564話 手招き
生徒会で片付けをしていたら、結構時間が経ってしまった。アルに……みんなに、すごかったよって言いたかったんだけどな。
生徒会メンバーだけどアルたちは参加者。そして予選の結果はまだ公表されてないから、参加者は後片付けの手伝いはできない。審査結果の回収も頼まれるから。
なんだか、ふわふわした気分。
魔法を見た時より興奮してるかも。
魔法を見る機会はそこそこあるから。
だからみんながすごいのは知ってる。でも剣を使っているところはあまり見たことがない。リリちゃんやアルが使ってるところなんてほぼ初めて見た。
「アル、私が来るとやめちゃうしなー……まぁそこがいいとこでもあるけど」
見かけたことくらいはある。
だけど遊びに行くと、会った時点で終わる。
それはもちろん、私を優先するからだけど。
でも鍛錬とかあんまり見せたくないのかと思ってた。リリちゃんに限ってはまるで見たことない——走ってるとこはしょっちゅう見るけど。
だからなんか、私も見たいとか言ったことなかった。
なんならアルはコンプレックスあるのかな? くらい思ってた。『学プリ』での大会優勝は頭脳と魔法でごり押し! って感じだったし。
「もしかしたら汗かいてるとこ見せたくなかったのかな? 王族の身だしなみ的に……?」
2人は魔法ならたくさん見せてくれるし、普段は自分たちで温度調整しちゃうし。いつも優雅で汗かいてるの全然見たことないかも。
「すごかったって言いたいなー……ダメかな」
シーナが部屋にいないのをいいことに、ベッドでゴロゴロする。もうすぐ夕飯の時間になるので、寮にいるリリちゃんには会おうと思えば会える。
アルには会えない。特に約束してないし。
ならウィスパーボイスを使えばいい。
魔石はある、でも——。
「……なんか会いたくなっちゃったな」
会って、直接話したい。
きっと笑ってくれる顔が見られるから。
私はこのズルい感情に気づいてる。
薄情な姉は弟を差し置いてそんなことを考えている——まぁどうせあの子は、フィーちゃんからたくさん褒めてもらうと思うし。
しかも今日は金曜日なのだ。
私はアルとほぼ毎日会うけど。
それは学校にいるからの話で。
忙しいアルは土日はほぼお城に帰る。会える時もあれば会えない時もある。とくにリリちゃんのことがあって、警備もピリピリしている——。
つまり意外と最近は、休みの日に気軽に会えないでいるので。
「……いや! 月曜までは待てない! とりあえず顔だけ見て話してすぐ帰る! 5分くらいなら大丈夫でしょ、うんうん!」
窓からこんにちはの前例はあるし!
なんだかんだアルは私を怒らないし!
……まぁそれは婚約者だからだけど。
でもでも、たまには立場を活用してもいいじゃないか! たまにですよ⁉︎ そりゃ待ってればクラスでは会えるけれども——!
「たまには私から会いたいという気持ちで会っても許されるのではないでしょうか! そうに違いない! パッションって大事だし‼︎」
ガバッと起き上がって、窓に向かって歩く。
言い訳だ。わかってる。
迷惑かもしれないけど……。
だけど、これからこんな機会ないかもだし。
「そう、これは今だけで、どうせ私は運命を戻す——ん?」
今、なんか引っかかった。
なんだっけ……?
何か忘れてるような。
窓枠に手をかけたところで、手首のブレスレットが揺れている気がした。……なんか、嫌がってる?
「お嬢様」
「どわぁっ⁉︎ な、なにシーナ突然背後にいないで⁉︎ いつからいたの⁉︎」
「先ほどからです。まもなくお夕食の時間でいらっしゃいますでしょう。どちらに行かれるご予定ですか?」
「……いや、夕食ね夕食。うんうん、食べに行く行く」
開けようとした窓から手を離し、くるっと振り返って笑顔で誤魔化しておく。……ひとりごと聞かれてたのも気まずい!
「寄り道なさらないでくださいね。私はお部屋を整えて湯船を準備しておきますから」
「大丈夫だよ! 子供じゃないし! いつもの食堂までで迷ったりしないよ‼︎」
「そうだといいのですが」
全然信じていない目をして、抑揚もなく返された。ご飯食べに行くのはもう少し後でもいいかと思っていたけど、そうもいかなくなったか。
まぁいいか。まだ日が落ちきってないし。
そこでクロと飛ぶと隠すのに力使うし。
もちろん、できなくはないけど。
それにアルも食べに行っちゃったかもだし……と前向きに考えて、シーナに一言声をかけてから廊下に出る。静かだ。
それは当然で。学園は貴族格差のない教育機関だといえど、寮にはちょっと格差がある。部屋の広さとか、階数とか。
もちろん最上級階はリリちゃんの部屋。
でも私もそれなりな立場なので。
当然、住んでる階数が高い。
おかげさまでこの階は部屋が他にもあるのに私しかいない状態だ。寮の食堂は1階にあるので、下りるのもちょっと面倒。
そんなわけで、不自然なものほど目に入りやすい。
そう、たとえば。
廊下に放置されたバケツとか。
しかもその中に水が入ってるとか。
いや、そんな忘れ物する……?
「……水と廊下は過去に経験があるなぁ……」
いや。でもあれは床が水浸しだったしな。これはバケツに水が入ってるだけ。たぶん気のせい。たぶん……。
そう思いながら横を通りすぎようとしたら——盛大に足を引っかけた。ガシャンという音と共に、床に、足下に水が——。
「! クロ! 部屋戻ってて‼︎」
光出したのを目にした途端、まずいと思ってブレスレットを投げた。弧を描いたブレスレットは、床に落ちる前にスライム型になったのが見えた。
よ、よかった〜! 間一髪!
クロと女神様はダメだもん‼︎
会ったら消されてしまう‼︎
安心したのも束の間。心配そうに跳ねるクロを最後に、視界が暗転した。
感想欄開けてはおきますが、返信は控えさせていただきます。




