563話 演遊会の予選会
実技演遊会の予選会は魔術遊戯会の時よりスムーズだった。というのも、審査が複数人で一気に行われるものだったから。
「はーすご……よくあの短時間であの人数を確認できるなぁ……1クラスぐらいいるのに」
「本当に。目がいくつあっても足りないよね」
おかげさまで、生徒会の仕事もそんなにない。誘導や番号管理もこの前よりラク。学年ごとに校庭へ連れてきて、大体30人くらいずつ審査される。
その分、待機中に全体が目に入ってくる。そんなわけで、私とフィーちゃんはその迫力に圧倒されていた。
「あれは腕利きの先生方が複数、いろんな方向からチェックしているからね」
後ろから声がしたと思ったら、いつの間にかブランがいた。
「あ! おかえり! 最後の誘導ありがとう!」
「どういたしまして。みんなの調子はどうだろうね?」
最後の審査は1年生だ。それぞれのクラスに迎えに行くのは私たちもしたけど、校庭についた後の全体への説明はブランがしてたんだよね。
「セス君、頑張ってほしいですね!」
「はは、フィアンセの応援があれば百人力だしね。僕としてもセス君は通ってもらわなきゃ困るかなぁ」
「愛弟子だもんね?」
「そうそう、一番弟子だからね」
手に汗握る勢いで構えるフィーちゃんとは違い、ブランは悠然とした様子。私もこの前のセツを見ているから心配はしていない。
まぁこの前のは、フィーちゃんも見ていたはずだけど……。
それでも真剣に思えるのは、フィーちゃんのすなおでかわいいところだなぁと思う。うーん、これがヒロイン力……!
ちなみに私は同じような理由で、生徒会メンバーもあんまり心配していない。我ながらヒロイン適正の皆無さよ。
「あ! 来ましたよセツ君とゲンティアナ様です!」
フィーちゃんが指さす方を見ると、審査の先生たちに並べられて剣を構える2人が隙間から見えた。
緊張感のある空気の中で、特に顔色が変る感じもない。私ならあそこにいるだけで心臓バクバクですけども!
そのまま開始の笛の音とともに。
剣の型が一斉にはじまった。
比べるからこそわかる、明らかに——。
「セツ君、上手……!」
「いや、レイ君も結構いいんじゃない⁉ えっこの前まで割とへにゃへにゃだったのに!」
「——うん。悪くないね。最後まで気を抜かなければ」
決められた型だからこそ、上手いと目を引く。
同じ動作でも、動き?
キレの違いなのかな⁉︎
姉ながらカッコいいと思ってしまった。
いやぁこれ……見学者いたら、黄色い歓声が上がってただろうなぁと思ってふと校舎を見たら。窓に貼りついている女の子たちが見えた——こっちも血眼加減がすごい!
そのままビシッと決めて、綺麗に刀を腰に戻すと終わりの合図。全員揃ってお辞儀をしながら試験官の先生たちへお礼を述べて下がっていく。
勢いよく拍手する音にびっくりして横を見ると、フィーちゃんがキラキラした目で祝福を送っていた。
「すごい……! 次も見たくなっちゃいました! あ、でもまだわからないですよね、皆さん頑張ってるのでわからないですけど……!」
「あはは。フィーちゃん、それフォローになってないよ」
「え、えっと……」
「でもわかる。セツたちの型は綺麗だったよね。どうですかブラン先生?」
辛口師匠に揶揄うようにして目配せすると。
「身内贔屓になるからコメントは差し控えさせていただきます」
「あらら。逃げられちゃった」
「でもセス君が鍛錬をちゃんと積んでることはよくわかったよ」
心なしか嬉しそうな表情を目にして、素直じゃないなぁと思ったりした。別に審査に絡んでないんだから、褒めちゃっていいのにね。
「それより次は君たちの大好きな王女殿下がいらっしゃるよ」
「はっ! それは見逃せません‼︎」
「フィーちゃん……最後までそれだと疲れちゃうよ?」
「大丈夫! 私より参加者の人の方が疲れてるから‼︎」
「でもあまり肩に力が入りすぎてると、周りの緊張感で影響させてしまうかもしれないからほどほどにね」
「……!」
ブランの一言を間に受けたフィーちゃんがあたふたしてる間に、ポニーテール姿でパンツルックのリリちゃんが来た。
男性の中に紅一点は目立つ。
紅というよりは氷の花だけど。
周りさえも飲み込むようなオーラがある。
そして始まった型はもう、芸術のようだった。
流れる水のような美しさ。線を描き、優美という言葉が似合うそれは、見たものの目を奪うというのが正しかった。
「……一瞬で終わっちゃった」
「すごい、すごい! リリチカ様、すごかったねっ⁉︎」
ぴょんぴょんと跳ねて私の腕を掴んでくるフィーちゃんの気持ちもわかる。あれは力で見せたセツたちとは違って、繊細さが見どころだった。
「これは……大会が楽しみになってきたね」
少し放心していたら、隣の優しいお兄ちゃんが戦闘狂の目になっていた。わ! ちょっと怖いから戻ってきてお兄ちゃん……!
「さ、さぁさぁ! 次が最後だよ! 次! アルとヴィンスくるよっ‼︎」
「はっ! 最後まで応援しなきゃ‼︎」
「殿下も楽しみだけれど、ヴィンス君もどうなったか楽しみだね」
ぱんぱんと手を打って切り替えると、フィーちゃんがまた可愛らしく胸の前でぐっと両手を握っていた。
にこにこと話すブランは、特訓してたのもお見通しらしい。ブランって優しいけど、ちょっとラスボスとか似合いそうだよね。
そんなことしてる間にアルとヴィンスを含む最終組が、試験のために前に出てきた。一礼をして、掛け声と共に始まると——。
「……うわ。これはもう、好みの問題だけど……」
「で、殿下……さすがですね……」
「……。」
その場ではぼかしたけど。
もうこれはダントツだった。
アル、剣の腕もヤバい。
本当にすごいと、言葉って出てこないものだ。ヴィンスも頑張ってた。今までで1番良かったけど、これはなんというか、アルにしか目がいかない。
あ、強い。勝てない。
もし戦う時目の前にいたら。
見惚れながら、動けずそう思うだろう。
そういう、お手本のような型だった。
この場の誰もかもを空気にしてしまうような——王の風格とか、覇者とか、この世界の主人公とか、そういう言葉を当てはめたくなるような。
技術がわからない私からすると、そんな感想を持った。剣といえばブランだと思っていたけれど、これは——。
そう思ってチラリと隣を覗くと……ブランは笑ってた。あぁ、瞳孔が開いて獲物を狩る時の猫ちゃんみたいな顔をしてる……。
「……ブラン? えーと。大丈夫?」
「……ん? うん、問題ないよ。いいものが見れたね」
「あの……大会までは戦わないでね?」
そこまで言うと、下がっていくアルたちからやっと目を離したブランがこちらを向いた。あ、表情がいつものブランに戻ってる。
「大丈夫だよ。僕たちが戦ったら、それこそ下手なところでは被害が出てしまうからね。安心して、僕は忍耐力には自信があるから」
「それは自分に言い聞かせてるだけでは……」
「あははっそうかもね。それに実技演遊会なら、殿下でもある程度本気で闘えるから……楽しみだね!」
あぁ、ブランがとんでもなく楽しそう……。
キラキラと輝く笑顔は、普通の女の子ならその眩しさに騙されてしまうかもしれない。けれども、たしかな闘争心を感じた。
「……あんまりみんなに、怪我してほしくないんだけどなぁ」
でもこれは、叶わないなぁと思いながら口にした。そもそもルール上、怪我はつきものだ。
「大丈夫。今年は預言師様と聖女様がいるからね。そうでなくてもルール上危なければ先生方が止めにはいるけど」
「わ、私がんばります……!」
「悪いけどフィーちゃん仕事多いかも……ところで私の役割って何?」
「それはもう、急所は絶対傷つかないようにしてもらうとか?」
ブランの笑顔の冗談を聞きながら、いや本当にやろう危ないから……と真剣に心に決めた。
でもこの時私は気づかなかった。
そのことが不自然に抜け落ちていた。
そう——ノア君がいなかったことに。




