四度目の夢
私は緑麗荘のバルコニーに立って、ぼんやり外を眺めていた。
三階にあるバルコニーからは、遠くの景色までよく見える。自室の窓から見える風景ともまた違うので、私は度々ここへ来ては外を眺めて過ごしていた。
けれど今日はあいにくの空模様で、灰色の雲に霞んだ景色ばかりが目に入る。しばらくすると空からは大粒の雨が降り注ぎ始め、空気もひんやりと冷たくなってきた。
早く室内に戻らなくては──。
そう思うのだけれど、身体はなかなか言うことを聞かない。何か気掛かりがあるために、部屋に戻りたくないのだ。私は何を思い悩んでいたのだっけ──……。
思い出そうとするけれど、どことなく気が沈んでしまって頭が働かない。嫌なことなど考えたくはない、頭から追い出してしまいたい……このままこうして、ずっと外を眺めていたい。
そのままではいけないのに、私はそこから動けなかった。
バルコニーには屋根が付いているので、私の身体は濡れずに済んでいる──……ああでも、風も強くなってきてしまった。吹き込む風とともに、雨粒が頬にあたる。
着物が濡れてしまう前に、今度こそ室内へと戻ろう。そう思って頬の雫を拭った時──……私の背中に、何かが触れた。それは温かくて、力強いもの──……。
何かが触れたと同時に、私の身体は宙に浮いた。私はバルコニーの外へと、弾き出されてしまったのだ。またたくまに身体が回転して、空を見ながら身体中に雨を受ける。
重力に逆らえるわけもなく、私はたやすく落下していった。
私、突き落とされてしまったんだわ──。
それはあまりにも一瞬のことで、他人事のようにそう思った。
けれど反対に、落ちてゆくまでの間はひどく緩やかに感じられた。
雨粒を浴びながら、私は今いたバルコニーのほうへ視線を投げる。
ああ、やっぱり──。
そこにいたのは、征之介さんだった。とても辛そうに、苦しそうな顔をしながら、落ちてゆく私を見つめている。
背中に感じた温かくも力強いものは、征之介さんの掌だったのだ。
雨を受けている征之介さんは、お髪もお顔も濡れてしまっている。けれどどうしてだろうか──頬に流れるその雫だけは、雨粒ではないのだと私は知っている。
地べたにぶつかるその刹那、征之介さんの唇がかすかに動くのが見えた。
「すまない……君は、何も悪くないんだ」
私まで届くはずのない征之介さんの声と、地べたにぶつかる音が響く。




