573話 男同士は複雑怪奇
しばらくするとレイ君が先に席に戻ってきた。
「お疲れ様。頑張っていたね」
「はー! 負けましたー! やっぱ手から離れないように魔力吸着材とか手に巻いていけばよかったかもですー!」
「それはギリ違反だろ」
ブランの労いの言葉に、レイ君は反省点……と言っていいのか疑問だけど。後悔を口にした事で、レイ君はセツに突っ込まれていた。
どうも魔道具の話らしい。私たちは急に聞き慣れない単語が聞こえてくるのに慣れているけど、フィーちゃんは不思議そうにしていた。
「まりょく……?」
「あーえっと、魔力だけに反応してくっつくやつ……だっけか?」
「そう! 最近の主力商品です〜! 珍しく使えるの作ったので!」
「自覚あるマッドサイエンティストが一番タチ悪いけどな」
「そんなーオレは面白いものが作りたいだけですけどー?」
フィーちゃんに即補足フォロー入れるあたり、なんてわかりやすい弟なんだ……と思ってしまった。お姉ちゃんは見逃せないぞ。
本人が自覚があるのかわからないけれど。照れ隠しもあるのかいつもの軽口なのか、レイ君に返すことでサラッと流していた。
些細すぎて普通なら気づかないだろう変化で、セツがフィーちゃんのこと本当に好きなんだなと思えてくる。いや、わかってるけどね。
「ちなみにそれはそんなに便利なものなの?」
「はい! 魔力を流せばくっつくし、流さなければただの布になるのでー!」
「なんか難しそうだね?」
「加工は難しいですけど、作り方は簡単なんですよ! 魔石を砕いて布に纏わせるだけなので‼︎ 包帯とかにもできます!」
「あ、それでかい潜ろうとしてたの……それは違反だね」
魔道具がよくわからないから詳しく聞いたら、やろうとしていたことが発覚して私も突っ込んでしまった。
それにしても、どうもレイ君は魔石の新しい性質を解き明かして使ってるっぽい?
「というか魔石って、魔力が結晶化したものじゃないの?」
ふとした疑問を口にすると、マッドサイエンティストことレイ君は笑顔で答えてくれる。
「そうですよ。魔獣と違うのって、動くか動かないかくらいですからねー」
「なんて大雑把な解説……」
「だから、魔獣と同じように魔力を集めようとする性質があるんですよ。これのせいで大きいほど魔力量が多いんですよね、魔石は」
そういうものなのかぁ。
でも純度とかも関係ある気がする。
宝石みたいに加工するやつは魔力量あるし。
気になったので聞いてみることにした。
「はいせんせー! どうして小さくても強い魔石があるんですか? あれって綺麗なだけじゃないってこと?」
「ですです! 高純度の魔石ほど、強い魔力の溜まり場にできることが多いですからねー! その分、結晶化がはやくて綺麗なんですよね」
「へー……あれ? もしかして魔力の供給が足りなくなると魔獣になったり……?」
「それも多分ありますね! でも大体は何かの死骸や植物と反応して発生しているのでは、というのが最近の定説で——」
はえ〜勉強になる〜!
でも止めどきわかんなくなっちゃった!
レイ君を誰か止めてくれないかな……!
「おしゃべりもいいですが、まもなく2回戦が始まりますよ」
「わっ⁉︎ ……あ、アル!」
突然ななめ後ろから声がして驚いたら、アルも戻ってきていた。ナイスタイミング! そして私は今度こそ早く労いの言葉を言わねば‼︎
「お疲れ様! その……すごかったよっ‼︎」
「もうちょっとなんかあるだろ」
「うるさいわ! セツは黙ってて‼︎」
両手を握りつつポーズで誤魔化したら、セツの指摘が飛んできた。
だって急に来るから!
さっきまで喋ってて何も考えてなくて!
絞り出そうとしても語彙がなかったです‼︎
だけどセツと違って優しいフィーちゃんはにこにこと拍手してくれるし、ノア君は大きく何度か頷いてくれる。優しい! 優しさの濃縮還元だ‼︎
「僕から見ても見事でしたよ」
「どうもありがとうございます。まぁここで負けるわけにいきませんでしたからね」
私がそんなことをしてる間に、大人なブランはサラッと祝福の言葉を送る。
「わー、負けたオレがここにいるのにー。ほんとーに殿下って、やなヤツですよねー⁉︎」
「戦い方の悪どさでは君に敵いませんよ。それに、隙を誘うのは戦術のうちでしょう?」
毒づくレイ君にもアルは爽やかに返す。ううん……私からすると、どっちもどっちな気はするかな!
頭がいい人って怖いよね!
裏表あるもん! 賢いから‼︎
そしてそう見せないのが上手い!
そういう面では、私は結構アルは一番怖い方かもしれないな……と思ったりした。絶対に敵に回したくない人ナンバーワンです!
……さてなんで私はアルのこと好きなんでしょうか? 不思議だなぁ……。仲良い人のことは不敬罪で首はねなさそうだからかなぁ……?
「それでティアは、今どんな失礼なことを考えてますか?」
「……⁉︎ そ、そんなことないよ⁉︎」
「ふーん? そうですか?」
椅子の背に頬杖をつくように、アルが至近距離にいた。視線で舐めるように、疑うように妖しく笑う。
うわ! 顔が良い……!
ちがう! 戻ってこい正気の私‼︎
でも今の顔はスチルに収めませんか⁉︎
「どうですかノア?」
「……今は、褒め言葉しか浮かんでないと思う」
「はは、今はですか。良い逃げ方をしましたね」
あろうことかノア君に私の反応について聞いている。ちょっと! ノア君を困らせないで! でも仲良さそうなのはいいことだけど!
「……代わりに、席あげる。隣がいいでしょ?」
「おや。よいのですか?」
「ん。ちょっと兄様が心配だから……近くで見たい」
そう言って、ノア君は席を立つ。近くっていうと、臨時のスタンド席はあった気もするけど。まぁ普通は、あまり行かない席だ。
「ノア君、大丈夫なの?」
私が手首を捕まえて確認すると、目を合わせたノア君は瞬きを2回してから頷いた。まぁ、本人がそう言うなら止められないけど……。
ここで着いていくのも不自然だし……。
うーん、ちょっと様子みる?
でも体調とかも……心配なんだけど。
「私がいたら気まずかったのかもしれませんね。対戦相手の兄ですから」
隣に来ながら、アルはそんなことを口にした。いやそんなことは……アルあなた、そもそもヴィンスは親友でしょうに。
「ちなみにアルはどっちを応援するの?」
「もちろん可愛い妹を。鬱陶しい男より選ぶのは当然でしょう?」
「わぁ……」
仲良いからこそ言える事だけど、たまによくそれで仲悪くならないな……と思ってしまう。女の子ならあり得ないから。
とは言えリリちゃんのこと可愛がってるのも知ってるから、まぁそう言うだろうなという気もした。本心はどうかわからないけど。
「さて……どのように負ける気なのか見物ですね」
「アル……」
「とはいえ、あの男がそう簡単にやられてくれるとは思えないですがね」
本当に素直じゃないなぁ……ヴィンスのことになると。口の端で笑う姿を見て、口に出さずにそう思った。




