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悪役令嬢の凶器はドス黒いパイプ椅子です ~目指すは最強の悪役、あらゆる理不尽はこのパイプ椅子でぶっ飛ばしますわ~  作者: みやもと春九堂@月館望男
【第7部】黄金の都・カジノ&地下闘技場編 ~借金1億? ならば筋肉とプロレスで倍返しですわ~
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第054話 四天王

 翌日。


 再び屋台で会ったゲイルは、首に包帯を巻いていた。


「あらおじさま、昨夜は素敵なダンスをどうも――かなうなら鎖のない場所で、もっと踊りたかったわ」


 わたしが声をかけると、ゲイルは苦笑しながら包帯をさすった。


「よせやい。最後はスタミナ切れで俺の負けさ。……しかし、あの投げの威力とキレ。尋常じゃねえな」


 ゲイルは真剣な眼差しでわたしを見た。


「嬢ちゃん、どこでそんな技を覚えた? ……まさか、『北』か?」


「ええ。ハニマル領の『獣の穴』よ」


「まいったな! よりにもよって『獣の穴』出身かよ!!」


 ゲイルは大仰に天を仰いだ。


「どうりで化け物じみてるわけだ。……あそこの総帥とは、昔一度だけ手合わせしたことがあるが、岩盤に叩きつけられて三日三晩動けなかったぜ」


「ここにくる前は何をしていたの?」


「そうだな、西にも東にも南にもいったよ。どこに行ったって腕っ節で飯を喰ってきたが、まあ通じない相手だっているってことさ」


 ゲイルは遠い目をした。


「特に『南』の連中は凄かったな。あそこじゃあ、派手なマスクを被って空を飛ぶような奴らが、英雄として崇められてるんだ」


「マスク……?」


(もしかして、ルチャ・リブレ……?)


 わたしの前世の記憶が刺激される。


 南の国、マスクマン、空中殺法。


 間違いない。


「だが、おっさんはここで足を止めちまった。……『獣王ガルフ』にな」


 ゲイルの顔が曇る。


「あいつはこの地下闘技場の絶対王者だ。俺も何度も挑んだが、あのタフネスと馬鹿力には勝てなかった。……若ぇもんの面倒をみたりしているうちに、何度か大きい怪我もしてな。あとはあれよあれよという間に鎖のついた(負け役専門の)借金奴隷落ちさ」


「……そう」


 わたしは拳を握りしめた。


 この男ほどの使い手が、理不尽なシステムと暴力によって消費され、飼い殺しにされている。


 許せない。


「つまんねぇ話しちまったな。このまま行きゃあ嬢ちゃんは遠くないうちにアイツと当たるだろ。健闘を祈るぜ……死ぬなよ」


 ゲイルは残った酒を飲み干し、席を立った。


 その背中を見送りながら、わたしは決意を固めた。


(待っていなさい、おじさま。……貴方が勝てなかった壁も、貴方を縛る鎖も、わたしが全部へし折ってあげる)


 わたしの中に、明確な目的が生まれた。


 単なる金稼ぎではない。


 ここにある理不尽を粉砕し、彼らを解放する。


 それが、最強の悪役(ヒール)令嬢の仕事だ。



 ◆◆◆



 ゲイルとの試合以降、わたしはさらに連勝を重ねた。


 下位・中位の剣闘士たちからも「姐さん」「レヴィーネ様」と慕われるようになり、地下の熱気は最高潮に達しつつあった。


 その日の試合後。


 わたしはまたしてもVIPルームに呼び出され、ゴルドーの怒号を浴びていた。


「簡単に勝ちすぎだ! これはショーなんだぞ!?」


 ゴルドーが顔を真っ赤にして机を叩く。


 連日の秒殺劇により、カジノの売り上げ(賭けの寺銭)は上がっているものの、試合内容への不満と、わたしの「強さ」を測りかねる恐怖が彼を苛立たせているようだ。


「……ま、まぁいい!! これまでは中位までの闘士だったが、明日でお前は確実に負ける!」


 彼は血走った目でわたしを睨みつけ、宣言した。


「この地下格闘技場四天王との連戦だ! 面子を潰されたスポンサー達が、選りすぐりの刺客を送り込んできたんだよ!」


 ゴルドーはモニターに四人の選手のデータを映し出した。


「目にも止まらぬ速さで獲物を切り刻むスピードスター、『疾風の斬り裂き魔』ジャック!


 ミスリル合金の重装甲で鉄壁の防御を誇る、『不動の城塞』ガストン!


 猛毒の霧で相手をなぶり殺すサディスト、『紫煙の魔女』ヴァイオレット!


 そして、巨大なチェーンソー斧で全てを両断する、『処刑執行人』ゾルダート!」


 彼は勝ち誇ったように鼻を鳴らした。


「どいつも上位中の上位の闘士だ! 今までの有象無象とは格が違うぞ! ……せいぜいみっともない負け方をするんだな!」


 四天王。


 なんとも響きの良い、悪役心をくすぐる言葉だ。


 わたしは鉄扇を口元に当て、ニヤリと笑った。


「あら、楽しそうですわね。……やっと『準備運動』が終わって、本番が始まるのかしら?」


「減らず口を……! 明日、マットに沈むのは貴様だ!」


 ゴルドーの捨て台詞を背に、わたしは部屋を後にした。


 四天王との連戦。


 望むところだ。


 わたしの「最強」を証明するための、最高の踏み台になってもらいましょう。


 そして翌日。


 会場は、メインイベントとして発表された、わたしの対四天王連戦というカードに沸き上がっていた。


 今日こそ負ける。


 いや四天王も吹っ飛ぶ。


 そんな熱気がデカゴンを囲んでいる。


 第一試合。


『疾風の斬り裂き魔』・ジャック。


 某国の貴族がパトロンについている、人気のスピードスター。


「ヒャハハ! 俺の速さは誰にも止められねえ!」


 残像を残して迫る彼に対し、わたしは一歩も動かず、あくびをした。


 背後に回った彼がナイフを突き立てようとした瞬間、ノールックでの裏拳一閃。


「……ハエが止まったわね」


 バキィッ!


 ジャックはきりもみ回転しながら吹き飛び、金網に激突。


 その反動でゴムボールのようにバウンドし、わたしの足元まで無様に転がってきた。


 白目を剥いて痙攣している。


 経過時間、三秒。


「ジャ、ジャックぅぅぅ!? 俺の賭け金がァァァ!!」


 悲鳴が上がる。


 第二試合。


『不動の城塞』・ガストン。


 武器商人が出資して作らせた、ミスリル合金の超重装甲全身鎧を着込んだ巨漢。


「硬い? 重い? ……持ちやすくて助かるわ」


 突進してきた彼を正面から受け止め、そのまま垂直落下式ブレーンバスターで頭からマットに突き刺す。


 グシャア。


 鎧が缶詰のようにひしゃげ、中身ごとKO。


「嘘だろ!? 最新鋭の鎧が紙屑みたいに……! 商談がパーだ!」


 武器商人が頭を抱えて泣き崩れる。


 第三試合。


『紫煙の魔女』・ヴァイオレット。


 闇ギルドが送り込んだ毒霧使い。


 わたしは毒霧を深呼吸で吸い込み、ニッコリと笑った。


 獣の穴の朝霧の方がよっぽど喉に悪いわ。


「換気が悪いわね。外で頭を冷やしてらっしゃい」


 彼女の足を掴み、ジャイアント・スイングで大回転。


 遠心力で毒霧を吹き飛ばし、最後は彼女自身を金網越えの場外ホームラン。


 第四試合。


『処刑執行人』・ゾルダート。


 巨大なチェーンソー斧を振り回す大男。


 一番の稼ぎ頭だ。


「凶器の使い方がなってないわ! 道具への愛が足りなくてよ!」


 ここでは初となる『贋作パイプ椅子(フェイク)』を魔力で生成し、斧を受け止めへし折ると、勢いそのままに相手の身体をステップすると顔面に膝を叩き込ん《シャイニングウイザード》で沈黙させる。


 四天王、全滅。


 観客席は、もはやお祭り騒ぎだ。


「つ、つえええええ!!」


「四天王がゴミのようだ!!」


「レヴィーネ! レヴィーネ!!」


 だが、VIP席やスポンサー席は、お通夜のような有様だった。


 贔屓の選手がゴミのように処理され、賭け金が藻屑と消えたスポンサーたちは、抜け殻のように椅子に沈んでいる。


 そして、ゴルドーは顔面蒼白で震えていた。


「お、終わりだ……。オッズが崩壊した……。スポンサーたちも激怒している……」


 彼は血走った目でわたしを睨みつけ、そして最後の手段に出た。


 それは「八百長の強要」だった。

「四天王、お片付け完了ですわ。……さて、とうとう運営が泣きついてきましたわね。この先を見逃したくないなら、ブックマークをお忘れなく!」

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