570話 束の間の交流
しばらくするとみんなが帰って来たけど——あれ?
「アルとレイ君は?」
かけてる2人に疑問を持つと、私の後ろに立っていたセツが呆れ顔で言った。
「お姉サマ、暑さで頭やられた?」
「何その言い方ー!」
「いや、アホすぎて。なんで逆に帰ってくると思った?」
「そうやって理由を話さず人をいじめるのはよくないでしょ!」
「いやこれいじめじゃねーし」
弟が意地悪なんですけど!
反抗期⁉︎ 反抗期ですか⁉︎
人生2周目なのに⁉︎
体に引っ張られるとかあるのかな……とか考え始めたあたりで。いつのまにか力なくノア君の隣に座っていたヴィンスが教えてくれた。
「……1回戦目の出場者だからでしょう」
「は……っ⁉︎ そう……だね⁉︎」
「やっぱアホじゃん」
「う、うるさいわ! ちょっとそこまで頭回らなかっただけなのにっ! それに、前は帰って来たから……」
「前回の魔術遊戯会は、1回戦の出場者がこちらにいなかったですからね……」
「そっか……そうだね……でもアルに行く前に応援したかったかも……ていうか」
弟のチャチャに怒りながら、実はちょっと気になっていたことを口にする。
「あの、ヴィンス大丈夫……?」
腕を組みつ足を組み。かろうじて座ってはいるものの、いつもの姿勢のいい様子はどこへやら。しかもその目はどこか空を見つめている。
「ははん! ざまぁみろですの‼︎」
「り、リリチカ様……」
「こんなもの、戦う前から私が勝ったも同然ですのよ‼︎」
正反対にリリちゃんは威勢がいいので、フィーちゃんが控えめに抑えようとしている。うん、まぁそういうことだよね……。
「はぁ……なんで棄権とかできないんですかね」
「……できなくは、ない。兄様、するの?」
「するわけないでしょう、家の威信もかかって出てるんですから」
「……。」
「あぁ、違うちがう。ノアのせいじゃないぞ、僕が敵前逃亡できるほどプライドを捨てられないって話で——」
「あら、逃げても戦っても恥は変わりませんのよ?」
「……姫様はちょっとお黙りいただいても?」
ヴィンスが珍しくキャパオーバーしてるのか、敬語がおかしくなってる。私も今のはちょっとな、と思ったので注意に回る。
「リリちゃん、リリちゃんは強いけどだからって言っていい事と悪い事があるでしょう?」
「おい、その言い方だと僕が弱いみたいになるだろ」
「そうですのよ、お姉様は正しいですの」
「リリちゃーん⁉︎」
はらはらしてるフィーちゃんの横で、むすっとしたリリちゃんの顔が覗く。ぷぷぷーっと、ほっぺがふくらんでいる。子供の時と同じだ。
「お姉様は私の味方でしょう?」
「リリちゃんの応援はしてるけど、それとこれは別です! ダメな事はダメ!」
「……気をつけますの」
「私に謝るんじゃなくてヴィンスに謝る!」
「……もう言いませんの……あとは力でわからせますもの」
「それは謝罪じゃないし一言余計‼︎」
「いいですよ……権力の前に全ては無力ですから」
どうしてこうなっちゃったのか。
ぷくぷくほっぺはそのまま存在してるし。
ヴィンスはなんか死んでるし。
楽しいお祭り騒ぎの前なのに、ちょっと空気が悪いです。……ヴィンス、リリちゃん怒らせるようなこと最近したのかなぁ?
いや……ヴィンスが直接というよりは……。
「……?」
「あ、いやごめん。ノア君もお兄ちゃんのお世話大変だね……」
「……そうでもない」
「そうでもないのかぁ……優しいね……」
多分、あれきっかけかなぁ。表面上はなんともなかったのだけれど。リリちゃんは、ノア君のことあれから警戒して近づかないし。
「まぁ時間が解決することもあるから。気楽にね」
突然ポンと肩を叩かれたと思って振り返ると、それはブランだった。でもそのまま奥の席に行ってしまう。セツが後をついてってる。
「時間……時間ね」
気楽にはできないですお兄ちゃん。
だって私には時間がない。
運命のタイムリミットがあるのだ。
でもまぁ、リリちゃんとヴィンスは外野がどうこうできるものでもないかもしれない。きっかけがノア君なだけで、それだけじゃない。
「まぁ素直になるって大変だもんね……はぁ私も素直になりたい……」
「なんで? リスティちゃんは素直ないい子だと思うけど」
「え? 聖母? いや聖女様だったわ。やっぱり私フィーちゃんと結婚したいかも」
「えっ!」
「おい人の彼女盗んな」
ちょっと遠い席から、聞き取りづらいはずなのに静止の声が飛んできて吹き出した。うちの弟、フィーちゃんの隣座りたかったんだろうな。
「雑談もいいけれど、そろそろ始まるからね」
一番遠くの席からブランが、声が届くように身を屈めて全体に声をかけてくれる。あぁこの安心感、頼りになるなぁ……。
「そういえば剣はどこで用意するんだろ、アル行く時は持ってなかったけど」
「大会規定ですからね……」
「大会規定?」
「ブランドン、お姉様にご説明差し上げなさい」
「自分もよくわからないからって投げましたね姫様」
「私はここにいるお兄様以外の全ての人間に命令する権利がありますの」
ギスギスに挟まれながらも、気にはなるのでブランを覗き見るように私も前屈みで横を向く。ブランは目が合って、少しはにかんだ。
「剣は学園が準備した、既定のものなんだよ。いくつか種類はあるから、それを選ぶことはできるけどね。魔石とかはまってると違反なんだよ」
な、なるほど……!
魔石なら、ちょっとチートできるもんね!
それこそ自分の属性以外でも!
口元に手を添えて、聞き取りやすい大きめのはっきりした声で話してくれた。ありがとうお兄ちゃん! 優しさの塊……!
うちの弟もへーとか言ってるの聞こえたので、ちゃんと説明してくれて理解が深まってよかった。
「たしかに、レイとか魔法陣仕込んできそうだもんな。面積が許す限り」
「面積が許す限り……⁉︎」
「それ、今から間に合いますかね?」
「……兄様。不正、ダメ」
あまりにも限界らしい心の声が漏れていた。ヴィンスの名誉のために聞かなかったことにした。けどリリちゃんは違う。
「あら、いかにも実力に自信がないものがする考えですのね」
「いや単純にロマンだろ、魔法陣だらけの剣。強いぞ金もかかるけど」
「それはそもそも剣ですの?」
「んー……そういうのもありますけど、魔石より少ないですね。そもそも普通はそんな技術あまりないですし」
太々しく返したセツのフォローをブランがしてくれた。リリちゃんはそんな話をしながら、何故かフィーちゃんを抱きしめていた。
「……フィーちゃん、お人形さんごっこが辛くなったら言ってね?」
「あ、大丈夫……リリチカ様がこれで落ち着いてくれるなら……」
「心が広いなぁ……」
フィーちゃんは人気者なだけの理由があるよなぁ、と思いながら。私はそっとそろそろ始まるはずの闘技場に目を向けた。




