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悪役令嬢の凶器はドス黒いパイプ椅子です ~目指すは最強の悪役、あらゆる理不尽はこのパイプ椅子でぶっ飛ばしますわ~  作者: みやもと春九堂@月館望男
【第9部】無人島サバイバル編  ~悪役令嬢、無人島に漂着す。大自然が相手なら、島ごと「整地」させていただきますわ~
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第068話 遭難:サバイバル

 着工、3時間後。


「――なんということでしょう」


 アリスがどこかで聞いたことがあるようなナレーション風の声で呟いた。


「ただのジャングルだった荒れ地に、匠(レヴィちゃん)の暴力的なまでの施工によって、堅牢な高床式ログハウスが出現しました」


 そこには、風通しの良いテラス付き、屋根はヤシの葉を幾重にも重ねた防水仕様の立派な家が建っていた。


 もはやサバイバルの拠点ではない。


 別荘だ。


「ふぅ。……玉座がないなら、岩を削ればいいじゃない」


 わたしは手頃な大岩を指先で削り出して作った即席のソファに腰掛け、満足げに頷いた。


「どう? なかなかの出来でしょう? 名付けて『ヴィータヴェン城(仮)』よ」


「……早すぎるよ!!」


 アリスが食い気味にツッコんだ。


「なんで半日で『家』が建つの!? サバイバルって、もっとこう、洞窟とかで身を寄せ合って『寒いね……』とかやるものじゃないの!?」


「あら。悪役(ヒール)たるもの、野宿なんて肌が荒れるわ」


 わたしは岩のソファで足を組んだ。


 そのスリットから覗く太ももに、アリスがなぜか赤面して視線を逸らす。


「環境に文句を言う前に、環境を自分好みに変える。それが支配者の流儀よ」


 水、火、拠点。


 これで、最低限の生存環境は整った。


 漂着、7時間後。


 拠点が完成し、一息ついた頃。


 アリスが内股になりながら、顔を真っ赤にしてモジモジし始めた。


「……あ、あの、レヴィちゃん……」


「なに? お腹が空いたのなら、あとで取りに行くわよ」


「ち、違うの! その……『お花摘み』に行きたいんだけど……」


 アリスが消え入りそうな声で訴える。


 トイレだ。


 前世の記憶を持つ現代っ子のアリスにとって、これは食料確保以上に切実な、尊厳に関わる大問題らしい。


「ああ、そんなこと。……その辺の茂みで済ませなさいな」


 わたしは顎でジャングルをしゃくった。


「獣の穴」の雪山修行では、トイレなど選んでいられなかった。


 風下を選び、素早く済ませ、雪で隠す。


 それが常識だ。


「む、無理だよぉ! 虫がいるし! お尻刺されたらどうするの!?」


 アリスが悲鳴を上げる。


 すると、焚き火の準備をしていたミリアが、キラリと目を光らせて立ち上がった。


 彼女は片手にスコップ(木の皮と枝で作った即席)を持ち、満面の笑みでアリスに歩み寄る。


「ご安心ください、アリスさん! 私にお任せを!」


「えっ? ミリアちゃん、何かいい方法が?」


「はい! あちらの裏手に、深さ一メートルの穴を掘っておきました! 溜まったら土と枯れ葉を被せて発酵させれば、数ヶ月後には素晴らしい『堆肥』になります! さあ、私の畑(予定地)のために、遠慮なく『資源』を提供してください!」


「イヤァァァァァッ!! 私を肥料生成機みたいに見ないでぇぇぇッ!!」


 アリスが涙目で絶叫し、わたしの背中に隠れる。


 元・現代人としてのプライドと、元・聖女としての羞恥心が、野外排泄&堆肥化を全力で拒絶しているようだ。


「……やれやれ。贅沢な聖女様ね」


 わたしはため息をつき、手頃な大きさの岩を見繕うと、庭先に運んだ。


 そして、呼吸を整え、手刀と貫き手(ぬきて)の構えを取る。


「そういえば『獣の穴』には、巨岩を素手で打ち削って球体にする修行があったわね……ふふ、懐かしいわ」


 わたしは楽しかった修行の日々(地獄)を思い出しながら、鼻歌交じりに岩に指を突き立てた。


 フフ~ン♪(ズボッ!)


 フフフ~ン♪(ガリガリガリガリッ!!)


 フンフフ~ン♪(キュィイィィンッ!! ジュリッ! ジュリリリリリリ!!)


 フフ~フンフン♪(パチッ! シュババババッ!! シュババババッ!!)


 岩を削る音が、まるで彫刻刀で石膏を削るような軽快なリズムで響く。


 中央をくり抜き、表面を滑らかに研磨し、座り心地の良いカーブを描く。


 わたしの指紋がヤスリ代わりとなり、岩肌は大理石のようにツルツルに磨き上げられていく。


 ものの数分で、美しい曲線美を持つ「石製・洋式便座」が完成した。


「お、おトイレだあぁ!」


 アリスが後光を見るような目で便座を拝む。


「せっかくだから、屋根と壁と扉が必要ね?」


 わたしはヴィータヴェン城の建築で余った端材(伐採しすぎた丸太)に目をつけた。


 手刀を振るう。


 スパパンッ!!


 丸太が縦に、横に、均等な厚さの板材へと製材されていく。


 わたしはそれらを組み合わせ、あえて隙間を活かした格子状のデザインで組み上げた。


 風通しを良くしつつ、外からの視線は遮る。


 木の温もりを活かした、スタイリッシュな個室。


 それはまるで、木材を多用する某・有名建築家が建てたような、無駄にオシャレな「モダン建築トイレ」だった。


「はい、完成」


「……す、すごい」


 アリスは完成したトイレを見上げ、引きつった笑みを浮かべた。


「とってもありがたいんだけど、無人島のジャングルにこのおトイレは違和感がすごいね……。ここだけ表参道みたい……」


「それより貴女、まだ我慢していて大丈夫なの?」


「んっ!!」


 アリスはハッとしてお尻を押さえ、モダンな個室へと猛ダッシュで駆け込んだ。


 バタン!


 勢いよく扉が閉じられたあと、中から「あぁぁ~……文明の座り心地ぃ……」という安堵の声が漏れてくる。


 わたしは満足げに頷き、残念そうにスコップを下ろすミリアに声をかけた。


「諦めなさいミリア。……中身は溜まったら、あなたが回収すればいいわ」


「はいッ! 熟成を楽しみに待ちます!」


 無人島の夜に、アリスの尊厳は(ギリギリで)守られたのだった。



 ◆◆◆



 漂着、2日目:朝。


 拠点はできた。


 次は食料だ。


 ミリアのリュックには、奇跡的に無事だった調味料(ミソ・ショーユ・スパイス)と、緊急用の乾燥米が入っていたが、メインとなる食材がない。


「腹が減っては戦(サバイバル)はできないわね。……行ってくるわ」


 わたしは空腹を訴える胃袋をさすりながら、単身ジャングルへと足を踏み入れた。


 魔力強化が使えなくとも、わたしの五感は野生の獣並みに研ぎ澄まされている。


 ガサガサ……。


 茂みが揺れる。


 現れたのは、犬ほどの大きさがある巨大なヤシガニ(魔獣化)だった。


 強靭なハサミを振り上げ、生意気にもこちらを威嚇してくる。


「……ふん、雑魚ね」


 わたしはあくびを噛み殺しながら近づき、振り下ろされたハサミを素手で受け止めた。


 そして、そのままデコピン一閃。


 バチンッ!!


 硬い甲羅が粉砕され、ヤシガニは沈黙した。


 その後も、川辺に行けばサワガニ(の魔獣)が群れをなして襲ってきたので「数で来るとは小賢しい」と一網打尽にし、海辺に戻れば浅瀬にいたタカアシガニ(深海魔獣)を発見して「あら大物」と引っこ抜いた。


 拠点に戻り、並べられた大量のカニ、カニ、カニ。


 わたしは腕組みをして、積み上がった甲殻類の山を見下ろした。


(……いけない。空腹のあまり、手当たり次第に狩りすぎてしまったわ)


 わたしは額に手を当て、ハードボイルドに思考した。


 それでも命を奪った以上、当然美味しくいただくのが私の流儀だ。


 慌てるんじゃない。


 わたしはただ腹が減っている、それだけなのだ。


(ヤシガニは刺身で、サワガニはミリアの調味料で唐揚げに、タカアシガニは磯に穴を開けて海水と焼いた石を放り込めば塩茹でにできるわね。それにしても――)


「……しまったわ。カニがかぶってしまったわね」


 アリスが「市場の競り場か!」とツッコミを入れるのを他所に、わたしは無言でヤシガニの硬い殻を素手でバキィッ! とへし折り、身を貪った。


「(……んんっ。この、野性味あふれる濃い味。……いいじゃないか、いいじゃないか)」


 漂着、2日目:昼。


 カニだけでは喉が渇く。


 わたしは海へダイブし、魔力なしの肺活量と筋力だけで素潜り漁を敢行した。


 貫手で魚を突き刺して捕獲し、浜辺の焚き火で串焼きにする。


 皮がパリッと焼け、脂が滴るその身に、ミリアが恭しく差し出した「秘伝の黒い雫(ショーユ)」を一振り。


 ジュワッ……。


 焦げたショーユの香ばしい匂いが、鼻腔をくすぐり、脳髄を直撃する。


 わたしは焼きたての魚にかぶりつき、天を仰いだ。


「……~~~ッッ!!」


 言葉にならない。


 ただ、身体中の細胞が歓喜しているのがわかる。


「……こういうのがいいのよ。こういうのが」


 変に凝ったソースも、魔力で飾った宮廷料理もいらない。


 塩と炎と、ショーユ。


 これだけで、世界は完成するのだ。


 漂着、2日目:夕方。


 魚とカニだけでは物足りない。


 やはり、力が出るのは肉だ。


 そう思っていた矢先、ドシン、ドシンと地響きが近づいてきた。


 島の奥地から現れたのは、全長十メートルはあろうかという、ティラノサウルス級の巨大肉食魔獣だった。


「ギャオオオオオッ!!」


 咆哮と共に襲いかかってくる巨獣。


 だが、わたしの目には恐怖など映らない。


 映っているのは、極上の「赤身肉」だ。


「……いいサシが入ってそうね。合格よ」


 わたしはリアネイキッドチョークで絞め落とし、手刀と貫手で即座に解体した。


 熱した平らな岩の上で、分厚いステーキ肉を焼く。


 ミリア特製「激辛スパイス」と「ニンニクミソ」をたっぷりと塗りたくる。


 ジューッ!!


 暴力的なまでの肉の焼ける音と匂い。


 わたしは焼けた肉をガブリといく。


 溢れる肉汁、スパイスの刺激。


 そして、ミリアがリュックの底から取り出し、飯盒で炊き上げた白飯をかっこむ。


「(……肉! 米! ミソ! このコンボ攻撃、防げるはずがない!)」


 箸代わりの木の枝が止まらない。


 肉を食う、米を食う、肉を食う。


 身体の奥底から、原始的なエネルギーがマグマのように湧き上がってくる。


 わたしは心の中で咆哮した。


「……うおォオン! 今わたしは、人間発電所よ!!」


「出たー! そのネタ! もう隠す気ないでしょ!?」


 アリスが頭を抱えて叫ぶ。


「レヴィちゃん、顔が……顔が『おっさん』みたいになってるよ!?」


 そんなツッコミも、今のわたしには心地よいBGMだ。


 わたしは満ち足りた気分で爪楊枝(魚の骨)をくわえ、夜空を見上げた。


「……ふぅ。いい『戦い』だったわ」

「無人島二日目にして、別荘とモダン建築のおトイレが完備ですわ。……ブックマークしておけば、次のお食事にもご招待してさしあげてよ?」

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