↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/226

20 ヒナルの天敵…


-ジェイ視点-




 まさに、一瞬の出来事であった。  やはり、拙者が怪しいと睨んでいた通りであった……。ここ最近、近隣の村で『緑骨団』の残党が勢力を増し、若い女性の誘拐被害が拡大していると聞いて、警戒を怠らぬようにしていたつもりだったが……。  まさか、拙者の目と鼻の先で、宿の二階の窓からヒナルどのが連れ去られてしまうとは……。




 あの時、暗闇から現れた黒ローブの男。その身のこなしは、拙者の動体視力にも収まらないほどの人間離れした動き……。まるで、風に溶け、影と一体化する本物の『忍者』のごとき神速であった。  拙者の完全なる不覚であった……。    (とりあえず……。ヒナルどのは、魔法か薬の類で深く眠らされている様子……。しかし……。アジトに運ばれて目が覚めれば、あの連中に何をされるか分からぬでござるな……!)




 拙者は昔から、魔法の才能こそからっきしでござるが、身軽さやスピードには絶対の自信があり、夜の闇に紛れる隠密行動にも長けている。  『ポーター(荷物運び)』という地味な裏方の仕事をしているのも、目立たず気配を消すこの拙者のスキルに合っていたからでもある……。




 (ルイス君達が、拙者の残した手掛かりに気が付いてくれれば良いのでござるが……)




 宿に戻り、強大な力を持つルイス君を呼びに行きたいところだが、敵のあの速さでは、目を離した一瞬で完全に見失ってしまう……。  それに、恥ずかしながら"今の状態の拙者"では、多勢に無勢。あやつらと正面から戦うのはどう考えても無理があるでござる。  そこで拙者は一か八かの賭けで、奴らを追跡しながら、拙者が通ってきた道に『魔力を込めた発光石』をポツリポツリと落としてきたのでござるが……。  あの賢い二人なら、きっと気付いてくれると信じるしかないでござる!




………。


……。


…。




 森の最奥、鬱蒼と茂る茂みの奥に隠された、自然の洞窟を利用した広大なアジト。  拙者は呼吸と鼓動を極限まで殺し、岩陰に身を隠しながら、冷や汗を流して中の様子を伺っていた。




「なぁ~! おい、こいつまだ起きねーぜ? もう一時間も経ってるってのに」




「チッ、安物の睡眠薬が強すぎたんじゃねーの? ったく、手間かけさせやがって」




 むっ……。連中は緑骨団のメンバーか……?  焚き火の明かりに照らされたのは、白と黒の髪が入り乱れて小汚ない服を着た、目の下の隈が酷い男二人と、やせ細った少女が二人。  彼らの顔つきや服装は、異世界人とはどこか違う。以前ルイス君が言っていた、ヒナルどのと同じ『迷人(転移者)』の少年たちか。  そのうち一人の男は、以前ルイス君に斬り落とされたのか、右の片腕が肘から先しかなかった。傷口はまだ生々しい。




「ほんと、こいつがいなければ……私たち、こんな気味の悪い変な世界に飛ばされなくて済んだのに……。マジで最悪っつーの」




「ちょっと~、文句言ってないでさ。こんなやつ、さっさと殺しちゃわない? こいつの顔見るだけで、吐き気がしてイライラするんだけど」




「バカ、勝手なことするな。……こいつがいなかったら、トモヤも死なずに済んだのに……! それに私とミキだって、あんなおっさん連中に身体を……っ! うぅ……っ!」




 茶色い髪をした少女は、焚き火の前で膝を抱え、半分泣きじゃくっている……。服はボロボロに引き裂かれ、露出した肌には無数のタバコの火傷跡や、暴力による青黒い痣があった。  どうやら、元の世界から来た彼らも、この残酷な世界で底辺の過酷な目に遭い、その精神を完全に病んでしまっているようだ。  ヤツラはまだ、影に潜む拙者の姿が見えていない。今すぐにでも飛び出して助けたいが、今はまだ無理でござるな……。  敵の戦力が未知数すぎる。確実に救出するチャンスを伺ってからじゃなければ……。




「んっ…… ん……?? えっ!? ちょ!! な、なにここ!? 私、寝てたはずなのに……!」




 む……。騒がしい声に反応して、ヒナルどのが目を覚ました……。まずいでござるな……。




「あ、あれ!? なにここ!? って……!! 中村!? それに、ミキ!? あんたたち、生きてたの!?」




 ヒナルどのは、やはり相手の事を知っていたのか。  相手側の少年少女たちも、目を覚ましたヒナルどのを囲むように見下ろし、憎悪と狂気に満ちた顔でニヤニヤと嘲笑っている。




「お目覚めいかがっすかー?! ヒナルちゃんよぉ! ぬくぬくと温かいベッドで寝てたところ、悪かったな!」




 仲村と呼ばれた、黒髪の男がヒナルどのに唾を吐き捨てるように笑い返す。




「なんで、あんたらがここに!? それに、その腕……」




「はぁ? なんでって、お前を地獄に突き落とすために決まってんだろ! トモヤが死んだって言うのに、お前だけ余裕ぶっこいて、あいつに守られてヘラヘラしてんなよ! ふざけんじゃねーぞ!!」




 片腕のない男が、ヒナルどのの髪を掴み、狂ったように怒鳴りつけた。




「いっ……! 痛い! 離してよ! トモヤのことは……あいつが私を襲おうとしたから……自業自得でしょ!?」




「調子こくなっつーの! お前、すぐ奴隷市場に売りさばいてやんだから! あんたのその綺麗な身体、男どもに回してボロボロにしてやる!」




「あんたのせいで、私達が毎日どんな目に遭ったか、わかってんの!? 私たちは緑骨団に拾われて、豚小屋以下の生活をしてたんだからね! お前も同じ目に遭え!!」




「それは、私をいじめてた、あんたたちのせいじゃないし!! 逆恨みしないでよ!」




 ヒナルどのの知り合いなのだろうが、彼らの口から出るのは自分勝手な暴言と、醜い嫉妬ばかり。聞いているこちらは、全く気分が良いものではない。




「うるせぇ! ヒナル! あんたは奴隷になって誰かに売られるってわけ~。あんたみたいな生娘なら高く買ってくれるってさ! 『ルシル』さんのおかげだね。売られて、たっぷりと絶望味わいながら苦しみな!!」




 ……ルシル……!!  まさか……、あの『ルシル』がここにいるのか!? この緑骨団の幹部として!?  ルシル……っ!!!  あの男の顔は、一生忘れもしない……。拙者の誇りを奪った、拙者の最大のかたき!!




「おう!! ボウズども! 俺が手配した極上のガキは、もう目ぇ醒ましたか?」




 むっ……。  アジトの奥から、乾いた足音と共に、少し背の高いか細い男が姿を現した。




 (あいつは……! あいつは!! やっぱりルシル!! クソッ!! 今すぐ出ていき、今すぐにでも"あの事"を問い詰め、その細い首をはねてやりたい所だが……。まさかアイツもここのテリトリーに絡んでいたとは……。相手が悪すぎるでござる……。しかし、ヒナルどのを助けなければ!!)




 拙者は短剣の柄を握りしめ、溢れ出そうになる殺意を必死に抑え込んだ。




「へへっ、ルシルさん! ボウズどもにゃー、もったいねぇ上玉っすよ。どこで見つけてきたって?」




「ヘルポリア村に来ていた冒険者の宿っす! 俺の『転移』のスキルで、音もなく拐ってきたっす! その女は俺らの復讐相手っす! 売り飛ばす前に、好きにしていいっすよ!」




「ほう!! 復讐なぁ!! クックック、いい性格してやがる。底辺は底辺らしく、泥をすすり合ってろ。……よし、サービスだ。奴隷商が売る前に、少しだけお前らで楽しませてやる! どうせ調教は必要だからな。終わったら俺を呼びにこい! 傷物にはすんなよ!」




 ルシルはヒナルどのの恐怖に引きつる顔を舐めるように見つめ、下劣な笑みを浮かべると、そう言い残して再び奥の部屋へと入っていった……。




「さぁさあーヒナルちゃんー、まずは楽しもうか?! 俺たち、この世界に来てからずっと我慢してたんだぜ? 元の世界じゃやれなかったけど、ここなら合法だもんな!」




「い、いや……!! 来ないで!! お兄さん! ルイスお兄さん!! 助けて!!」




 ヒナルどのが悲鳴を上げる。危ない……。  ルイスどのはまだでござるか……!? もう、これ以上は待てぬ!!




「お前ら最低~。キモいんだけど。……まぁ、憎いヒナルが泣き叫びながらヤられるなら、笑ってみててやるけどさ~」




「まずは俺からな! トモヤの分まで、たっぷり可愛がってやるよ!」




「や、やめてよ!! 触らないでぇっ!!」




 仲村と呼ばれた男が、下卑た笑いを浮かべながらズボンのベルトに手をかけ、抵抗するヒナルどのの上に覆いかぶさろうとする。  ――プツン、と。  拙者の中で、一人の父親としての理性の糸が切れた。  拙者はいてもたってもいられず、風と同化して一息に男の背後へと忍び寄り……男の首元に、冷たい鋼の刃をかっ切った。




「ぎゃ~~~っ!!? あ、あぐっ……!? な、なんだ……!?」




 仲村の首から、鮮血が噴水のように舞い上がる。




「な、仲村!!? だ、誰だてめぇ!?」




 拙者は返事もせず、男の身体を容赦なく蹴り飛ばすと、すぐさまヒナルどのの小さな身体を抱え上げ、軽業師のように後ろへと大きく飛び退いた。




「えっ……? ジェイ……さん!? どうして……!」




「そこで、拙者の背中でじっと待っているでござる。後は、このジェイが引き受けるでござる!」




 拙者はヒナルどのを背中に隠し、血塗られた短剣を構えるが……。




「ひぃっ!? ば、化け物!!  ルシルさん!! ルシルさんを呼んでこよう!!」




「でも、仲村があ!! 血が止まんないよぉっ!! 死ぬ、死んじゃう!」




「もういやぁ~!!! なんでこんな目に!! 帰りたい、日本に帰りたいよぉっ!!」




 突然の襲撃と仲間の惨状にパニックになった、片手を失った少年と少女二人は、腰を抜かし、泣き叫びながら奥の方へと逃げ出していった。  追う必要はない。拙者の目的は、ヒナルどのの救出ただ一つ。




「あ、ありがとうございます……! ジェイさん、助けに来てくれたんですね……! 私、もうダメかと……!」




 ヒナルどのが、拙者の背中で震えながら、安堵の涙を流し出した。




「気にする事ないでござる! ……ヒナルどのの怯える姿が、どうにも拙者の可愛い娘達と被ってしまってな。父親として、助けないわけにいかないでござるからな! ははは!」




 拙者が安心させるように笑った、その時だった。  洞窟の入り口の方から、ドカドカと木々をなぎ倒すような激しい足音と共に、見知った二人の人影が見えた……。




「ヒナル~!! どこにいる~っ! 無事か!! 怪我はないか!!」




「ヒナルちゃん~っ! ウチたち、助けにきたよ~っ!! 変な奴ら、やっつけてやる~っ!」




「あ……! ルイスさんだ……! コタースちゃん!」




 うむ、ルイスどのか……。ついに間に合って来てくれたのか……。  その声を聞いた瞬間。  拙者は短剣を下げ、胸の奥から湧き上がる妙な、そして絶対的な安心感を覚えた。  血の繋がった家族以外に、男の背中を見て、こんな安堵の安心感を覚えたのは、拙者の長い冒険者人生で初めての事だったからである……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。