44 ルイス、寝取られた3人の現状を知る…
-ルイス視点-
重厚な扉が開き、薄暗い検査部屋からヒナルが出てきた。 皆が驚きと共にざわめく中、ミランダから告げられたヒナルの検査結果は、俺が「真の勇者」だという事実と同じくらい、世界を揺るがすものだった。
ヒナルは、何百年、あるいは何千年に一度しか現れない、勇者と対をなす世界で唯一の『大聖女』のジョブを持っていた。 彼女には、『ディスペル(極限浄化)』という、自分が仲間や親しい人だと想っている対象に触れた時、どんな強力な呪いや悪性のデバフをも瞬時に消し去るという、神の奇跡のような特性スキルが宿っていたのだ。俺がここ数日、本来の力を取り戻せていたのは、やはりヒナルのおかげだった。
「……という事で。お疲れ様、ヒナル。やっぱり君は凄いよ」
「……うん」
俺は愛おしさを込めて、ヒナルの頭を優しく撫でる。 ……だが、どうしたのだろう。彼女の表情には、世界を救う大聖女になった喜びはなく、まるで世界の終わりを見たかのような、深い疲労と絶望の影が落ちていた。顔色も青白い。
(検査で魔力を使いすぎたのかな……?)
俺は少し心配になりながらも、今日の夜の事を考えていた。 早く、さっきの検査室で自覚した俺の想いを……『告白の返事(答え)』を、彼女に聞かせたい。その温かい思いで胸が一杯だった。
ヒナルと入れ替わるように、次はコタースとスルトが、順番にハイタッチをして適性検査室へと入っていった。
「……お兄さん?」
「ん?」
「前に……ペトロさんや色々な人が、私達を見て『兄妹みたいに見える』って言ってたよね?」
ヒナルが、俯いたまま、か細い声で呟いた。
「あぁ……、あまり気にするなよ? 他人の空似だ。俺は、この王国の辺境の村で、ちゃんと母さんも父さんも居たからさ? ずっと一緒に暮らしてきたのは事実だし……。なんなら、四歳前の時の事だって、うっすらとだけど覚えている。母さんの優しい子守り歌で、よく寝かさしてもらってたよ。君の生き別れのお兄さんとは、全くの別人だよ」
俺が明るくそう言うと、ヒナルはハッと顔を上げ、すがるような、ひどく落ち込んだ表情で俺の目を見つめてくる。その瞳には、今にも零れ落ちそうな涙が溜まっていた。
「……うん……、それは分かっている……。でもね。……もしも、私達が赤の他人じゃなくて……『本当の兄妹』だったとしたら……。お兄さんは、どう思うかな? って……」
「え?」
俺は少し面食らった。
「う~ん……、どう思うって言われてもなぁ。俺は一人っ子だったし、妹がいるっていう実感がないから分からないかな? でも、もしヒナルみたいな可愛い妹がいたら、全力で甘やかすだろうな。……でも、なんで急に? あまりそんな非現実的な事、気にしたらダメだよ?」
「……うん……。そっか……。そうだよね……。ごめんね。……まぁ、今の変な質問は、忘れて?」
「ん? ああ……わかった。無理して笑わなくていいよ」
ヒナルは無理に笑顔を作ろうとして、すぐに諦め……無言のまま、俺の胸に強く抱きついてきた。 俺の胸元が、熱い涙で濡れていく。静かに、声を殺して泣いているのが分かる……。 一体、検査部屋で何があったんだ? 何か神官から酷いことでも言われたのだろうか。 俺は戸惑いながらも、彼女の華奢な背中を優しくさすり続けた。
そうしていると、地下の階段からコツコツと足音を響かせ、一人の女性がこちらに向かって歩いてくる。 よく見ると……。
「……フィリシア?」
王都の私服であるドレス姿に身を包んでいるが、そのゴールドヘアーの長い髪と、尖ったエルフ耳がよく似合う、あのクレンセントの森で共闘した女騎士……フィリシアがそこにいた。
「あぁ、つい先日ぶりだな、ルイスどの。……いや、今は『真の勇者どの』と呼ぶべきか。結果は先ほど神官から聞いたぞ。流石は私の見込んだ男だ。それに、そちらのヒナル殿も大聖女とはな……。歴史が動くぞ」
「こんにちは、フィリシアさん」
ヒナルが涙を拭い、気丈に挨拶をする。 その言葉にフィリシアはニコっと優美に笑い……。
「どうだ? あの時、私の言った通りだっただろ?」
「ああ。正直、自分でも信じられないくらいだ。五年間、ずっとあのアレックスが本物の勇者だって思っていたからな」
「ふん。あんな欲望まみれのクズが真の勇者ではないと、高貴なエルフの私にはすぐに分かったがな……」
ちょうど、俺の護衛として控えていた近衛騎士ミランダも、フィリシアの姿を見てこちらに駆け寄ってくる。
「お疲れ様です。フィリシア王女……。わざわざ地下までお越しいただき、恐悦至極に存じます」
……あれ? ミランダ? 今、何て言った?
「うむ。今は他の少女達(コタース達)も適性検査受けているのであろう?」
「はい。それにしても……まさか、他国の王女様が、お忍びの際にルイスさんと接点を持っていたなんて、報告を受けてビックリしました! 流石は行動力のある王女様です」
「フフフ、私も驚いた。まさか森の巡回中に、あの絶体絶命の場で『本物の勇者』と出会えたのも、運命という何かの縁なのだろう」
……ちょっとまて! 今、ミランダ? フィリシアのことを『王女様』って二回いったよね?! 王女様って!
「えっと……フィリシア……、いや…… フィリシア王女……? 貴方は……エルフ国の、本物の王女様だったのでしょうか?」
「……ん? そうだが? 森で護衛の騎士たちが言っていなかったか?」
ぎゃああああああああっ! 俺、やっちまったよ! やばいよ! 森の中で、一国の王女様に向かってタメ口をきき、あまつさえ「足手まといだから下がってて」なんて指示出しちゃってたよ! これ、不敬罪で打首獄門レベルの失態だよ!!
「も、申し訳ありませんでした~っ! 知らなかったとはいえ、数々の無礼をお許しください!」
「わ、私も~!!」
俺もヒナルも、顔面蒼白になって九十度の角度で頭を下げた……。
「フフ、何を今更。貴殿は私の命の恩人だ。どうか顔を上げてくれ。これまで通り、一人の仲間として接してくれたらそれで許そう」
そっちの方がプレッシャーで怖いんですけどぉ~! 心臓に悪い!
「わ、わかった。フィリシア……王女……」
「だから、その堅苦しい『王女』をつけるな。ただのフィリシアでいい」
こ、コワひ……。王族のオーラを感じる……。
「そ、それにしても……、エルフ国……大変な目に合ったな……。さっき馬車の中で号外新聞で見たんだが……。お城が焼かれたって」
「……あぁ。ルイスどのと別れてからすぐだ。あの偽勇者のクズが逃げ出し、デスフラッグの群れに蹂躙された。……奴が勇者じゃないと最初から分かっていたら、エルドアス王国に援軍を要請するなど、別の手を探して被害を少なくしていたのだがな……。国民の避難が間に合ったのだけが不幸中の幸いだ」
「まさか、アイツが国を騙す詐欺師の偽物だったなんて、誰も知らなかったからな……」
勇者と祭り上げられ、王族のように振る舞い、相当浮かれていた彼は、今は冷たい地下牢で、絶望のどん底にいるんだろうな……。少し同情……は、一ミリもできない。自業自得だ。
「ん? 待て。ルイスどの。……まさか、あのアレックスの素性を、個人的に知っているのか?」
「ああ……、知っているどころか。俺も元々は、あいつのパーティーメンバーだったんだ。そして、あいつの後ろにいた三人の女の子たち……クリステル、シュー、エアロの三人。あいつらは、元々俺の幼馴染で、婚約者達だったんだ……。恋人も、ジョブも、名誉も、何もかもすべて五年前、あいつに奪われたけどね……。……あいつら、今はどうしてるんだか」
「なんですって!?」
「ええっ! 私も会った事ありますが、アレは相当なクズ男で、目つきのやらしい女ったらしなやつでしたね。お兄さんから婚約者さんを奪うなんて……!」
ヒナルも憤慨して凄い事を言うなぁ~。 だが、俺の過去の因縁を聞いた瞬間、フィリシアの目付きが、同情から一瞬にして『怒り』と『悲痛』へと変わった。
「そうか……。そうだったのか……。……ルイスどのよ。今から私が言う事を、心して聞いてくれぬか?」
「へっ?」
フィリシアは真剣な面持ちで歩み寄り、俺の両肩にポンと重い手を置いて……。 この世の地獄のような事実を告げた。
「……あの少女達三人は……昨日まで、五年間ずっと……アレックスの『魅了(洗脳)』のスキルによって、精神を支配され、操られていたのだ……」
……はっ?!?!?!?! どういう事だよ!!
「ど、どういう事……?! あいつらは、俺の無能に愛想を尽かして、アレックスと楽しそうに……」
「彼女達の適性検査を再度受け直した時に発覚したのだ……。いつから掛けられていたか分からんが、記憶の混濁具合から見て、年単位だ。アレックスは彼女たちを道具とし、愛するお前を憎ませるように記憶を改ざんし、自分の欲望の捌け口として利用していたのだ……」
アレックスが魅了を掛け、洗脳していたという事……? 俺を裏切ったわけじゃなかった……? いつから……?! いや……半年前のあの時からか……? アレックスが、聖女のクリステルを探しに来た、あの日からか……?! いや、もっと前か!? だとしたら、俺が受けてきた五年間の罵倒は、彼女たちの本心じゃなかった?
「……とりあえず、彼女達の洗脳は王国の神官たちによって解呪された。今は大聖堂の地下の治療院で休ませている。……だが、真実に気づいたショックで、まだ精神的に落ち着ける状態ではない。自暴自棄になって、いつ自らの命を絶つか分からん状況だからな……」
「そうか……」
全ては、アレックスのせいだ。 俺の心の中に、今まで感じたことのない、黒くドロドロとした熱い『殺意』と『怒り』が、じわじわと込み上げてくる……。 あいつ……! 神聖な冒険者の仲間を、俺の幼馴染を、ただの性奴隷として扱い、俺と彼女たちの人生を弄んだのか……!!
「彼女達は、ベッドの上で意識が混濁しながらも、いつも何度も何度も……後悔の涙を流し、謝罪の言葉を誰かに向けて呟いている……。きっと、本来の恋人や好きな人であった、そなたに対してだろう……」
「……そっか」
「ルイスどの。……辛いだろうが、彼女達の元へ行って、声をかけてあげてくれぬか? そなたが許せば、彼女たちの魂は救われるはずだ」
フィリシアは、同情の目で俺を説得してくる。 ……たしかに、洗脳されて、魅了されていたのは事実だ。彼女たちは被害者だ。頭では理解できる。
だが。 だからといって……今更会って、昔のように抱きしめ、「許すよ」なんて言葉をかけて、元鞘に戻るつもりなんて、毛頭ない。 今が幸せだし、俺にはヒナルという、心から本当に好きな人もいる。それ以外にも、コタースやスルト、双子たちのように、俺に純粋な好意を持ってくれているであろう子たちもいる。 だから、冷たいようだが……俺はもう、過去の女である彼女達に、何の恋愛感情も興味もない。
それに。 何よりも……。 いくら魅了されていた(強制だった)とはいえ、彼女達の純潔の身体は、すでに何百回、何千回と、あの憎きアレックスに抱かれ、犯され、汚されているのだ。 俺と肌を重ねる前に、あいつの精液を注ぎ込まれている。その事実は、どうやったって消えない。
……正直、そんなクズ野郎の痕跡が残るヤツらに会いに行き、慰めるなんて……『気持ち悪い』。
被害者だとは分かる。彼女たちに罪はない。 だが……、生理的な嫌悪感、気持ち悪いものは気持ち悪いのだ……。他人の、しかも宿敵のモノになった女を、再び愛せるほど、俺の心は広くない。 それでも平気で「大丈夫、愛してるよ」と思えるやつは、よほどの聖人君子か、相当なお人好し(バカ)だろう。 これは、実際に何年もかけて愛した女を寝とられ、地獄の底から這い上がってきた男にしか分からない、生々しい感情だ。
「……悪いが、それはできない。俺は行かない」
「なっ……何故だ!? 元・婚約者なのだろう!?」
「今の方が、大切だから……。過去の亡霊を慰めるために、今の幸せを壊したくない」
「お兄さん……」
俺の冷徹な決断に、ヒナルは何故か、まるで自分事のように泣き出しそうな、悲しそうな表情を浮かべる……。きっと、自分の恋が叶わないと知った自分と、彼女たちを重ねてしまったのだろう。
「そうか……、男としての矜持か……。なら、仕方がない……。すまぬ、余計なことを言ったな……」
フィリシアは、俺の瞳に宿る暗い炎を見て、それ以上は踏み込んでこなかった。
クリステル。シュー。エアロ。 三人とも、悪いが……、俺はお前達の事は、もう昔のように愛おしい目で見てあげられない……。 残酷だが、誰かの所有物になった『汚いモノ』としか、見れなくなったからだ……。許してくれ。お前たちは、アレックスを憎んで、過去の思い出の中で生きてくれ。
重苦しい沈黙が地下室に続くと……。 ガチャリ。
「終わったのじゃーっ!!」
奥の検査部屋の扉が開き、一人、綺麗な赤い髪の少女が、両手を上げて飛び出してきた。
「のじゃ! のじゃ! やはり我は、大魔王の生まれ変わりだったのじゃー! これで魔界を征服できるのじゃー! ルイス、褒めるのじゃー!」
と、スルトが能天気に明るく出てきたのだった……。
~後書き~
ルイスがクリステル達に思う気持ち。これは本当に寝取られた経験のある人の(作者自信も経験ある)思いだと思います。半端じゃないくらいの双方にとっての恨みは計り知れないです。嫌いな憎い男の体液がついた大切な人なんて嫌になります。普通なら…。しかし、クリステル達にはちゃんと救済があります…。それは是非、見ていただけたら嬉しいです…。
ルイスがクリステル達に思う気持ち。これは本当に寝取られた経験のある人の(作者自信も経験ある)思いだと思います。半端じゃないくらいの双方にとっての恨みは計り知れないです。嫌いな憎い男の体液がついた大切な人なんて嫌になります。普通なら…。しかし、クリステル達にはちゃんと救済があります…。それは是非、見ていただけたら嬉しいです…。




