576話 ばればれの嘘
「じゃあそろそろ行くわ」
リリちゃんたちが戻ってくる前に、セツはそう言って立ち上がる。
「ブラン兄ちゃん倒しに行くから首洗ってまってろよ」
「はは! それにはまず次の戦いに勝たないとね」
「もちろん。ちゃんと見とけよな」
「もちろん。次の対戦相手かもしれない人はよく見て対策を練らないとだからね」
軽口を叩き合い、そのまま拳を合わせてグータッチしている。……おぉ。なんか男子〜って感じだな……ちょっと兄弟みたいだ。
「負けてきていいですよ〜」
「うるせぇ、オレはお前より上に行く」
「はー? こんなもん対戦相手の問題なんですけどー?」
「魔法につられて剣離してるやつと同等にはならねぇし」
席の後ろを通りながら、物理的にもバシバシ叩き合っている……う、うん。こっちはお子ちゃまかな……。
「セス君!」
「ん?」
「あの……私、信じてます!」
あぁ、これがヒロイン力。
私が攻略キャラならやられてたね。
振り向いてまっすぐこんなこと言われたら。
もちろんうちの弟も例外ではないので、そこはまるで2人だけの世界。ずいぶんとやさしい顔をして、カッコつけて頷いていた。
いやそこは返事しなさいよ!
ありがとうとか言いなさいよ!
ここで姉を出すと野暮だから言わないけど‼︎
というかこれ、私も声かける流れなのか……? 正直私は、申し訳ないけどセツより帰って来ないノア君の方が気になる……あ!
「それじゃあ私は見送りついでにお花摘みに行ってこようかな!」
そう言って勢いよく立ち上がる。
勢い、何事にも大事だから!
勢いは不自然さを押し流す力があるから!
一瞬私もスタンドで観戦すると言おうかと思ったけど、そうするとアルやフィーちゃんがついてきかねない。それは困る!
だからもう、理由が見送りとお花摘みしかない!
「……はぁ?」
案の定、弟には不審者を見るような怪訝な目を向けられる。もうちょっと視線に手心がほしい。姉ですよ私は、あなたの!
「……まぁ好きにしたら?」
「お! 意外! 断られるかと思ってどう着いて行こうか考えようとしてたのに!」
「どうでもいいけど、着いてくるならはやくして」
そう言われて、いそいそとセツの方に向かう。アルの前を通ると、「遅かったら探しますからね」と言われた。な、なんかバレてる⁉︎
「じゃ、勝ってくるわ」
「お花摘みついでに見送り行ってきます!」
「くー姉はさ、なんかもうちょっと恥じらいとか言い方とかないの?」
「うっ」
セツに痛いとこ突かれながら、みんなに手を振って通路の方へ移動する。
言い方は……だって強調しないと着いてきちゃうかもだから! 仕方なかったんです‼︎ 私だっていつもはもう少し恥じらいはある‼︎
実際強調することで誰も着いて来なかったし、突っ込まれなかったんだから成果は上々……だけどなんか何かに負けた気はする!
「……で? 何しに行くの?」
「あ、バレてる」
「いや逆にあれに騙される人いないだろ。フィーも心配して見てたろ」
弟、フィーちゃんが好きすぎる。
嘘、私はわかんなかったですよ?
フィーちゃんちゃんと手を振ってくれたし!
「あれで騙されるのはレイだけだろ。つーかあいつも騙されるというか、どうでもいいからほっとくだけだし」
「友達への評価……」
「いやあいつの判断基準、実験に有用かどうかしかないから」
「そうだけど……そうじゃないでしょう」
「いやだってそうじゃん」
石作りのここはひんやりしていて音がよく響く。自分たちの足音を響かせながら、通路を進む。移動する人たちがいないわけではないけど、あまり会わない。
「で。話それましたけど? 弟の試合差し置いてなにすんのって言ってんの」
「だって……セツ勝つじゃん」
「そうだけどそうじゃないだろ、姉としては」
「え、家族に試合見てほしいタイプだった?」
「いや全然、まったく、特には」
傷つけたかと心配して見上げても、この子は目も合わない。こちらを見ず、まっすぐ前だけ見て歩いている。……スピードは多分落としてるけど。
「だよね……授業参観とか嫌いだったもんね……」
「それは今更だろ。つーか言わないなら聞くけど、ノアのこと迎えに行こうとしてる?」
「おー、あたり」
「だろうな。でもそれなら、別に普通にそう言えばよかったんじゃね?」
ぶっきらぼうな返しながらも、気になるのか。やっと顔がこちらを向いた弟は、私を見てそう言った。今度は私がそらす番だ……。
「その……あんまり大所帯で行くと、かわいそうかな〜って? 具合悪いかもだし」
「それなら人でいた方がいいだろ」
「ぐぬっ」
階段を降りながら聞かれて、突き落とされたかと思いました。幻覚ですけど!
「……とにかく。1人のほうがいいなって思ったのよ。あんまりノア君はバレたくないことだろうから」
「ふーん? まぁ別にどうでもいいけど」
「いや友達のことはどうでもよくはない!」
「隠そうとしてる方が言うな」
それはそう。そうなんだけどね!
でも友達は大事にしてほしいなって!
そういう複雑な姉心がありまして……。
「ほら、スタンド行くんでしょ。スタンドあっちね。出場者用の控室は反対だからもう行くよ」
「あ、なるほど?」
「見つけたらさっさと席戻りなよ、じゃ」
指をさして方向を教えてくれる。まぁこの通路は席を囲むようにあるから、あんまり迷うことはないんだけどね。
「セツ」
立ち止まった私を振り向かずに歩いて行く背中に、声をかける。
「頑張ってね!」
一辺倒な声がけにはやっぱり振り向かないまま、手をひらひらとさせて応えた。だから人の顔見て話しなさいってば……まぁいいか。
「私も、姉失格ではあるし。お互い様かな……」
セツに背を向けて、スタンド席の方へ歩いて行く。ブランの方がよほど兄弟っぽかったし、いいお兄ちゃんだよなと思いながら。
「……でもまぁ、私にしかできないことも、多分ある……たぶん」
そう信じて、私は道を進むしかない。
そうやってやってきたから。
さて……ノア君の様子はどうだろうか?




