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悪役令嬢の凶器はドス黒いパイプ椅子です ~目指すは最強の悪役、あらゆる理不尽はこのパイプ椅子でぶっ飛ばしますわ~  作者: みやもと春九堂@月館望男
【第9部】無人島サバイバル編  ~悪役令嬢、無人島に漂着す。大自然が相手なら、島ごと「整地」させていただきますわ~
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第067話 遭難:ログハウス

 漂着、2時間後。


 浜辺から少し入った、見晴らしの良い高台。


 そこには、建築資材に利用できそうな巨木が乱立していた。


 よし、ここをキャンプ地とする。


 だが、わたしが「拠点を作る」と宣言した後、アリスが深刻な顔で寄ってきた。


「レ、レヴィちゃん……。サバイバルって甘くないよ? 『三の法則』って知ってる?」


「何かしら?」


「人間は、空気なしで三分、水なしで三日、食料なしで三週間しか生きられないんだよ! 特に『水』と『火』と『体温維持(シェルター)』の確保は一刻を争うの! 魔法が使えない今、これは命がけの作業に……まずは水の確保をなんとかしないとぉ……」


 アリスが悲壮な決意を固めている。


 なるほど、確かに一般論としてはそうだろう。


 だが。


「そんな心配をしていたの? なら、さっさと終わらせましょう」


 わたしは腕まくり(布はないが)をし、近くにあった太い蔦(つた)のような植物に目をつけた。


「まずは水ね。……この植物、地下水を吸い上げている音がするわ」


 わたしは蔦を引っこ抜くと、雑巾を絞るようにギュウウウウッと捻り上げた。


 ジョボボボボボッ!!!


 切断面から水道の蛇口のように水が噴き出し、ミリアが手持ち鍋で受け止める。


「水の問題は解決ね。同じ種類の蔦ならいくらでもあるわ」


 わたしが絞りカスになった繊維質の蔦を捨てようとすると、ミリアが「お待ちください!」と飛びついた。


「捨てないでくださいレヴィーネ様! この繊維、乾燥させれば極上のロープになります!」


 ミリアは絞りカスを受け取ると、驚くべき手際で繊維をほぐし、撚り合わせ始めた。


 シュシュシュッ、と目にも止まらぬ速さで編み込まれていく。


「できました! 頑丈なロープと、採取用の『網ザック』です!」


「……早いわね。あなた、本当にただの農家の娘?」


「農閑期には内職で籠や縄を編んでいましたから!」


 ミリアが胸を張る。


 この子の生活力(サバイバル能力)は底知れない。


「次は火ね」


 わたしは乾燥した木の枝と、木の皮を集めた。


 いわゆる「きりもみ式」の発火法だ。


「これ、大変なんだよね……。手が豆だらけになるまで回しても、煙すら出ないことがあるって前(前世)に動画で……」


 アリスが心配そうに見守る中、わたしは木の枝を両手のひらで挟んだ。


「要は『摩擦熱』でしょう? ……発火点を超えるまで、回せばいいだけよ」


 シュバババババババババババッ!!!


 わたしの両手が残像と化す。


 超高速回転により、木と木が擦れ合う音が「キィィィン!」という高周波音に変わる。


 ボォンッ!!!


 数秒もせず、煙が出る過程すら省略し、爆発的に炎が燃え上がった。


「ついたわ」


「早いよ!? 魔導ライターより早いよ!?」


「摩擦係数と回転数の勝利ね」


「さて、ようやく拠点(シェルター)ね。この辺りがいいわ」


 わたしはあらためてキャンプ地の地面を見据え、深く息を吸い込んだ。


「まずは整地からね」


 右足に力を込め、大地を踏みしめる。


「――『地均し(グランド・スイーパー)』ッ!!」


 ズバァァァァァンッ!!!


 わたしが放った下段回し蹴りの風圧(衝撃波)が扇状に広がり、目の前の藪や細い木々を根こそぎ薙ぎ払った。


 一瞬にして、平らで清潔な更地が出来上がる。


 さらに、わたしは大きく足を開き、腰を落とした。


「どすこいッ!!」


 ズシンッ!!


 四股を踏む。


 ただそれだけの動作だが、わたしの体重と筋力が一点に集中し、地面に強烈な圧力をかけた。


 地面が悲鳴を上げ、砂利と土が圧縮される。


 これを数度も繰り返せば基礎の完成だ。


「そんな~、レヴィちゃんの『どすこい!』がどんなに凄くたって……固っ!? 砂地なのにコンクリみたいになってるよ!?」


 アリスが地面を触って驚愕する。


 物理的な圧力による地盤改良。


 これで基礎は完璧だ。


「次は建材の確保ね」


 わたしは手頃な巨木(直径十メートル級)の前に立った。


 身体強化は使えない。


 だが、そんなものは言い訳にならない。


「獣の穴」で培った、純粋な筋肉と技術がある。


 わたしは呼吸を整え、腰を落とし、正拳突きを一閃した。


「せいッ!」


 ドパゴォォォンッ!!!


 幹の中心に綺麗な風穴が空き、衝撃波のあとがヒビのように幹全体に広がる。


 ビキビキキィッ……ミシッミシッ……。


「倒すわよ、もう少し離れなさい」


 わたしが足先を幹に押し当てれば、ズゥン……と音を立てて、巨木が倒れる。


「案外脆いのね。気をつけないと建材として使えなくなるわ。相当手加減しないと……」


「うーん、どう見ても古代樹レベルの太さなんだけどね……」


 アリスのツッコミをよそに、わたしは倒れた木にまたがり、手刀で枝を払い、ローキックで長さを揃えていく。


 バキッ、ボコッ、ズドン。


 ドパゴォォォン!! ビキビキキィッ!! ズゥン。


 リズミカルな破壊音が森に響く。


「ふう、製材完了。アリス! ぼーっとしてないで設計図を引きなさい! 前に(前世で)『無人島開拓動画』とか見てたんでしょう?」


「は、はいッ! 見てました! ログハウスの組み方ならなんとなくわかる!」


 アリスが木の枝で地面に設計図を描き始める。


 ミリアはジャングルの蔦を集め、手際よくロープを編んでいく。


「え~と、ここの荷重がこうかかって……強度が足りない? 三角構造(トラス)を入れれば……いや、それだと重心が……あ、そもそも釘がないんだよね……じゃあホゾ組みにしないとか……」


 一方、アリスは地面に木の枝で数式を書き殴りながら、頭を抱えていた。


 彼女の目の前には、複雑怪奇な建築図面と計算式が並んでいる。


 アリスは涙目で天を仰いだ。


「あぁもう!! なぁんで私は『昔(前世)』に、物理演算タイプのサンドボックスゲームをやりこんでこなかったかなぁ!」


「……何よそれ?」


「あるんだよぉ! ブロックを組み合わせてお城とか兵器とか作るゲームが! 私はRPG系ばっかりやってたから、建築センスと構造計算の知識が足りないのぉぉ!」


 アリスが地面をバンバン叩いて悔しがる。


 どうやら前世の知識があっても、経験がなければ活かせないらしい。


「……見ていられないわね。どきなさい」


 わたしはアリスが描いた図面(の完成予想図だけ)を一瞥し、切り倒した巨木(直径十メートル級)の前に立った。


「ふむ……要は、凹凸を合わせて組めばいいんでしょう? アリス、概算でいいわ、このくらいの材木なら、あと何本くらい必要?」


「えっ、えーと……ログハウスにするなら、あと最低でも二十本は……」


「了解」


 わたしは伐採済みの巨木の前に立ち、呼吸を整えた。


「ノミもカンナもないよ? どうするの?」


 そう問うアリスに、わたしは不敵に笑い、両手の指をワキワキと動かした。


「いらないわ――わたしの指先が『工具』で、手足が『重機』よ」


 わたしは丸太の端に指を突き立てた。


 ズブッ。


 まるで粘土のように指が木材にめり込む。


 そのまま指先に力を込め、高速でスライドさせる。


 ガガガガガガッ!!


 木屑が雪のように舞い散る。


 わたしの指は、電動カンナも真っ青な精度と速度で、丸太の表面を削り、必要な溝(ホゾ)を掘っていく。


「……『手刀製材(ハンド・ソー)』」


 さらに、切断が必要な箇所には、鋭いローキックを一閃。


 スパァン!


 断面が鏡のように滑らかな状態で、丸太が切断される。


「……『脚断(レッグ・カッター)』」


 アリスが「なんだろう……レヴィちゃんとやる箱庭ゲーって絶対楽しくないよ……」と引きつった声を上げる。


 わたしは首を傾げた。


「よくわからないけれど、なんか失礼なこと言われていることはわかるわね」


 わたしは加工した木材を次々と放り投げ、ミリアがそれを受け取って組み上げていく。


「釘打ち!」


 デコピン(パチンッ!)


「杭打ち!」


 踵落とし(ドゴォォン!)


 拳と蹴りだけで、みるみるうちに木材が組み上がっていく。


 この調子なら、日が暮れる前には立派な拠点が完成しそうだ。


 もっとも、わたしの「拠点」の基準が、一般的な人類のそれとは、少々――いや、かなりズレていることに、この時のわたしはまだ気づいていなかった。

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