556話 恐怖の闇の儀式
「必要だったのは器、そしてその儀式のための材料たちです」
あ、なんか聞きたくない。
不穏だ。私の勘がそう言ってる。
たちって言ってますよね……?
やだな……と思いながら、重い口を無理やり開けて言葉にする。確かめたくないけれど、確かめなければ話は進まない
「えっと……ノア君のことは器として必要なのはわかった。わかったけど……あ、待って。思い出したけど言いたくないわ」
「……闇の儀式には、人の怨念が必要だとされています。そのためには儀式にたくさんの人間を必要とします」
うん! そうだよね!
いつぞやに言ってたよね!
「魂を捧げる」ってさぁ‼︎
わかってるんだよ、私の中では点がもう線になってる。魂が魔力を生み出すことも、それが大きな想いや感情に起因することも。
魂を普通の人は操れない。
しかも魔力には種類がある。
それでも思い通りにしたいなら——。
それがどれだけ搾取的で、非道であるかも。だけど、その結果がどれだけの結果を招くことになるか、私はよく知っている。
「裏ノア君が思い出させたくないのは、これかな……」
「はい?」
「あ、ごめん。違うの。ひとりごと! ……ねぇ、やっぱりその儀式って、その、ひどいものなんだよね?」
「大方、お嬢様が想像されるようなものかと」
この前私が過呼吸になったせいなのか、シーナは詳細を避ける。たぶん、これ以上想像させないようにしているんだと思う。
それでも黙ってシーナを見つめていると、少しだけ話してくれる。
「……血なまぐさく、狂気的なものですから。器に選ばれる者は身体は壊されませんが、心は壊さなければなりません」
「……。」
「儀式の半分は、そのためのものです。……それだけでなく、王族も闇使いの血肉も、価値の高い供物です」
「……はぁ。私って性格悪いのかも。いやなこと想像した」
「否定して差し上げたいところですが、合っていますよ」
「え、それどっちのあってるの意味?」
賢い侍女殿は答えない。おーい! そこは主のフォローするところじゃないんですか⁉
「儀式に必要な魔方陣は、血で描かれていたようです。魔石より伝導率いいですから。お嬢様、お金に困っても血は売らないでくださいね」
「売らないよ! 困らないし! 私最悪自給自足できるくらいの魔力はあるよ‼ 悪い人も倒せるもん!」
「そうですね。ですが正攻法で来るものばかりではありませんから……」
いや心配されてるのはわかるけど!
そんな子どもじゃあるまいし!
私だって分別つくよ‼
そう言おうと思ったのに。シーナの目があまりからかうようなものじゃなかったから、開きかけた口を閉じた。
「……なんかシーナって、変なとこで私のこと子ども扱いするよね」
「子供なら押さえられる分可愛いのですけれどね。お嬢様は振り切っていかれるのでたちが悪いです」
「今、主のことたちが悪いって言った?」
「お恥ずかしながら」
「恥じるところが違う上に全然恥じてる様子じゃないよ⁉」
真顔でうなずきながら面と向かって言ってのけるあたりに、ふてぶてしさを感じるんですが⁉
恥じるのはその態度の方だよ!
お父様たちにはしないのに!
あれ、私が舐められてるだけでは?
「ともかく。お嬢様のお知りになりたかった情報は以上です。詳しくは資料にまとめていますが……儀式の内容や行い方は伏せています」
「それは……」
「これに関しては、私たちのわがままです。この世のどこからも、葬り去らなければなりません——我々の手で」
そういうシーナの顔は、メイド服を着ていても本職を匂わせた。
案外、情報屋は私のための組織という体を保っただけの組織なのかもしれない——同じような、過ちの種を摘むための。
「ま、そのほうがいいね。どこかのうっかりした主が、紙をなくさないとも限らないから」
「その前に私が燃やしますが」
「え! まって! まだ見てないから‼」
「お話した内容でほぼ全てですよ」
「わー! まってまってせめて一度くらい目を通させてよ〜‼」
急かされるような感じで資料に目を通す。ダメだ! 全然頭に入ってこない! 私の記憶力のなさは学校のテストでもわかってることだけど‼︎
「あぁ〜アルならきっと完璧に頭に入れられるのに〜」
「お嬢様以外の皆様はそうなのでは?」
「それはそう〜‼︎ みんな頭いいから〜‼︎」
「しかし機密文書をそのままにはできませんから」
「それもそう〜‼︎ 理屈はよくわかるの〜‼︎」
文句があるのは自分の記憶力に対してですよ! 紙で貰えたからって安心した! ばか! あぁシーナがいなきゃメモとるのにぃ〜‼︎
「それにしても、なんでシブニー教は女神様を怒らせるようなことばっかりしてるのかしら。仮にも女神様を祀ってるんじゃないの⁉︎」
全然入ってこない情報を見てる風にぱらぱらしながら、しこりのように引っかかっていたことを口にした。
人間を供物にするのも。
その中でも王族をターゲットにするのも。
闇使いを犠牲にするのも。
全部全部、女神様にしてみたら、煽られているようなものではないのだろうか。
「んー女神様は確かに愛情深いけど……さすがに……」
「それも目的でしょうから」
「どういうこと?」
もはや風景にしか見えてない紙から頭を上げて、シーナの顔を見る。なんでもなさそうに、当然のように、その言葉は続いた。
「信仰は——信じるという行為は、美しいものだけではないのですよ。その力を信じるからこそ、野望にも使おうと考えるのです」
「よくわからないんだけど……?」
「お嬢様のように単純な方には思いもよらないのでしょう。ですがこの世界を作り替えたいと考えた時、信じるからこそ神を利用するのです」
「えぇ……? 信じてる神様をそのために怒らせるの?」
「赦されると信じているのでしょう、愚かなことですが。頼るのも怒らせるのも、全ては紙一重といったところでしょうか」
「ふーん……」
わかるような、わからないような。
ただ、そういう考えがあるらしい。
それだけは理解した。
「なんか人間って面倒だね。私は女神様のこと、結構すきだから怒らせたくないけどなー。可哀想だし」
「まぁお嬢様は単純ですからね」
「ねぇさっきから私のこと馬鹿にしてない? 単細胞って言いたいの?」
「単細胞とは言ってません。単純だと申し上げております」
「絶対同じ意味じゃんっ‼︎」
結局半分も頭に入らなかった紙を投げて怒っておいた。その紙はそれ以降見てない。あーあ。もうちょっと読みたかったんだけどなぁ。




