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27 魔族という種族

-ルイス視点-


 ……に、二百年も生きているロリっ子…だと!?  魔族特有の長い寿命なのかもしれないが、見た目はどう見ても十二歳だ。そんな事よりも、この歴史書にも載っていないような過去の真実、二百年前の『先代勇者』を知っていることの方に、俺の脳はショート寸前の驚きを感じていた。


「どうじゃ、ルイス! 我はお主の何倍も生きてきた、超年上の偉大なるお姉さんなのじゃ! のじゃのじゃ! ふっふーん! 敬うがよい!」


 スルトが、ちんちくりんの胸を張ってドヤ顔を決める。  可愛いけど、な、なんか腹立つ……。二百歳になってもこの精神年齢かよ。


「はいはい、偉い偉い。……ところでじゃのー? さっき契約の時……、お主から、勇者が使うスキルに似た神々しい波動を感じたのじゃ! あれって、さっきそのへんの大男を倒した、ルイスのスキルなのか?」


「……まぁ…、俺が使ったスキルだ。俺の中の魔力じゃなく、媒介を通した特殊なスキルだけどな」


「むむむ。やはり、お主……。血筋か何かで『勇者』に連なる者じゃないか? でも、今の時代には既に勇者がいるのだろう……? よく分からない矛盾した話なのじゃ! 歴史のバグか?」


 スルトは考えるように首を傾げ、腰を左右に揺らす。深紅の髪も一緒にゆらゆらふさふさと揺れる。


「そういえば、そこのヒナルは『聖女様』なのか? なんとなくだが、勇者と聖女はセットのような気がするのじゃ!」


「ううん……。私も、自分の力の正体はまだ分からないんだ……。だからこれから、王都の魔術学院に適性検査を受けに行くとこなの」


「ふふん、検査などしなくとも分かるぞ! ヒナルは絶対に聖女様なのじゃ! しかも、歴代でもトップクラスの『大聖女』様! 我には分かる、そなたの中から、とてつもなく強い慈愛の聖力がビリビリと伝わってくるからの!」


 今度はヒナルを見て目を輝かせながら、嬉しそうにピョンピョンと跳び跳ねる。


「……魔族、なのに聖女が怖くないんだな。そういうスルトはどうなんだ? 角があるし、人間とは違うんだろ? 魔界から来たのか?」


「うん! 我は魔族じゃからな!」


 え……。ま、まぞくっ!?  普通に何言ってるの?! 魔族って、人間の敵だろ!?


「えええええっっ!! 魔族って、あの魔王の配下の!?」 


 俺はつい、洞窟に響き渡る大声で叫んでしまった。すまんすまん!   「なんじゃあああ! 大声出すな! 耳が破けるのじゃ! 全く、人間はすぐに偏見でモノを見る! 魔族にも、人間と仲良くお茶を飲みたい平和主義な魔族だっているのじゃ! ふふ~んっ! そういうわけで、我は無害じゃ! これからも宜しく…なのじゃ!」


 スルトは小悪魔のようにウインクをした。  ……まぁ、確かに。本当に人間に害する凶悪な魔族なら、鎖が解けた瞬間に、恩を仇で返してもう既に襲ってきているはずか……。  ツンツン、とヒナルが俺の服の袖を引き、頬を軽く突く。


「ねぇねぇ、お兄さん。魔界とか魔族って何? 地獄の悪魔みたいなの?」


「んー、魔族っていうのは、一般的には異次元の『魔界』に住んでいて、人間を侵略しにくるっていうのが定説で……」


 俺が一般的な歴史の知識を話しかけている最中に、スルトがムッとした顔で横から喋り出す。


「違うのじゃ!! 人間どもが勝手に作った嘘の歴史じゃ!! そもそも『魔界』なんて、別の世界なんて存在しないのじゃ!! 我ら魔族も、ヒューマンや他の種族と同じ、この世界の人間なのじゃ!!」


「えっ? そうなの?」


「ただ、ちょっとばかし魔力が強い種族というだけで……昔、神々から恐れられ、迫害され、『追放』されただけなのじゃ……」


「追放って……」


 俺が問いかけると、スルトは何故か寂しそうに、暗い影を落として俯いた。


「ラビット族やケット・シー族、エルフ族等と同じ、ただの『亜人』なのじゃ……。ただ、生まれつき魔力が人間より数倍強い……、角があって見た目が少し魔物みたいという、それだけの理由で。魔族と名付けられ、住処を追われ、泥をすすって生きてきたのじゃ……」


「……」


「そういえばスルトも、それだけ高い魔力を持っている…って事になるよね?」


「今は無理なのじゃ……」


 スルトはそう言うと、首の周りの髪をかき分け、奴隷の首輪の下にある、皮膚に食い込んだもうひとつの『赤黒い金属の首輪』を見せる…。  重々しい呪詛の文字が刻まれている。


「この『封魔の首輪』がある限り、スキルはおろか、簡単な魔法すら使えないのじゃ……。力(腕力)だけはそのままでも、こんなか弱い美少女の体だと、大人の男には勝てずに捕まっちゃうのじゃ……」


「そっか……」


 俺には、今の力ではどうする事もできないのか……?


「……そういえば、人間に悪さをする、いわゆる『魔物モンスター』……、ああいうのは、魔族とは違うのか? 俺は今まで、魔物と魔族は同じだと思ってたけど」


「違うのじゃ! 人間に悪さをするアレは、神々が自分たちの都合のいい戦争を起こすために、遊び半分で作った、魔族に似せただけの『ホムンクルス(人工生命体)』タイプの操り人形なのじゃ……。ただの本能だけで動く獣じゃ。でも、アレを作るためには、莫大なエネルギー源として、大きな魔力を持つ『生きた人間の命』が必要で……」


「……ちょっと! ちょっと待って!! 大きな魔力を持った人間って……、まさか……。神様が、魔族の命を奪って、魔物を作ったの……!?」


 ヒナルは、そのあまりに非道な真実に、口元を両手で覆い、びっくりして驚く……。


「そうなのじゃ……。だから神々は、自分達の遊びと支配の為だけに、はるか昔……ヒューマン族に嘘の歴史を吹込んで、魔族を『世界の敵』として迫害し、捕獲して材料にしたのじゃ……」


 ……重い。  そういう事だったのか……。昔の神々は、なんて残酷でバカなんだろうか……。自分たちの地位を守るために、一つの種族を犠牲にしたのか。  じゃあ、スルトが「重要人物」として監禁された理由とは? 俺はふと連想して、最悪の可能性を思い付いた。


「じゃあ、スルトが捕まって監禁された理由とは、まさか……? また神の使いが、新たな魔王や魔物を作る『材料』にするために、魔力タンクとして捕まえたってことか!?」


「それは分からないのじゃ……。記憶がないからのう。まぁ、ホムンクルスを作られたのは遥か昔の『神話の時代』だからの……、今更そんな事をするヤツがいるとは思えんが。ただ、さっき話した、我を捕らえた『黒ずくめの女』が何者かで、全ての謎が分かるはずなのじゃ!」


 ヒナルは、そのあまりに巨大な陰謀の話に震えながら、俺の顔を見上げてきて……。俺の服の袖を、強く握りしめた。


「じゃあ、尚更私達が側にいないと……また、あの子が狙われちゃう……。お兄さん……? 私達と一緒にいた方が、スルトちゃんも安全なんじゃないかな?」


「そうだな。こんなか弱い……態度と口はデカいけど、記憶喪失の女の子を、ここに預けて『はい、さようなら』…なんて、男としてできるわけないしな……。落ち着いたら、その『封魔の首輪』をどうやって外すか、学院の図書館で手掛かりを探してもいいし。……ついでに、ヒナルも元の世界に送る方法を探さないとな」


「なんと!! ……ヒナルは、異世界から『転移』してきたのか!?」


 あっ! しまった!!  極秘事項だったのに、俺は話の流れでうっかりと喋ってしまった……。


「……スルト、今の話は聞かなかったことにしてくれ。この事は、絶対に黙っていてほしい……」


「いや、気にしないで大丈夫なのじゃ! 我がそんな薄情に見えるか? 我は秘密を広めるつもりもないしの! お主たちを信じるのじゃ、他言無用じゃ!!」


 スルトは「のじゃのじゃ!」と連呼しながら、小さな指でピースサインを作りながらにニコニコする。その底抜けの明るさに、少し救われる。  だが、ふとヒナルの方を見ると……少し顔が落ち込んでいるようにも、複雑な表情をしているようにも見えた……。  ヒナルと目が合うと……。


「……お兄さん……」


「ん? どうしたんだ?」


「もし……。もし私が、『元の世界に帰りたくない!』って言ったら……どう…しますか?」


 ヒナルは俯きながら、冷たい石の床を見る……。その表情は、いつかの雨の日の子猫のように、とても寂しそうで、孤独に見えた。  元の世界で虐められ、絶望していた彼女にとって、「帰還」は希望ではなく、地獄への切符なのかもしれない。  だから、俺は迷うことなく、真っ直ぐにこう答える。


「ヒナルがここにいたいって言うなら、それはそれでいいし、俺は大歓迎だよ。……なんつーんかな……? 俺がヒナルと、こうしてずっと一緒にいればいいだろ? ここがお前の居場所なら、俺の家をお前の家にしていい。……でも、もし将来、やっぱり帰りたくなった時は、引き留めはしない。ヒナル自身が、自分の幸せを考えて行動したらいいよ?」


「……お兄さん……っ」


 ヒナルの目に、大粒の涙が浮かぶ。


「だから……ヒナルがどっちの道を選んでも、俺と一緒にいる間は、俺がお前を守ってあげる。何があっても、お前を一人にしない。これは、俺の誓いだ!」


 ヒナルと暫くいて、何故か「保護者」以上の、特別な情が沸いてしまっている自分がいる。  今が凄く楽しい……。この子が来てから、俺の止まっていた灰色の世界は、色鮮やかに何もかもが変わった……。  だから、彼女が居なくなるのは、俺だって寂しい……。そう、本気で思った……。


「……はいっ!! 私、お兄さんのそばにいます!」


 ヒナルが、俺の胸に飛び込んできた。俺は彼女の背中を、優しく抱きしめ返した。


「むむっ!! イチャイチャするな! ……おっ!! 上から、ドカドカと足音と声が聞こえてきたのじゃ!! 助けが来たのじゃな!」


………。

……。

…。


 間一髪のタイミングで村の衛兵達とジェイさんたちが駆けつけ、捕まっていた村人やスルトの安全確認をしてから、皆で宿へと戻る事になった。  村人や捕まっていた人達からも、泣きながら「ありがとう、一生の恩人だ」とたくさんお礼を言われた。  村に報告しにいったルシルとファデューの二人も、全てを自白し、呪術で操られていたと説明をしたらしい。緑骨団の壊滅という大功績もあり、かなり忙しい1日だった……。  というか、外に出ると、もう朝日が昇っていて、眩しい朝の光が世界を包み込んでいた……。    宿に戻るなり、起きてきた女将さんや村人たちにも、「英雄!」「ルイス様!」「凄い人たちが泊まった! この日は村の記念日にする!」等という、国賓並みの大歓迎扱いだった。  俺達は、事情聴取を終えたジェイさんや、ルシルさんとも合流して、疲れ果てた身体を引きずるように、それぞれ各部屋に戻る。


 今日は、本当に疲れた……。肉体的にも精神的にも限界だ。  最後は英雄扱い……。たまたまなんだよー! たまたま!  ふぅ……、これ以上はあまり目立ちたくないんだけどね……。とりあえず……今日はまじ疲れた、死んだように寝よう……。  俺はベッドに倒れ込み、泥のように眠りに落ちた。


………。

……。

…。  


 ぴーぴー…… と、窓の外から小鳥の鳴く平和な囀りが聞こえてきて、朝日の眩しさが、重い瞼を閉じていてもしっかりと感じとれる。  あぁ……朝なんだな……。昼でも夜でもない……。うん。健康的な朝だ……。それははっきりと分かる。昨日の激戦が嘘のような静けさ。  まだ筋肉痛が酷いし、もう少し寝てたい……が……。    (んぁ……? なんだ、これ……?)


 俺の身体の……、下半身がやけに熱い。というか、健康的な若い男の性として、早朝から無意識にロケット発射準備が完了してしまっている。  それはいいとして……。  それと同時に、毛布の中で、何かがモゴモゴと動いて……。やけに、ピンポイントで当たるんだよ……。俺の下半身、そのテントの先端に……。


 (なんだこれ……、やわらけぇ……。それに、すごく温かい息がかかってる……?)


 寝ぼけた頭で手を伸ばすと、もちもちとした、赤ちゃんの肌のような極上の食感が指先から感じとれる。ちょっと固めの、張りがあるマシュマロだ……。  二つある。


 (感触が気持ちよくて、触り心地が良くて、なんか甘いいい匂いがする……。これ、絶対に男のものじゃないな……)


 次第に俺は、心地よい夢の中から現実へと生還していく……。しかし、この感触は夢じゃない……! 手の中で、トクン、トクンと温かい鼓動が脈打っているのだから!


「はっ!?」


 俺は飛び起き、慌てて重い毛布を勢いよく剥ぎ取った。  その瞬間。  俺の目に入ってきた光景を見て……、俺の全身から、滝のような冷や汗が噴き出した……。


「んんっ……お兄さん……。おはようございますぅ……。もう、朝ですか……?」


「むにゃむにゃ……ルイスのテント、おっきいねぇ……。食べちゃうぞぉ……」


「すぅ……。んがっ!? 寒い! 毛布を返すのじゃ、我が主よ……。我は裸族だから、服を着ていないのじゃぞ……」


 そこには。  俺の両腕に抱きつき、脚を絡ませ、俺の胸に顔を埋めるヒナル。  俺の股間に顔を押し付け、ウサギの耳で俺の腹をくすぐっている、薄着のコタース。  そして、生まれたままの全裸の姿で、俺の背中にぴたりと張り付いている、記憶喪失のロリ魔族、スルトの姿があった。  三人の美少女が、俺のベッドを占拠し、俺をサンドイッチにしていたのだ!!


「はぁぁぁああああああああっ!!? な、なんで!? なんで全員ここにいるのぉぉぉぉっ!!?」


 俺の悲鳴が、平和な朝の宿に、けたたましく響き渡ったのだった。

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