第4話 配下の再編成と、次の獲物
鉱山都市を落としてから数日。
黒瀬レンは、ようやく“手に入れたものをどう使うか”を考える段階に入っていた。
召喚炉はすでに稼働している。
鉱山の魔力資源を流し込めば、配下は増える。
だが、増えたままではただの群れだ。
「……数だけ増やしても、意味がないな」
レンは簡易執務室の机に肘をつきながら、目の前の配下たちを見た。
ゴブリンたちは壁際にずらりと並び、スケルトンは静かに待機、インプは天井付近で落ち着きなく飛び回っている。
そして、オークは十三体。
その中央に、ひときわ大きいバルドが腕を組んで立っていた。
「当たり前だ」
バルドは即答した。
「数があるだけなら、ただの肉壁だ。軍隊ってのは、役割が決まって初めて軍隊になる」
「珍しくまともなことを言うな」
「珍しくは余計だ」
リゼルがため息をつく。
「そもそも、今のままでは前線の負担が大きいです。ゴブリンは便利ですが、損耗前提で使いすぎると指揮が追いつかなくなります」
「なら、どうする」
「再編成です」
リゼルは即答した。
「まず、ゴブリンを三つに分けます。偵察班、採掘班、戦闘班。戦闘班の中でも、前に出る個体と後方支援に回る個体を分ける」
「見分けられるのか?」
「見分けます。あなたの潜在評価眼があるので、適性はある程度見えるはずです」
レンは少しだけ頷いた。
あの特典は、地味だがかなり使える。
“なんとなく強そう”ではなく、“何をさせるべきか”が分かるのは大きい。
「オークはどうする」
「十三体います。そのうち一体はバルドで、残り十二体は前線と局地戦に分けます。バルドが全体、オークが要所。役割を分ければ使えます」
「いいな」
「インプは撹乱と伝令。スケルトンは前線受け、護衛、夜襲要員。少しずつでも役割を固定するべきです」
レンは腕を組んだ。
なるほど、戦力というのは、ただ並べるだけでは弱い。
それぞれに意味を与えた瞬間、軍になる。
「……じゃあ、俺は何をする」
「あなたは、魔王です」
リゼルが当然のように言った。
「全体の方向を決める。誰を潰し、どこを取るかを決める。それが一番重要です」
「つまり、適当に座ってるだけでいいと」
「言い方は最悪ですが、役割としてはそうです」
「おい」
バルドが肩を鳴らして笑った。
「いいじゃないか。主はどっしり構えてろ。動くのは俺たちだ」
「言ってくれるな」
「俺は前に出る方が性に合ってる。そういう軍団長だ」
この短いやり取りだけで、レンは少しだけ安心した。
配下が増えても、勝手にバラバラにならない。
役割を与えれば、ちゃんと動く。
それは、彼がこの世界で生き残るうえで何より重要なことだった。
「……じゃあ、再編成を始める」
レンは立ち上がった。
「ゴブリン偵察班、前へ」
「ギッ」
「ゴブリン採掘班、左に並べ」
「ギギッ」
「ゴブリン戦闘班は、バルドの指揮下だ」
「了解だ」
「スケルトンは護衛、インプは伝令、オークは俺の近くにいろ」
命令が下るたび、配下たちは少しずつ動きを変える。
群れだったものが、少しずつ形になる。
リゼルはそれを見ながら、静かにメモを取り始めた。
「思っていたより早いですね」
「何がだ」
「統率が機能し始めています。普通ならもっと混乱します」
「俺が魔王だからな」
「その自信、嫌いではありません」
バルドが笑う。
「で、再編成が終わったら次は何だ?」
レンは少し考えた。
鉱山都市を取った。
召喚炉もある。
軍勢も整え始めた。
なら次は――
「周辺の補給路だな」
「やっぱりですか」
リゼルは苦笑した。
「都市一つでは足りません。鉱石と食料、それから魔力素材の流れを押さえないと、長期維持はできない」
「つまり、次は物流か」
「その通りです。魔王が物流を考えるのは、少し夢がありませんが」
「魔界統一に夢なんていらない」
レンは即答した。
「必要なのは、勝てる仕組みだ」
その言葉に、リゼルが小さく目を細めた。
バルドも、どこか楽しそうに笑う。
「……面白いことを言う主だ」
「何がだ」
「勝つために、わざわざ面倒なことをやるところだよ」
「面倒だから、最初に潰すんだ」
レンは地図を広げた。
鉱山都市の周囲には、いくつかの小さな拠点が記されている。
採掘道の分岐点。
荷運びの中継所。
古い見張り塔。
そして、少し離れた場所にある、旧魔族街道の関所。
「ここか」
レンが指さしたのは、関所だった。
「ここを取れば、北の領地へ続く輸送が止まる。ついでに、周辺の小勢力も干上がる」
「悪くない」
バルドはすぐに頷いた。
「関所なら、正面からでも落としがいがある」
「お前はそればっかりだな」
「だが、それが一番分かりやすい」
「そして、一番損耗する」
リゼルがすかさず釘を刺す。
「今回は、別働隊でいきます。バルドとオークが関所の裏を突き、ゴブリン偵察班が出入りのタイミングを探る。インプは通信を乱し、スケルトンは囮。正面は薄く見せるだけです」
「……また嫌な戦い方だな」
「褒め言葉として受け取っておきます」
レンは口元を歪めた。
こういう戦い方は好きだ。
敵が強いから勝つのではなく、こちらが勝てる形にしてから戦う。
「よし。じゃあ、次の目標は関所だ」
「動きますか」
「もちろんだ」
レンは玉座の間を出て、鉱山都市の外へ向かった。
後ろでは、配下たちがすでに戦闘配置に入り始めている。
そしてその時、ゴブリン偵察班の一体が、慌てて飛び込んできた。
「ギッ、ギギギッ!」
「何だ」
リゼルがすぐに通訳する。
「近くに別の拠点が動いています。どうやら、こちらの鉱山都市の陥落を知って、先に潰しに来るつもりのようです」
「ほう」
バルドの目が光った。
「迎え撃つか?」
レンは少しだけ笑った。
「いや」
「え?」
「向こうが来るなら、先に関所を取ってから待つ」
リゼルが目を閉じる。
「……やっぱり、そうなりますか」
「敵が来るのを待つより、来たときに不利な場所にしておいた方が早い」
「魔王の発想じゃありませんね」
「勝てばいいんだろ」
その一言で、全員が動き出した。
ゴブリンは駆け、インプは空へ、スケルトンは列を整え、オークは武器を肩に担ぐ。
バルドは先頭へ出て、レンはその後ろを歩く。
軍勢は、もうただの群れではない。
役割を与えられた兵だ。
そして、次の戦場へ向かう準備は整った。
「行くぞ」
レンの声に、全員が答える。
魔界統一の道は、まだ遠い。
だが、ただ進むだけではない。
奪い、整え、回して、また奪う。
そうやって、魔王の支配は広がっていく。
次に落ちるのは、関所か、それとも別の勢力か。




