560話 あやしい特訓?
実技演遊会の予選は、剣技が試される。
貴族の男子はたしなみとして基本はできる。それは当然で、貴族のルールにはノブレスオブリージュが存在するから。
これは高い地位にあるものはそれなりの義務がともなうってもの。貴族というのは領地を治めるものだから、守る義務も発生する——。
だからこそ、剣技を学ぶんだけど。
剣を使えなくても強い人はいる。
貴族はたいてい魔力持ちだしね。
なのでライラック公爵家なんかはみんなが想像する通りの貴族だけど、ローザ公爵家やゲンティアナ侯爵家なんかは魔法の強さのイメージが強い。
それにそこの2つは、どちらかというと頭脳派だし。まぁこれについてはシンビジウムも若干そうだけど。
ただうちの男性陣は剣も強い方なんだよね。お父さんもさすがに予知だけで王様のそばにいたわけじゃない。監視対象ではあっただろうけど。
だからわがシンビジウム公爵家は、わけるならバランス型と言えるかもしれない——ちなみにその上位互換が王族かな。
そういう流れもあるから。
ヴィンスが剣ができなくても。
まぁ、しかたない気がするんだけど。
問題はこの実技演遊会、予選は剣技の美しさや正確さで順位が上の人から通過するってことだ。つまり。
「まぁ……優秀であろうリリちゃんが出ちゃうってことは、貴重な枠1つ埋まっちゃうもんね? それで特訓しようとしたってこと?」
「そうだよ、悪いかよ、つーかお前たちまで来ると思ってなかったんだけどな!」
日曜の午後。すごしやすい陽気に少し葉が色づきはじめた庭……というか、ほぼ森というかを背景に眺めながら。
私はフィーちゃんと、ヴィンスたちが剣を握っているのを鑑賞していた。まぁ、フィーちゃんはちょっと居心地悪そうだけども。
「だってセツに『来る?』って聞かれたから、冷やかしに?」
「本音が漏れておりますねぇクリスティア嬢?」
「アルとかリリちゃんに情報漏らさなかっただけいいでしょ。言ってほしかったの?」
「そう見えるならあなたの目は節穴でしょうね」
「でもいい指南役にはなったはずだよ? ブランでもいいけど」
「ぐっ……」
にこやかお怒りモードのヴィンスをちょっとからかっておく。リリちゃんじゃないけど、イヤそ~な顔がちょっとつつきたくなる。
要するに。ヴィンスはうちの弟に剣の型を教えてもらう気らしい。
アルやブラン、それに身内に頼まないのはプライドなんだろう。いつもの余裕綽々はどこへやら。こんな姿を見る機会はそうないから、貴重だよねぇ。
しかも反応がいいから、かわいそうだけど需要ありそうでもあるっていうか……まぁ私が来た理由は、それだけじゃないんだけど。
「すみませんすみません! 私まで心配で来てしまって……!」
「あ、いや。フィリアナ嬢が悪くないのは承知しています。主に悪いのはクリスですから」
「え! なんでよ! そもそも誘ったの弟なのに⁉」
優しいフィーちゃんは言葉通りに受け取って、自分が来たことを気にしている。私とセツの方が絶対悪い。
でもセツが一番悪い。
きっとろくに説明してないんだろう。
そう思う理由もある。なぜなら——。
「というか私も知りたいんだよね——なんでゲンティアナ侯爵邸で特訓なんて話になったの⁉」
そう。ここはローザ公爵邸ではない。
ましてやうちでもないのだ。
私も付いてきてびっくりしてる。
誘われたからついてきた。でもまさか、ヴィンスのところですらないとは。なんかあやしい森に入ったとは思ってたけど!
「やー。だってヴィン君が自分ちでやりたくないーって言うからさぁ」
のほほんとした様子で、今回の主犯格は剣を肩に担ぎながらそう言った。
「そんでレイもなんか特訓参加したいとか言うから、こうなった」
「場所提供しましたー!」
「圧倒的説明不足!!!!」
ツッコミが不在である。いっとくけど、私より絶対ヴィンスとフィーちゃんが困ってるからね⁉
「しかも参加者くらい教えておいてよ! フィーちゃんがいるのも馬車で拾う時に知ったし!」
「えっそうだったの?」
「ごめん謎の姉と友達の意地で知ってた風の対応しちゃったんだけど! 全然知らなかったよ! フィーちゃんは知ってたんだねちょっと安心した!」
「いやだって、説明しないで彼女連れ出す奴はやばいやつじゃん」
「姉にも説明して⁉ 彼女に向ける慈悲の半分でいいから向けてもらます⁉」
「てか別に、参加者増えたとこで支障なくね?」
「なんなんだその陽キャの発想は!!!!」
ツッコミすぎて息切れしてたら、「体力ないね」って言われた。セツさんのせいなんですけど⁉
「まぁ……誰が集まるかは知れた方が良かったですね。さすがに場所を知らなかったのはクリスだけでしたが」
「あれぇ⁉ 私だけ仲間外れ⁉」
「抜けているようですが、場所知らなきゃ僕はここにいませんからね」
「はっ⁉ ほんとだっ⁉」
「哀れですね」
仕返しとばかりに調子にのってくるヴィンスに笑われた。もういつものカッコつけに戻ってる。もー、元気なようでなによりですね⁉
「とはいえ、正直僕も場所には驚きましたが……まさかこんな形でいろいろな意味で『魔の巣窟』と名高いゲンティアナ邸へ訪問することになるとは」
「何よそのふたつ名は……」
「友人のことは知っておくべきですよ。これは研究熱心な方々への敬意と、魔獣への恐れからきてます」
「わぁ、なんてオブラートに包んだ説明」
「言いえて妙ですよね~!」
「家主はその態度でいいんだ……?」
「だってあってますし?」
「そうだね……」
若干嫌味なんかも含まれてそうだけれど、この家主は無敵なので効かないみたいだ。しかもあっけらかんとした様子でレイ君は続ける。
「なんかヴィン君は誰にもバレたくないんでしたよねー? それで特訓するって聞いたんで、じゃあ壊しても大丈夫なうちが良いかなって」
「……何を壊す気ですか?」
「あれ? ヴィン君聞いてないですー? クリスちゃんになんかいろいろ出してもらって、実戦練習もするんですよ?」
聞いてないと顔に書いてあるヴィンスは、憮然とした眼をこちらに向けてきた。なんでいちいち私のせいみたいになるのよ。
「まぁ協力するのはOKしたよ。じゃなきゃただ邪魔しに来たみたいでしょ? フィーちゃんも回復要員だろうし」
「は、はい! それもあってお呼ばれしました!」
らちが明かないと思ったのか、その視線はセツにスライドした。
「型だけの予定では……?」
「でもヴィン君基礎はできるでしょ。剣使った実践は予選通過したら必要になるんだし、型だけきれいでも仕方ないじゃん」
「ですですー! やっぱこう、実戦から得られる成果ってありますもん!」
「レイは型練必要だと思うけどな」
「つまんないからやだ」
「はぁ……この脳筋どもめ……」
ヴィンスが頭を押さえながら、呪詛でも吐きそうなため息をついた。うーんちょっとかわいそうかな? 少し助け舟出そうとしたら、セツが先に口を開いた。
「だって剣は本来積み重ねなんだよ。それに適した筋肉とか使い方とか、身体が覚えてついてくんの。今から形だけじゃカッコつかないよ——姫様の前で恥かくの嫌だよね?」
不敵に笑うそれにつられたのか、ヴィンスも前髪をかき上げながら笑みをつくった。
「それでまず何をなさるんですか、先生?」
「軽く素振り100回。そんで癖を見てから型確認して実践かな」
「……お手柔らかにお願いしますね」
「疲れたら回復してもらえるから。大丈夫だよ」
「……。」




