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フラグ回収から始まる悪役令嬢はハッピーエンドが見えない〜弟まで巻きこまないでください〜  作者: 空野 奏多
悪役令嬢、物語に挑む〜ゲームの舞台もフラグだらけです〜
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575話 2回戦決着

***



「ちょこまかと逃げ回って! まるでネズミみたいで卑怯ですのよ!」

「姫様こそ、いささかキツツキのように単調ではございませんか?」



 いらだちの滲むその顔に向かって、優雅に微笑んでみせた。しかしその間も止まらない攻撃の手に、ステップを踏むような軽やかな足運びをみせる。



 けれどどうも、言葉運びは間違えたらしい。




「……なら的を固めてしまえばいいですのね」

「げっ!」




 すっと冷気があたりを包む。

 これがなぜ起こるかを知っている彼は。

 次に何が起こるか、予想できた。



 あわてて距離を取ろうとレイピアをはじくものの、リリチカの目はまっすぐヴィンセントをとらえて離さなかった。



 その顔に焦りはない。

 なぜなら魔法は遠隔攻撃。

 そしてそれは彼女の最も得意とするもの。



「水の神セイレーヌと火の神マウティスの名のもとに集いし精霊よ——」

「は、詠唱⁉︎ いやいやいや! 最初から容赦なしかよ⁉︎」

「その力を我に寄与し賜らん」

「もうちょっと余裕を楽しむとか、手心は……!」



 リリチカは『愛し子』である。

 それは原初の神の子の生まれ変わり。

 魔力が強く、神に愛されし者。



 それゆえに、呪文を唱えたなら必ず精霊が現れる。




「——氷結せよ、雪華(せっか)!」




***



「えっ! わ! すごい……! 水と火の精霊たち⁉︎ 数多くない⁉︎」



 それはどこからともなく現れた。



 子供のような、妖精のようなものが青と赤の光の玉みたいに、場内に浮いている。前にフィーちゃんが大会でみんなに見せてやつ……!



 きょろきょろする私とは違い、生徒会諸君は驚いてはいるけど落ちついてる。なんでそんな感じでいれるの⁉︎



「あぁ、手加減のためですね」

「手加減⁉︎ どこが——」

「1人だと微調整が難しいですから、ほら」



 アルが指差した先で、ある意味見慣れた光と光景が見えた。そこにあるのは、というかいたのは、片足を凍らされたヴィンスだ。



「あ! なるほど氷漬けにしすぎないために⁉︎ 詠唱理由が斜め上! チーテストだ!!!!」

「チーテストとは……?」

「チートの3段活用最上級形!」



 そう言った途端、左の方でため息がした。

 おい弟! 聞こえてるぞ弟!

 でもお姉ちゃん優しいから指摘しません‼︎



「で、でもこれできまっちゃいます! ローザ様は動けなくなっちゃいましたから、リリチカ様の勝ち……⁉︎」

「そうかもっ⁉︎」



 大興奮の女子(わたしたち)は、目を合わせてその瞬間を手を握りあい見守る。ヴィンスごめん! リリちゃんも私たちは大事だから‼︎



「いえ……剣が当たるか、相手が降伏するまでですから」



 だけど、結果はわかりきって見えるのに。

 観衆もそんな雰囲気だったのに。

 アルだけは、表情を変えずそう言った。



***



「その首、もらいましたの!!!!」



 勢いよく、レイピアが振られる。

 完全に首を刈る勢いで。

 ヴィンセントめがけて、一直線に——。



「⁉︎」



 ——振られたのにもかかわらず、そこに手応えはなかった。風を切る音だけが残った。




 そう、空ぶったのだ。




「いやいや……勘弁していただけませんか? その勢いで来られたら、いくら特殊な剣でも海に召されてしまいます……勝ちはお譲りしますから」



 先ほど、剣を振ったその先で。

 軽く両手を上げ、降参のポーズをとって。

 片足を凍らされたヴィンセントが告げた。



 それを見て一瞬目を丸くした王女は、忌々しげにそれを一瞥して剣を下ろした。



***



「……え⁉︎ なんでからぶったの……ってその前に、この競技危なすぎない⁉︎」

「今更ですか?」


 拍手しながらのツッコミがのんきに映ったのか。アルが少し呆れたようにこちらを見た。いや、だって見てたでしょうさっきの本気の振り‼︎


「危なくないですよ、あの武器に刃はありませんから。まぁ怪我しないとは言い切れませんが」


 それは安全とは言わないのですが?

 怪我、しますよね⁉︎

 アルも危なかったじゃん‼︎


「レイピアはともかく、刃なくてもさっきのレイ君みたいに大剣だったら骨折れるじゃん‼︎」

「それは——」

「はは、クリスティは心配性だね。あれは特殊な武器だから、大怪我にはならないんだよ」

「どういうこと?」


 大騒ぎは一番遠い席でも聞こえたらしい。ブランが笑って教えてくれそうだったので、体の向きを変えてブラン先生の回答を待った。



「あの武器は、全部魔石が埋まっていてね。それに魔法陣も彫られた特殊仕様なんだ」

「……というと?」

「闇魔法がかかってるんだよ。人を傷つける時に止まるようにね」



 え、そんな使い方あるんだ⁉︎

 いやまぁ……できる……のか⁉︎

 というかそれ、相当古いってこと⁉︎


 というか闇魔法使いの端くれのくせに全然何も気にせず見てたな……とちょっと恥じる。言われれば、全体的に黒かったかもだけどデザインだと思ってた。


 闇の魔石がはまってるかまでは、この距離では見えない。そう思ってみれば、見えたのかもしれないけど……。


「いやー! 面白いですよね⁉︎ だからそれもあって参加したかったんですよねー⁉︎ あれ参加者しか見れなくて‼︎」

「あ、研究狂いがなんか言ってる」


 いかんいかん。

 スイッチを押してしまった。

 瞳がアメジストのごとく煌めいている。


「いや見たいでしょそんな貴重品! しかも! すんごいちっちゃいんですよ魔法陣がまた! 闇魔石の裏に見えるんですけど‼︎」

「そうなんだ……?」

「それを触った上で振れるんですよ! いやぁ、だから全力で振って勝ちたかったんですけどねー⁉︎」

「ちょっとは危険も考えてね……」


 魔術の研究にも余念がないレイ君は、ちゃっかりそれも目当てだったらしい。どうりでね。面倒がりながら前向きだと思ったらコレよ。


「……でもじゃあ、あの空振りもそうなの?」

「なわけないじゃん」


 私の可愛くない弟クンが、大きなため息をつきながら指摘してきた。む! じゃあちゃんと解説してよね‼︎


 期待して視線を送ると、それに気づいたフィーちゃんもセツを見つめる。姉にはなびかずとも彼女には甘い弟は、解説を口にした。



「……詠唱してたかまではわかんないけど、あれは『幻夢』だと思うよ」

「げんむー?」

「雷と風の魔法。見え方って、光の屈指で変わるからね。蜃気楼ってわかる? あれは空気の層で光が屈折するんだけど……あー解説パス」


 面倒になったのか難しいのか、セツさんは先生役を放り投げてレイ君の肩を叩いた。


「じゃあ代わりまして。本来蜃気楼は高温と低温の差の境界でできるんです。屈折率が違うんですよ〜理由は密度なんですが……」

「みつど……?」

「ま、簡単に言うと空気の固さが変わるんです、光にとっては。それで反射の仕方が変わるんで、違うところに景色が見えたりするんです〜」

「へ、へぇー……」


 わかったような、わからないような。

 なんか反射されて見え方が変わる。

 それだけは、理解した。



「だから風魔法で空気の固さを変えて、雷魔法で光をいじればなんちゃって蜃気楼……『幻夢』ができるってわけですー!」



 簡単でしょ? と言わんばかりに笑顔を振りまかれても困る。とりあえず……ヴィンスもやっぱめっちゃ賢いんだなってことはわかった‼︎


「あれ最初から使ってたら、余裕で勝てたかも知んねーのに、さ」


 同じ雷使いとして思うところがあるのか。セツは少し残念そうに、文句でも言うみたいにアルの方を見てぼやいた。

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