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転生魔王はガチャで軍勢を育てる  作者: もかどら


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3/9

第3話 召喚炉と最初の再編成

鉱山都市を落として三日。

黒瀬レンは、ようやくこの世界の「魔王らしい設備」を目の当たりにしていた。

それは、鉱山都市の奥深く、かつて精錬所だった場所にあった。

巨大な黒い円盤。

床一面に刻まれた魔法陣。

中央には、魔力を流し込むための溝が走っている。

そして、その全体を包むように、赤く鈍い光が脈打っていた。

「……これが、ガチャの本体か」

「呼び方に品がないですが、概ねそうです」

背後でリゼルが淡々と言う。

彼は昨夜からずっと、この装置の記録を読み漁っていた。

結果、目の下にうっすら隈ができている。

「正式名称は?」

「魔界召喚炉です。古い記録では“軍勢錬成盤”とも書かれています」

「長いな」

「あなたが勝手にガチャと呼んでいるだけです」

「そっちの方が分かりやすい」

「分かりやすさは認めますが、威厳が死にます」

「魔王の威厳なんて、勝てば付いてくるだろ」

リゼルは小さく肩をすくめた。

どうやら、もうこの主張を否定する気力もないらしい。

レンは召喚炉の前に立ち、手をかざした。

すると、魔法陣の一部が淡く光る。

『魔王権限を確認。召喚炉を起動可能です』

無機質な声が頭の中に響く。

「資源は?」

『投入資源を選択してください』

「……やっぱり必要か」

「当然です」

リゼルが即答する。

「魔界の仕組みは、基本的に“支配した分だけ回る”ようにできています。資源、魂、魔力、素材。何を入れるかで出力が変わるんです」

「じゃあ、今は何を入れる?」

「昨日確保した魔力鉱石です。粗いですが、初期回転には十分でしょう」

レンは脇に積まれた黒い鉱石の山を見た。

鉱山都市を接収した時に、いちばん価値のあるものだけ抜き出しておいたものだ。

「これでどれくらい回せる」

「十連一回分は確実です。運が良ければ、もう少し」

「十分だな」

レンは頷き、召喚炉の溝へ鉱石を流し込んだ。

すると、黒い石は触れた瞬間に赤く発光し、じわじわと溶けるように消えていく。

『資源を確認。初回連続召喚を実行します』

「来た」

『召喚結果は、魔王権限および統率補正により補正されます』

「お、いいじゃないか」

「油断しないでください」

リゼルが珍しく真顔で言う。

「補正はあっても、引きが悪ければ普通に崩れます。召喚炉は便利ですが、結局は運と運用です」

「運用は任せろ。運は……まあ、引くしかない」

その直後、召喚炉が轟音を立てて回転を始めた。

赤い光が天井へ伸びる。

空気が震え、魔法陣の中央に次々と影が浮かぶ。

『ゴブリン x200』

「多いな!?」

いきなり前回の倍だった。

しかも今度は、前回より少しだけ体格がいい。

一列に並ぶと、まるで粗末な兵隊のようにも見える。

『スケルトン x50』

「骨も増えたか」

『インプ x20』

『オーク x10』

「おっ……?」

レンが少しだけ身を乗り出した。

オークが十体。

これは、昨日までとは明らかに意味が違う。

リゼルがすぐに横から口を開く。

「当たりではありません。中堅戦力です。ですが、十分に戦えます」

「十分って言葉、好きだな」

「無駄に大当たりを引くより、使える戦力の方が重要です」

最後に、召喚炉の光が一段強くなった。

『軍団長候補ユニット・バルド x1』

「……軍団長候補?」

『戦闘特化。統率補助。前線指揮に適性あり』

赤い光の中から現れたのは、ひときわ大きな影だった。

二メートル近い長身。

分厚い腕。

鋭い眼光。

そして、頭に無駄に派手な角飾り。

バルドは周囲を見回し、次にレンを見た。

「……ここが、俺の新しい主のもとか」

「お前、喋るのか」

「当たり前だろ。でなきゃ軍団長候補なんて名乗れん」

「口が立つな」

「生意気な軍勢は嫌いじゃない」

レンは少しだけ笑った。

これなら、前線の芯として使えそうだ。

脳筋寄りだが、使い道はある。

「リゼル」

「はい」

「これは当たりか」

リゼルは数秒だけ観察し、頷いた。

「はい。今までで一番まともです。少なくとも、前線を任せられます」

「“まとも”か」

「ええ。魔界では褒め言葉です」

バルドは腕を組み、鼻を鳴らした。

「で、俺の初仕事はなんだ」

レンは召喚炉の前から一歩下がった。

そして、鉱山都市の簡易地図を広げる。

「周辺の小拠点を潰す」

「ほう」

「この都市だけじゃ、まだ足りない。採掘場、保管庫、輸送路。全部取る」

バルドの口元が、わずかに吊り上がる。

「いいな。わかりやすくて」

「わかりやすい方がいい」

「その通りだ」

リゼルが地図の端を指さした。

「ここから北東へ三つ。旧採掘坑の見張り所があります。そこを落とせば、鉱山都市の外縁が完全にこちらの支配下に入る」

「見張り所か」

「ええ。兵は少ないですが、報告網を持っています。放置すると、こちらの動きがすぐ筒抜けになります」

レンは頷いた。

戦争は、敵を殺すだけでは終わらない。

情報を奪い、流れを断つことが先だ。

「じゃあ、そこを最初に潰す」

「待て」

珍しく、バルドが手を上げた。

「正面から行くのか?」

「そうだが」

「それはつまらん」

「……何?」

「少しは派手にやらせろ」

リゼルが即座に眉をひそめた。

「嫌な予感しかしません」

「安心しろ。無謀なことはしない」

「今の言い方で安心できるわけがないでしょう」

レンは少し考え、口の端を上げた。

「なら、こうだ。正面はゴブリンとスケルトンで押さえる。バルドは別働隊を率いて、背後から指揮所を抜け」

バルドの目が少しだけ光る。

「悪くない」

「インプは索敵と撹乱。オークは俺の近く。リゼル、全体指揮」

「私は当然そうですが……」

「何だ」

「その言い方だと、あなた自身は何をするんですか」

レンは地図を折りたたみながら答えた。

「一番大事なところだ」

「……嫌な予感がしますね」

「敵の頭を取る」

その言葉に、バルドは笑った。

「いい主だ。やっぱり魔王はそれくらいでなくてはな」

リゼルは半眼になった。

「気が合うのが厄介です」

「厄介で結構」

レンは召喚炉の前から離れ、出口へ向かった。

ゴブリンたちは新しく増えた数にそわそわし、スケルトンは相変わらず無表情。

インプは上空を飛び回り、オークは無言で列を作る。

そして、その先頭にバルドが立つと、軍勢らしさが一気に増した。

「……悪くないな」

レンは思わずつぶやいた。

「何がです」

「軍勢だ」

今までただの数だったものが、少しずつ形になる。

役割ができる。

指揮が通る。

使える手札になっていく。

その手応えが、たまらなく気持ちいい。

「リゼル」

「はい」

「召喚炉、あとどれくらい回せる」

「今の資源なら、次はもう少し大きいものが狙えます。ですが、無茶は禁物です」

「無茶はしない」

「本当ですか」

「たぶん」

「やっぱり信用できませんね」

レンは笑った。

そして、その笑みのまま、鉱山都市の外へ一歩を踏み出す。

三日で手に入れたのは、ひとつの都市と、ひとつの召喚炉と、少しずつ形になり始めた軍勢。

まだ統一には遠い。

だが、確実に前へ進んでいる。

魔界は、回る。

資源を奪い、炉に入れ、配下を増やし、また奪う。

その循環に気づいた時点で、もう勝負は始まっているのだ。

「よし」

レンは前を見た。

「次の拠点、落としに行くぞ」

バルドが肩を鳴らし、リゼルがため息をつく。

そして、ゴブリンら三〇〇体近くが一斉に動き出した。


魔王の軍勢は、ここから“数”ではなく“戦力”になっていく。

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