557話 疑問は積もる
「記憶がなくなる前にまとめましょう! 傾向と対策! 受験生の必須要素!」
全然受験生じゃない上にテストでも何でもないんだけど、謎のテンションで呪文のように唱えながらノートを広げる。大事なのは勢いだから!
まとめるつもりで広げては見返す。
そして読むのに集中して……はっ!
いかんいかん! 書かないと!
「いまいちまとめててもわからないとこもあるけど……」
報告書の内容、儀式のこと、ノア君の出自のこと——絶対に表には出せないなと思いながら、覚えてることを書く。
「思い出させたくないのは、やっぱり優しさじゃないのかな……」
報告を聞きながら気になっていたこと。
やっぱり書いてみても、引っかかる。
裏ノア君の発言について。
『ノアに過去を思い出させるな』
あれはノア君の過去を知られると自分が不都合なのか、はたまた。
「でも、シーナはあれは心を壊すためだと言ったよね」
ひとつの体に、人の魂と魔獣の疑似魂。
いわばキメラのようなもの。
でもなんで、魂を壊さないのか。
「えー……魔獣って、魂を求めてるから……今が理想ってこと? いやでも普通は魂は食べられちゃうはずで……わぷっ!」
ぽいんっと飛んできたクロが、いきなり頭の上にのってきた。そのせいで顔から枕に突っ込んだ。
「もぉ~クロったら。最近暴れん坊さんだね? おなかすいたの? 魔力食べていいけど、ちょっと大人しくしててよ~」
頭の上からつまむように持ち上げると、ふりこのようにぷらぷら揺れながらもこっちを見ている。
省エネモードなのか、今日は普通のスライム姿だ。まぁクロ自体も、あの家の再現とかで力結構使ったもんね。
小さいのをいいことに、手で包みこんで閉じこめる。プルプルしてるけど、ちょっとおとなしくなった。
微妙に魔力の流れを感じるけど、いつもより吸い方が少ない気がする。なんとなく遠慮してる?
「クロは、共生のために私から全部は魔力取らないんだったね」
まぁ、契約しちゃったせいで私の魔力しか食べれなくなったのはあるけど——。
そこで気づいた。
もしかして。
裏ノア君もそうなのかな?
魔力を食べたいから? いやでも、ノア君の魔力は光で天敵で。食べることなんてとても——。
『その人の子は闇に染まっている。闇に落ちた魂に光は宿らん』
ふと、いつぞやに言われたアミトゥラーシャ様の言葉を急に思い出した。
「……ノア君は、闇落ちしてないから光魔法が使えるってことだよね」
あれだけのことがあったら。
きっと、人を恨むはずで。
そうなれば光は使えない。
だけど、その記憶がないのなら。
「記憶を忘れさせてるって考えるのが、自然だよね。裏ノア君がたまに心読んで来るのは、光の力ではあるんだろうけど……」
でもそれは完全な力じゃない。ノア君は本来、聖女の力に並びそうなくらい光の魔力が強い。けれど裏ノア君からは全部読まれてる感じはない。
本人じゃないから?
相性が悪いから?
影響を受けて弱体化してる?
「どうして闇に落とさないんだろ?」
そういう儀式だったの?
そんなことは聞いてない。
多分、報告書に書いてもいなかった。
裏ノア君が闇の魔獣だとしたら、魔力をどこからとってるのか。クロのような感じだとしたら、光の魔力は食べられない。
「……食べてない? そんなの可能なのかな? あぁでも、魂は集めてたような……」
海送りで魂が還らなくて、女神様は怒っていた。それだけじゃなくて、よなよな闇スライムでなにかしてたりしそうだった。
「魂は、魔力の元、だから……?」
それなら直接食べられる?
じゃあなんでノア君は生きてる?
その意図が、あるのだとしたら。
「やっぱりノア君のこと、大事にしてるから以外の結論出ないよねー……」
裏ノア君の行動は、明らかにノア君のためだと思う。
クロが私のこと助けようとしたり、魔力取りすぎないようにしようとしたりするのと、同じように。
もにもにぶにょぷにょと手の中のクロをにぎると、伸び縮みしながらなんとなく楽しそうに見える——気がする。
「魔獣は人間じゃない……そんなことはわかってるけど。でも擬似魂があるなら、構造はそう変わらないんじゃないかな……」
擬似魂があれば魔獣は人を襲わないかというと、そんなことはないらしい。
これに関しては闘技場に現れたドラゴンも見たからわかってる。だけど襲う魔獣ばかりでないのも、クロを見ていればわかる。
思考もするし、意思もある。
話もできる、ただ通じるとは限らない。
魔獣は自分の目的で動くから。
「人にとって悪い存在だけど、全部が悪ではないんだよなー……私が裏ノア君の見た目に左右されすぎなのかなぁ?」
ぷにぷにとクロをつつくと、そのうち指に絡まるようにくっついてくる。構ってもらえて嬉しそう——な気がする。
「……それにしても。女神様もなんで何も言わなかったんだろ。王族の子供のことなら、絶対知ってそうなのに」
怪しい。怪しすぎる。
人間に、特に王族に執着してそうなのに。
ノア君、関心ど真ん中だと思うんだけど。
気づいていたなら最初から私に連れてこいとか言えばいい。それとも擬似魂が混じったからわからなくなった?
でもなーんか正直、違和感あるんだよね。
もちろん見つからないようにされてるみたいなことは、聞いた気がするけど……。
疑いたくはない。
疑いたくはないけれど。
女神様も、なにか隠してない?
「まぁ、女神様にとっては魂が大事だから、手もとにかえってくるのが大事なのかもしれないけど……」
この世界は何度も繰り返してると聞いた。
その中で、滅ぼすきっかけの主も変わる。
ひとつ前はオリーヴェ君だったとも。
「まるでゲームのリセマラとか、セーブからやり直してるみたいだよなぁ……」
ゲームなら、いくつかルートがある。
そのルート分岐でエンドが変わる。
場合によっては、キャラも変わる。
その繰り返しの中で同じ人が世界を滅ぼす原因になる事は、普通に考えたら確率的に高いはず。
ノア君も繰り返してたら?
絶対1回目なわけなくない?
あまりにも好条件な人物すぎるし。
それなら、ノア君が怪しいのは気づきそうなもので。
少なくとも王族に意識を向けているなら、魂に変化があった時に疑ったりしないんだろうか——それすら誤魔化せるほど、裏ノア君の魔力が多いとも思えない。
逆にオリーヴェ君に会いにいった女神さまは、全然おかしくない——おかしくはないけど。あれは今回は違うから、会いにいけた?
「それとも『愛し子』じゃないから関心がない? ……どうなんだろ?」
だけど、アルには関心もってなかった?
直系の王族だから?
んー……うまく言えないもやもやっ!
「……神様は嘘をつかないんだろうか……いや、疑い出したらキリがないけど」
一瞬よぎった思考にふたをする。
正しいことを言うのが、光なら。
闇を司る女神様は——。
「あぁ……こんなの相談しても、罰当たりすぎるし。だれも信じてくれないだろうな……むしろ処罰されるのが私になってしまうか〜」
でもなんかもったいない。
だから全部メモってはおいた。
後で気付けることもあるかもしれないし。
もやもやして絶対寝れないだろうと思ったけど、魔力不足だからか、クロがずっとくっついてたせいか。意外とその日はころっと寝てしまった。




