575話 2回戦決着
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「ちょこまかと逃げ回って! まるでネズミみたいで卑怯ですのよ!」
「姫様こそ、いささかキツツキのように単調ではございませんか?」
いらだちの滲むその顔に向かって、優雅に微笑んでみせた。しかしその間も止まらない攻撃の手に、ステップを踏むような軽やかな足運びをみせる。
けれどどうも、言葉運びは間違えたらしい。
「……なら的を固めてしまえばいいですのね」
「げっ!」
すっと冷気があたりを包む。
これがなぜ起こるかを知っている彼は。
次に何が起こるか、予想できた。
あわてて距離を取ろうとレイピアをはじくものの、リリチカの目はまっすぐヴィンセントをとらえて離さなかった。
その顔に焦りはない。
なぜなら魔法は遠隔攻撃。
そしてそれは彼女の最も得意とするもの。
「水の神セイレーヌと火の神マウティスの名のもとに集いし精霊よ——」
「は、詠唱⁉︎ いやいやいや! 最初から容赦なしかよ⁉︎」
「その力を我に寄与し賜らん」
「もうちょっと余裕を楽しむとか、手心は……!」
リリチカは『愛し子』である。
それは原初の神の子の生まれ変わり。
魔力が強く、神に愛されし者。
それゆえに、呪文を唱えたなら必ず精霊が現れる。
「——氷結せよ、雪華!」
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「えっ! わ! すごい……! 水と火の精霊たち⁉︎ 数多くない⁉︎」
それはどこからともなく現れた。
子供のような、妖精のようなものが青と赤の光の玉みたいに、場内に浮いている。前にフィーちゃんが大会でみんなに見せてやつ……!
きょろきょろする私とは違い、生徒会諸君は驚いてはいるけど落ちついてる。なんでそんな感じでいれるの⁉︎
「あぁ、手加減のためですね」
「手加減⁉︎ どこが——」
「1人だと微調整が難しいですから、ほら」
アルが指差した先で、ある意味見慣れた光と光景が見えた。そこにあるのは、というかいたのは、片足を凍らされたヴィンスだ。
「あ! なるほど氷漬けにしすぎないために⁉︎ 詠唱理由が斜め上! チーテストだ!!!!」
「チーテストとは……?」
「チートの3段活用最上級形!」
そう言った途端、左の方でため息がした。
おい弟! 聞こえてるぞ弟!
でもお姉ちゃん優しいから指摘しません‼︎
「で、でもこれできまっちゃいます! ローザ様は動けなくなっちゃいましたから、リリチカ様の勝ち……⁉︎」
「そうかもっ⁉︎」
大興奮の女子は、目を合わせてその瞬間を手を握りあい見守る。ヴィンスごめん! リリちゃんも私たちは大事だから‼︎
「いえ……剣が当たるか、相手が降伏するまでですから」
だけど、結果はわかりきって見えるのに。
観衆もそんな雰囲気だったのに。
アルだけは、表情を変えずそう言った。
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「その首、もらいましたの!!!!」
勢いよく、レイピアが振られる。
完全に首を刈る勢いで。
ヴィンセントめがけて、一直線に——。
「⁉︎」
——振られたのにもかかわらず、そこに手応えはなかった。風を切る音だけが残った。
そう、空ぶったのだ。
「いやいや……勘弁していただけませんか? その勢いで来られたら、いくら特殊な剣でも海に召されてしまいます……勝ちはお譲りしますから」
先ほど、剣を振ったその先で。
軽く両手を上げ、降参のポーズをとって。
片足を凍らされたヴィンセントが告げた。
それを見て一瞬目を丸くした王女は、忌々しげにそれを一瞥して剣を下ろした。
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「……え⁉︎ なんでからぶったの……ってその前に、この競技危なすぎない⁉︎」
「今更ですか?」
拍手しながらのツッコミがのんきに映ったのか。アルが少し呆れたようにこちらを見た。いや、だって見てたでしょうさっきの本気の振り‼︎
「危なくないですよ、あの武器に刃はありませんから。まぁ怪我しないとは言い切れませんが」
それは安全とは言わないのですが?
怪我、しますよね⁉︎
アルも危なかったじゃん‼︎
「レイピアはともかく、刃なくてもさっきのレイ君みたいに大剣だったら骨折れるじゃん‼︎」
「それは——」
「はは、クリスティは心配性だね。あれは特殊な武器だから、大怪我にはならないんだよ」
「どういうこと?」
大騒ぎは一番遠い席でも聞こえたらしい。ブランが笑って教えてくれそうだったので、体の向きを変えてブラン先生の回答を待った。
「あの武器は、全部魔石が埋まっていてね。それに魔法陣も彫られた特殊仕様なんだ」
「……というと?」
「闇魔法がかかってるんだよ。人を傷つける時に止まるようにね」
え、そんな使い方あるんだ⁉︎
いやまぁ……できる……のか⁉︎
というかそれ、相当古いってこと⁉︎
というか闇魔法使いの端くれのくせに全然何も気にせず見てたな……とちょっと恥じる。言われれば、全体的に黒かったかもだけどデザインだと思ってた。
闇の魔石がはまってるかまでは、この距離では見えない。そう思ってみれば、見えたのかもしれないけど……。
「いやー! 面白いですよね⁉︎ だからそれもあって参加したかったんですよねー⁉︎ あれ参加者しか見れなくて‼︎」
「あ、研究狂いがなんか言ってる」
いかんいかん。
スイッチを押してしまった。
瞳がアメジストのごとく煌めいている。
「いや見たいでしょそんな貴重品! しかも! すんごいちっちゃいんですよ魔法陣がまた! 闇魔石の裏に見えるんですけど‼︎」
「そうなんだ……?」
「それを触った上で振れるんですよ! いやぁ、だから全力で振って勝ちたかったんですけどねー⁉︎」
「ちょっとは危険も考えてね……」
魔術の研究にも余念がないレイ君は、ちゃっかりそれも目当てだったらしい。どうりでね。面倒がりながら前向きだと思ったらコレよ。
「……でもじゃあ、あの空振りもそうなの?」
「なわけないじゃん」
私の可愛くない弟クンが、大きなため息をつきながら指摘してきた。む! じゃあちゃんと解説してよね‼︎
期待して視線を送ると、それに気づいたフィーちゃんもセツを見つめる。姉にはなびかずとも彼女には甘い弟は、解説を口にした。
「……詠唱してたかまではわかんないけど、あれは『幻夢』だと思うよ」
「げんむー?」
「雷と風の魔法。見え方って、光の屈指で変わるからね。蜃気楼ってわかる? あれは空気の層で光が屈折するんだけど……あー解説パス」
面倒になったのか難しいのか、セツさんは先生役を放り投げてレイ君の肩を叩いた。
「じゃあ代わりまして。本来蜃気楼は高温と低温の差の境界でできるんです。屈折率が違うんですよ〜理由は密度なんですが……」
「みつど……?」
「ま、簡単に言うと空気の固さが変わるんです、光にとっては。それで反射の仕方が変わるんで、違うところに景色が見えたりするんです〜」
「へ、へぇー……」
わかったような、わからないような。
なんか反射されて見え方が変わる。
それだけは、理解した。
「だから風魔法で空気の固さを変えて、雷魔法で光をいじればなんちゃって蜃気楼……『幻夢』ができるってわけですー!」
簡単でしょ? と言わんばかりに笑顔を振りまかれても困る。とりあえず……ヴィンスもやっぱめっちゃ賢いんだなってことはわかった‼︎
「あれ最初から使ってたら、余裕で勝てたかも知んねーのに、さ」
同じ雷使いとして思うところがあるのか。セツは少し残念そうに、文句でも言うみたいにアルの方を見てぼやいた。




