565話 女神様はツンデレ?
突然のライトを当てられたようなまぶしさ。そして水の流れを感じなくなったのを合図に、目をあける。
そこには、想像通りの景色が広がっている。
「女神様……今日チョコないですよっ⁉」
「あんた、私のこと餌付け相手だとでも思ってんの?」
石の玉座に腰かけた女神様がいた。ひじ掛けにもたれるようにして、面倒そうな顔で頬杖をついている。
その様子はだらしないのに、美しい。慣れない人なら威圧感も感じるんだろうな。美神ってお得だ。
「そういうことが言いたいんじゃないのよあたしは!」
渦巻とともに姿が見えなくなったと思えば、目の前に小さい——女神様お気に入りの学生服姿(幼女ツインテール)で現れる。
わ、早っ!
というか浮いてる⁉
いやまぁ水の中だからか……。
とか、ぼーっと考えていたら。
「気抜いてんじゃないわよあほんだら‼」
「いったぁ!??」
ばこーん! という音がして、おでこに激痛が……あ? これデコピンされたってことっていうか痛い!!!!
「なにするんですかー! 神様でもやっていいことといけないことあるでしょっ⁉」
「あんたの勘が悪いからでしょ」
「んな……って、なんですかそのモヤは? 煙?」
尻もちもついたし涙目でおでこをさする。その手の隙間から女神様を見ると、何かがその指に絡まっていた。
「悪意と願望と未練の塊」
「え……? なんて?」
「あーもう! 察しがわるいわねぇ! あんた操られかけてたのよっ‼」
怒りながら指先へ、火を消すようにふっと息を吹きかけた。途端にそのモヤは霧散する——ってことはつまり?
「女神様……まさか闇魔法解いてくれたってことですか⁉」
「なんでそこに驚いてんのよ! あんた! あたしの名前を言ってみなさいよ!!!!」
「いやだって私は解けないですし……へー! そこはさすが神様って感じですね!」
「あんたがあたしの遣いじゃなかったら、ここで魂に戻してるわよ……ノー天気に拍手までしちゃって」
そこは素直だと言ってほしい。ただ褒めて拍手をしただけなのに、ため息つかれてしまいましたよ? なぜですかね?
「で。誰にかけられたか見当ついてるんでしょうね?」
……えーと、どうしようかな!
海より深い疑いの眼が、こちらを刺すように見つめている。これが元の姿だったら、石になる錯覚でも起こしそうだ。
その目が差し出せと言っている。まぁそうですよね。女神様的には自分の手下にちょっかい出されたようなもんだし。
だけど、それには乗れない。
「世の中には疑わしきは罰せずという言葉があります!」
「は?」
「ていうかもしかして、女神様私を心配してここに呼んでくれたんですかっ⁉ うわぁー! ちょっと感動しました!!!!」
そう——私はお姉ちゃんなので!
自分より見た目が若ければ!
若干心の余裕を持つことが可能‼
これによりお姉ちゃん力を発動させながら、さらに大人な私は煙に巻くことも可能!
怪しくても勢いが大事!
大丈夫! 女神様心は読めないし!
あとお姉ちゃんモードは無敵なので‼
この勢いに押されて、女神様の雰囲気の鋭さが削がれる。かわりに呆れたように眉をひそめられましたけれども!
いいんです回避できれば!
それにまるっきり嘘じゃないし!
感動したのは本当。
ここで怒らないあたり、女神様は甘いし優しい——それに、結構面倒見もいいなと思ったりしている。
もちろんそれは私が未来を変えるのに必要だからだけど、それでも。
「……別に、あんただからってわけじゃないわよ! 神の涙を渡した人間には多少手を貸せるから……」
「なるほど~! よくわかんないルールの外の扱いになるんですね、神の涙があると」
「なんで渡されたか、わかってるわよね?」
「わかってますよ! 世界滅亡を防ぐためです‼」
胸に手をあて公明正大にお答えしたところ、なんとも言えない微妙な顔で固まってしまった。ん? 合ってるよね?
「あんたって全然私を頼らないから面白くないわ」
「え? わりと頼ってません? 召喚もどきしたり——というか、聖女も勇者も別に1回限りでは?」
聖女も勇者も英雄も、力を授けてもらえるのは一度きりだし。そういう意味では、私はむしろ会いすぎてる。
預言師の勉強の時も、そんなこと聞いた覚えはない——あぁ、時空神は別かもしれないけど。主に人間集めの問題で。
だけど女神様は不服そうだ。
ということは、答えが間違ってる?
もっとチョコ欲しいのかな?
「……? 今からチョコ出すとしたら、私の想像のチョコしか出せないですよ……?」
「あんたの頭の中はチョコでできてるわけ?」
「いやでも、今の言い方だとまるで私に会いたいみたいになっちゃいますよ?」
「な……っ! ち、ちがうわよ!!!!」
まぁそうだろうなと思いつつ。ツンデレのテンプレみたいだと思い、ちょっとテンションが上がる。こ、これは……⁉
「勘違いしないでちょうだい! 別にあんたに会いたいわけじゃないわよ! ただ約束守る気あるのか確認するついでなんだから‼︎」
き、キターーー!!!!
私の大好きなツンデレでは!???
ツインテツンデレ娘 (見た目だけ)だ‼︎
私が見たかったツンデレじゃないですか! 元推しでもリリちゃんでも実現しなかった供給がこんなところで……⁉︎
……ふぅ。ちょっと落ち着こう。女神様は私に頼むのが適切だと思っただけで、ついでに私が好きだからというより文句言いたいだけだよな。
いやー、でも今の完璧すぎなかった?
「……なんか反応しなさいよ! ていうかなんなのよその顔は!」
「え? あ……えへへ〜いやぁ……女神様のついでの供給助かるなって」
「はぁ?」
「あ、やば。間違えた間違えた。今の忘れてください。心配されてるみたいですけど、大丈夫ですって! いざとなったら責任とりますし‼︎」
突然の趣味の供給により全然誤魔化せなかったのだけど、何故か女神様は食いついた。
「責任って……あんたどうすんのよ。あんたの命ひとつじゃ全然足りないんだからね? もう後がないのよ」
それは知っている。
最初に聞いた話だから。
それに、この世界と私では釣り合わない。
正直私はまだ模索したい。ノア君たちを助けた上で、みんなが助かるようないい方法が他にあるかもだし。でも――。
「……選びたくないですけど。けど、いざとなったらの心の用意はありますよ。大丈夫です、私も大人なのでっ!」
「……。」
「ほんとですってば……女神様が悲しむようなことにはしませんよ」
あまり説得力はないかもしれないけれど、私も考えなしではない……一応ね。だけど、必殺の手段は最後の手でなければならない。
私も……そうならなければいいな、とは思っているから。
「はぁ……いいわ。今日のところは返してあげる。でもよく考えて頂戴——神の涙を待つことの意味を」
「もちろんです!」
「……ついでに送ってあげるわよ。あの子のところに行きたいんでしょ?」
しぶしぶ折れてくれたらしい女神様は、気に食わない顔をしながらもそう言った。……あれ? 何で場所指定……というか。
アルに会いに行こうとしてたの知ってる……⁉︎
「え、女神様覗き見かなんかしてました⁉︎」
「花瓶に水があるんだから、あんたの部屋も私の領域なだけ。コップの水でも水たまりでも、私に声を届けるには十分だわ」
「あ、なんだ。てっきり神の涙のせいかと」
「それはね、そういうもんじゃないの。あくまで少しの加護とお気に入りの目印くらいの価値よ。思うほど万能じゃないわ……さぁ帰った帰った」
へー、あくまで人間アピール用ってこと? でも神域に来れるのは利点か……って、ん⁉︎
女神様今デレました⁉︎ って、聞きたかったのに。私に興味をなくしたもしくは毒気を抜かれた女神様の姿は、視界を覆う水泡でかき消されていく。
「よく考えることね。あんたが求める未来に何が待っているのかを」
全てを知っているかのような女神様の声は、耳にだけ届いて。そしてそのまま、次回は暗転してどこかへ放り出された。




