552話 侍女の心主人知らず
次話なのですがちょっと体調が最近悪く完成してないので、おそらく明日の更新になります。間に合えば4/20中に…。
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例の家に行くには、お城の中の鏡の前に行かなければならない。だけどそんなのはむしろ簡単だった。鏡が目的なら、鏡面世界を通ればいいから。
3人は感心しきりで、まるで子供のようだった。この人たち本当に諜報できるんだろうかと思ったけど、できるからこの前助けてくれたんだよな……。
とはいえ鏡面世界を抜けてお城の廊下に出るなり、まわりを警戒しに素早く行動する様はやはり諜報部隊感はあったけど。
ま、いらないんだけどね。
私が幻惑かけちゃうから……。
でも守ろうとしてくれるのは嬉しい。
そんな風に軽く思っていたのだけれど。どうも、驚いていたのは3人だけじゃなかったらしい。
「まさかここまでスムーズに……いえ、それだけではありませんね。お嬢様なら、その気になればこの国を滅ぼせるのでしょうね……」
「えっ⁉︎ なに突然物騒‼︎」
鏡の前で道を開こうとしたら、唐突に言われてさすがに突っ込んでしまった。
びっくりしてシーナの顔を見ると、どこか落ち込んだような、悔しそうな……遠くを見るような? うーん? どういう表情なのそれは?
「普通の人間では、侵入なんてしようとしたら準備がいるのですよ……それも警備が大規模であればあるほど。それをこんな散歩でもするかのように……」
「あれ……? シーナは私が鏡面世界通れること知ってるよね?」
「知っていますが……その上で、お嬢様はその気になれば人を操ることも、ものを変化させることができることも思い出しまして」
あ。なるほど?
怖くなっちゃったのかな?
……さてどうするかなぁ。
これはまぁ、普通の反応なんだよね。黒髪が怖がられるのは、なにも未来を見通せるからじゃない。恐怖の対象なんだ——物理的に。
初めてのものに感動して、目の前のものしか見えてない後ろ3人とは違う。シーナは冷静に分析してしまったらしい。
まぁ、それは正しいし。
実際できるかどうかで言えばできる。
ただ、やらないだけだから。
それを安心してね、と言うのは簡単だけれど……んー。こういう時、どう誤魔化せばいいのかって、なかなか難しいなぁ。
アルなら、上手く言えるのかな。
ヴィンスも上手そうだけど。
今だけ憑依したいね。
と、頭の中で逃げてばかりもいられないから。私は唸りながら、とりあえず口を開いてみる——必殺、フィーリングノープラン戦法!
「んーでも私は王族の首輪付きというか、ア……殿下の忠臣ですので……」
「忠臣は許可なく城に侵入しないと思いますけれどもね」
「ぬ……」
そのとおりすぎる。ムダに演技がかって口にしたのがちょっと恥ずかしくなるじゃないか——あ、でも。
「私、このカサブランカ身につけてる限りは裏切らないよ? アルを裏切ると死んじゃうし」
「……今、なんと?」
「あ、あれ? 言ってなかったっけ?」
すごい剣幕で迫られて、気圧される。……うーん、そういえばの魔道具の話って、アルとヴィンスの前でしかしたことない、かな?
「えっと、信じられないならアルに聞けばいいけど……これは誓いの百合なんだよ。魔道具になってるの。だから腐らないし枯れないんだよ?」
「それは旦那様やセス様はご存じなんですか?」
「え……あ、知らないです……ね? アルも最初知らなかったし……? 私が勝手にやっただけだから」
「そんな恐ろしいものを、私はお嬢様の髪に毎朝挿していたのですか……⁉︎」
「え、あの、えーっとぉ……」
あれ? おかしいな?
安心させるつもりが怯えさせてる?
なんか間違えた気がしますね?
シーナの大きく開かれた目を見て、私の方が動揺する。ここから入れる保険ってありますか?
「で、でもほらっ! これで安心でしょ⁉︎ 私、裏切らないよほんとに‼︎」
泳ぐ目を無理やり前に向け笑顔で隠し、手を振りながら説得にかかる。ワタシ、コワクナイヨー‼︎ イイ悪役令嬢ダヨー‼︎
だけど何故だろう。シーナの顔は下を向いてしまった。わーん! 私ってばいつも説明がへたっぴ——。
「そうではありません……」
「ほぁ?」
「どうして……どうしてお嬢様はいつも、ご自分の命を大事にされないのですか……」
そう言って前に出していた手を包みこまれる……あ、あれ?
「怖くないの?」
「いつ私が怖いと申し上げましたか? そう思うならお嬢様の侍女などもうとっくに辞めています」
「い、いや……怖がってるかなと思ってうっかりしゃべっちゃったんだけど」
「今あるのは怒りです。それよりうっかりということは、こんな機会でもなければ誰も知らないままだったと……?」
おかしい。雲行きがおかしい!
なんで怒りだしちゃったんだ⁉︎
やばいやばい鎮火しないと!
「えっあ、えーーーーとぉ……あ! でも別に裏切らなければ死なないので、そんなに問題ないというか、全然命は大事にしてるっていうか!」
「どのように意図を汲めばそう考えられるとお思いでしょうか?」
「あれぇ? なんか回答間違えたっぽいぞ?」
「普通は命なんてそう易々とかけないのですよ」
いやそれは知ってるけど!
知ってるとは言えないな!
この深刻な顔見ちゃうとな!
んー……これは心配、してくれてるのかな?
どうなんだろうか。さっきは外したし。結局心の読めない私じゃ、この触れている手が何かを怖がりながら私に向き合おうとしてることしかわからない。
わからないから、私が思うことを伝わるように話すしかできない。
「大丈夫だよ。その、心配してくれるのは嬉しいけれど」
なるべく安心させられるように。
優しい声音、優しい笑みを心がけて。
ゆっくり穏やかに話しかけ、手を重ねる。
そしてまっすぐ目を見て話せばいい。堂々としてみせれば、人は私を疑わない——こんな時まで、演技を考えてしまう自分が嫌だけれど。
「そんなに簡単に死なないから。痛いのとか嫌いだし……ほら、知ってるでしょう? 私、実は国を乗っ取れるくらい強いの」
「それは……」
「あはは、さっきシーナが言ったことだもん。その通り。でも優しいからしないわけじゃない。必要ないし面倒だからだよ。あと意外と強かだからね」
そっと手を剥がしながら、逆に繋いでみる。こんなにシーナが感情的なの珍しいなぁ。
「できない交渉はしないよ。これは死なないために必要だっただけだから」
そう、信じてもらうために。
だから私の最上級を出しただけで。
そんな小難しいことじゃない。
運命で死にたくないから命をかける——まぁ矛盾といえばそうかな? だけど何かを得るためには、何かをあげないといけないから。
「そこまでしなければ、殿下はお嬢様を信じてくださらない方でしたでしょうか……?」
「うーん、そんなことないと思うけど……」
「ならなぜ……」
「ははっシーナってば、私のこと大好きみたいだね?」
「……お嬢様は、放っておいたら1人でどこまでも行ってしまいそうですから」
茶化す方の立場がいつもと逆だ。
何にこんなに突っかかってるんだろ?
そう思って、ちょっと困っていたら。
「主様〜! まもなく人が来ますがいかがでしょうか⁉︎」
「あ、ごめん! 今開けるねー!」
ナイスタイミングと言わんばかりに声をかけられ、そっと手を離した。シーナももう何も言わない。言いたげではあるけど切り替えるだろう。
先を急ぐために、構わず呪文を唱えて道を開ける。今日のメインはこっちなのだ。
「頼りにしてるよ、シーナ。私だけじゃどうにもならないところは助けてくれると嬉しい……ま、危なくない範囲でね」
一応、そうさせないつもりではあるけれど。
シーナを肩を叩いてから、中に入ってみんなを手招きする。その時には、もういつもの表情に戻っていて少し安心した。




