二度目の夢
私はかぐわしい花の香りに包まれていた。
緑麗荘の庭園は美しい草花に満ちている。柔らかく敷かれた芝生、蔦の絡まるアーチ、色とりどりの花々──……。
実家の庭はこんな風に華々しくはなかったので、私はきょろきょろと見回してしまう。
日本式庭園と西洋風庭園は受ける印象が大きく異なる。きっとお父さまは、あまりの華美さに眉を顰めるだろう。そしてお母さまはきっと、あまりの華やかさにうっとりされることだろう。
ああ、それにしてもなんて良い香りなのだろう。
こんなにたくさんの花の香に囲まれるのは、以前女学校の友人と植物園へ行って以来のことだ。
私はそっとかがみ込んで、そばに咲いていた珍しい花に顔を寄せた。舶来の種のようで、大きな花びらに鮮やかな赤色をしている。その花はとても上品で美しくて、漂う香りにも惹きつけられた。
何という花なのだろう──。
幾重にも重なる天鵞絨のような花びら、梅や椿とも違う深い赤色……。
触れてみたいけれど、触れるのも憚られるような、そんな美しさが溢れている。
私は花を見つめたまま悩んだけれど、結局今日は見るだけで満足することにした。
この庭にはいつでも来ることができるのだから──……。
けれど、そのまま立ち上がって背を向けた時──破裂音とともに鋭い痛みが胸に走って、私の身体は動きを止めた。
いったい何が起きたのかと、私は自分の胸元に目をやった。そこからは何故かぬるりとした赤い血が滴り落ちていて、熱くて痛くてたまらなかった。
何──?
私は胸を押さえながら膝をついた。ぼたぼたと胸から落ちる血が、赤い花にも降り注いでいく。
そして私は痛みの中、大きな音が聞こえたほうに顔を向けた。
「せい、のすけ……さん?」
逆光の中そこに立っていたのは、征之介さんだった。手には黒くて小さい何かを持っていて、それをこちらに向けている。
かちゃりと、その黒い何かから音が鳴る。
「すまない……君は、何も悪くないんだ」
とうとう喉まで熱くなって、私はもう声を出すことができない。
また、その台詞なの──?
征之介さんの頬には、またしても涙が光っていた。以前みた夢と同じように、とても苦しそうで悲しそうな表情と声──……。
ばん、と再び大きな破裂音がした時、私の身体は地べたに倒れた。
名前もわからぬ赤い花が、死にゆく私の瞳に強く焼きつく。
ああ征之介さんが持っていたのは拳銃だったのだと、最期に私は理解した。




