568話 開幕のファンファーレ
『会場へお越しの皆様、まもなく開会式が始まります。席に着いた状態でお待ち下さいーー』
アナウンスを耳にしながら、私の意識は会場から離れる。さっきの事を思い出して。
シュガークラウドといえばオリーヴェ君に会ったことを思い出す。だけど今回、作っていたのはオリーヴェ君ではない知らない人だった。
まぁ、屋台だし。
風魔法使えたらできるし。
その扱いのうまさの違いは出るけど。
だけど理屈がわかれば作れないわけじゃないから、別に変なことではないんだけど……。
「うーん、会ったら消える的なアレなの? ドッペルゲンガー的な……」
「……なんの話?」
「あ、いや。ごめん、ノア君は関係ないんだけど……」
なくはない、けど!
まぁ関係あるの裏ノア君だし!
そう思い込むのが大事‼︎
こちらを見る深緑をじっと見つめ返し、「……そう」という言葉を勝ち取った。ふぅ……あぶないあぶない。読ませないのは成功したみたい。
ノア君のいるとこで考え事ダメだったな……というか、ここで考え事ってダメだな。だって……。
「2人とも! もう始まりますよ、入場‼︎」
欲深き人間代表こと私。
かつ嘘つき闇使いであります私は。
観覧席にて光使いに挟まれ中です。
おかしいな……? やっぱり攻略イベじゃなかったんだろうか。まぁ、私の方が個別に2人と仲がいいから席順はおかしくないけども。
「それにしてもフィーちゃん……なんかすごいワクワクしてない?」
「それはもちろん! 生徒会の皆さんもだけど、セス君の応援しなきゃだから‼︎」
「熱い……! ら、ラブラブだね⁉︎」
「ラブ……⁉︎ ち、ちがうのっ! 今のは! 違わないけど違うの……‼︎」
ちょむとからかったら、恥ずかしいのか私の肩に頭を乗せしがみついてくる。話題の相手がうちの弟なのがなんか、不思議な気分だけど!
ラブラブらしいよ⁉︎ という視線をノア君に送ると小首をかしげられた。以心伝心ゲーム失敗です! そりゃ頭の中が見れるわけじゃないもんね!
「ところでノア君、今日は調子よさそう?」
「……ん。あんまり、動かなければ」
こくりと頷かれる。うーん、それはあんまり体調よくない気がするけど……。
「そっか。見てるだけでもヴィンスは嬉しいと思うよ」
「……そのために、来た」
「魔力は不足してなさそうですが、私が治しましょうか?」
「……大丈夫。光魔法、効かないみたいだから」
ふるふると首を振る仕草に、フィーちゃんが眉を下げる。まぁローザ家ほどの家であれば、聖女様とはいかなくても光使いは試してそうだもんね。
ノア君自体も使った事あるのかな。
光使いは自分も治癒力高いはずだけど。
それで賄えない体調不良、か……。
その理由であるかもしれない彼は、ノア君のことを大事にしてるように見えたけれど。それとこれは、別なんだろうか。
入れ替わり回数が増えているのだから、わかってないわけないけど。
「本当に元に戻すだけで変わるのかな……」
「……なにか、知ってる?」
「……ううん、ごめんね。私も、治す方法はわからないの」
嘘ではないから、見抜かれない。
そんな嘘ばかり平然と口にする。
あんまり嘘、つきたくはないんだけどな。
暗くなりそうな気持ちを振り払うように、大きな声で切り替えた。
「でも闇魔法なら薬でもなんでも出せるから言ってね! ご希望とあらばここをベッド席にもできますので‼︎ 天蓋ベッドにしちゃう‼︎」
「……それはやりすぎ」
「じゃあ私は風魔法で空気の入れ替えをします!」
「……王子様みたいな待遇」
一応冗談ではないのだけれど、ふっとちいさく笑ったノア君を見て安心する。ノア君が体調崩さなければ、多分裏ノア君もでてこないし!
そうやって盛り上がっていたら、あたりが急に静かになる。
「……始まる」
一瞬ノア君に意識を向けた隙に、ラッパの音が鳴る。ファンファーレが闘技場に響き渡り、先ほどの喧騒から一気に空気が引き締まる。
白地に金の刺繍をあしらった騎士服に身を包んだ出場者たちが列をなして登場すると、会場のボルテージは一気に上がる。
「きゃー! 殿下のお出ましよ‼︎ 白い百合が咲き誇るようだわ‼︎」
「それより凍れる白百合が美しすぎるわ! あんなに凛として……ファンクラブを作るべきよ‼︎」
「ローザ様の白を纏われてる⁉︎ 貴重すぎる……はやく絵画におさめないとですわ‼︎」
「俺はやっぱりライラック家が1番だと思う。去年見たか? あれは男でも惚れる剣捌きだったぞ」
「いやでも大穴でゲンティアナの彼が来たら儲かる。あと顔が可愛い。あれで強かったらそれはそれで浪漫があるだろ?」
「いやいや、そこは最近ご婚約されたシンビジウムに全ベットだろ! 男なら負けられない上、魔力も3属性とかチートだ‼︎」
うん、聞こえてくる感想がカオスだ。
でも正直気持ちわかるんだよね……。
行進見るだけでワクワクする。
ほんっっっとに目の保養なんだよね……この白衣装は清く正しい勝負をすることを誓うものなんだけど。白と黒はみんな好きだからね⁉︎
燕尾服のように後ろが長い騎士服は、きっと戦う側は邪魔だろう。でもめちゃくちゃかっこいい。風に靡くたび、赤の裏地が見える。
ちなみに赤は血の赤らしい。
物騒だ。でもカッコいいのだ。
いい〜スチルすぎる〜‼︎
しかも入場時だけ、これが短いマント付きなんですよ! 今だけ! 大サービス‼︎ ありがとういい眺めです……!
みんなカッコいいけれど、リリちゃんはその中でもかなり目立っていた。紅一点のポニーテールが行進とともに揺れている。
そりゃあ女の子人気も出ますよね……わかる。女子は強くて美しい美女も好きなのだ。もちろん、私も大好物です。
誰が勝ってもおかしくない。
けれど、やっぱり有利不利はある。
それは構造的な問題だ。
魔術遊戯会と違って、実技演遊会はトーナメント方式。くじ引きで決まる。本戦に出られるのは前回より少ない7人で、順当に上ると3回戦うことになる。
でも前回優勝者でシードを持つブランは、初戦が免除される。
ただでさえ強いのに、ブランは2回勝てば優勝。体力も削られるだろうこの大会では、かなり有利だと言える。
「セス君かっこいい……!」
隣のフィーちゃんが思わず漏らしたらしい声に笑うと、目があった。
「リスティちゃんは誰を応援するの?」
「応援……応援?」
「うん。だってこれはトーナメントだから、生徒会のみんなも敵同士でしょ?」
「……そうだね⁉︎」
そんな単純な事に驚いている自分に驚きながら、誰を応援しようか今更悩む。みんな勝ってほしい。でも、私は——。




