103話 お母様は見た!
始まりは家に来た、通知書だった。
やたら豪華な、封筒までエンボス加工の入った丁寧な造りの、まぁもう見るからに高そう! 重要そう! って感じの手紙。
それがね、私宛に届いたんですよ。
怖いじゃないですか。お父様に渡しまして。
優しく「開けていいかい?」って言われたから、全力で首を縦に振って、どうぞどうぞの意を示す。
目の前でレターナイフで開けられてから、それをゆっくりじっくり眺めるお父様。そしてまたそれを固唾を飲んで眺める私……。
「クーちゃん……」
「なんでしょう?」
「ここを見てくれないかな?」
見やすいようにこちら側へ向けて、かつ読んで欲しいところを指差してくれる。うーんさすがお父様。今日も気遣いの達人。
そこでそれを、流し見して……2度見した。
「あの、なんですか『褒美として、預言師の称号を授与』って……」
目をぱちくりさせてみても、擦ってみても。
幻覚じゃないっぽいので聞くんですけど。
なんかすごそうなことが、書いてある気がするよ?
不安げに見上げた私に、お父様は優しく語ってくださる。
「かつて闇の魔力が恐れられる前は、予言の的中率が高い者を『預言者』と呼んでいたんだ。その中でも優秀な王に認められた者には、王から『預言師』という称号を渡される」
「つまり?」
「お城専属の予言使いになってくれっていうお願いだね」
な、なるほど……でも考えて欲しい。
それ、お願いじゃなくて命令ですよね?
拒否権ないやつですよね?
「おめでとう。メイドでもないのに城勤めがこの歳で決まってしまうなんて、大出世だね。でもこうなるとまず魔法の勉強が必要だけれど、これは恐らくうちでは出来ないなぁ……」
「えっもう勉強必要なんですか?」
「将来が決まっているからね。それにこの前は魔力量が分からなくて、配分を間違えたからああなってしまったわけだ……早い方がいい」
困ったように笑うその顔には、あの時のことを思い出しているのか哀愁が漂う。う……すみません。その節はご迷惑をお掛け致しまして……。
すぐに気を取り直し、お父様は続ける。
「きっと学ぶ内容には、『予言師』にまつわるものも出てくるから。お城で勉強になるかな。まだ分からないけれどね」
「お城で……って事は、お父様と通うようになるのでしょうか?」
まぁどうせアルには週一では会ってたし、リリちゃんにも会えるし。行くのは全然構わない。ヴィンスも会う機会増えるかもなー。
あぁ、でもブランやセツとは過ごす時間減るのかなぁ……。それは残念?
なんか突然頭に浮かんだ、元推しは隅に追いやる。
そういえば騒動後、会ってないや。どうしてるかなぁ……いや、会いたくはないんですけど。身の危険を感じるので。
あと気にかかるのは、フィーちゃんとノア君だな。
フィーちゃん、協会は解体になったけど。どうなったかな。少なくとも男爵令嬢じゃないはずだけど、運命の強制力があるなら学園では会うんだろうな。
ノア君の事は、まずヴィンスに会わないと分かんないよなぁ。いつになるかなぁ……。
と、考え込んでいたら。
「ふふ、やる気を出しているところ、水を差すようで悪いけれど」
不安を吹き飛ばすような、優しい声がした。
「クーちゃんはまだ幼いからね。通ってもまだ週1、2回、授業は最初なら午前中だけで、慣らしていく為に30分かからない程度かな?」
私の思案顔からそう読み取ったのか、お父様は気遣うように話してくれた。
そっかー。授業って言うから、時間割みたいなの想像してたよ。それなら楽そうだし、別に今とそんな変わらないかなぁ。
でもそういえば、小学1年生でやっと椅子に座って授業やるのよね。それが6、7歳でしょ? それでも最初は午前中だけ、とかだよね。1回45分くらい?
それ考えたら、私は幼稚園年長さんくらいなわけだから、まぁ妥当……なのかな? とりあえず頷いとく。
「それだけでいいんですね」
「そうだね。私の子供たちは賢くて忘れてしまいそうだけれど、まだ5歳だから……あぁ! でもクーちゃんも、もうすぐ誕生日じゃないか!」
「え、あーそういえば?」
「大変だ‼︎ 今からちゃんと何が欲しいか、決めておくんだよ?」
なんでかさっきの手紙の時より、気合いの入っているお父様。明らかに、あっちの手紙の方が優先度高いと思うけど?
うーん、心配かけちゃったからなぁ。お誕生日お祝いしてもらえたら、なんかお返ししようかなぁ。考えとこ。
「けれどその前に、まずは来週の授与式だね。急な話だから今からドレス、間に合……いや、意地でも間に合わせよう! クーちゃんの晴れ舞台だからね‼︎ 完全オーダーメイドは難しいけれど、可愛いドレスにしようか!」
急にエンジンかかり出したお父様に戸惑う私。
「えっなんですかそれは」
「授与式だよ? 国王陛下から『預言師』の称号を賜るのだから、きちんとしないとね。きっとその後、バルコニーでのお披露目もあるだろうし」
「えっえっなんですそれ聞いてないです‼︎」
話が飲み込めない!
えっと、あの、授与式があるのは分かった!
とりあえず納得した!
でもね、そのバルコニーでのお披露目って何⁉︎
「『預言師』は特別な称号でね。その預言で、国を、延いては王国民も支える、滅多に出ない大事な役職のようなものなんだよ。最後に出たのは千年前かな?」
「そ、そうなんですね……?」
「うん。 クーちゃんは殿下の婚約者でもあるから、きっとバルコニーからのお披露目があると思うよ。でも幼いから、さすがにパレードはさせないと思うけれど」
そんな幻の称号は確かにレアリティ高そうだから、見みたい人は多いのかなぁ。
でもそれはアレですか。
イギリス王室のロイヤルファミリー的な。
ベランダから手を振る、みたいなやつですか⁉︎
思わず表情も固くなる。
「……手をふる練習しておきます」
「ふふ、そうだね。でもまずは、ドレスの採寸をしてもらおう! 今からでも既製品にアレンジくらいは融通させる事ができるはずだから! 急がなきゃね!」
この喜び100%のお父様と、緊張100%の私の落差よ。
「そ、そんなに頑張らなくても……」
「何を言ってるんだい⁉︎ クーちゃんはこの国を救った、救世主も同然なんだよ! 君の活躍は、今やみんなが知っている。王勅で広まったのは皮肉だったけれど……クーちゃんを見るために、きっと人が集まるよ」
鼻息を荒くして、そう宣う。え、そうなのか。気まずい。みんなにごめんなさいしなきゃなんですね……理解しました。
「それに、王族直属、お抱えの『預言師』だよ! つまりクーちゃんに指示できるのは、王族だけ。こんな光栄な事はないんだよ!」
「それはつまり……アルの部下?」
「まぁ、分かりやすく言うのならば、そうとも言えるかな?」
「え! 本当に⁉︎ やったぁ‼︎」
急に風向きが変わり、思わず笑顔でガッツポーズだ!
マジですか⁉︎
私、やっと部下として認められるの⁉︎
今まで忠臣を目指して来たのは、無駄じゃなかったと……そういうことなのっ⁉︎ それなら気分も違うよー!
「お父様‼︎ 私頑張って、いい部下になるので! まずはそれに恥じないドレスをお願いします!」
「はははっなんだい? さっきまで嫌そうだったのに、急にやる気になったね。アルバート殿下がそんなに好きなのかぁ、妬けてしまうなぁ」
お父様、そんなメロメロ発言しちゃいます⁉︎
ちょっと可愛いなとか思っちゃったよ!
サービスでハグしとこう! ぎゅー‼︎
そう足にしがみついたら、抱き上げられた!
こ、これだと私は恥ずかしいんですけどね⁉︎
逆襲⁉︎ 逆襲なのっ⁉︎
「ありがとう、うちのお姫様。私としては、もう少し手元にいて欲しいなぁ……」
そう寂しそうに呟きながら、腕に乗せるように抱きしめてニッコリしてくれる。
ロマンチストか!
カッコいいな! 好きです‼︎
お父様攻略ゲーム発売いつですか⁉︎
「私はまだまだ、公爵家のクリスティアです! でも、私の努力が認められたんですもの! アルのためにも、公爵家の名誉のためにも頑張りたいんです‼︎」
そう宣言する。名誉を保つのだって、お家没落にしない大事な第一歩なのだから!
今回は正に、一石二鳥‼︎
美味しすぎるって今気付いた‼︎
「はぁ、いい娘を持ってしまって、私は幸せ者だよ。こんな天使がさらに可愛くなってしまうなんて。天に帰ってしまうのではないかと心配になってしまうね」
「な……なんですかそれは⁉︎ お父様大好きー‼︎」
気持ちに素直にぎゅっと、抱き付いた。
いやでもだってね、考えて欲しいんだけどね? イケメンパッパが憂いのあるお顔で、甘い言葉を囁いてくれるのよ。これメロメロでしょ?
私悪くないでしょ? 勝訴!
しかしお父様が残念そうな顔をする。
「やっぱり陛下にお断り申し上げようかな……」
「あら、楽しそうねセルヴ。私にも抱っこさせて欲しいわ?」
「チッタ⁉︎」
驚いたお父様の陰から現れたのは、お母様。ご機嫌よ……よろしくないですね。黒い笑みが見える!
浮気っぽいよねシュチュエーションが。お父様の発言も、まるで口説き文句だったもんね。浮気現場の修羅場誕生かな。
かくなる上は……!
「お母様、ぎゅー!」
「……何してんのくー姉……」
子供の必殺技をお母様にお見舞いしていたら、お母様の後ろにいたセツに白い目で見られました。姉の威厳よ、さようなら。
それでも私は、ここが犯行現場になる大惨事を起こさないために、体を張って阻止した。
もうすごいお母様に甘えた。姉の威厳より家族の平穏が大事です。はい。白い目で心はブロークンですけど……。
お陰でお母様の機嫌はなおった……でもここだけの話。父様は私たちと4人でお茶をする中、その日のお菓子抜きでした。ドンマイお父様。




