553話 うちの子が優秀すぎる
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私はここに来たことがある。
だから、慢心していた。
あるもんだって、当然思ってた。
「うそでしょ……燃えたってこと……?」
呆然と立ちつくす私の前に広がっていたのは、ただ黒焦げの家の跡だった。
こんなとこで燃えるとかある⁉
だいぶ隠されてる無人の家だよ⁉
山火事とか起こったってこと⁉
そう思って周りを見たけれど、周りの木から燃え移った感じじゃない。だって、家の周り以外は燃えていないから。
「ここに主様の調べたい家があったということですけれど……これは」
「トリス。それはお嬢様が一番わかっていることです」
「し、失礼いたしました!」
シーナが諫めてるけど、その通り。燃えかすから調べるなんて技術は、ここの世界にはない。
明らかに人為的。そして逆に言えば。
それだけ見られたくなかった。
そういう場所だったんだろう。
どうしよう……と困っていたら。ブレスレットになっておとなしくしていたクロが、突然スライムの姿になってこっちに跳ねてきた。
「わぁっど、どうしたのクロ!」
とっさに手のひらですくうと、そのままぽよぽよと小さく跳ねている。つぶらなひとみが、何か語りたそうにしてる気がするけど……。
正直、なにもわかりません!!!!
私は光使いじゃないから、心のなかは読めないんだってばー! ……ただなにかできるって言ってる? いや言ってないけど。
そんな気はするときは信じるのが一番!
「オッケー! クロの好きなようにして!」
そのまま投げるように放つ。するとアメーバ状に広がったと思ったら、銀の光をまといながらその形を変えた——。
「! これって……!」
そして現れたのは、そう、あの目的だった家だ。
「なるほど!? 私の記憶を読んだってわけね⁉ えっ頭いい~! うちの子天才かもしれない‼」
「お嬢様、これは……?」
「クロが再現してくれたから、確認ができるってこと! 中入りましょう!」
「ま、魔獣の体内にはいるんですか……?」
この主正気か? という空気を感じたビスから感じた。というか、全員思ってそうだ。でも四の五の言ってられないのだ。
「私が先に入るから! 様子見てからでいいからついてきて‼」
「そんな! 主様にそのような事させられません‼」
「いや、本当に私が入った方が安全なんだよ。クロは私の魔力でしか生きられないから、クロに殺されることってほぼないからね」
「ほぼは100%ではないです主ー!」
「まぁまぁ。大丈夫大丈夫、どうせ入らないと始まらないからね」
男性陣は大袈裟だなぁと思いながら、扉を開ける。中に入ってしまえば、あの時セツと見た光景が目の前に広がっている。
……クロがついてきてくれてよかった。
私だと、再現が曖昧になりそうだから。
思い出せないと思えば再現できない。
その点クロなら、私の記憶を読んでいるから可能だと私も思える。これが結構、大事なんじゃないかと思う。クロ様々だね。
一歩踏み入れた時点で素早く中に入ったらしく、なんだかんだみんな家の中にいる。
さすが隠密にたけてるだけあるなぁと思いながら振り返ると、シーナ以外はちょっと顔が引き攣ってた。やっぱり怖いのかなぁ、魔獣は。
「大丈夫だって。私が起こらないと思ったことは起こらない——確信を持って言える時は予言と同じことなの。私に魔力がある限りはね」
これみよがしに髪を払ってなびかせてみせる。この黒髪を見たら思い出すだろう。君たちの主人はこれだけが取り柄ですよ〜。
ついでに小首を傾げてにやりと笑えば、まぁなんと悪役令嬢ぽい仕草でしょうか。でもそれは、有無を言わせぬ力も持つと知っている。
「……! 申し訳ございません! 主を疑うなどと……!」
「出過ぎた真似をお許しください主! でも今の姿が素敵だったのでもう一度お願いできませんか⁉︎」
「我らが主が偉大な方だと失念しておりました! 主の言葉は神の言葉と同等だと身に刻みます‼︎」
うん? なんか雲行き怪しいなぁ。
あとちゃっかりなんかお願いしてません?
言ってることとやってること逆では?
だけど私は女の子に甘い。手を組みきゅるきゅるおめめを向けてくる懇願ポーズに負けて、もう1回やってあげた。
「はぅ! 美しすぎる……!」と胸を押さえている。テトラさんの趣味はそういう感じらしい。この子、悪役を好きになるタイプだ……。
「こほん。失礼いたしましたお嬢様。あとで言って聞かせますので……」
「貴女がそれを言いますか、モノ」
「そうですよー! モノだってこっち側でしたでしょう⁉︎」
「そうだそうだー! モノだけ逃げるの反対だー!」
「間違えました。今黙らせてもよろしいですか?」
私なんかよりよほど暗黒微笑の似合うシーナの言葉に、ひぃ! と声がそろう。どんだけシーナ怖がられてるんだか。
それと同時に仲良いんだなぁと思いつつ、この場所との空気のミスマッチを噛みしめた。ここ君たちの怖がってた魔獣のお腹の中なんだけど。
「あとにしてね。多分大丈夫だけど早めにここ調べないと、クロが元の姿に戻っちゃうかもしれないし」
「あ、主、それはつまり……」
「うん。お腹の中に入って消化されちゃうかもね?」
これが効いたらしい。もともと素早さに富んだ彼らは、我先にと言わんばかりに散らばり調査に動き出した。
……まぁないけどね。
魔力足りなくても私と接触してれば。
クロは私から勝手に魔力食べるから。
さて。だけど私はどこから調べようか。みんなみたいに専門的な知識はないし……。
あぁ、でもあった。
私にできること。
そして私だけにしかできないこと。
闇魔法が使えるなら、過去視をすればいい。
なんで思いつかなかったんだろう……いや、怖かったからだ。ただ本物を見るのが怖かった。残された跡からでも、十分惨劇はわかることだから。
しかもここは、クロの中。
過去視を再現もしやすい。
無防備になっても大丈夫。
例え裏ノア君が邪魔をしようと、現場にいる私の方がイメージの力は強い。見せようと思えばみんなにも見せられるけど……どうしようか。
「お嬢様、何かわかったのですか?」
こういう時、変化に気づいてくれるのは、やっぱり侍女として隣にいるのが長いからなのか。シーナが後ろから声をかけてきた。
私だけでは決めかねる……なら!
迷った時は人に聞いてしまえ!
断られても別にいいし!
そう考えて、いっそ聞いてみることにした。
「ここの過去視をしようか迷ってたの。いや、正しくは私だけで見るか、かな。多分刺激が強いから……」
「あぁ。そんなことですか。お嬢様が支障をきたさないようであれば、見た方がよいでしょうね」
「で、でも、結構ひどいかもよ?」
「そういうものに我々は慣れています。そもそも人間を相手にすることもありますよ……必要であれば。スペードは特に、です」
シーナは素知らぬ顔でしれっと言ってみせる。
あぁ、そういえば。
この子たちはシブニー教の生き残り。
そういう訓練もされているのか……。
ふとその後ろを見れば、うんうんと頷いている3人が見える。耳ざといなぁ……さすが元諜報部隊?
「……じゃあやってみるけど。もし辛かったら、目と耳を閉じてね。あまり楽しくはないからね」
「主命とあらば、心得ました」
「主人様こそ、無理なさらないでくださいませ」
「我々は元より、主人様のお役に立つためにここにおりますので!」
その返事に少し笑って頷いて、目を閉じて意識を集中させる。
意識を潜らせる。
誰にも邪魔されないように。
クロとのリンクも意識して。
夢見の——アランドルフ王とドロシア様のことを見た感覚を思い出しながら。
今、そっと目を開ける。




