558話 催し物は季節を告げる
「そろそろ実技演遊会の準備を始めないとね」
時間の流れは思っているよりはやい。日常を過ごしていた生徒会室で、生徒会長らしくブランがそう告げた。
「も、もうそんな時期なの……?」
「なに? クリスティは参加しないでしょう、剣術習ってないなら危ないからね」
私の動揺をどう思ったのか、くすりと笑われる。だけどブランは優しいから、すかさずフォローも入れてくれた。
「大丈夫だよ、魔術遊戯会と違って生徒会も全員参加するとは限らないから。僕もシードがあるし」
「あ、前回優勝者なんだやっぱり……」
「当然。家名がかかってるからね」
肩をあげてみせるジェスチャーに、いや全然当然ではないけどね、と心の中でツッコミを入れておく。血筋だけで1番になるのはムリだよ。
もちろん環境もあるけれど。
それは努力がないと実を結ばないだろう。
でもブランは謙虚だからそうは言わない。
それにひけらかさない。だから今こうやって、優勝した過去を初めて聞いてるわけだからね。それって本当にすごいと思う。
これがセツなら会った途端、なんでもなさそうな顔を装いながら絶対すぐ報告してくる。まぁ、それはそれでうちの弟の可愛いところだけどね。
そう思ってセツを見だんだけど。
こっち見るなと仏頂面が語っていた。
でも驚いてないあたり、知ってたのかな。
ブランと仲良いつもりでも、今1番仲良いのは私じゃないのかもなぁと思った。同性同士の変わらない親密さがちょっとだけ羨ましい。
「ちなみに男子は基本、全員参加だからね。どんな戦い方をしてもいいとはいえ——基礎がないと、予選通過もできないよ?」
余裕のある微笑みをふりまきながら、強者は言い放った。なにがあっても絶対に敵に回したくないタイプの人だ!
だけどどこにでも、怖いもの知らずはいる。
「しなくていいですねー面倒くさいので。その時間で研究進める方が100倍有意義じゃないです?」
「え? 超楽しそうじゃん。実力試せるし」
「わー、セスは脳筋ですねー?」
「お前だっていつも狩り行ってるだろ」
「あれは魔術メインだから別。必要なことやるのとルールに縛られてやるのは、180度ちがうじゃん」
どうもレイ君は気乗りしないらしい。まぁ確かに、剣使ってるとこ全然見たことないけど……。
ただ『学プリ』では使えてたから、できないわけじゃないんだろうな。ゲーム内ではレイ君の優勝ルートもあるんだよね。
ただこれは好感度と能力のパラメーターが最大値の時の話——つまり、主人公の頑張りあっての結果の話だったからなぁ。
その結果をもたらすはずのフィーちゃんは、リリちゃんの向いでクッキーを食べていた。話を聞かなきゃと思ってるらしく隙を見て食べてる。子リス?
それをチラチラ見て、可愛いと思ってるのは多分私だけじゃない——うちの弟とリリちゃんが見ているのを私は見た。リリちゃんは餌づけもしてた。
「とにかく。男なら剣はできた方がいいだろ」
私にバレたのが気まずかったのか、我が弟君は話を戻すことにしたらしい。
「はーやだやだ。これだから戦闘狂は。時代は魔法がキーにきまってるじゃん。魔法の前に物理は形無しなんだから、魔術研究の方が……」
「どっちが戦闘狂なんだか。レイの狩りはただ新しい魔法ぶっ放したいだけじゃん。効率が悪いんだよ。あと剣はロマンだから」
「そもそも筋肉で力量差が出ちゃうっていうのがいただけないし、こっちは優雅なんですぅー! 美しさが違うんですぅー!」
「お前の高火力魔法から優雅を感じたことない上に、魔力も力の差はあるじゃん」
……子どもの喧嘩かな?
まぁ、負けず嫌いなんだろう。
レイ君は華奢だから、剣術が苦手なのだ。
そんな彼が優勝ルートに行くのは、並々ならぬ愛と努力を感じてよかったんだよな……と、元推しを思い浮かべた。今のレイ君とはほぼ別人の話だ。
『学プリ』はその性質上、ヒロインのサポート次第でルートも結末も変わる。だからルート次第で優勝者も変わっていたんだけど。
今のレイ君とフィーちゃんはそういうんじゃないし、レイ君はあきらかに剣術より魔術に傾倒してるし。いいとこ見せたいとも思ってない。
しかもフィーちゃんは結局誰ルートでもなくて、うちの弟と婚約してしまったし……って、ん?
「え! まさかレイ君はともかくセツが優勝の可能性もあるってことぉ⁉」
「は? 当たり前ですけど? 参加するんだから目指すだろそりゃ」
「ご、ごめん……いやこの事実になかなか慣れなくて」
思ったより大きな声で驚いてしまい、恥ずかしくて手を口で押えた。おまけに弟から冷たい視線をあびせられる。
「まったく。いつで止まってんの? 言っとくけどオレ、剣も強いからね」
「いやまぁ、弱くはないだろうと思ってるけど……」
「うんうん。セス君は強いよね。でも優勝するには僕に勝たないとだけど」
「うげ……ラスボスがなんか言ってくる……」
にこにことしながら投げられた強者の一言に、うちの弟くんが肩身を狭くする。ブランはセツの師匠みたいなとこもあるしね。
「とはいえ、実技演遊会は剣術だけではありませんからね。魔法をいかに活かせるかで勝敗が変わりますし、相性もあります」
「あ、そっか。トーナメント方式だから……」
「ええ。運も実力のうちですね」
いままで黙って聞いていたアルが、補足をしてくれた。魔力の相性はたしかに、戦いを左右する大きなポイントになりそうだ。
火は水に弱いし、水は雷や土に弱い。
でも土は水に弱くて雷に強い。
ついでに火は……えーと?
「こういう時に一番有利なのは意外と土魔法ですね。だからこそライラック公爵家は代々、強者を輩出する名門ということですが」
「そうですね……自分で口にするのは、はばかられますが。土魔法は特殊です。草木も鉱物も味方につけられますし」
「そっか。草は燃えちゃいそうだけど、鋼鉄は強いってこと⁉」
「んー……まぁそれでも殿下ほど魔力量があって扱いがうまい方なら、話は別だけれどね。殿下の火魔法は火力が高いから」
アルとブランの説明にうなずく。そっか。単純に考えたら優劣がありそうでも、個人差で逆転しかねないのか……いや授業でそこまで習ったかなぁ?
首をひねる私に、ブランは穏やかに付け足す。
「それだけじゃないよ。生徒会メンバーは、魔法を組み合わせて使うのが上手いからね。だから僕も当たりたくないなぁ」
「あぁ……まるでデフォルトかのように話してるけど、魔力複数持ち自体がめずらしいんだったね。しかも魔法独自開発しちゃってるし……」
「そういえばそうでしたね? じゃあいいデータ集められる場ではあるのか……うーん、相手次第では悪くはないのか……」
冗談めかして話すのを聞いて、自分の周りの能力の高さを思い出した。そこのぶつぶつ言い出した研究狂いさんは、目的がすり替わりつつあるけれど。
負けるとか考えてなさそうなあたり、勝つ気ではあるんだよなぁと思って苦笑した。




