三度目の夢
車から足を下ろすと、そこは喧騒の中だった。
たくさんの人が往来し、お喋りする声や馬車や自動車の音、お客さんを呼び込むお店の人の声──それらで溢れる、賑やかな街中に私は立っていたのだ。
私はこれからどこへ向かうのだっけ?
きょろきょろと辺りを見回しながら、行くべき先を思い出そうとする。
そうだ、待ち合わせをしていたのだった──。
私は目的を思い出して、急いで歩みを進めた。けれどこんなにたくさんの人が往来する街中で、会いたい人を見つけることができるのだろうか?
街へ遊びに行く時は、いつも誰かと一緒だった。お父さまやお母さま、およねさん、女学校の友人──……一人でこの喧騒の中に放り出されるのは初めてのことだ。
ふと心細くなって、私は待ち人に早く会いたくてたまらなくなった。
そう、この角を曲がれば──。
待ち合わせの場所はすぐそこにある。曲がった先で待ち人に会えたなら、胸の中の不安はすぐに消えるはず。そして久しぶりの賑やかな街を、気兼ねなく楽しむことができるだろう。
私は喜び勇んで角を曲がろうとした。
けれど──その瞬間、私の背中に鈍い衝撃が走った。後ろから、誰かが勢いよくぶつかってきたのだ。
痛い──……!
同時に背中が熱く燃え、身体に痛みが走って膝をついた。
一瞬街の喧騒が止んだかと思うと、辺りに悲鳴や怒号が響き始める。
いったい何が起こったのかと考える最中、私の背中に再び痛みが駆け巡る。何かが、私の背から抜き取られたのだ。
どうにか振り返ってそれを見ると、眼前に赤い血が舞った。それは先の尖った鋭利な小刀で、赤々とした血が滴っている。
私は、背中を小刀で刺されたらしかった。
痛みに耐えられなくなって身体を倒すと、その小刀はさらに上から襲いかかってきた。ぐさりと嫌な音がして、今度は私のお腹に突き刺さる。
痛みとと同時に、身体から血が溢れ出ていってしまう。どくどくと流れていく血が石畳を染め、私は意識が朦朧としてきた。
刺さった小刀からは、私に対する憎しみや怨み──そして殺意が流れ込んできた。
そして小刀はまた引き抜かれ、振りかぶって次は胸元に突き立てられそうになった。
けれどそれはすんでのところで止まって、小刀は血を散らしながら石畳へと転がった。
誰かが、小刀の持ち主を羽交締めにしてくれたらしい。
悲鳴と怒号に混じって、私の名を呼ぶ声がした。
この意識が朦朧とする感覚を、私は以前にも経験している。そう、夢の中で征之介さんに殺されてしまった時──。
だけれどもこの小刀に込められたような憎しみや怨みは、私が今まで感じたことがないものだった。それは刃物よりも鋭利に残酷に、私の命を奪っていくように感じた。
ああ、また誰かが私の名を呼んでいる。何度も何度も叫んでいる──。
けれどもう、私はそれに応える気力がない。そして石畳の冷たさすらも感じなくなった時、血に染まった視界の中で、一瞬征之介さんのお顔が見えた気がした。
征之介さんは、今まで見たことのないお顔をしていた。何かを必死で言っているけれど、もうそれも聞こえない。
薄れゆく意識の中で、私はぼんやりと考えた。
今日は、泣いてはいないのですね──……。




