571話 1回戦開始
『只今より1回戦の選手入場となります。拍手でお迎えください』
放送案内と共に、華々しい曲が盛り上げる。空には光が並び……ってあれ、もしかして名前作ってる?
「あれは……?」
「プロペラ式の魔道具ですね。今は雷の魔石と風の魔石を搭載し飛んで光るだけの代物ですが、将来的にはもう少し有用になるのでは?」
「なるほど……あんな変わり種作るのって」
よそ行きモードのヴィンスの解説を聞きながら、思いつくのは1人だ。
「ゲンティアナの家の発明に決まってますのよ。あれは侯爵の発明のはずですけれど、まだコントロールが甘いので城では使いませんの」
「あ、そうなんだ?」
「特に風のコントロールがうまくいかない。だから結局、あれはうちの学生が補助してるんだろ」
「私が言おうとしたことを盗らないでくださる?」
「姫様が不安を煽ることを口になさるからでは?」
あぁ、こっちの風向きが怪しくなっちゃったよ。
レイ君のではなかったけど、お父さんも血は争えないらしい。当たれば優秀、外れればヘンテコな発明はあの家にたくさんあるんだろうな。
でもまぁ、その手伝いをオリーヴェ君がしてるんだろうから。開幕の時にもいたし、コントロールもお手のものなのだろう。
「いよいよだね。リスティちゃんはやっぱり殿下を応援するの?」
「まぁ、どっちも応援するけどね……」
「……でも、緊張してない。信じてる?」
フィーちゃんの言葉には濁したのに、ノア君に言われて気づく。そっか。たしかに魔術遊戯会の方が緊張して見てたかも。
「というか2人とも、私からどっち応援するか聞き出そうとしてる?」
そう尋ねると、さっと両隣が顔を正面に向けた。この子たち本当に素直すぎる……嘘つけないって大変そうだ。
『選手、入場!』
アナウンスに従って、2人が討議場に入ってくる。アルはともかく、レイ君が剣を持ってるのがおかしい。いや、持ってるものがおかしい。
「ん……? 気のせい? 大剣引きずってない?」
そう、おかしいのだその大きさが。
腰に刺さるようなものではない。
それは、レイ君が隠れるような大きさだ。
「あははっ! でもわかるよ、浪漫あるよね」
「あいつやりやがったな……マジで試すのか」
「レイナーは馬鹿ですの?」
「あ、あんなのまであるんだ……! 持つのだけでも重そうなのに!」
「……でも、いい笑顔」
「ぶはは! やったなぁあいつ‼︎ アルバの顔やばいぞ‼︎」
そう言われてアルの方を見ると、うーんと……よくは見えないけど困惑してそな雰囲気はある! レイ君は引きずりながらご機嫌そうだ。
「ちっちゃい子がおもちゃ持ってきたみたいな……」
「あれで戦う気あるんですの? お兄様に不敬ですのよ」
「……まぁ、見てればわかるんじゃないの?」
納得いってない私たちに、セツはそういった。
「実技演遊会は剣だけの戦いじゃないってこと、見てたら思い出すと思うよ」
****
「やったー! 殿下と本当に当たるなんて! オレすごい楽しみにしてたんですよー?」
ライナーの後ろには大剣がひとつ。
それを持ち上げる様子もない。
うしろには、引きずってきた跡が見える。
「……君は相変わらず、トリックスターのようですね」
「ありがとうございます! でも不正はしてませんよ? ちゃんと実力を見てみたいですしー」
「予想のつかない相手は恐ろしいものですね」
「そうですー? そんなふうに見えませんけどねー? それにオレが普通に戦っても、殿下のその技術には敵いませんし」
アルバート王子は馴染み深いロングソードを構える。レイナーはガガガガ、と引きずりながら大剣を横に構えた。
「けどやっぱり……どうせやるなら勝ちたいですし?」
「それではお手並み拝見といきましょうか」
不敵な笑みは交差して、戦いの開始を告げる鐘が鳴った。
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ガキンッッ!!!!
金属のぶつかる音が鳴って、火花が散る。
仕掛けたのはアルの方だ。
だけど、すぐに後ろに下がる……と同時に。
今いた場所に大剣がめり込んだ。
「え、なんであの速さで振れるの⁉︎ 持つのも精一杯なはずなのに……」
「……風魔法」
「魔法⁉︎」
「あれは……え、でもあんなに丁寧な魔力操作なんて……本当にできるんですか?」
わけがわからない。
だけど、目の前で見ている。
大剣がすごい速さで扱われるところを。
「やってる事はアクセラレーションと風波……だけどなぁ……」
「……高速で切り替えてる」
「しかも、方向づけをしてますのね」
「え? ごめん、風魔法わからない私にもわかりやすく教えてほしいな……?」
今もすごい勢いで振り回している。
アルが横を取ろうと回り込もうとしても。
反対にあったはずの大剣が逆に襲ってくる。
まともに正面から受ければ、傷つくのはアルの方だ。
「あれがレイの得意なことだから。普通なら、あんなもん面倒だし、頭の回転追いつかなくてできないけど——」
剣の技術はアルの方に分がある。
だけど、戦いはそれで終わらない。
なぜなら、その動きを決めるのは——。
「レイは魔法オタクだし、計算が早い。無詠唱ができるくらい慣れたものなら、同時にだって使いこなせるんだよ」
腕力に頼らない、卓越した魔法の技術。
そして豊富な魔力量で支えられた力。
それがレイ君を、バーサーカーに変える。
ありえない跳躍を見せたと思ったら、アルの頭上に剣を振り下ろす——。
「え、ちょっと! あぶな……!」
「きゃあっ!」
フィーちゃんと一緒に思わず目を閉じて、轟音を聞いた。
おそるおそる目を開けると、次の瞬間には剣が地面にぶっ刺さっていた。アルの姿は見えないけど……え、これ本当に危なくないですか!
「あ、背後取られた。手離せないのにバカだ」
「うーん、どうやって抜くんだろうね?」
「兄ちゃんワクワクしてるだろ」
「ふふ、まぁそれはね」
ピクニックにでも来てるくらいのテンションで、のんきな会話をひろげるブランとセツも気になるけど。それより目が離せない!
やっぱり大剣が抜けないらしいレイ君。
そこにアルの剣が迫る——と思ったら。
持ち手の部分に片手で倒立してる——⁉︎
そしてアルが体勢を立て直そうとしたところで。
「へぇ、泉花使うんだ。面白いじゃん」
「……⁉︎」
ノア君がノア君らしくないことを言ったと思って横を見たら、目が赤い! それと同時に、バゴーン! という音と水の音に振り向けば水柱が立っていた。
「おっ! よく逃げたな! でもあれは不利だろアルバ‼︎」
「……兄様、楽しそう」
「そりゃ、楽しいだろあんな振り回されてるの見たら」
私はおそるおそる横に目を戻すと、もうノア君の目は緑になっていた……なんだったの?
というか、さっきの音が鳴る前に言った?
裏ノア君、予知使ったってこと?
なんのために……アル大丈夫かな?
どちらを見ればいいのか戸惑いながら、私の挙動不審っぷりなどに気を止めず戦闘は続いていく。
【呪文おさらい】
アクセラレーション
疾風をまとい、身体の動きを補助する。通常は走る際に使われるもの。追い風で早く走れるイメージが近い。慣れてる人は無詠唱なことも多い中級風魔法。
風波
突風を起こし全てを吹き飛ばす。通常は自分には使わず、なにか大きなものをしりぞける時などに使う。上級風魔法。力が強いので操作を間違うと自分が吹き飛ぶ。
泉花
勢いよく地面から大きな水柱を噴き上がらせる。やっぱり通常自分に向けては使わない。上級水魔法。何かを壊せるほど力強いので、抑えて使う方が難しい。
この世界の呪文は詠唱により、精霊の補助が受けられて操作がしやすくなる。
無詠唱は自力で細かく魔力の操作をしなければならないため、難易度が高い。ボールを勢いよく全力で投げるより、強さや距離を調整して的に当てるのが難しいようなイメージ。
ただし無詠唱ができると、その分自由度も使用速度も上がり、相手に攻撃を悟られにくいなどのメリットも大きい。ただ補助がない分魔力消費量が上がるので、そもそもできない人も多い。




