567話 イベント発生
魔術遊戯会と違って、実技演遊会は予選の結果が出るのも早い。性質の違う魔力より、剣技の方が点数をつけやすいのが理由らしい。
週明けに結果発表があり、当たり前のように私の周りはみんな本選に進んだ。本戦までが本当に早かった。
「あら、ヴィンセントも通過しましたのね。可哀想に、本選で怖気付いても逃げられないですのに」
「……姫様は僕に恨みでもおありで?」
「日頃の鬱憤を晴らしたいだけですのよ?」
「……当たりたくねー」
「うふふ、ここで私が神に愛されし乙女だと見せつけて差し上げますの」
まだ全員が集まったわけじゃない放課後の生徒会室。見た目だけなら優雅な男女の談笑は、イチャイチャとは程遠く殺伐としていた。
なぜか好戦的なリリちゃんは、やたらとヴィンスに突っかかっていた。いつもと立場逆転だなぁと生徒会室で眺めていた。
ちなみにリリちゃんは、私にも突っかかってきた。
「お姉様ったら、私よりお兄様を優先したって聞きましたのよ? もう。私、1番にお祝いしてほしくてお迎えにあがりましたのに」
「え? えーと、その、私はその時寝ててね……?」
シーナから叱られた時に、王女殿下には就寝中だと断ったと聞いたんだけどなぁ。しどろもどろの私の反応に、綺麗な桃色の唇が弧を描く。
あぁ〜いまの表情がアルにそっくり。
「私はお兄様から聞きましたのよ?」
「……キノセイジャナイカナ?」
「お姉様から大胆にお兄様に迫ったって」
「!!?? それは本当に間違いかな⁉︎」
何いってるんですか!???
どんな報告してるんですか!!??
アルそんなこと言ったの!???
朝会った時から別に普通だったから、やっぱり気にしすぎたかと思ってたのに! どんな説明の仕方してるの! 猛抗議ですよこれは‼︎
振り返って話の元凶の主を見ると、笑顔で軽く手を振られた。ひ、ひどい! なんで私だけこんなに辱められてるの! もう! もうもう‼︎
「訂正してよアル! 私、女神様に神域から戻す方法間違えられちゃっただけなんだから‼︎ あれは不慮の事故なのっ‼︎」
「そうなんですか? ですが、ティアが頼んだのでしょう? 何もなければいつもは、来たところに戻ってきたはずですし」
「うっ!」
それはそうなんだよな……。
いや、頼んではない……けど!
でも行こうとしてたから送ってくれただけ。
そこは否定できない……それにしても、なんでアルのところに送ってくれたのかは気になる。しかも水辺でもなかったし……。
「あぁ……お兄様、ダメですの。お姉様の考え事に負けてしまいました。意識させる作戦失敗ですのよ」
「はぁ……手強いですね本当に……」
「え? てかなんか進展あったわけ? ついに?」
「野次馬は消して差し上げますの」
「いや友人なんだから知る権利くらいあ……うわ足元から凍らせるのやめろ‼︎」
ぼんやり考え事をしていたら、いつの間にかヴィンスが氷漬けになりそうになっていて止めたりした。アルも見てたなら止めなよ‼︎
そんな騒がしい日々と、やっぱり今回も会場になる闘技場の見回りをしたりして。少し忙しくしていたら、その日は来てしまった。
そんなわけで、あっという間に本番だ。
「ふぅ……なんか準備日数ない分早かったな……」
「まだ始まっていませんけどね」
やっぱり人が多くなる学園の周りの巡回を前回同様している。私のひとりごとにアルがすかさずツッコミを入れた。
あぁイベントが消化されていく。
ノア君とももうちょっと話したかったけど。
今日は別に何も起こらないよね……?
ドラゴンのイベントは終わっているのだから、多少『学プリ』とイベントが前後しても今日はなにもない……はず。
ノア君のこともそうなのだけれど、女神様のことも気になって後回しになっている。
いや……問題としてはちっちゃいけど。
時間が経てば経つほど、気になる。
何故かは私にもわからない。
ただ法の抜け穴を突かれたみたいな感覚なんだよなぁ。だけど女神様に直接聞いても、理由を答えてもらえない気がした。
私だって女神様に隠し事がある。
女神様もそれを黙認している、と思う。
だけどそれは、一方的なものじゃない。
神様は、人間の枠に囚われない。だけど、法則のある世界にいる。つまりできないこととできることがあるはずなんだよね……。
「水のないところに煙は立たないんだけどな〜」
「? リスティちゃん、噂話でも聞こえたの?」
「それにしたって、水じゃなくて火ですね。ティア、考え事もいいですがそろそろ切り替えてくださいね」
「ん? あ、ごめんごめん」
声をかけられて、我に戻る。
見回りメンバーは前回と一緒。つまりアルとフィーちゃんがいて、間に私がいる構図になっている。そう、これも攻略イベント——。
だけど前回と違うのは。
フィーちゃんがセツと婚約したこと。
確実に、少しずつ変わっている。
そのおかげで私もここにいる気まずさはないけれど。だけどそれでも、『学プリ』のシナリオを意識しないわけにはいかない。
だって、運命というものは存在するから。
「……あれ? あそこにいるのって」
いつか見たわたあめ(シュガークラウド)の屋台の前で、見知った姿を目にした。あちらも気がついたようで、ゆっくり振り向くのが見えた。
「……みんなで、見回り?」
小首を傾げて揺れた、わたあめにも負けないふわふわの髪はシルバーで。長いまつげに縁取られた瞳の色は深いグリーン。
「あぁ、ノアはここにいたのですね」
「ノアール様おはようございます! シュガークラウド買ったんですか?」
「……うん。ふわふわ、気になったから」
そう言って頷くノア君はいつもの調子に見える。……ちょっと警戒しちゃうのやめたいのだけれど、なかなかそうもいかない。
私と同じように髪もふわふわだと思ったのか、フィーちゃんの目がノア君の髪とわたあめを行き来している。
それにノア君も気づいたらしく、花束を差し出すようにわたあめを差し出した。
「……食べる?」
「あ、えっと! すみません! 私……」
「大丈夫。まだ食べてない」
「いえ! えっと……」
「……生徒会、頑張ってるから」
困ったように私を見てきたフィーちゃんに、「まぁ、貰ってもいいんじゃない?」と無責任に言ってしまった。なんか珍しかったから、かな?
「じゃ、じゃあ……すみません……」
そっと受け取るその様子は、あぁいいゲームスチル……などと思ってはっとした。
これ、攻略イベントだったりします⁉︎
「……クリスも、いる?」
「は、え! くれるなら⁉︎」
「うん……殿下は?」
「私はもうすぐ出場ですから遠慮しておきますね。そろそろ行かねばなりません」
「うん……がんばって」
びっくりして適当な返事をしてる間に、その一瞬は終わってしまった。あぁ〜! 攻略してないからわから正解ないのもどかしい〜‼︎




