561話 悪役令嬢は名探偵⁉︎
素振りを眺めながらティータイムという、エキセントリックな時間を過ごしている。
侯爵家のメイドさんたちは全てを投げ出す家主たちのために気が回るようで、パラソルや席をてきぱき用意してくれた。
側ではBGMとして「レイ! 力を魔法でカバーすんな!」とか「魔法OKの大会で予選は使用禁止なのはどう考えても生徒会権限で変えるべきだろー!」など聞こえてくる。
まぁレイ君の気持ちもわかるけど。
これは剣のための大会だからね……。
魔法はあくまで、強化のおまけ。
出る出ないは任意で、出ても予選通過する必要はない。魔術遊戯会のほうは、魔法が得意な人のための大会だったし。まず役割が違う。
その点ヴィンスはわかってるらしく。
やるとなったら不満は口にも顔に出さず。
もくもくと素振りしていた。
ヴィンスはなんだかんだ言って根が真面目だ。おちゃらけて見える時もあるけれど、あれはポーズもあるし。……まぁ環境もあるかな。
みんな少しずつ『学プリ』とは違う。
でももしかしたら。
ヴィンスが1番違うかもしれない。
そこに私たちの影響や、ノア君などの家族の関係性が絡んでるだろうなとは思う。前だったらきっと、私たちがいるのを許してくれなかったんじゃないかな。
なんというか、弱みを見せるのが苦手だから——アルなら弱みすら利用するし、レイ君は心を許すと弱みを開き直る。ブランはそもそも隠さない。
そういう意味では、リリちゃんと似てる。
リリちゃんも、アルと私だけが例外で。
それ以外には完璧主義なところがある。
この変化を良いものとするなら。成長や強さといえるなら、きっとヴィンスはリリちゃんにいい影響を与えられるだろうなと思う。それは私ではできない事だ。
「まぁその前に、リリちゃんの殻を崩さないとなんだろうけど……」
「リリチカ様?」
私のひとりごとに、フィーちゃんが律儀に返事をしてくれた。
「うん。ヴィンスとリリちゃんって、からかったり喧嘩してるようなとこばっかりだけどさ。あれってお互い試しあってるよね」
「試し……?」
「あー、素直なフィーちゃんには難しいかな? 相手がどこまで許してくれるか、こっちを見てくれるか不安なんじゃないかな」
「そうなの……? そこまで見た事なかったかも……」
心が色で見えるフィーちゃんでも、潜在的なところは理解しにくいのかもしれない。まぁだから、私みたいに騙す人が出るわけだけど。
「多分ね。本人たちも気づいてないかもだけど……私にはそう見えるかな? 気にならないならお互いちょっかいかけないタイプでしょう?」
「そう言われたらそうかも」
「まぁそれと同時に相手に舐められたくないとか、素直になれない壁があるんだろうね。今更そんな事ないのに」
2人がトーナメントで当たる可能性もあるけど、そこで何かが変わるんだろうか。
ブンッとヴィンスの素振りの音がする。
私の目には普通に綺麗に見える。
実際、基礎はできてるのだろう。
でもセツから見ると違うらしく、「肘曲がってる」とか「腕下がってる」とか自分も素振りしながら指摘をしている。おお……!
私はセツと仲いいけれど、わざわざ構いにいったりはしない。だから知らなかったけど、間近で見るとたしかにブレがなくて上手い。
「セツ、ほんとに剣できたんだ……」
「私もちゃんと見たのは初めてだけど、セス君はそういう話してくれることもあるよ。今なにが大変だ~とか。楽しそうで素敵だよね」
「ないな……あの子いつもご飯の話と狩りの話しかしないよ」
「そうなんだ?」
「あとブランのカッコよさとレイ君との話とか。私も嫌がられるかなと思って、外でやっててもじっくりは見ないから知らなかった」
「ふふっお姉ちゃんだもんね」
今のどこにお姉ちゃん要素が? と思いながら、出されたのをいいことにマカロンをかじる。甘いのにちょっと罪悪感がある。
わかっていたけど、フィーちゃんは弟とうまくいっているみたいだ。
だから私の知らない会話をしているのは当たり前なのに、若干寂しい気がするのがめんどくさくてだるい。飲みこむ紅茶すら渋い気がしてくる。
「ところでフィーちゃんはどうして今日来てくれたの?」
「へっ⁉」
口直しの雑談ついでに聞いてみたら、予想以上にびっくりさせてしまった。
「えっと……変だった?」
「いや、そんなことはないんだけどね。ただフィーちゃんはリリちゃんがいるなら別だけど、ヴィンスには気をつかいそうだから」
「そ、それはセス君が誘ってくれたから……」
「まぁそれも嘘じゃないと思うけど。でもさっき心配で来たって言ってたでしょ? それ、ケガの心配じゃないよね?」
「あ……」
「それにセツは、相手を道具みたいに扱うの嫌そうだから。空気本当に読めないわけじゃないしね。ヴィンスのことも考えると誘うか半々ってとこかな」
まぁ姉に対しては別かもわかんないけど!
だけどカッコつけたい彼女を疲れさせてまで、そんな便利ポーションみたいな扱いはしないはずだ。ポーションケチるほどお金には困ってない。
「すごいね、探偵さんみたい……これは予知の力なの?」
その返事の時点で、イエスと言ったも同然だ。
「違うよ、多分。まぁ無意識に使ってる可能性はあるけどね。フィーちゃんならわかるでしょ?」
「ごめんなさい……もしかしたら私の考えすぎかもしれないから、様子を見ようと思ったの」
「様子というと……」
「この前の生徒会室で、ローザ様のご様子が気になって。その……不安や考え事をされているようだったから」
うーん⁉︎ これは⁉︎
私は藪蛇でも突いてしまったかな⁉︎
しかしもう戻れない!
まさかヴィンスに繋がると思ってなかったので、動揺しつつ。でもあくまで勘違いかもしれないし、そっと続きをうながしてみる。
「それは実技演遊会が苦手だってことではなく……?」
「私には愛情の色も見えて」
「愛情の色……?」
「誰かを気にかけてるのかな? と思って」
誰かを気にかける……ヴィンスが普通にしてる時に気にかけるのは、今のところ1人しか思い浮かばない。




