559話 凍れる大会開催?
こうやってなにもないけど楽しい過ごしてると、あぁいつもの日常だなという感じがする。だけどこの実技演遊会がもうすぐとなると、時間がない。
『学プリ』の流れ的に大きなイベントはこれを含めて2つ——残りは卒業式しかなくなる。
没入しつつあるこの日々も。
いつの間にかみんながいるのが普通で。
いつまでも続くような錯覚がしてるけど。
だけどそんな風にはいかない。時間は進んでいくのだから、私の分岐点もノア君の結末も刻々と近づいているということ。
だからこそこの日常が普通になっていることがうれしくもあり、ちょっと怖くもある。私はちゃんと、正解を引き当てられるんだろうか——。
裏ノア君の存在がある以上、何かの変化が絶対に起こるということなのだけれど。
「だから今年は楽しみだよ。みんなの成長もみられるからね」
「わー怖いですねー? でも自分が魔法浴びる機会ってそうないので、オレもブラン君の魔法浴びたいですー!」
「ふふ、うん。トーナメントで当たったらよろしくね」
「剣をついでにするなよ、剣術の大会だぞ」
「ヤキモチ妬かないでくださーい」
「は? 誰が? どこに?」
ぼうっと考えている間に、話が盛り上がっていてた。
眉をさげて優しく口にするブランは、さっきの強者感はなくていつものお兄ちゃんモードだ。
それでもってレイ君は研究者モードに入っちゃったらしく、セツと会話が妙に噛み合ってない。まったく、いつでも楽しそうだね君たちは。
そういう何気ないところに、微笑ましさを感じて見守っていたのだけれど。
「それにしても、今日は嫌におとなしいですのね。どこから猫を借りてきたのかしら?」
「え? どうしたのリリちゃん。なんの話?」
「ヴィンセントのことですのよ。ねぇあなた、怖いんじゃありませんの?」
紅茶を堪能していたリリちゃんが、突然矛先を向けた。向かいでさっきまでにこにこしていたフィーちゃんが、青い顔であわてている。
心の読めるフィーちゃんがこの反応……ということは。
「……えと。ヴィンス、大丈夫?」
「男性は全員参加が基本だなんて、なんと時代遅れなことかと思いませんか?」
「ワー、イイエガオダナー……?」
「愚かですよ、愚か。力の強いものだけでは戦は勝てないのですよ?」
「ヴィン君苦手なんだ、剣術」
「煽っても相手が乗って来るとは限らないんですよ、あなたたち姉弟はもう少しものを考えてから発言した方がいいのでは?」
「できないんだ?」
「できますけども?」
いやーに笑顔を貼り付けて、さっきまで黙ってたと思えないくらい饒舌に話すヴィンス。
結局セツの口車に乗ってるところを見ると、どうも本当に余裕がなさそうに見える。あれ? そんなに苦手だったっけ?
「ふふん! あなたにも弱点があるということですのね!」
「いえ? 型は得意ですが?」
「剣術を入れた実践が苦手なんですよヴィスは」
「まさか殿下ともあろうお方がこんな汚い方法で友人を売り払うとは失望いたしました」
「ヴィン君、ゲロってるゲロってる」
「あはは! 愉快なことこの上ないですの!」
「おー! 仲間ですー?」
「いや研究狂いと一緒にするな。しかも僕は基礎はちゃんとできるからな?」
イキイキとしたリリちゃんを筆頭に、アルに裏切られ年下にからかわれ。ついに笑顔の仮面も剥がされて本音が出ていた。
本当に嫌なんだろう。どこかげっそりした顔でため息をついた。
「そもそも僕は参謀タイプで、その他大勢の脳筋タイプとは違うんだよ……先頭にでも立たない限り今で十分なだけだ」
「おや。随分大きく喧嘩を売りましたね。私も参加するのですが?」
「うるせぇなこの脳筋腹黒王子」
楽しそうにとぼけるアルが、悪態をつくヴィンスを突いている。仲いいなぁ……。
でもよくわかってないフィーちゃんだけが、「け、喧嘩は……!」と止めようか戸惑っている。うーん、こっちも可愛いくて見ちゃう。
「ちなみにその他大勢の脳筋タイプ呼ばわりされていますが。いかがですか? 前回優勝者のブランドン殿は」
「聞き捨てなりませんね。いますぐ手袋を投げて決闘に持ち込んでもいいくらいです」
「はーもう最悪三銃士か?」
「ヴィン君的にはあと1人誰なの?」
「王女殿下以外にあり得ますでしょうか?」
「あら光栄ですの。では私も参加しようかしら」
「……え?」
めずらしく年上組にニコニコと徒党を組まれてやり込められてる。悪いけどちょっと面白いな……と思っていたら。
リリちゃんの一言に、声を上げたヴィンスだけじゃなく一同の視線が集まる。
「は……姫様? ご冗談ですよね?」
「私が冗談を言うような人間に見えるなら、あなたの目はガラス玉に違いないですの」
「はは……いやいやいや……」
「もう決めましたのよ。もとより王族は、身を守るための剣術は嗜んでおりますものよ」
そーなの!???
いやまぁたしかに⁉
鬼に金棒感あるけど⁉
アルの方を見ると、静かにうなずいた。え、ほんとなんだ!
「で、でも男性ばかりでは、リリチカ様もあぶないんじゃ……」
「あらフィリー。心配してくれるの? 大丈夫ですのよ、私が『愛し子』だという事を忘れているの?」
「それは……もちろんリリチカ様が魔法をお得意なのはよくわかっていますし、何かあれば私も治療しにいくつもりですけど……」
「ありがとう。でもそもそも、大抵の男は私より弱いですのよ」
「つ、強気〜!」
「ふふっ、お姉様にもいいところが見せられると思いますの」
スイッチが入ってしまったリリちゃんは止まらない。
「こんなに正々堂々と叩きのめせるよい機会、逃すと思っていて? 首を洗って待ってるといいわよ、ローザ卿?」
悪魔のように魅力的で氷のように美しい笑みを浮かべて、リリちゃんはそう宣った——ヴィンスは逆に氷漬けになっていた。かわいそうに……。




