、確実に迫っていた。
「……さあ、復讐の宴の始まりじゃ。後、もう少しじゃ……」




