104話 授与式 (挿絵)
本日、秋晴れの快晴。
雲ひとつない空だけど、風が吹くとちょっと寒い。完全に北風……で、合ってるのか? ここ、北半球なのかな? よく知らないけど。
まぁこんな格好してたらそろそろ冬なんだから、そりゃ寒いよなぁ……と思いながら。
「お手をどうぞ、我が家のお姫様」
「ふふっわざわざありがとうございます」
「いえいえ。今日の主役をエスコートする役目は、誰にも譲れませんからね!」
ドレス姿の私のエスコートを、お父様が恭しくもわざとらしく誘ってくる。
「でもそれだと、お母様が……」
「うふふ、大丈夫よ。セスに頼むわ」
後ろでセツが「オレかよ……」と呟いているが、気にしてはいけない。お母様のご機嫌は弟に託された。頑張れ!
いつもより重たいスカートを持ち上げて。
引っ掛けないよう気を付けて降りる。
足が地面について、スカートから手を離せば、フワリとピンクのスカートが揺れる、フリルも揺れる、リボンも揺れる……。
「やっぱり可愛すぎるんじゃ……」
「そんな事ないわ! とってもラブリーで可愛いわよ! 女の子にこういうの、着せたかったのよねぇ……セスじゃ出来ないもの‼︎」
「そうだよ、今日のクーちゃんはまるで春の花の妖精……みんなが虜になる事間違いなしだよ!」
お母様とお父様が歩きながらも、やんややんやと、持ち上げてくれる。うん……だから断れなかったのよねぇ……。
今日の私の格好はーーフリフリふわふわの、ちょっと濃い色のピンクドレス。しかもリボンが沢山あるおまけ付き!
……私としては、黒髪だし、緑目だし。
貰った『神の涙』も水色だし?
何より私の中身が18歳だから、こんな可愛らしいのはちょっと。いや、だいぶ恥ずかしいのだけれど。
2人の「可愛い!」攻撃に、勝てませんでした。
撃沈だよ! 断れるわけないじゃん!
その2人はというと、ペアルックっぽくなっている。
お母様は淡いラベンダー色のドレス。大人っぽくて素敵です。お父様は、格好は黒いけど、同じラベンダー色のハンカチを指している。仲良し夫婦だ。
何故かもうゲンナリしている我が弟は、その艶やかなプラチナブロンドの髪よりも淡い色合い。灰色のジャケットを着ており、珍しくスカーフを巻いている。
いつもは「首が閉まる」とか言って着ないのにね。
今日の授与式、本来子供は出れないのだけど。何故かセツも同席が許されている。なので気合入ってるんだろう。お母様の。
授与式は謁見の間で行われる。
今回の授与式は、なんと爵位持ちの当主は全員出席だ。恐ろしい事この上ないのだけれど、お父様曰く「それくらい重要」なんだそう。
はーでも緊張しちゃうよ。
だって、あの長い絨毯の横にずらーっと並んじゃうんでしょ? やだよー。圧がすごいよー。
まぁそうも言ってられないよね。
この後謝罪の挨拶があるものね……。
バルコニーでね……。
という訳で気が進まないながらも、ここに来ているのであった。
まぁドレスは可愛いし、髪も今日凝ってるから。
素直に喜べばいいんだろうけどね。
髪なんていつもの百合にプラス、ピンクのシンビジウムと霞草が刺してある。可愛いのよ?
あと私作のバックカチューシャ。これは真珠で作られてます……お金が……。いやそれ言うならドレスもなんだけど。
でもさぁ!
中身がこれの私がこんな可愛い格好だとさぁ!
なんか申し訳なくなるの‼︎
フィーちゃんとかの方が似合いそうなんだもん!
そんな事で葛藤しているうちに、授与式が始まる。
まぁ最初はいいのよ。絨毯横の貴族全員が頭下げてるのは、なんか壮観だし気になるけど。挨拶まではいつもといつもと一緒。
この後ですよ、問題は。私1人だけになって、誤魔化せなくなるのがイヤ……。
「シンビジウム公爵家の令嬢、クリスティア・シンビジウムよ、前へ」
「はい」
促されて1人家族から離れ、しずしずとアレキサンダー王の前へ進む。
あぁ読み上げてるのはヴィンスのお父さんかーとか思いながら、必死に平静を保つ。どうでもいいこと考えてないと、固まってしまいそうだ。
こうして見ると、ヴィンスに似てるなぁ。
でも目がもっとキリッとしてるかな。
ヴィンスのうちには、とーってもお世話になったので。お城で見つけた時に一目散にそこへ行き、謝罪のハグも済ませている。
びっくりされたけど。でも優しかったよ?
いやそれより今は、とにかくこの場を乗り切らねば。転ばなければまぁ、何とかなる……はず。
視線を前に戻すと、アレキサンダー王が口を開いた。
「先日国の根幹を揺るがしかねない、大事件が起こったことは記憶に新しい」
その鋭い眼光も、重々しいオーラもこちらに向けられている。
「それに対して、未来予知、予言による適切な助言と、国の安全のためにその偉大なる力で尽力した事に感謝しーーここに『預言師』の称号を授与する」
厳かな雰囲気に、誰ひとり身動ぎもしない。物音すらせぬ中で、その言葉は朗々と響いていた。
「これはその証である。授けよう」
そうアレキサンダー王が言うと、差し出されたのはネックレスだ。純金? 真ん中の石は……。
「『神の涙』……」
「あぁ、作らせたのだ。ピアスでは国民に見えぬからな」
私のひとりごとを拾った王が、答えてくれる。
あ、喋っちゃったよ。
「さあ、頭を下げなさい」
言われるままに下げると、そのままネックレスを付けてくれた。
「頭を上げよーーこれよりそなたを、フィンセント王国の『預言師』に任命する。今後もこの国のために助力せよ」
指示に従い、顔を上げた私は。
真っ直ぐ、ただ一点を。
違うべきフィンセント王国の頂点を見据えた。
「かしこまりました。ありがたく頂戴いたします。この身に宿る力を、必ずやお役立てする事を誓います」
力を込めてーーそう口にした。
そうして、私は正式に『預言師』となったのだ。




